表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/146

7-2 マナンの事情

 

 お別れーーその意味はもちろん理解出来る。しかし、突然告白されたお別れにラインの開いた口が塞がらない。


 お別れ? 何でお別れしないといけないんだ?


 そんな心の中の言葉がラインの中に渦巻く。


「……どういう事、なんだ?」


 やっと出て来た言葉は震え、声も小さい。

 だがマナンは聞き取れたようだ。


「……今日、試験の結果出たよね?」

「ああ」


 やはり、エマ先生の言う通り試験結果が悪かったのか……でもお別れとは?


 腑に落ちた事もあったが更に疑問が湧いた。


 次のマナンの言葉を待つ。


「……その結果が悪くて……僕はもう魔法師には成れないんだ」

「ーーそんな事「違う!!」」


 いつも小さい声で喋るマナンが突然大声を張り上げた事にラインは驚く。


 呆けるラインにマナンは無言で指を差す。

 その先にはテーブルに置かれた紙ーー試験結果が在った。


 ラインは無言で見開く。


 体力E

 魔力D

 格闘E

 武芸E

 射撃C

 HAWD


 この結果にラインは頭を抱える。


 思ったより悪い結果だ……魔力Dか。才能が無い事は無いが……魔法師、には向かないだろうな。


 と眉間にしわを寄せているとマナンはまた泣き出す。


「だからもう僕はここには居られない……居られないんだぁぁぁーー!!」


 再度顔を伏せて泣き出すマナンにラインは肩を抱いて慰める。


 しばらくすると落ち着いて来たのかポツポツと語りだす。


「……僕の家庭はいわゆる上流階級で……その長男である僕は両親の期待を一身に受けて育った。でも……」


 そこで言葉を切り、歯を噛み締めるマナン。

 決意したのか、また話始める。


「……弟が生まれ、仲の良い兄弟だったんだけど、次第に僕より出来が良くなっていったんだ。そして気付いた頃にはもう僕は両親から期待されて無かった」


 遠い目をしながら語るマナンはどこか他人事だった。


「それで僕は弟を見返す為に魔法師になれるアカデミーに入学したんだ」


 ……だからマナンはあの時あんなに必死だったのか……


 今なら分かる。あの時引き金を引くマナンの気持ちが。

 良心と自分の夢を天秤に掛け、あらゆる思考を全て引き出した結果、自分は大変な事を選択してしまおうという罪悪感に苛まれたのだろう。


「でも、僕はっ!!」


 自分の無力感に身体を震わすマナン。


 次に上げた顔は苦笑いだった。


「……僕は何をやってもダメだ。親の期待にも応えられない、必要とされる事の無い人間なんだ……」


 そう自虐するマナンの頬に一筋の涙がこぼれ落ちる。


 ラインは自虐するマナンを更に強く抱きしめ、自虐する声を覆い隠すかのように声を張り上げる。


「それは違う!! マナンは必要だ。俺達には必要なんだ!!」


 大きな声にマナンは目を見開いてラインの顔を見る。


「俺達を見ろ!! 誰がいつお前に力を求めた!? 俺達がお前といるのは力が理由じゃない!! 一緒に居たいからなんだ!!」


 そう言うラインの瞳には少しの怒りが見えた。今までの関係がギブアンドテイクでは嫌なのだろう。


「別に俺達は何かして貰いたくて、友達になったんじゃない。一緒に時間を過ごせる事が幸せなんだ!!」


 この言葉にマナンはまたもや泣き出す。だがもうラインとマナンの間には溝は無かった。






 -----


 泣き止んだマナンは疲れたのかそのまま寝てしまった。

 安心した寝顔は元々童顔な為、とても幼く見える。

 しがみついて離さない手はラインを苦笑いさせる。


 こりゃあ、朝まで離さないな。

 座って寝るようだ。


 ラインにしがみついて寝るマナンはまるで弟がいるような錯覚をさせる。


(弟が居たらこんな感じなのかな……)


 何とも言えない心地良さから生まれる睡魔にラインも(いざ)なわれるのだった。






 -----


 次の日の朝、ふと目が覚める。

 座ったまま寝てしまったらしい。

 おかげで身体がバッキバキだ。


 腕を見ると未だにマナンに張り付かれている。


 時計を見ると6時指し示している。

 もうそろそろ朝練の時間だぞ。


 マナンの身体を揺すって起こす。


「……んー? もう朝ー?」


 寝ぼけているマナンはまだ目を見開かない。


 10秒ぐらい動かなくなった後、飛び起きる。


「きき、昨日はごめんなさい!!」


 そう言いながらジャンピング土下座を素早く見せた。


 初めて見た。ジャンピング土下座。


 とラインが驚いていると、マナンはラインの顔色を伺うように目線をチラッと向ける。


 不安そうなマナンに微笑みかける。


「別に良いって事よ。俺達は友達だからな」


 この言葉にヒマワリのような笑顔を見せるマナン。






 -----


 今日は朝練を取り止め、マナンの両親への対策を考える。


「さて、マナンの両親は魔法師に成れなければ戻って来いと?」


 マナンは頷く。


「うん……でも僕はアカデミーに居たい。魔法師以外でも良い。僕は皆と一緒に居たいんだ」


 そう言うマナンの瞳には強い意志が感じられる。

 それを見て、ラインは満足そうに微笑む。


「そうだな。……マナンの唯一Cの射撃はどうだろうか?」


 ジェームズ先生の試験では一発だけ、ど真ん中に当てていたマナン。それでもCなのか……


 いまいち、成績の基準が分からないライン達。ジェームズ先生に聞きに行く事にした。


 朝早くだが、既に射撃場には多くの人が居た。ほとんどは上級生だが1年生もちらほら見かける。


 そしてジェームズ先生も生徒に指導していた。


 指導が終わるのを待っていると声をかけられる。


 振り返るとイケメン上級生のエレットが汗を拭きながら、爽やかな笑顔を見せていた。キラーンという効果音が聞こえるよ。


「やあ、君達も朝練かい? 射撃場に来るとはお目が高いね。新入生でここに来るのは少ないから」


 確かに新入生のほとんどがランニングや筋トレに行ってる。ランニングや筋トレは今までの知識や経験で一人で出来るが、射撃や格闘等の専門分野は新入生にとって一人では出来ないので敬遠されがちだ。


「そんな君達に僕が教えてあげるよ」


 と強引に連れて行かれる。

 ああ、ジェームズ先生に聞きたかった。



 ハンドガンを持ったエレットはどこかのティータイムの貴族だ。ハンドガンがティーカップに見えて仕方ない。エレット先輩は絶対貴族出身だろう。


 ハンドガンを構えたエレット先輩は様になっている。撃つときは真剣な顔付きに変わっていた。


 ドンッドンッドンッドンッドンッ


 一定のリズムで撃ち出された弾丸は真っ直ぐ的に向かって行き、人型の的の頭を5発中5発撃ち抜いていた。


 思わず、おおーという感嘆の声がライン達から零れてしまう。


 それに気を良くしたエレット先輩は笑顔になる。


「さあ、君達もやってみてよ。アドバイスするから」


 屈託の無い笑顔をライン達に向けるがこの後やれというのは過酷だ。


 マナンはハンドガンを腫れ物を触るように持ち、構える。


 轟音を鳴らして放たれた銃弾はどれも的には当たらなかった。


 何とも言えない空気が一瞬流れるが、エレット先輩は振り払うようにアドバイスする。


「ふむふむ。なるほど。ええっと君は……「マナンです」そうか、マナン君は緊張に弱いタイプかい?」


 マナンをチラッと見ると頷く。


「追い詰められるとミスをしやすいかい?」


 更なる質問にマナンは頷く。


 エレット先輩は少し考えた後、ジェームズ先生の所に行ってしまった。


 ラインとマナンは顔を見合わせる。


「今ので分かったのか?」

「5発しか撃ってないのにね」


 頭の上にハテナを浮かべているとエレット先輩が戻って来る。


「やあ、お待たせ。良い所に招待するからおいで」


 そのままエレット先輩に連れられ、外に出る。

 向かった先は野外射撃場だ。


 ここにあるのは屋内射撃場と同じだが、違う点は的との距離だ。


 屋内は20m~50mに対して野外は100m以上の的ばかりだ。


 ここでやってもむしろ届かないのでは?


 と疑問に思ってるとエレット先輩は倉庫から長い銃身を持つスナイパーライフルを持ってくる。


 これを撃てと?


 ラインが苦笑いしているとエレット先輩は本気らしく、マナンに渡す。


 マナンはよろめきながら受け取る。


 マナンはスナイパーライフルを地面に置き、ハイポッドーーカメラの三脚みたいな物ーーで固定し、地面に寝そべる。

 まるで地面と一体になったような感じだ。


 マナンはスコープを覗き込む。

 指はいつでも引けるよう引き金に置く。


「好きなタイミングで撃って良い」


 エレット先輩の声が聞こえたはずなのに微動だにしないマナン。


 ラインは失礼だと思って、マナンに注意しようとするが、エレット先輩に止められる。

 エレット先輩は無言で横に振る。


 本人がそういうなら仕方ないが。


 その時マナンが引き金を引いて、轟音を響き渡らせる。


 双眼鏡で的を見るが、当たってない。


 再度マナンが引き金を引く。

 轟音を鳴らし、放たれた銃弾は的の腕を擦る。


 おおーとラインは感嘆するが、エレット先輩は冷静だ。

 ボソッと言葉を発する。


「……次は当てるな」

「ーーえっ!?」


 ラインが驚いたのと同時にマナンは引き金を引く。

 放たれた弾丸はーー


 ーー胴体に当たる。


 スゴイ……としか言えないラインにエレットはマナンに手を貸し、立ち上がらせる。その仕草は優雅で手慣れた物だ。


「やはり、見込んだ通りだ。君には才能がある」


 才能という言葉に反応するマナン。次第に顔がにやけ始める。


「良いかい? 人には様々なパターンがある。それを全て判明する試験をこなすには時間がかかり過ぎる。だから一個の成績が悪いからと言って、その人が無能な訳じゃない。隠れた才能はどんな人にも有るんだ。だから諦めないで頑張って欲しい」


 少し説教ぽかったかな? と苦笑いするエレット先輩にマナンは感動したらしい。

 目を輝かせて見ている。


 これで自信が付いて良かったと胸をなで下ろすラインだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ