6-2 異変
俺に関わるなーーそう言ったグレンはどこか寂しげだった。
「グレーー」
そうラインは言いかけるがさっきの表情を思い出し、口を閉ざす。
本当に知られてマズイ事ならば、ずっと威圧するべきだったが、最後の言葉の表情……まるで俺を巻き込みたく無いのだろうか? と感じる。
だから俺はグレンが話してくれるまで待とうと思う。
アイツがもし敵だったならば……俺はーー
ラインは決意を胸に拳を強く握りしめる。
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しばらくの沈黙の後、グレンは立ち去ろうする。
ライン達は黙って見送ろうとした時ーー
ーー突如鳴り響いた銃声と爆発音にライン達は身体を小さくする。
音は2階の方から聞こえた。
(なっ!? 何だ!? 銃声と爆発音!? 何でこんな所で!?)
ウェリントンセントラルの中心であるペンタゴンタワーには沢山の人が来る。なのでテロ対策に多くの兵士が配置されてるはずなのだ。
しかし周りには兵士一人も見当たらない。
(クソッ!! 俺達がやるしかない!!)
ラインが駆け出したのを見て、マナンも追いかける。
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ペンタゴンタワー2階
ライン達が2階に降りると既に銀行の中に犯人らしき人達が人質と共に立て籠もっているのが見える。
その周りを兵士達が包囲しているが人質が居るため、手が出せないみたいだ。
指揮官らしき人も頭を抱えて困っている。
ラインが手伝おうと思い、足を踏み出した時左手の袖を掴まれよろめいてしまう。
振り返るとマナンが悩ましげな顔でラインの袖を握りしめていた。
「マナン、どうした?」
「ダメ!! ライン、ダメだよ!! 僕らは何の力も持たないんだ。危険だよ!!」
そう言うマナンの顔は悲壮感に溢れていた。
悔しいがマナンの言うとおり俺達は兵士達にも及ばない。
だがーー
顔を上げたラインの目はまだ諦めて無かった。
「俺達は軍人だ! 軍人は能力が有ろうが無かろうが、人々を守らないと行けないんだ!!」
ラインの曲げない意思を見せるとマナンはため息をつく。
「ふぅ……ほんと、ラインはこうと決めたら曲げないよね……でもそのおかげで入学出来たんだ……」
マナンは遠い目をする。
しばらくすると覚悟を決めたのか、ラインの袖を離す。
「じゃあ、軍人の意地を見せようか!!」
「おう!!」
マナンが目の前に置いた拳に拳を合わせるライン。
覚悟は決めた。後は指揮官らしき人に協力するだけだ。
ゆっくり近付くと、いきなり目の前にグレンが現れる。
今まで何処にいたのか分からないが突如消え、突如現れるグレン……まるで忍者だ。
グレンはライン達をまるで指揮官らしき人に会わせないようにしてるかのように立ち塞がる。
「退いてくれ、グレン」
ラインの目には敵意は無い。しかしその目には明らかな不信感が見えた。
グレンは頭を掻き、ライン達を腕で囲う。
「アイツらは無能だ。この状況では何も出来ん」
そう言うグレンの目線を追うと銀行の前で防弾盾から銀行を悔しげに覗く兵士達が目に映る。
ラインは目線を戻すと、グレンを睨む。
「ならお前には、名案が有るのだな?」
と問うとグレンはにやける。
「ああ、とびっきりの名案さ」
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-犯人サイド-
銀行に立て籠もってから30分経った。その間に金は大部分集め、後は機密書類の金庫だ。金は使えるが機密書類はもっとだ。何の機密書類かと言うと言えないヤバイ裏金の話だ。
ここは銀行はもちろんの事、国すら入れないから宝の山だ。
しかし、高度なセキュリティによって保護されてるから開けるのは時間が掛かる。
まあ、外の奴らは間抜けばかりだから余裕だがな……
と仲間とにやついているとトイレの方から爆発音が聞こえた。
「何だ!? サツか!?」
と仲間で騒ぐが俺の一括で鎮める。
「てめえら!! 騒ぐな!! 誰か見てこい。おめえら、戦闘態勢だ!!」
一人を見に行かせ、他の奴らを人質を盾にしつつ、攻撃態勢を取る。
しばらくすると見に行かせた仲間が、若いカップルを連れて来る。
「おら、さっさと歩け!!」
仲間が若いカップルを急かせる。
男は十代後半だろうか。黒い髪になかなかのイケメンだ。モデルのような近寄り難いものでは無く、顔の良い男だ。体付きは少しガッチリしてるな。
一方女の方は十代後半だろうか。身長はちょっと高めか。165cmぐらいか。長い黒髪は顔と肩まで届くぐらい長い。
髪のせいで顔は分からないがすらっとした体付きでこちらもスカウトがされないギリギリぐらい美人だろう。髪を上げれば良いのに。
少し勿体ないと思い、女の前に立つ。すると男が間に入る。その目つきは正に自分の女を守ろうとしている目つきだ。
俺は鼻で笑い、男をどかし、女の髪を掻き上げる。
そこには中性的な童顔と強ばった表情があった。これからのヒドい事をされるかもしれないという恐怖と泣かないという理性が戦ってるのが見て取れる。
そして男の方は何かしたら飛びかかるぞと言わんばかりの目つきだ。
ふむ、勿体ないなあと思いながら手を引っ込める。
「お前は髪を上げた方が良いぞ」
と離れながら言う。
すると女は照れ隠しなのか俯き、男は驚きで目を見開く。
別に取ったりしねぇよ。今そんな状況じゃねえからな
と心の中で呟く。
そしてそのカップルも人質の溜まり場に入れる。
ああ……早く終わらねえかな。一杯やりたいねえ……
と男はタバコを吹かしながら、まだ終わらない戦いにため息を着く。
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若いカップルは目線を伏せながら、犯人の位置と人数を確認していた。
そう、男はライン。女はなんとマナンであった。
グレンの名案とはマナンを女装させ、良くあるカップルに仕立て上げ、潜入させる作戦だった。
作戦は見事成功し、潜入出来た。
壁に大きな穴を開けて。
ラインとマナンは犯人の位置とグレンの言ってきた位置が合っている事を確認する。
(これが魔法師の強さか……位置もバレバレなんだな)
改めて魔法の認知魔法の強さを感じる。まあ、グレンは魔法師では無いが。
似たような能力が使えるらしい。
だが欠点も存在する。それは相手が優秀な魔法師の場合、認知出来ないという事だ。
だからライン達は潜入し、魔法師の有無を調べ突入してくるグレンに情報を知らせるという事だ。
そして肝心の伝達方法は魔力で知らせる。
もちろんテレパシーという魔法も存在するらしいが、珍しい魔法であり、学生のライン達には不可能だ。
で、魔力で知らせるというのは2人の違う魔力がぶつかると大きな波動となる。一般人には分からないが魔法を扱う者にはすぐに探知出来るらしい。
だから2人は手を繋ぎ、いつでも魔法師を見つけたら信号を送れるよう準備万端だ。
傍から見ても怖がっている女を慰めてる男……という情景に見える。
まあ実際にはお互いに安心させる為という意味も有るのだが……これは2人は断固否定するだろう。
ライン達が魔法師の存在を探していると近くのドアが開く。
そこから出て来たのは30代ぐらいの女だ。少し眠たそうにしてるのは今まで寝てたからだろうか。よだれが口から垂れていた。
「……何があったんだい?」
と袖でよだれを拭きながら犯人達に尋ねる。
すると犯人達の一人が答える。
「ああ。トイレの壁が爆発してた。そこにこいつらが居たんだ」
男は顎でライン達を指し示す。
それに釣られ、女の視線もライン達に移る。
その時ラインは女と視線が合ってしまい、慌てて視線を逸らす。
「ふーん。壁が爆発、ね……」
女はそう言いながらラインの顎を持ち上げ、ラインの目をジッと覗き込む。
まるで全てを見通されてる感覚がラインを襲う。
短いような長いような時間の感覚が混乱し始める。
そんな時左手に感じる温もりがラインを落ち着かせる。マナンの体温がラインに落ち着きを与えてくれる。
ラインが落ち着いたのを見て、女はニヤッと笑い、手を顎から離す。
「へえ、良い男じゃん。あたしがもう少し若くて、あんたが彼女持ちじゃなかったら狙ってたんだけどなぁ」
そう言いながら、女はマナンをチラリと見る。
マナンはビクッと体を震わせ、ラインの後ろに隠れる。
それを見た女は爆笑する。
「アッハッハッハッハッ……別に今は何ともしないよ。今はね……」
そう言いながら妖しく微笑む女にマナンは完全に怯えてしまった。




