6-1 初めての休日
皆さんお久しぶりです。長い間お休みを頂き無事に全話改稿、応募に至りました。ご協力ありがとうございました。
長い間更新しなかったにもかかわらず、ブックマークが減らないという固定ファンが出来たのでは無いかという感動に震えてます。
全話改稿という試練を乗り越え、付いた実力を発揮していきますのでこれからもよろしくお願いします<m(__)m>
HAWの試験の翌日、ライン達にとっては入学後初めての休日だ。
もちろん何日か休みがあったが、外出許可が出た休日は今日が初めてである。
軍服から私服に着がえる。
ラインとマナンが外出しようとする頃にはもう寮の中はすっからかんだった。
基地のゲートをくぐって、街には兵士に車で送って貰う。
車の窓から1週間ぶりの街の光景を眺める。たった1週間見ないだけでも何故か街の活気はライン達にとって眩しく見える。
ライン達が眺めていると運転手の50代ぐらいの兵士が話しかけて来る。
「二人共、アカデミー生だよね?」
バックミラー越しに見える目は優しい目だった。
「はい。初めての休日で、楽しみです」
すると優しそうな兵士は微笑む。
「ふふ、君達みたいな反応は当たり前だよ。皆楽しみにしてたさ」
そう言いながらどこか遠い目をする優しそうな兵士。
その反応にラインは目の前にいる兵士にどこか親しみを覚える。
「長くアカデミー生と接してこられたのですね」
「ああ……そういえば私はアルバロだ。これから君達アカデミー生の運転手をする者だ」
運転手……基地に戻るには徒歩では大変だ。かといってバスが有るわけでは無い。
だから運転手が居るのも頷ける。
「よろしくお願いします、アルバロさん」
「おう、行きたい所どこでも連れて行くぞ! だがあまり羽目を外すなよ?」
アルバロは笑って言ってるが、実際の所初めての休日で羽目を外し過ぎて、例年問題を起こす輩が出る。
「はい。大人しく楽しみます」
ラインも苦笑いしながら返事を返したのであった。
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ライン達が到着したのは街の中心部ーーウェリントンセントラルーーには様々なビルが建ち並んでいる。
女性用の日用品雑貨から娯楽まで。また男性用のファッションからゲームまで、ここのビル群だけで全てを網羅してしまうまでスゴいのである。
そんな場所に初めて来たライン達は唯々上を見上げる。
まるで田舎から来た人みたいだ。
ウェリントンセントラルには5つのビルが五角形の形に並んでおり、ビルの間を連絡通路が通っている。
ビルは高層ビルで様々な店が入り、5つのビル群でショッピングから遊びまで全て満たせてしまう。
そこにライン達は入って行く。
両開きの自動ドアを通って中に入ると目の前には受付と微笑む受付嬢。
ふと目が合うと微笑んで来る。
ラインは恥ずかしくなり、目を逸らしてしまう。
辺りをみると受付の上は吹き抜けで上の階まで全て一体化になっていた。
おお……スゴい……
というラインの口から感嘆の声が漏れてしまう。
オークランドにはスーパーやデパートはあったが、このような施設は初めてだ。
頻りに見上げていると首が痛くなって来る。痛みを感じる前に見上げるのを止めておく。
「とりあえず二階に上がってみる?」
とマナンを誘う。
1階は全て出入口とエレベーターとエスカレーターで占められている。
マナンは頷き、ラインと一緒にエスカレーターで二階に上がる。
2階に上がると郵便局や銀行。見て楽しむ物としては厳しい。
3階に上がると目の前にはゲームセンターやゲームショップ、マンガやアニメを揃える店がずらりと並ぶ。
これにはライン達も見るしかない。
新作の作品から、未だ人気の旧作までほとんどが揃っている。少し悲しいとすれば、マニア向けは流石に無いことだろうか。
ちなみにマニア向けは郊外の小さな店なら扱っているだろう。
新しいゲームが出たかもしれないのでチェックする。
「うーん、今回面白そうなゲームは無いかな」
とラインは少し落ち込む。
ラインはゲーマーという程では無いが、気になったゲームをやるぐらいである。年に2、3本ぐらいだろうか。
ちなみにマナンはゲーマーである。両手にゲームソフトを持ってどれにしようか迷っている。既にカゴの中には何本か入っていた。
それを見てラインは苦笑いする。
「なあマナン、寮でそんなに出来ないぞ? 自由時間はそんなに無いからな」
朝早く起き、軽く運動し、朝食からの授業。昼食を取って授業を受け自主練からの風呂、飯。その後が自由時間な訳だが……まあ疲れて寝るよな。
精々やれるとしたら休日だろうか。貴重な休みを寮の中で過ごすというのは……うーん。
とラインは考えるが、結局はマナンの自由だ。
マナンはラインがそんな事考えているとも知らずに結局買うと決めたのか片方を入れ、レジに向かう。
買い物が終わり、店を出ると見知った顔がライン達の目の前を横切る。
赤髪をオールバックにした男ーーグレンだ。
グレンはライン達に気付かず、通り過ぎて3階に上がって行く。
「グレーー」
ラインはグレンを呼び止めようとするがグレンは知らない男と共にエスカレーターに乗ってしまう。
その男が醸し出す重い雰囲気とグレンの険しい表情がラインを思いとどませる。
グレン達はライン達から離れ、3階の喫茶店に入る。ラインとマナンは目線を交わし、無言で頷く。
これは付いて行くしかないーー
2人とも考えは同じだった。
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喫茶店に入ると店員が何名ですかと聞いて来る。
二名と答え、好きな席に座る。
もちろん座る席はグレン達の隣だ。仕切り一本隣ならライン達の姿は見えず、会話が聞こえるだろう。
耳を澄まし、会話を盗み聞きしようとした時ーー
「ご注文はお決まりでしょうか?」
という声にライン達は身体をビクリと震わせる。
顔を上げるとそこには注文を聞きに来た店員がニコニコとしていた。
慌ててメニューを開き、若干上ずった声で注文する。
「あ、アイスコーヒー1つ」
「ぼ、僕も」
ラインがアイスコーヒーを頼んだのに便乗するマナン。
店員はかしこまりましたと頭を下げ、離れて行く。
店員が離れたのを見てホッとする。
再度耳を澄まして会話を盗み聞きする。
次第に会話が途切れ途切れ聞こえて来る。
「首尾はどうだ?」
「問題無い。無事……に潜り込めた」
「まずは第一歩だな」
「ああ」
「そういえば今日……」
「……分かった。情報助かる」
「また火星……だろう」
「……ければいいがな」
この会話にライン達は驚愕する。
ーー火星!? グレンは火星独立軍に関係してるのか!?
更に詳細を聞こうと集中するが、グレン達は席を立つ。
ーーっ!? 気づかれたのか!?
ライン達は慌てて普通に装う。
だが2人は何事も無く、ライン達の横を通り過ぎて行く。
バレなかった……
ホッとしたのもつかの間、慌ててグレン達を追っていく。あんぐり口を開けた店員を残して……
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店を出るとそこには群衆。
もうグレンの姿を見失ってしまった。
クソッ!! この中から探すのは無理だ……
内心諦めつつ、群衆の中をさまよう。
だが見えるのは人、人、人!!
グレンの欠片すら見つけられ無い。
ライン達は一旦、群衆から出て端で休む。
人混みは疲れるなあ……
と息を整えているとーー
ーー突如、首に腕を回されホールドされる。そのまま首を絞められる。
誰だ!? コイツ!?
見えない後ろの奴に心の中で罵倒する。そして目の前には困惑するマナン。
抵抗するが首が絞められているため、大した抵抗も出来ない。
ーーマズイ……意識が……
何とかマナンを逃がすため、アイコンタクトを送るがマナンは慌てて気づかない。
……チクショウ……
マナンを逃がしたかったが襲いかかる酸素不足にラインは抗えない……
ラインの目の前が暗転しそうになった時、首をホールドしていた腕が離れる。
腕が離れた瞬間ラインは腕を地面に付け、必死に酸素を求め呼吸する。
ハアッ……ハアッ……ハアッ……
呼吸をするにつれ、意識がはっきりとしてくるーー
ーーっ!? マナンは!?
急いで振り返ると怒るマナンと話す赤髪の男ーーグレンが居た。
「ちょっとグレン!! どういう事なの!?」
マナンさんはとてもお怒りだ。その剣幕にも全く動じず、あっけらかんとしているグレン。
「ああ、偶然ラインを見かけて余りにも無防備だったのでイタズラしちゃった」
言葉の最後には星が付きそうなウインクするグレンにラインは吠える。
「馬鹿野郎!! これが死ぬ事なのかという境地まで達したぞ!? 俺を殺す気か!?」
そんなラインの非難も軽く躱される。
「すまん、すまん」
グレンはさっきのあれが遊びのつもりだったのだろうか。
ラインは顔を歪めながら首をさする。
そしてふとグレンの言葉の違和感を感じる。
「なあ、グレン。さっきの偶然とはどういう事だ?」
その言葉にグレンは首をかしげる。
「どういう事も何も、俺は偶然ここでラインを見かけて、イタズラしちゃっただけだが」
そう言うグレンに動揺は感じられない。これがさっきの尾行してなかったら信じていただろう。
あくまでもすっとぼけるグレンにラインは追求する。
「実はな……さっきまで尾行していたんだ。喫茶店で話した男は誰なんだ? そしてお前は何者なんだ?」
そう問われたグレンは今までのあっけらかんとしていた雰囲気がスッと消え、目は鋭くラインを見つめる。その雰囲気はライン達を呑み込んでいた。
(何だこの雰囲気は……まるで蛇に睨まれた蛙だ……)
体全体から変な汗が噴き出し、身体は震え、落ち着かなくなる。
初めての威圧を感じ、戸惑うライン達。
マナンは既に座り込んでしまっている。
しばらくラインが威圧に耐えているとグレンはフッと威圧を解除する。疲れの余り、ラインも座り込んでしまう。
(こんなの常人が出せる物じゃない!! グレン、お前はいったい……)
頭が混乱しているラインにグレンは子供に諭すように言う。
「ライン。お前は今まで光の中で生きてきたんだろう? ならこれからも光の中で生きて行くべきだ。だから俺に余り首を突っ込まないでくれ」
そう言うグレンはどこか寂しげに呟くのであった。
火曜日に次話投稿する予定です。




