1-2 絶望の始まり
-火星 宇宙空港-
ユーリは立ちすくんでいた。
何が起きたか分からないのと両親を失った絶望感を感じて呆然としていた。
だがそんな事お構いなしに兵士は拡声器で叫ぶ。
「さあ、まだ主人に楯突くバカ犬はいるか?」
兵士は見回すが、誰もが恐怖を顔に貼り付けて動けない。
誰も動かないので満足したのか兵士は続けて拡声器で叫ぶ。
「なら、全員これから豚小屋を案内してやる」
兵士達はユーリ達を急かした。
ユーリ達は先導する兵士達に付いていく……
-採掘所 住居スペース-
「お前はここだ!」
ユーリは強く突き飛ばされ、部屋の中で転んでしまう。
兵士は端末を見て、もう一人を探す。
兵士の手が止まると同時に、続けてもう一人を呼ぶ。
「おい、お前だ! 来い!」
兵士の手は少女に伸ばされ、手を掴み引き寄せて、ユーリの方に突き飛ばした。
「キャッ!」
という小さな悲鳴と共にユーリに飛んでくる。
ユーリは少女を受け止める。
その子は少女はサラだった。
お互いに目を合わせて驚いていると、兵士は扉を閉め、隣の部屋に向かって行った。
足音が遠ざかって行く……
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ユーリは驚いていた。まさかトラックで会ったサラにまた会えるなんて。
そして、あの中死なずに生きててくれるなんて……
サラのぬくもりがユーリに現実だと認識させてくれる。
最初は驚いていたが、次第に嬉しくて涙が出てきた。
サラを見るとサラも泣いていた。
ユーリは涙を拭くと、少し震えた声で言った。
「良かった……サラが生きててくれて……」
サラはそれを聞いて頷く。
「私も……パパとママが死んじゃったから一人ぼっちになっちゃうと思ったけど、ユーリ君が生きてて……嬉しい」
2人とも安心したら涙が出てきた。お互いに抱きしめあった。
お互いに寂しさを埋める為、温もりを感じあっていた……
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しばらく抱きしめあっているとユーリはふと今の状況に気付いた。いや、気づいてしまった。
好意を頂いている女の子と抱きしめあっている事に。
サラはとてもいい匂いがする……
何だろうか、何の匂いか分からないけどいい匂いだ。
同時にユーリは混乱と恥ずかしさのダブルパンチを受けていた。内心はものすごい動揺していた。
そしてとうとう耐えきれなくなって、ユーリは意識を飛ばした。
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「うっ……う、うん……」
ユーリはゆっくりと目が覚めた。
頭に柔らかい感触が当たっていた。
いつの間にかベッドに移動したのかなと思って、目を開けると目の前にはサラの顔がどアップだった。
「あ、起きた? いきなり倒れちゃうからビックリしちゃった……」
ユーリはサラの言葉を聞いてなかった。今の状況を理解するのに必死だった。
上にはサラの顔、下には柔らかい感触……まさか……
ユーリは飛び上がってサラから離れた。
「うわぁぁぁぁぁーー!? 何で、何で!?」
「どうしたの? ユーリ君?」
「えっ? あ、え………その、何で膝枕してくれたの?」
サラはキョトンとした顔をした。
そしてクスクス笑いながら言った。
「寝ちゃたかなと思ってベッドまで持ってこうと思ったけど、持てなかったし、起こすの悪いかなと思って枕代わりにしたけど……ダメだった?」
と不安そうに聞いてくる。
ユーリは首を横にブンブンと振って必死に否定した。
「良かった……ママからこうすると喜ぶと教わったから、ユーリ君に喜んで欲しくて……」
サラのお母さん、グッジョブ!!
ユーリは内心見知らぬサラのお母さんにとても感謝した。
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しばらくすると放送が流れた。
「今いる場所がおまえ等の部屋だ。覚えとけ! 部屋の入れ替えは許さん。点呼した時に一人でもいなかったらその部屋は懲罰だ!」
プツンと前触れも無く放送が途切れる。
ユーリとサラはお互いに顔を見合わせる。
そしてお互いに笑顔になった。
「よろしくね、ユーリ君」
「よろしく、サラ」
同じ部屋になって良かった……とお互いに思った。
ふとユーリは部屋を見渡した。周りにはベッドぐらいしかなく六畳も無いだろう。
だが二人が生活して行くには十分だ。
食事やトイレは食堂や共同トイレとなる。風呂は入れるか分からない。
食堂は部屋を出たらすぐだ。
一階には沢山の部屋と食堂、兵士の詰め所がある。
二階以降は部屋だけだ。
一階は子供達だけしかいない。それも年齢が幼いのが多い。
なぜなら、簡単に人質に出来るからである。
反乱が起きても子供達が人質だと手を出しにくいからである。
また、男女分けるなど何もない。適当に決めているだけである。
もし、間違えが起きたら子供は売り飛ばすだけである。
この建物は殺風景な部屋とコンクリートの壁から監獄と呼ばれた。
この日は何も無かった。
いや、あっても誰もやる気など起きない。
あんな事が起きた後だから……
今夜はあちこちですすり泣く声が聞こえた。
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翌朝、監獄はシーンと静まり返っていた。
多少寝息は聞こえるがほとんど音はしない。
やはり、みんな疲れているのだろう。
起きている人はほとんどいない。
ユーリ自身も夢でうなされていた。
両親がどんどん遠くに行ってしまう夢だ。
その時、チャイムが鳴った。
サラとユーリは飛び起きた。
ユーリはサラを見るとサラも目が赤い。
「おはよう、サラ」
「おはよう、ユーリ君」
どちらも涙を隠すように起きた。
その時、放送が流れた。
「全員今すぐに食堂に集合! 5分以内に来ないやつは処刑だ!」
ユーリとサラはお互いに顔を見合わせる。
そして、同時に頷いた。
ユーリ達はすぐに部屋から飛び出した。
すると、周りの子供達も同じように扉から出てきた。
上の階も吹き抜けなので、上の階の扉からバタバタと出てくるのが分かる。
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5分後、食堂は人で埋め尽くされていた。
皆、これから何が起きるか不安がっていた。
兵士が拡声器で叫んだ。
「これから貴様らには、餌を与える。食え! それと出てこないやつは死刑だ」
その言葉と共に兵士達は部屋を見回り始める。
そして、見つかってしまう。
「嫌だ! もう何もしたくない! 帰らせてくれ!」
男がイヤイヤと喚く。
すると兵士は笑いながら
「良いだろう。今すぐ、帰らせてやろう」
銃を男の頭に向ける……
「や、止めて! 死にたくない! お願いします! 何でもしますから!」
「ほう、何でもするか。では死ね!」
一つの銃声が響いた。
男は力無く倒れた。
悲鳴が上がる。また、人が死んだ。こんなにも容易く……
最初の銃声を皮きりにあっちこっちで悲鳴が上がる。そして、何発もの銃声が聞こえた。
兵士はニヤリと笑うと
「貴様ら、分かったか? 逆らうと死んでもらう。お前らは蚊と同じぐらいの価値しかない。さあ、餌をさっさと食え!」
殺された人達は見せしめに殺されたのであった。
食事は一人当たりパンが一枚、野菜スープ一杯、干し肉一切れが配られた。
もちろん、一人当たりには足りないがユーリ達が予想してたよりご飯が出た。
ご飯が出ないのではと思われていたが、一応三食出るらしい。
それも食べていけば、ギリギリ死なない程度の量である。
やはり、あまり人を殺したく無いのだろう。
貴重な労働力だからである。慈悲ではない。
だから逆らうやつは役に立たないから殺すだろう。
なので逆らわなければ殺されないで生き延びれると分かり、皆必死に食べる。
ユーリ達も同じだった。
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30分後、
「食事は終了だ!」
という声が響いた。
その頃には皆すでに食べ終わっていた。
こんなに長く食べる時間が与えられるとは思って無かったからである。急いで腹につめこんでいたのだ。
続いて兵士は叫ぶ。
「これから作業に入れ。男はこっち、女はこっちだ」
ここで一旦サラと別れる事になるみたいだ。
「サラ、また後でね」
「ユーリ君も……」
サラも寂しそうに言った。
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ユーリと男達が兵士達に連れて行かれたのは採掘現場だった。
既にそこでは沢山の人がツルハシで穴を掘っていた。
ユーリ達はその様子に眺めていると兵士は叫ぶ。
「お前らはここで地面を掘って貰う。やり方はここのやつに聞け。以上」
そう言って兵士はさっさと去っていった。
何をすればいいのかわからずに立ちすくんで居ると、一人の労働者が近いて来た。その男は無精髭を生やし、目は鋭かった。
「……お前らが新入りか……全員ツルハシを持ってここを掘れ」
だが誰も動かない。地面を掘る意味が分からないのだ。
すると、その男が叫ぶ。
「お前等! 死にたくなければ、すぐにかかれ!」
皆は慌てて穴を掘り始める。
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掘り始めてから1時間後、ユーリはボロボロだった。
「はあはあ……全く掘れない……」
ユーリは一時間無心に掘った。
だけど、1メートルも掘れて無かった。
何だよこれ、こんなの無理だよと思っているとさっきの男が近づいてきた。
「……やはり、そんなものか」
この言葉に皆がピキッと来た。
一人が男に近づいて、胸ぐらを掴んだ。
「おい、何で機械を使わないだ! 無駄だろ!」
至極当然の質問に労働者は冷静な顔で言った。
「機械? 機械なんてここには無い」
この言葉に皆が驚いた。
労働者は話を続ける。
「そんな物は無い。大人しく続けろ。やり方はこうだ」
男はツルハシを持って掘り始めた。そしたらすぐに深くなった。
皆、自分との余りの違いに驚く。
労働者は手を止め、口を開いた。
「こうやれ。俺の名はサイオンだ。よろしく頼む」
サイオンは去っていった。
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更に二時間後、やり方を真似してやったら二倍のスピードで掘れたのである。
大した物である。
だが代償は死ぬほど疲れるという最悪の贈り物である。
まだ、サイオンには全く勝て無いけど。
この時、休憩時間だった。
たった30分だけだけど、この疲れにはありがたかった。
ふと隣を見ると隣の少年もへこたれていた。
身体を地面に投げ出していた。
もはや体から魂が抜けそうである。
ユーリは少年に話しかけた。
「大丈夫?」
少年は力なき目で見た。
その様子を見て、ユーリは言った。
「大丈夫じゃなさそうだね……」
「疲れた! 今日はもう体が動かん! 腕が震えてる!」
少年はうんざりした顔でそう言った。
ユーリは何か気付いた顔をした。
「あ、自己紹介して無かったね。僕はユーリだよ」
「おう、ユーリよろしく。俺はウィリーだ」
「ウィリーか。よろしく」
2人が和気あいあいしようとしている時間はすぐ終わった。
チャイムが鳴り、作業が開始された。
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チャイムが鳴り、今日の作業は終わった。
「死ねる……今ならすぐ死ねるわ……」
人生が終わったような顔をしながら、ウィリーはトボトボと監獄に向かって歩いていた。
隣をユーリも同じように歩いていた。
「僕ももう倒れたい……でもベッドでも寝たい……」
と小さく呟く。
ベッドで横になりたい一心でゆっくり監獄に入っていった。
2人とも一階だったのですぐに部屋に戻れた。
二階以降の人は大変だなーと思いながら……
扉を開けると中にはサラが居た。
ユーリに気づくと振り返り声をかけた。
「ユーリ君お疲れさま。大丈夫?」
「サラ……ただいま……大丈夫じゃない……」
ユーリはフラフラとベッドに向かっていた時、ふと視界にサラの周りが目に入った。
サラの周りは血まみれの包帯だらけだったのである。
ユーリはフラフラの頭を覚醒させ、サラに詰め寄る。
「サラ! これはどうしたの!? 何かされたの!?」
サラは苦笑いしながら答えた。
「実はね……苦手なの」
「何が!?」
サラは一呼吸置いた。
そんな間でもユーリは心配で頭がパンクしていた。
もしサラが何かされてたら……怪我したら……
ユーリはあたふたしていた。
そんなユーリにサラはクスリと笑い、笑顔で答えた。
「ユーリ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ただ裁縫で失敗しただけだから」
「えっ?……裁縫? ……裁縫って何だっけ?」
それを聞いたサラは腹を抱えて笑いだした。
「ユーリ……くくく……あははははははははは……ユーリ君落ち着いて? 裁縫は裁縫よ?」
ユーリは自分が馬鹿な質問した事に気付いた顔をした後、心底恥ずかしそうな顔をした。
「今日はダメだ!! もう寝よ!!」
「ユーリ君ごめんって。笑い過ぎた……くくく」
「もうサラなんて知らない!」
ユーリはふてくされて布団を深く被って寝てしまった。
サラも布団に入り寝ようとしたが寝れなかった……
今日の仕事の時のせいで……
ユーリは深い睡眠のせいでサラの押し殺した泣き声を聞き逃した……