3-3 地獄の退却戦
次週から週2投稿していこうかと予定してます。
あくまでも予定なので実現出来ないかもしれません。
9/22 改稿
-地球連合軍 モスクワ基地 ユルゲンサイド-
モスクワ基地……ヨーロッパ方面軍の東部では最大の基地である。
ここも例外に漏れず、反乱は起きていた。
「チクショウ!! 撃っても撃っても湧いて来やがる!!」
「主力が戻るまでの辛抱だ!! ーーマズい、戦車だ!! 伏せろ!!」
砲弾は兵士の上すれすれを通り、後ろに着弾する。
爆音と熱風が兵士を襲う。
後ろからは悲鳴と怒号が入り混じる。
なんとか助かった二人だが、敵は好機!! と見たのか、戦車と共に突撃を掛ける。
もはやこちらには対戦車火器や残弾は残って居ない。
諦めようとしていた時ーーー
ーーー戦車は突如爆発する。
その後空から戦闘機が発する爆音が聞こえて来る。
友軍機だ。
「おお、ユルゲン少将が戻って来たのか!!」
兵士達はうおおぉぉぉーー!! と歓喜し、戦闘機達に手を振る。
戦闘機達は次なる獲物を求めて速度を上げていく。
-----
次々と各地の戦況報告が手元に集まって来る。
ヨーロッパ東部は我らが間に合い、戦況が好転したがヨーロッパ西部はもう既に連絡は途絶えていた。
もう占領されたと言ってもいいだろう。
そんな状況に更に悲報が続く。
「報告します。我が軍の弾薬、燃料があんまり芳しく有りません」
ユルゲンはどこかこの事態に予想がついていた。
元々、燃料や残弾は最低限しか持たず北京に向かっており、戻ると各基地は燃料、弾薬庫が集中的に破壊されており満足に戦う事は出来なかった。
今はまだ戦えるがこのまま続くと兵器はタダの鉄クズになるだけだろう。
ユルゲンは一途の望みを託し、ルーカスに連絡を取る。
何回かの呼び出し音の後、画面に映るのは金髪の女性ーーアイリーンだ。
「初にお目にかかります、アイリーンです。ユルゲン少将とお会いでき、光栄です。ーー用件を伺います」
長ったらしく話続けると思ったが、ユルゲンの表情で察したのか直ぐに自分の話を打ち切る。
ユルゲンは一瞬アイリーンの優秀さに感心したが、用件を思い出し切り出す。
「すまない。ルーカスと変わって欲しい」
アイリーンは了解しました。とルーカスに画面を渡す。
ルーカスが画面に出る。
「ユルゲンか、どうした?」
「ああ、実は後少しで弾薬や燃料が切れそうなんだ。北米、南米に有る弾薬と燃料を送ってくれないか?」
その言葉にルーカスは黙り込む。
少し経った後口を開く。
「すまない……実は本部を占領した後、北米の各基地を調べたら燃料、弾薬共に無かった」
「何だと!? どういう事だ!?」
ユルゲンは激高し、ルーカスに説明を求める。
「責任者に問いただしたら、反乱軍に売っていたらしい。戦車も戦闘機も弾薬も燃料も。どれも役員達が関与していたらしい」
「あのゴミどもが!? 死んでもなお、邪魔するか!!」
ユルゲンは憤慨するが、既に役員達は死んでいる。
「って事は支援は無理だな」
「すまない。南米方面軍はアフリカ方面軍の支援で手一杯だ」
「分かっている。とりあえず俺はロンドンまで下がる」
「ロンドンか。なるほど、グレートブリテン島の水際で防衛するのか」
元イギリスと呼ばれる国があったグレートブリテン島。
ユルゲンはそこまで退却し、ドーバー海峡に有る橋を落とし海岸で睨みあうつもりだ。
「時間を稼いで欲しい」
ルーカスはユルゲンに頼む。
「時間? 時間で解決するのか?」
「ああ、燃料や弾薬を急ピッチで生産している。それに……」
「それに?」
「捕獲した敵兵器からデータと構造を解析し、我が軍も人型兵器を開発するつもりだ」
「ほう……それは頑張らなくてはな」
ユルゲンは不適な笑みを浮かべる。
ルーカスも同様だ。
「では頼むぞ。火星独立軍が各地に攻撃を仕掛けるつもりだ……決して死ぬな。這いつくばっても生きて帰って来い」
「その前に支援が来る事を祈るわ」
通話が切れる。
だが切れた後でも、ユルゲンは微動だにしない。
「……」
これからの壮絶な退却戦を考えると気が重くなるのであった。
だが事態は猶予を許さない。
ユルゲンは立ち上がり、部下を呼び指示を出して行くのであった。
-----
ユルゲンが撤退を指示してから一週間。
戦況は大きく変わっていた。
ヨーロッパ方面では残存する守備隊や引き連れた部隊がカレー(フランス)に向かって集結中であった。
カレーはヨーロッパ大陸とグレートブリテンを繋ぐ場所の近くである。
アフリカ方面ではファビアン中将の部隊とルーカスの部隊が合流し、鎮圧に向かっていると言う事。
イランの首都テヘランで軍備を再編中。
だが、損耗は激しく余力は無かった。
インド方面はラーマン少将率いる部隊はインド、ニューデリーに集結していた。
ラーマン少将も不足する弾薬と燃料に悩まされていた。
インド方面の各地で反乱を鎮圧していたがモグラ叩きのようにきりがない。
もはやニューデリーだけを維持するので精一杯であった。
アジア方面では日本以外は占領されていた。
日本は元々治安が良く、国民性にも大人しいほうなので大規模な反乱にはならなかった。だがここにも火星独立軍はもうすぐやって来る。
一方オーストラリア方面では援軍は無かったが弾薬と燃料はルーカスから支援を受けていた。
なぜルーカスが他の所に回さずにオーストラリア方面軍を支援したのか?
というのはニュージーランドのエルス国の存在を危険視していたからであった。
この時代もエルス国は地球連合軍と火星独立軍の次に軍事力を保有する国だからだ。
戦争勃発以前は友好的で、同盟関係が続いていたが今は不気味に沈黙を保ったままである。
もちろん地球連合軍や火星独立軍に比べ戦力は十分の一にも満たないが、中立国であるエルス国が敵になると士気が落ち、企業や国民の協力は非協力的に少し傾いてしまうだろう。
また戦力も十分の一にも満たないと言ったが、連度や装備の質、能力は地球連合軍と火星独立軍の中で一、二位を争うぐらいである。
独立国の中で唯一、国産の兵器を使っている国だ。
そんなエルス国が意志表明しない今、エルス国にも警戒しなければならない。
だからオーストラリア方面は鎮圧しつつ警戒状態のままである。
北米方面はアラスカに順次退却していた。
北京が陥落した今、一番近いのは北米方面軍だ。
このままでは各個撃破されると恐れ、アラスカに退却する。
北米方面は地球連合軍の方面でも一番豊かである。
なぜなら、役員達の恩恵をモロに受けていたからである。
だから反乱はほとんど起きず、北米方面軍はアラスカに待機する事となる。
まだ指揮官は居ないのでルーカスが兼任する。
-----
-地球連合軍 カレー ユルゲンサイド-
爆発による振動と鳴り止まない銃声。
ずっと続く戦闘に皆、眠れない夜が何日も続き、限界に達していた。
目の下に隈があるユルゲンは直ぐに倒れそうなぐらいフラフラだが、眼光は鋭かった。
眠る暇も与えずに、戦況は目まぐるしく動いて行く。
「報告します!! 敵はもうそこまで迫っています!! ユルゲン少将、早くグレートブリテン島へ!!」
部下は指揮官の早急な後退を提案する。指揮官が討たれてしまったらヨーロッパ方面軍は壊滅するだろう。
だがユルゲンは横に首を振る。
「俺は全軍が退却するまでここにいる。民間人もまだ多数残っている!!」
「ですが!!」
「お前が先に行け」
部下は俯く。
そんな間にも砲弾が直ぐ近くにも落ちる。
悲鳴と怒号が飛び交う。
部下は決断する。
兵士を呼び、ユルゲンを連れて行く。
「なっ!? お前ら、何をする!? お前ら離さんか!! 命令だ!!」
ユルゲンは命令するが兵士達は命令を無視し、ユルゲンを離さない。
「ユルゲン少将は今錯乱状態だ。私が指揮官代理を務める。連れて行け」
ユルゲンはわめき散らすが寝不足や過労で力は出ない。
容易に指揮所から連れて出される。
アナタは地球連合軍に必要な方です。ここでは死んでは困ります……
と部下はその背中に敬礼し、死が前提の戦場に戻って行く……




