13-15 師弟関係
昼忙しくて投稿出来ないので今投稿。
今年最後の投稿になりました。ありがとうございました。そして来年もどうぞよろしくお願いします。
目の前に居るのは俺を敵視する師匠。どういう事だ?
抜き身の日本刀を右手に、左手で気絶した跳弾女を抱えている。
日本刀は多くの血を吸って、赤く不気味に光っている。
「師匠、説明して下さい。でなければ、敵対行動と見なして師匠と戦わないといけません」
実力差は大きい。だが敵対するなら排除しなければならない。それが誰であっても。
すると師匠は更に顔を歪ませる。そして今度は悔しそうに呟く。
「そうか……お前に教えたのは失敗だったかもしれん。いや、甘く見た俺のせいか」
……何を言ってるんだ、コイツは?
敵対行動してから今度は懺悔? そんな得体の知れない奴が俺の師匠だったとは無念だ。
「仕方ありませんね。師匠……いや柳生、その首を貰って帰るとしよう」
俺の言葉を聞いて今度は不敵に微笑む柳生。
「とうとう呼び方すら変わったか……もういい。見苦しい限りだ。お前と真剣での戦いはこれが初めてだな」
馬鹿にしてるような目線で俺を見る柳生。逃げるにしても何処かしらで追撃を撃退しないと追いつかれる。なら今止めよう。
俺の装備はナイフ1本とハンドガン。さっきは隠密行動の為ナイフのみで戦ったが、柳生相手では出し惜しみは出来ない。そして残念な事にどちらも魔鋼石では無い。
本来はアリサ達と合流した時に魔鋼石で出来たAMAとロングソードを受け取る予定だったのだが、ただのナイフで戦うしか有るまい。魔力伝導率が悪い為、エンチャントは出来ない。残る俺の武器はナイフ、ハンドガン、攻撃魔法、肉体強化魔法。
敵もAMAは付けてないが日本最強の柳生。必要すらないのかもしれない。
まともにぶつかったら勝てない。ならば手数で勝負して、一つ一つ捌きが甘くなった所の一瞬見せた隙に全力を叩き込む。
弾は15発。奴を止めるにしては少なすぎる。使えるのは一度切り。まばらに撃っても無意味。ここぞという時にフルオートでぶっ放す。反動は魔法で強化した肉体で抑えられる。そして奴はその時守勢に回らざる負えない。
だが問題なのが、そこからどう崩すかだ。一瞬守りに入った奴。その一瞬に踏み込んでも直ぐに体勢を立て直した奴に正面から戦う事になる。
もう一手、体勢を崩すのが欲しい……
いつもより冴えた頭で考える。普段とは比べ物にならないぐらい頭の回転が早く、発想が次々と浮かんでは吟味していく。
この力……もっと早く手に入れていれば……
家族やマヤの死んだときの情景が鮮明に頭の中を駆け巡る。
何度も味わった無力だという現実。目の前で大切な人がどんどん遠ざかっていくのをただ見つめるだけという自分に怒りを覚えていた。だから力を手に入れた。この力が有れば俺は何でも乗り越えられるはずだ。
柳生を睨みつけて吠える。
「そこをどけ!!」
「思い上がるなよ、小僧!!」
柳生は心底怒っているようだ。表情は強ばり、青筋が立っている。さぁ師弟関係もこれで最後だ!!
魔法を詠唱しながらナイフを右手に、突っ込む。気を会得したからこそ同時に出来る技だ。
何かをしながらの詠唱は気が散って前の俺には出来ないが、今の俺なら出来る。
ナイフと日本刀が切り結ぶ。甲高い音を発して、火花が散る。
近接戦で魔法を叩き込んでやる!!
左手を突き出してファイヤーボールをゼロ距離でぶっ放し、距離を取る。
ファイヤーボールは柳生に当たり、炎が四散する。その熱風は俺にも来て、肌がチリチリと焼ける痛みは何度受けても慣れない。
炎が柳生を包み込み、その中に消えた柳生。思ったよりも多く魔力も練れて、魔法の威力も上がるみたいだ。
だが流石の柳生、炎の中を何とも思わず歩いて来た。そして全く服も汚れてない。
「……今のは完全に俺を殺す気で撃ったな」
もはや視線だけで射殺せるのでは無いかというぐらいの怒りを俺に向ける柳生。だが今の俺には無駄だ。
「流石は柳生。この程度の魔法ではびくともしないか。動の気の防御力は素晴らしいな」
ははは、と乾いた笑い声を上げるが依然、柳生は無言で俺を睨んだままだ。
「もはや俺もお前を殺す気で行く……」
静かに柳生は刀を構える。その気迫は先程とは比べ物にならない。底知れぬ恐怖に思わず嬉しくて、口が緩んでしまう。
「まだ本気で無かったというのか……流石は柳生!!」
楽しい。戦いがこれほど俺の心を躍らせてくれるとは思わなかった。敵が強大なほど、どう倒せば良いか悩める。そして勝ったときの何とも言えない喜びに包まれるのだ。白熊との戦いも楽しかったなぁ……
そしてお互いに距離を詰めて、斬り結ぶ。再度火花が散るが、今度は柳生が本気だった。
パキーンという乾いた音と共にナイフが壊れる。ナイフが有ったからこそ近接戦で均衡を保てていたのに無くなった今、俺に近接戦するメリットは無い。
咄嗟に距離を取るが、柳生はそんなことを許してくれはしない。俺以上のスピードで距離を詰めてくる。……これは使うしか無いな。
ナイフを失って、空いた右手でハンドガンをフルオートで連射する。一瞬の発砲音と共に無数の弾丸が飛び出る。
だがそれでも柳生の勢いは止まらない。動の気の前には無駄なのか!? 仕方ない、グレンの時と同じように爆裂魔法で自爆するしか……
威力の上がった爆裂魔法。俺の体も無事で居られるか……
だがここでやらなきゃ殺されるだけだ!!
瞬足で飛んできた柳生の刃が目の前に迫る。俺は爆裂魔法を発動ーー
「2人とももう辞めて!!」
聞き慣れた声が柳生の後ろから聞こえる。そこにはアリサが目を赤くして泣いて、魔法の範囲内に入ってきて居た。
クソッ、魔法はもう止まらない……
慌てて発射方向を逸らすが、魔法は近くに放たれる。
大きな爆風と爆音がこの場に居た全員に襲いかかる。
俺と柳生は至近距離では無いから気とウォールシールドでなんとか大丈夫だが、どちらも習得をしていないアリサは……
土埃が晴れた頃、力無く横たわるアリサが目に映る。
ーー重なる、マヤの弱った姿とアリサの姿が重なるーー
ーードクンッ
俺は何のために……俺は何のために力を手に入れたんだ? 仲間を傷つける為? 違う!! 仲間を守るためだろう?
ーードクンッ
冷たく、無機質に見えた世界に色が戻ってくる。そして忘れた感情が溢れてくる。俺は……俺は……
「アリサッ!!」
柳生ーー師匠の慌てた声が響き渡る。いつも冷静な師匠からは信じられない慌てた声だ。
師匠がアリサを抱き起こすとアリサは力無く笑う。
「……柳生さん……ご無事で良かった……ラインも元に戻ったみたいね……」
「もう良い、喋るな」
師匠は歯を強く噛みしめて俺を睨む。
その視線に俺は目を伏せる。
「……大丈夫だ。命に別状は無い。今はゆっくり寝ろ。後は俺に任せろ」
師匠は鋭い目つきとは違い、優しい声色でアリサを安心させ寝かせる。
アリサを地面に寝かせた師匠は立ち上がって俺に振り返る。
「……ライン!!」
師匠は俺の首を掴んで、宙に浮かせる。苦しい……足が浮く……
「お前は、仲間を傷つけた!! それも己の手で!!」
首を絞める力が更に強まる。ここまで師匠が怒りを露わにするのは初めてだ……
酸素が頭に回らなくなって少しずつ意識が遠のいていく。
「もし、次暴走したら俺はお前をーー」
「ーー殺す」
高く上がる炎を背景に、赤く照らされた師匠の表情と瞳から様々な覚悟が感じとられたのを境目に意識を手放した。




