第九話
西暦4547年8月22日12:30 イーストエリア 廃工場から離れた場所
「なんとか、なったか」
救出対象の随伴歩兵と砲塔上の旋回機銃だけを頼りに何とか脱出に成功できた。
一時はどうなるかと思ったが、なんとかなるもんだな。
主砲は残り20発、徹甲弾のみ。
向こうの歩兵たちの指示に従ってけん引をしたが、擱座した装軌式戦車を装輪戦車で引っ張るという荒業をこなすことができた。
元の世界に戻ったら、けん引免許でも取ってみよう。
それはそれとして、装輪戦車なのに不整地で履帯をやられた戦車をけん引できるとか凄いな、さすがは未来の科学技術だ。
「ん?」
車体の上で装甲を叩く音がする。
外部視察カメラで見てみると、タンクデサントを楽しんでいた兵士の一人がカメラに向かって止まってくれと叫んでいる。
そうか、後部電話は走行中には使用できないからな。
<<聞こえるか?>>
停車するなり後部電話から呼びかけられた。
安全な場所まで下がれたという事もあり、いろいろ話したいのだろう。
こちらとしても、いつまでも無賃乗車を楽しまれたのでは困るので助かる。
「良く聞こえますよ。こちらも降りた方がいいですか?」
周囲の監視情報を確認しつつ尋ねる。
車上にいた連中は全員降車しており、けん引してきた戦車の修復を始めようとしているようだ。
というか、今更気が付いたが、あれは61式じゃないか。
砂漠でアレに乗るとは趣味だねえ。
<<いや、これだけの人数がいるんだ、そちらがいい気持ちはしないだろうから構わんさ。
それより、アリア様、ああ、引っ張ってきてもらった戦車に乗っている俺たちの雇い主が話したいらしい。悪いが無線に出てもらってもいいか?>>
困ったことを言ってくれる。
その無線の応答方法がわからないからこういった面倒な事になっているのだ。
「配慮に感謝しますけど、挨拶は面と向かってするのが好きなんで降りますよ。
ちょっと待っていてください」
改めて周囲を確認するが、カメラ越しに見ただけでは真面目に戦車の修理と周辺警戒を行っているようにしか見えない。
とりあえず、油断だけはしないようにしておこう。
相手の殺気を感じるなんていう高等技能は、まだ身に着けていないがな。
「防護服の気密よし、自動小銃よし、拳銃よし、せっかくだから工具箱も、んん?」
足元の工具箱を持ち上げようとしたが、モニターの表示に中断させられる。
そういえば前回のレベルアップ後に、次のobjectiveを確認していなかったが、今回の戦闘でクリアできていたようだ。
『Objective Complete:報酬を獲得 データチップ@中型気密車庫構造材』
『Objective Complete:報酬を獲得 データチップ@中型車両メンテナンス設備』
『Objective Complete:報酬を獲得 データチップ@中型発電設備』
『Objective Complete:報酬を獲得 データチップ@中型空気清浄設備』
『Objective Complete:報酬を獲得 データチップ@中型浄水設備』
『Objective Complete:報酬を獲得 データチップ@中型設備メンテナンス用具』
『Objective Complete:報酬を獲得 データチップ@中型設備管制装置』
『Objective Complete:報酬を獲得 データチップ@中型建設重機』
『Objective Complete:報酬を獲得 データチップ@中隊規模向け重汚染地域向けシェルター建材』
『Level UP! 9→10 ☆派生スキルを解除しました ※レベル10毎にステータスポイント50%ボーナスとスキル獲得数2倍の特典があります!』
『レベル10を超えたため、レベルが5上がるごとに特典データチップを入手できます!』
なんだなんだ、凄い事になっているな。
戦車を手に入れたから次はそれがらみが来るだろうとは思っていたが、まさかの車庫か。
おまけに中型と名の付く設備も開放ね。
最後だけ中隊となっているが、つまりそろそろ一人で働くのはやめろという事かな?
「まあいいや、詳しくは帰ってからにしよう」
工具箱を掴んでハッチに手をかけようとするが、最後の二行が気になった。
派生スキルとはなんだ?おまけにボーナスだと?
席に戻り、おなじみのステータス管理画面を呼び出す。
俺はレベルが上がるごとにスキルを一つ覚えられ、ステータスを合計で10ポイント上げることができる。
だが、レベル10の倍数の時は、追加でレベルの50%のポイントをもらえるようだ。
おまけに、普段は一つだけのスキルを二つ習得できるのだとか。
つまり、今回はこうなる。
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レベル9 → 10
職業 :無職
体力 :15 → 15
知力 :15 → 19
器用 :15 → 20
速度 :15 → 15
魅力 :20 → 20
運 :14 → 20
スキル:初級探索術、初級射撃術、初級知識、初級生産術、初級鑑定術、初級敵気配察知、初級交渉術、初級操縦術、初級修理術、初級機械知識
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レベル9になった時は弱点の克服を目的に平均的なところを目指してみたが、今回は時間もないので直ぐに役立ちそうなところへ注力した。
車両整備のお手伝いがあるかもしれないため、まず知力と器用さを上げておく。
不運な人がどうなるかはすぐ隣の車両が教えてくれるので運も上げておこう。
そして、念のために修理術と機械知識のスキルを選択しておく。
どう考えても相乗効果が期待できるし、これから初対面の武装した人々と会うにあたり、間違いなく役に立つだろう。
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congratulation!以下の派生スキルを習得しました。
派生スキル:紳士 (初級知識・交渉)
こちらが強ければ、話し合いはなんとかなる。
効果:対等以上の条件での交渉を優位に進めることができる。
派生スキル:整備見習い
とりあえず見てみる、直せるかどうかはその次の話。
効果:車両や施設の故障を修理できる。
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なんか出てきたな。
派生スキルというが、説明代わりのフレーバーテキストがついているのが微笑ましい。
それはともかく、交渉と修理にボーナスがありそうなスキルだな。
ちょうどいい。
ハッチを抜けるとそこは砂漠であった。
知ってたけどな。
護衛の一人に案内されて、けん引してきた61式の隣に誘導される。
何故かと疑問に思ったが、装甲が脱落してしまったらしい砲塔側面から内部をのぞき込んで納得した。
「こんな格好で済まないな」
アリアと呼ばれた女性は、破損した61式戦車の車内で苦笑していた。
周辺警戒を行っている護衛たちとは別のタイプらしい細身の防護服を着た彼女は、内側に折れ曲がった装甲で身動きを制限されている。
どうやら本来の装甲とは別に外側に別の装甲板が付いていたらしく、それのおかげで挟まれる程度で済んでいるようだ。
「あー、これは随分と派手にやられましたね。
挨拶もいいですが、とりあえずこれを何とかしましょうか」
工具箱からバーナーと不燃シートを取り出す。
車体自体は例によってナノボット中型修理剤で直せるだろうが、内部に人間がいる状態で使うのは怖い。
その前に、彼女を救出する必要があるだろう。
「助けてくれるのはありがたいが、その、そんなので大丈夫なのか?」
不安になる気持ちはわかる。
俺が手に持っている妙にゴテゴテしたバーナーは大きい。
だが、装甲板の溶断をしようというのであれば、もっと大げさな装備が必要だと言いたいのだろう。
「断面を見た感じ、大丈夫だと思いますよ。
ああ、隙間に不燃シート押し込んでおいてくださいね」
点火すると、妙に甲高い音を立てて細長い炎が噴き出す。
大丈夫だろうな、これ。
一時間経っても何も起こらない、というのも困るが、勢い余って足も切断しちゃいましたとかなったら殺されてしまうぞ。
「よし、押し込んだ、やってくれ」
合図を待って溶断を開始する。
車両整備に関するスキルを取っておいてよかった。
恐らくは俺の脳と怪しげな何かが連動しているのだろうが、AR表示で溶断に必要な様々な情報が表示され、さらにどうすべきかが明確に理解できている。
「作業しながらですいません、この先に住んでいる者です。
自分で言っていて怪しいと思うのですが、名前を思い出せません。
お前とか、アンタとか、まあ好きに読んでください」
おお、頑丈なはずの装甲板が驚くほど簡単に切れていくな。
さすがは未来のバーナーだ。
「このあたりに人が住める場所はないという認識だったのだが、どうやら最近は違うようだな。
とにかく、助力に感謝する。
サクラに戻ったらできるだけの礼をさせてくれ」
相手が礼儀正しい大人で助かった。
ここでこちらの正体についてアレコレ言われたりされたのでは困る。
「それは助かります。
それで、もしご存知だったらでいいのですが、サラという女性に知り合いはいませんか?
赤い防護服の方なのですが、ええと、お知り合いのようですね?」
試しに聞いてみたが、敵味方はさておき知り合いだったようだな。
アリアという女性も含め、全員が緊張したことがわかる。
雰囲気から察するに、少なくとも不倶戴天の敵ではないようだが、どういった関係なのだろうか。
「サラの居場所を知っているんだな?教えてくれ」
力強い声は、戦車の中から聞こえてきた。
どうやら、彼女が目標の人物で間違いないようだな。
西暦4547年8月22日20:50 イーストエリア シェルター内部 隔離室
「アリア、まさかこんなに早く来てくれるなんて」
ドアを開ける前に事情は説明しておいたのだが、それでもサラさんは驚いている様子だった。
一週間はかかるだろうと判断したのは旅慣れている様子の彼女だったので、その驚きも理解できる。
ちらりと部屋の中を見ると、壁に何かでつけたらしい一筋の傷が見える。
自分の生存日数が後からわかるように、あるいは自分が何日生き残れているのかを理解できるように、傷をつけたのだろう。
それが初日で終わってしまったのは大変に申し訳ないが、まあ、本人としてもうれしい誤算で済ませてくれるはずだ。
「サラ、無事で良かったが、一体何があったんだ?」
それは俺も気になっていた。
この砂漠はどう考えても徒歩で進むには広すぎる。
そんな中、彼女は一人で、しかも拳銃一つで行動していたのだ。
「小遣い稼ぎに北部との往復キャラバンの護衛をやっていたのよ。
行きは良かったんだけど、帰りに襲われてね。
車両は全損、私以外の護衛も全滅。
なんとか逃げ出せたけど、積荷も野ざらしのまま。
こうして会えたけど、多分、私はもうお終いね」
説明が進むにつれて、彼女の表情が暗く沈んでいく。
相当に高価な荷物を運搬しており、さらに引き渡しまでの間の責任も負っていたのだろう。
せっかくできた知り合いなのでなんとかしてやりたいが、状況がまだ良くわからないので動きようがない。
「積荷は何だったんですか?」
思わず口を挟んでしまう。
口ぶりからして高価な物なのだろうから、物品である可能性は高い。
オーガナイザーで生産可能なものであれば補填を肩代わりできるかもしれない。
「フロートキャリーに満載されたナノボット修理剤よ。
開けて数えたわけではないけど、多分100個以上は入っていると思うわ」
その答えに、アリアさんが息を呑む。
産業がその概念ごと崩壊しているであろうこの世界で、それは高価や貴重という概念を通り越し、遺物の扱いなのだろう。
だが、俺はそれを用意することができる。
「それは小型タイプですか?」
続いた俺の質問に不思議そうな表情を浮かべられてしまう。
「ああ、ええと、ちょっと待ってくれ」
アリアさんの表情の変化が凄い。
こちらの発言の意味が理解できない、という不思議さが伝わってきたそれが、一瞬呆れへと変わりかけ、直後に何かに気がついたかのように目を見開く。
そして何か重大なことを考え込んでいるような、だが口元に笑みが浮かんでいるという複雑な表情へと変わる。
「もしかしてなのだが、キミはナノボット修理剤に種類があると言いたいのか?」
なるほど、小型タイプ以外は少なくとも流通はしていないのだな。
中型であれば復元できる戦闘車両の残骸が野ざらしになっているのだから、逆にそうでなくてはおかしいのか。
「大型があるのかは知りませんが、小型と中型があることは確認していますよ。
実際に持っていますし」
瞬間的に腕を掴まれる。
いつの間に接近されていたのか、全く気が付かなかった。
不用意に口を挟んだことを後悔するが、今更だな。
「えーと、アリアさん?」
気を抜きすぎていたのだろうか。
信じられない力で俺の腕を掴む女性。
情けないと言うべきか、全く振り解ける気がしない。
「ナノボット修理剤に種類が、ある?
…どれだけの種類があるんだ!教えてくれ!」
心臓に悪いから絶叫はやめてほしいな。
ほら、護衛の人たちも驚いて駆け込んできたじゃないか。
「お嬢様!?大丈夫ですか!」「お前!離れろ!」
あーはいはい、抵抗しませんよ。
腕を掴まれたまま背後から押し倒されたので、肩の関節が外れそうだ。
咄嗟に離してくれたので無事だったが、あの力で掴まれたままだったらどうなっていたことやら。
「お、おいお前たち、離してやってくれ。
今のは彼が珍しい物を持っていると言ったから、それについて教えてもらいたかっただけなんだ」
援護してくれるのは助かるが、そんな理由で信じてくれるはずがないだろうに。
「申し訳ありません!お怪我はありませんか?」
開放してくれるんですね。
驚いたことに、護衛の人たちは慌てて俺を助け起こすと謝罪までしてくれた。
恐らくだが、このような事態は珍しくは無いのだろう。
「アリアお嬢様、前から言っておりますが、知識欲に負けて他の人に飛びついたり大声を出すのはやめてください。
我々は、確かに、お嬢様が自由に行動できる前提で、最大限に安全を確保するという仕事ですが、好き勝手をされたのでは困ります」
護衛隊長さんの押し殺した声が素敵だ。
勤め人として上司にできる最大限の怒りの表明をしている。
「あ、ああ、すまなかった。今度こそ気をつける。
それでキミ、ナノボット修理剤の中型があるということは、まさかここや表の戦車も、その中型とやらで?」
いくら部下とはいえ、明らかに怒っている相手をよく無視できるものだ。
それはさておき、アリアさんは話が早い部類の人らしい。
サラさんが交渉相手に勧めるだけある。
「この拠点はまた別なのですが、戦車はそうですよ」
会話ができたのはここまでだった。
次の瞬間、俺は床へと押し倒されており、腰の上には興奮した様子のアリアさんが跨っていたからだ。
止めてくれるはずの護衛たちは、唖然とした表情でこちらを眺めている。
誰か、助けてくれないかな。
「ああ、ウフフ、私は今日ほど生まれてきた事を感謝している日はないだろうな。
さあ、教えてくれ。
戦車を直せる中型ナノボット修理剤はどこで手に入った?いや、まずこの基地だ。
こんな立派な、明らかに新品の建材はどこで手に入る?
たしか、医療用ナノマシンも持っているんだったな?どうだ?私と結婚してサクラの街の指導者にならないか?
自分で言うのもなんだが私は尽くす女だし、身体も男を悦ばせられるような造りを維持している。
ああもちろん、キミ好みの女を囲いたいというのなら、黙っていくらでも認めるぞ?
限度はあるが、望むなら町中の好きな女を何とかして用意する」
なるほど、彼女は人類の復興と、そのために過去の技術を研究することに人生を捧げているタイプの人間か。
比率としては、前者が7割、後者が3割くらいかな?
人類存続のためならば、独裁者を許容するという考えがそう感じさせる。
「もっとお互いをよく知ってから結婚についてはお話したいです。
それはそれとして、中型ナノボット修理剤であれば、手持ちがあります。
あなたの戦車を使って、その効果を見てみますか?」
作れるという話は、まだしないほうがいいだろう。
向こうがこちらをどうしたいのかがわからない中では下策かもしれないが、取り込むには良い機会のはずだ。
「なるほど!素晴らしい!!今すぐやるぞ!!!」
不正解ではなかったと信じたいが、カードを切りすぎたかもしれない。
先ほどまでは膝で腕を押さえつけられる状況だったのに、一瞬で起立させられた現状を確認して、俺はそう思った。
西暦4547年8月23日10:30 イーストエリア サクラの街付近 16式機動戦闘車(3048)再就役型後期改二乙式 車内
「結論から言うけれど、キミは私と結婚してもらう。
申し訳ないけれど、これは決定事項として受け入れて欲しい」
護衛とサラさんを61式にタンクデサントさせると、その一人に操縦を任せた彼女は俺の隣でそう言った。
街への移動中に話したいことがたくさんある。
乗り込む時にはそう言っていたが、実際に移動を始めると、確かに話すことはたくさんだった。
「さっきも言ったが、サクラの街は、街を名乗れるだけの人口はあるが、限界でもあった。
空気清浄機も、浄水器も、廃棄物処理設備も、プラントも、全部が許容量の限界だったからな」
個人用の設備をただ並べて稼働させ、人力で管理することで何とか出来ていた。
探索者たちが決死の覚悟で資源回収を繰り返す中、餓死者が定期的に発生し、口減らしもルーチンワークと化し、何より力及ばずに死ぬ人々がいる。
それが当たり前の街にとって、俺の持つ装備は圧倒的すぎる。
気密が破れたエリアはナノボット修理剤で何とかなる。
水や空気はプラントで作った設備を増設すればそれで済む。
最大の問題であった食料についても、バイオ菜園と、同じくバイオ食肉プラントで解決できる。
生存のために必要不可欠な武器についても、サクラの街にはそもそもオーガナイザーがあったので、今まではその生産量をごく一部しか割り当てられなかったが今後はこれも解決だ。
なるほど、確かに彼女ほどの人物であれば、喜んで自分の身を投げ出すはずだ。
「だが、今後は私も勿論口に出すが、キミは自分を高く売り込むことを覚えた方がいい」
その言葉に思わず息を飲む。
それは、生前と言っていいかはわからないが、過去にも上司たちによく言われた言葉だからだ。
いいか?失礼と意見を言うのは全く違う。
お客様が相手だとはいえ、こちらの意見を表明するべき時には言うべきだ。
丸呑みで帰ってくるのは、御用聞き以下だぞ。
結局のところ、数日とはいえ極限状態に置かれても、人間性の根本は変われないんだな。
思わず自嘲的な笑みが浮かんでしまうが、同乗者には違う意味で受け入れられたらしい。
「もちろん貴方はわかっていてくれていると思うけど、思うが、念のために言っておく。
貴方の持つすべてが、サクラの街の全員を救う。
もっと言えば、あそこを拠点に、生き残れているイーストエリアの全てを救える」
そこで彼女は言葉を切り、こちらの目を見る。
防護服越しではあるが、綺麗な青だ。
「貴方が提供してくれる物は、街一つを救って終わってしまうような小さなものではない。
イーストエリアで限界になるような少ないものでもない。
どこまでできるかわからないような、偉大な物だ」
咄嗟に言葉が出ない。
俺の与えられた任務は、人類復興ではないが、地球環境の浄化である。
この汚染されつくした世界で浄化と言えば、汚染される前に戻すことだろう。
それは要するに人類復興に直結する。
「あの中型プラント。
ウチのものを修復して拡張できれば、同じことができるはず。
それだけでも、今後10年は安泰だ。
汚染物質を資源として回収し、それで居住空間を広げる。
20年後は、30年後は、何ができる?考えただけでも…ふう、たまらんな」
視界の端で、彼女はブルリと震えた。
確かに、武者震いするのも無理はない。
人手が増えれば、それだけ作業を大きく、広く展開できる。
それで人手をさらに集められるのであれば、もっとだ。
その果てに見える光景は、なるほど確かに興奮するに値する。