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第五話 敵襲


 『Objective00020:生き残れ』


 記念すべき20個目の目標は、なんとも不穏な響きのものだった。

 生き残れ。

 まあ、それはもちろん二度も死にたくはない。

 だが、わざわざObjectiveとしてそれを出してくるかと考えれば、そんなはずはない。

 つまりこれは今までの例から見て、極めて短期的で、具体的な目標のはずだ。


 そこまで考えて、俺はまず防護服の気密を確認した。

 今は安全なシェルター内ではあるが、油断は禁物である。

 もはや慣れてきた原理が不明の表示を信じれば、防護服は適切に装備されている。

 フィルターが限界になるまでもあと数時間は残っていた。


「部屋の気密では無い?病気とは思えないし、つまり」


 足元に置いてあるサブマシンガンを見る。

 周囲には、銃弾が散らばっている。

 病気という線は考えにくい、今すぐ部屋の気密が失われても大丈夫。

 では、次に俺の生命を脅かしそうなものはなんだろうか。

 

「おいおい、冗談じゃないぞ」


 一瞬だけ考え、足元の銃を取る。

 震える手でマガジンへと銃弾を込めていくが、幸いな事にスキルのおかげか全く滞りなく完了できた。

 程なく弾込めは終わり、初弾を装填して銃を構える。

 

「室内に異常なし、聞こえる限りは異音も無し、クリア」


 室内は空調装置の立てる静かで規則正しい音しか聞こえない。

 身を隠すことが出来るような家具もないので、この部屋の中は安全なはずだ。

 

「まさか、作業場か?」


 あの気味の悪い植物がついに悪夢の触手モンスターに進化してしまったのだろうか。

 もしそうなのであれば、必要なのは銃ではなく火炎放射器だが。


「作業場内、クリア」


 恐る恐る作業場へと入るが、ここもまた異常はなかった。

 問題の植物は菜園から飛び出しそうなほど成長していたが、装置自体に設けられていた収穫装置によって無理やり毟り取られ、加工用のボックスへと放り込まれている。

 うん、あれが本当に食べられるかどうかは空腹の限界までは試したくないな。

 ひとまず今は、安全確認だ。

 この部屋の中も空気は呼吸可能。

 つまり気密は破られていない。

 装置などが置かれてはいるが、隠れるほどのスペースもない。

 そうなると、非常に気が進まないが外に何かあるのだろう。

 ああ、こんなことならばオーガナイザーも室内に入れておけばよかった。



「右よし」


 搬入口を開き、ゆっくりと周囲を見る。

 動くものは見えない。


「左よし」


 こちらも動くものは見えない。

 ひとまず入口付近は安全なようだ。

 できれば外部視察用の窓を付けたかったのだが、残念なことに建材の中に窓は無かった。

 まあ、危険地帯に設置する緊急用のシェルターだからだろう。


「オーガナイザーも、異常なし」


 出てすぐに置いてあっただけあり、異常の有無は直ぐに確認できた。

 修理できるので破壊される程度ならば何とかできるが、盗難されれば詰みだというのに、よくもまあ、当時の俺は外に置いておこうと考えたものだ。

 周囲の安全を確保でき次第、面倒だがオーガナイザー専用の部屋を搬入口の先に作ろう。

 つまり、外から見た場合、生産部屋の搬入口→生産部屋→作業部屋の搬入口→作業部屋→通路→住居となる。

 自分一人しかいないことを考えると部屋数を増やしたくないが、部屋の数を増やせば、気密が破れても直ぐに全室が危険になることはない。


「それはそれとして」


 周囲に注意を向ける。

 今までのチュートリアルのような流れからして暴走戦車や訳の分からない巨大生物は出てこないだろうが、だからといって油断して良いわけではない。

 スキルが有るとはいえ、俺は実銃を撃ったことがないし、人どころか動物を殺したこともない。

 できれば最初は、人間以外が相手だと助かったんだがなあ。


「えーと、日本語はわかりますか?動かないでください」


 視界の先には前任者がいる。

 システム的な感じで死亡を確認していたんだが、生き返ったのか、あるいはゾンビ的な何かになったのか、防護服のせいでわからない。

 一つだけ言えるのは、こちらの言うことを聞く気はなさそうだということだ。


「一歩でも動いたら撃ちます!脅しじゃないですよ!」


 銃には既に弾丸が装填されている。

 安全装置も解除してあるし、あとは引き金を引くだけだ。


「動くなといったぞ!本当に撃つぞ!」


 この距離ならば絶対に外さない。

 スキルのおかげなのか、頭部に必中させられる自信がある。

 銃のコンディションは最高だし、銃弾の状態も製造されたばかりに近い状態だ。

 引き金を引けば確実に動作してくれるはずだ。

 

「最後の警告だぞ!撃つぞ!本当に撃つからな!」


 相手までの距離も精々50m弱、外す心配なんて無い。

 ああそうだ、これが終わったら銃弾をたくさん作っておかなければ。

 いくら警告しても相手は止まってくれない、俺の本気を疑っているのか、あるいは聞こえていないのか、言葉が理解できるような状態ではないのか。

 畜生、もう現実逃避する時間がない。

 嫌だな。


「警告したからな!」


 覚悟を決めて、引き金を引く。

 スキルのおかげなのだろう、反動は驚くほど弱かった。

 銃声が鳴り響き、目の前の防護服の頭部に弾丸が次々と命中する。

 バイザーをあっさりと貫通しているのが見えた。


「警告したじゃないか、なんで、なんで止まんないんだよ」


 頭部に数発、胴体にも二発は当たった。

 今すぐ大病院に運び込んでも助からないだろう。

 つまり、俺は、人生初めての殺人を犯した。

 言い訳はもちろんあるさ。

 ここは日本の法律が支配する場所ではない。

 相手は警告に従わなかった。

 でも、だからってこんなのは駄目だろう。

 正体不明のモンスターならまだしも、相手は同じ日本人だったんだぞ。


「畜生、なんでこんなことしないといけないん、だ?」


 俺が撃ったのは空砲ではなかったはずだ。

 その証拠に、相手のバイザーには穴が空いている。

 そもそも、相手は吹っ飛んで後ろに倒れたのだ。

 50m近い距離があって、空砲でそうなるはずがない。

 普通の人間ならば、45口径を数発も頭に喰らって生きていられるわけがない。

 多少銃に関する知識は持っていたが、実体験を伴わない俺でも理解できる。

 目の前の相手は、絶対に死んだはずだ。


「なんだよ、なんなんだよ!動くなよ!!」


 とにかくダメだ、なんだかわからんがこいつは危険だ。

 引き金を振り絞り、ひたすらに銃弾を叩き込む。

 頭部に命中弾数発、防護服の頭部部分が中身ごと吹き飛ぶが相手は止まらない。

 もう首から上がなくなっているのに、なんで止まらないんだ!


「死ね!止まれ!もう動かないでくれよ!」


 さらに上半身にも数発、倒れこんだがまだ手足が止まらない。

 45口径なんだぞ、当たっているんだぞ。


「死ね!死ね!死んでくれよ!!」


 腹部にも数発、接近して下半身にも銃弾を撃ち込む。

 そこにこの異常を起こす何かがあったのか、相手はそれでようやく止まってくれた。

 少しだけ待つが、動く様子はない。

 近くに落ちていた瓦礫を拾って投げつけるが、反応はない。


「なんなんだよ、どうなってるんだよ!」


 いつもどおり出勤したら死んで、異世界に召喚と思ったら滅んだ未来で、今度はゾンビものか?

 一体俺が何をしたっていうんだ!普通に生きていただけじゃないか!


 『Objective Complete:報酬を獲得』


 何かの表示があった。

 ああそうか、戦って、生き残ったんだもんな。

 報酬だよな。

 前回見落としていた気がしたが、これにも報酬がちゃんとあったんだな。

 あのデータチップか、目の前に落ちてくれるのは探しやすいからありがたいな。

 表示によると、ADTV8とやらが作れるようになるのか、なんだそれ、何の略だ。

 とにかく直ぐにオーガナイザーに入れて、ああそうだ、オーガナイザーを入れる部屋を作らないと。

 もう暗いから、明日でいいや、寝よう。




西暦4547年二日目 イーストエリア シェルター作業場搬入口前


 異世界、いや、未来での記念すべき二日目は、目覚めるなり吐いた。

 昨日のことは思い出したくないが、一生忘れられそうにもない。

 とりあえず、寝る前に防護服を脱いでおいたのは正解だった。

 防護服のフィルターが限界になり、呼吸用の空気が止まっている。

 どうやらこれの警報音で目が覚めたようだ。


「ああ、クソ、人殺しも腹がへるんだな」


 作業場に設けた便器までよく吐かずに我慢できたと自分を褒めてやりたい。

 どれだけそうしていたかはわからないが、とにかく吐くだけ吐いた後には空腹感が待っていた。

 考えてみたら、結局昨日は何も食べられてないんだよな。

 それにしても、人を殺してまだ一日も経っていないのに、よく物を食べたいと思えたもんだ。


「あとで墓、作らないとな」


 そんな事を考えつつ、報酬で得た非常食を食べる。

 うん、とても不味い。

 バイオ菜園の食物もそうだが、なぜ食べ物をわざわざ不味くするのだろうか。

 ああそうだ、この非常食は三食分しかないんだ。

 つまり、今が何時かわからないが、明日の朝食からはあの植物を胃に入れないといけないんだな。


「とにかく仕事だ、今日も忙しいな」


 食事を手早く済ませ、防護服のフィルターを交換する。

 銃に再び弾薬を込め、口を濯ぎ、防護服を着込む。

 思わず声にも出したが、今日も忙しい。

 何しろ墓を掘らなければならない。

 それに、作業場と同じサイズの生産部屋も作らないといけない。

 おまけに、恐らくだが昨日と同じようにあれやこれやとObjectiveが提示されるはずだ。

 憂鬱な気分を満喫するのは夜になってからにしよう。



 スコップで穴を掘る。

 ステータスで体力を増やしていたので、幸いな事にそれほど苦労はしない。

 死体は、昨日と同じ場所で倒れていた。

 見た感じ、一切動いた様子はない。

 触るのが怖かったが、足を掴んで引きずり、穴の中へと苦労して収める。

 土で見えなくなるその瞬間まで動き出さないか心配だったが、それは杞憂だった。


「念仏とかよくわからないけど、安らかに眠ってください」


 手を合わせ、冥福を祈る。

 さあ、作業再開だ。

 まず最初にとりかかるべきなのは、オーガナイザーを収める生産部屋だ。

 

 『Objective00021:より強力な武器を見つけて修理しろ

  報酬:5.56mm弾30発、データチップ@探索者向け基本装備』


 作業再開を決意したところで、俺の意思を確認したかのようにObjectiveが表示される。

 20個という中途半端な数で終わるはずがないとは思っていたが、こうして目の前に出てきてくれると安心できる。

 自分を卑下するつもりは無いが、それでも俺は、自分が世界を救える程度に判断力や応用力に優れているとは思っていない。

 全部が全部ではないにしろ、ある程度は教え導いてもらえなければ困る。


 そのことはいいとして、より強力な武器と来て、報酬が5.56mm弾関連ということは、自動小銃か軽機関銃を探せば良いのか。

 レーザー砲を発見してその報酬が実体弾であればただの嫌がらせだから、探して見つけられる範囲に何か落ちているというわけだな。

 このシステム、システムと呼んで良いのかわからないが、とにかく俺の行動を助けてくれているこれは、簡素で欠片も愛想がないが、少なくとも友好的だ。

 達成可能な目標、要求がステップアップしていく程度、容易と言うと失礼だが不可能では決して無い難易度設定。

 全てがまるで俺のために調整されているかのようである。

 そうなるとやはり気になるのが、前任者はどうしてあんな手ぶらな状況で死んでいたのだろうかということだ。

 

「難しい話は夜考えよう。

 それで、銃はどこだ?」


 片手に持ったM3A1の安全装置が確実にかけられている事を確認する。

 咄嗟に撃てないかもしれないが、こうしておけば少なくとも転んだ時に自分の頭を撃ち抜く恐れはない。

 何事もまず安全第一。

 効率を考えるのは適切な運用方法を熟知してからだ。

 いかんな、独り言が明らかに異常な頻度になってきている気がする。



西暦4547年8月21日11:30 イーストエリア シェルター付近


 銃を探しながら防護服の機能を確認していると、色々と発見があった。

 まず、第一にカレンダー機能と時計だ。

 昨日はフィルターの残り時間で作業にかかった時間を算出していたが、これで少なくとも今何時かが分かる。

 別にそれ自体で何かが出来るわけではないが、時間がわかれば一日の行動計画が立てやすい。

 営業日も休日もない現状で曜日は意味を成さないが、月や日付がわかれば長期的な目標の設定もできる。

 何よりも、毎日が年月日不明で太陽の動きだけで月日の流れを感じるというのは精神衛生上よろしくないだろう。

 ありがたいことに、アラームやリマインダ機能もついていた。

 未来の防護服は便利だな。


「こいつだな」


 機能を確認しながら、武器を発見した。

 オーガナイザーを探している時に武器や機械の残骸が散乱している場所があった事を思い出したので、思ったより時間はかからなかった。

 見つけたのは、複数の破損した89式小銃とマガジンが10個ほど収められた肩掛け式の鞄だ。

 鞄の方は見たことのないビニールのような素材で作られており、不思議な事に全く汚れていない。

 恐らくだが、防護服と同じ素材なのではないかと思うが、室内に安心して持ち込めそうなのでそれでいい。


「自動小銃と弾倉のセット、肩掛けカバンも一緒とはありがたい」


 各小銃にはありがたいことにスリングベルトも付けられている。

 これで片手に小銃、もう片手にサブマシンガンという狂った格好はしないで済みそうだ。

 どうせ修理するまでは使えないし、往復するとして、とりあえず背負えるだけ背負っておこう。

 

「昼食は13時になったらするとして、もう少し探しておくか」


 いつまでもこの付近が安全とは限らない。

 せっかく便利そうなものが色々と落ちているし、持てるだけ回収しておくべきだろう。


 それから一時間半、早速使用したアラーム機能が作業終了を告げた。

 全く嬉しいことに、熱中するどころか、我を忘れて何度もシェルターと往復するほどの収穫だ。

 ホルスター付きの9mm拳銃ことP220、映画でお馴染みMP5の改良型A4、破損が著しいがM240Gに、使用済みだがAT4まであった。

 それも複数だ。

 明日から武器屋が開けるな。

 問題は、いずれも弾薬を生産できないことだが、まあ、それはいずれなんとかなるだろう。

 それにしても、綺麗に使用弾薬が違うものだけ入手出来たな。

 今生産できるのは.45ACPのみ。

 9mm拳銃すら柔らかい金槌以上の価値はない。

 ああ、AT4だけは使い捨てのはずなのにナノボット修理剤で再利用可能になるか。

 

「しかし、随分と遠くまで来たな」


 発見した機能その二であるマップ機能を呼び出す。

 初級探索術のスキルの機能があるからか大体の自分の位置は理解できているのだが、やはり現在位置の分かる地図があるとありがたい。

 特に今のように大量の荷物を抱えている場合には最短ルートを進みたい。

 もう何往復もしているので大体の場所や道は理解できているが、この後は待ちに待った昼食タイムだ。

 確実な最短ルートで帰ろう。



西暦4547年8月21日16:00 イーストエリア シェルター生産部屋


「うん、不味い」


 楽しい昼食が終わった今、最悪な食後の時間を楽しんでいる。

 朝は体調のせいもあるかと思っていたが、意識もはっきりし、空腹を冷静に感じている状態で改めて思った。

 夕食だけは、何か別のものを食べたい。

 まあ、それは後で考えるとして、そろそろ拾った小銃を修理しよう。

 ほぼ間違いなく、修理完了と同時に次は戦闘になるはずだ。

 そう考えて、回収した武器を収める倉庫と共に生産部屋を一気に作っておいた。

 できれば外気に触れてもいいので銃眼などを付けた防壁を外周に巡らせたいが、今生産可能な建材ではそういった便利なものは作れない。

 いや、待てよ。

 胸の高さまで外壁を組み立てて、外に防弾板を貼り付けて追加でヘスコ防壁的な箱を置けばそれは塹壕と呼べるのではないか?

 言えるはずだ。

 当然攻撃が集中するのだから、部屋の外に通路を張り巡らせて、そこも外側を強化すればいい。

 いかんな、足りない部分を創意工夫と運用で補うのは得意だったはずなのに。

 思い立ったが吉日というし、幸いな事にまだ日は登っている。

 今のうちにやってしまおう。

 

「よし、落ち着け、まずは修理だ」


 早速作業を開始しようとしたところで冷静になる。

 前回、サブマシンガンを修理したところで戦闘となった。

 そう考えると呑気に作業をするのは褒められた行動ではないはずだ。

 ましてや、今回はより強力な武器を探させられたのだ。

 そう考えると、拳銃弾では辛い相手が迫ってきているとも考えられる。

 5.56mm弾と一緒に作成可能になった探索者向け基本装備とやらも気になる。

 備えて、対策を考えて、それから行動すべきだ。

 そこまで考えると、俺はサブマシンガンの装填を確認し、手押し車にシャベルを入れて外へと出た。

 周囲を窺ってみるが、幸いな事に動くものは見当たらない。

 さて、シャベルもあることだし、材料となる砂をかき集めて生産に移ろう。



「これで、四往復目、だ。もう、良い、だろう?」


 防護服は俺を周囲の危険な気体から守ってくれるが、熱気を十分に発散させることはできないらしい。

 先程から汗が止まらない。

 これで終わりにして、とりあえず小銃を修理したい。

 中型にアップグレードしたオーガナイザーには原材料となる物質を保管する機能が追加されていた。

 おかげで今のように頑張って貯めこんでおけば、小さなものを作るのであれば暫くの間は持つ。

 まず間違いなく戦闘が予想されるので、それはとても頼もしい事だ。


「小銃を修理して、とりあえず置いておくか」


 ナノボット修理剤を流し込み、修復が始まった小銃を壁に立てかける。

 呼吸を整え、サブマシンガンの安全装置を解除。


 『Objective Complete:報酬を獲得』

 『Level UP! 6→7』


 おおっと、ここでレベルアップか。

 嬉しいんだが今は時間がない。


-----------------------------------------

 レベル6 → 7

 職業 :無職

 体力 :13 → 13

 知力 :10 → 13

 器用 :13 → 13

 速度 :10 → 13

 魅力 : 8  → 12

 運  :10 → 10

 スキル:初級探索術、初級射撃術、初級知識、初級生産術、初級鑑定術、初級敵気配察知

-----------------------------------------


 じっくりと考えたかったが時間がない。

 とにかく平均的に振っておいて、スキルの方は気配察知を取っておこう。

 探索術と合わせて、不意を打たれる可能性が減ることは悪いことではないはずだ。

 よしきた。

 さあ、どっからでもかかってこい。


 『Objective00022:個人携行型投光機を作れ

  報酬:汎用バッテリー3個』


 始まったぞ。

 直ぐに携行型投光機とやらを作って、なんだ?投光機を作れ?

 これは予想外だ。

 光源がないだだっ広い平野でライトをつけるというのは自殺行為である気がしないでもないが、確かに暗闇の中で活動することは難しい。

 夜間に動きまわる予定はないが、いざそうなってから困っても手遅れだからな。

 安全装置をかけなおし、傍らに落ちていた報酬のデータチップを取る。

 ああ、その前に散らばってしまった5.56mm弾も後で片付けておかなければ。

 

「28、29、これで30発と」


 派手に散らばってしまったわけではないが、それでも30発の弾丸を拾うのは面倒だ。

 どうせなら弾薬箱ごと出現してくれると面倒が少ないんだが、この機械的なシステムにそれを求めてもしょうがない。

 せっかくなので、そのまま弾込めをしておく。

 こいつが30発仕様の弾倉を付けていて助かったが、おそらくそれで報酬も30発だったのだろう。

 サブマシンガンをスリングベルトで後ろに回し、小銃を構える。

 うん、いい感じに使い方がわかる。


「そうだ、投光機だったな」


 思わず口に出してしまうほどに自分に呆れた。

 ああしようこうしようと考えているのに、小銃を手に入れた喜びですっかり忘れて楽しんでしまっていた。

 オーガナイザーにデータチップを挿入し、生産画面で個人携行型投光機を選択。

 見れば防護服用水筒だの埋設物探査機だのと愉快な装備がたくさん作れるようになったようだ。

 今回の報酬は探索者向け基本装備だったが、基本でこうなるといずれは装軌式キャンピングカーが作れるようになりそうだな。

 妄想はさておき、投光機を装備する。

 いわゆるL字型ライトのようなものだが、柄の部分が平たくなっており、防護服の胸に取り付けることができそうだ。

 ここを目標に撃たれたら絶命確実で嫌だな。

 試しに点灯してみるが、小さなその外見からは考えられないほどに強烈な光である。

 なるほど、これは確かに投光機だ。


 『Objective Complete:報酬を獲得』


 金属が床にぶつかる音に視線を向けると、平べったいものが3つ、床に落ちている。

 なるほど、これが汎用バッテリーとやらか。

 まあ、電池切れになったら使おう。


 『Objective00023:防護服を補強しろ

  報酬:防護服緊急用パッチ』


 次の戦闘は本当に危険そうだな。

 おまけに夜間戦闘になりそうだ。

 先ほどざっくりと生産可能な一覧を見た時に発見した防弾プレートを生産する。

 これは防護服の各所に取り付けられるらしい。

 気密を確認してから防護服を脱ぎ、少しも手間取ることなく取り付けを完了した。

 どうやら、ステータスの器用さが明らかな効力を発揮しだしているようだな。


「装着確認よし、凄いな、まるでゲームじゃないか」


 防弾プレートというのは、当たり前だが重い。

 素材の違いや形状などの話は別にして、単なる鉄板だって持てば重いのだから、銃弾を止めるように設計されたそれが重くないはずがない。

 だが、これも恐らくステータスの恩恵で、全く重さを感じなかった。

 両腕の外側には縦のように少し厚めのプレートを仕込んでいるが、腕を振り回してみるとこの世界に来る前よりも軽快に動かせるような気がする。

 本当にゲームみたいだ。

 ゲームなのかもな。

 小説でよく読んだVRゲームが知らない間に実用化していて、知らない間に装着して今はゲーム中なのかもしれない。

 そうだったらどんなに気が楽か。


 『Objective Complete:報酬を獲得』


 まただ。

 どれだけこの過保護なチュートリアルを過ごすことが出来るのかはわからないが、このシステムは確実に俺を生かそうとしている。

 小銃、防弾プレートに緊急用パッチ。

 今が夕方ということを考えれば、投光機にも大きな意味があるだろう。

 あとどれくらい、何を作れば戦闘になるのかはわからないが、とにかく事が起こるまでObjectiveを達成し続けてみよう。

 全く気が進まないが、それでも頑張れば明日の朝日を拝むことはできるかもしれない。




西暦4547年8月21日19:28 イーストエリア 東K4番地区


 最悪だ。

 宿代稼ぎに参加したキャラバン護衛で、こんな目に合うなんて。


「止まれよぉ!殺してから犯しちゃうぞぉ!」


 背後からはクズどもの叫び声が聞こえる。

 私一人であればもっと早く動けるのに、フロートキャリーが遅いせいでこれ以上早く逃げられない。

 せめてライフルでもあればなんとかできるのに、あるのはちっぽけな拳銃だけ。

 このまま真っすぐ南下して、東第七号危険地帯が見えたら海沿いに東へ行けば街があるけど、どう考えてもフィルターが持たない。

 いつも使ってる小銃は弾があたって壊れるし、他の護衛たちは冗談みたいに瞬殺されるし、今日はどうかしてる。


「オレとイイ事しようぜぇ!」


 黙らせたい、あの気持ち悪いクソッタレの頭に銃弾を撃ち込みたい。

 仲間たちがいれば、それが無理でもライフルがあれば何とかなるのに!


「ほーら!撃っちゃうぞ!」


 背後からの声と同時にフロートキャリーから嫌な音がする。

 あのクズは信じられないことにこの距離で当ててきた!


<<エラー、駆動系が故障しました>>


 絶望的な報告が入ってくる。

 キャラバン護衛は荷物を守りきれなければ、仮に生きて帰っても罰が待っている。

 特に今回は高価なナノボット修理剤を運んでるから、もういっその事ここで死んだほうがマシだ。

 私は停止したフロートキャリーを盾にすると、銃を構える。


「かかってきなさいよクソ野郎!その空っぽの頭の風通しを良くしてあげるわよ!」


 相手は多分自動小銃、こっちは残弾わずかの拳銃だけ。

 どう考えても長生きはできそうにもないけど、もう随分と前から夜になってしまった。

 たった一人でここまでやってきたあのバカを殺せても殺せなくても、日が昇る前に私は死ぬかそれよりひどい状態になってるはず。

 最後の一発だけは、できれば自分に使いたいわね。


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