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第6話

 姉妹で狩りに来たが、夜遅くなってしまったので一晩止めてほしい。

 そんなてきとーな嘘を信じ、小屋の主である若い女はあたしとフレディを小屋に入れた。


 ……親切にしてもらって悪いが、よくこんないいかげんな嘘を信じたな、と思った。

 どう考えても嘘だろう、これ。


 まず、姉妹という嘘だ。当たり前だが、あたしとフレディはまったく似てない。髪の色すら違う。

 2つ目は狩りに来たという嘘だ。手ぶらで何を狩ると思ったんだろうか。


 フレディがこの嘘をついたとき、あたしはフレディの頭に乗っかっていた手をそのまま口に持っていき、黙らせた。

 嘘が下手なのは神様という綺麗な立場の存在だからなのか、それともただ単に下手なだけなのか。いずれにしろ、うまい嘘がつけないなら黙っててほしい。


 小屋の主はさぞ訝しげな視線をあたし達に向けていることだろうと思ったが……。


「まあ、そうでしたか。こんなところでよろしければ、さあどうぞ」


 と言って、あたし達を暖かく小屋に向かい入れた。


 ……そんな馬鹿な。



 ……



 小屋には暖炉があった。

 中では木がパチパチと燃えている。

 それをぼーっと眺めながら、あたしとフレディは暖炉の近くにあるイスにそれぞれ座っていた。


 小屋の主は水を汲んでくると出て行ったっきり、1時間ほど戻ってこない。


「どこまでいったんでしょうね?」


 フレディがこちらを向き、心配そうに言う。

 そんなことをあたしに聞かれても「知らん」としか言いようがない。


「外は暗いので心配ですね」


 返答は求めていないのか、あたしがなにも言わなくても、フレディは勝手にしゃべり続けている。


 心配はしていない。

 森での生活には慣れているんだろうから……ではなく、単純に赤の他人だからだ。

 冷たいと思われるかも知れないが、あたしは赤の他人を心配してやるほど、やさしくはない。

 今はそんなことより心配なことがある。


「なあ、一旦、帰してくれないか? 学校があるんだよ」


 こっちに来てから5~6時間ほどたった思う。

 そろそろ起きて、学校に行かなければいけない時間になる。


「あっ、そうですね。いつごろ戻ってこれますか?」


 まだ途中なので、あたしが帰ることに納得せずに渋るかとも思ったが、案外、簡単に帰れそうだ。


「学校終わって帰ってきたら昼寝するよ。小屋の女には落し物を探しに出て行ったとでも言っといてくれ」


 フレディは「わかりました」と言って、コクリと頷いた。

 それと同時にあたしの意識が少しづつ遠くなる……。



 ……



 目を開けると、見慣れた天井が見えた。

 どうも変な感覚だ。さっきまで起きて活動してた感覚があるのに、寝起きという感覚もある。

 そのせいか、なんとなく寝た気がしない。

 

 枕元にあるスマホで時間を確認すると、朝の6時すぎくらいだった。

 まだ時間があるな。……もう一眠りするか。

 

 スマホを枕元に置き、あたしはふたたび目を閉じた。



 ……



「おっはよー。ニットリン!」


 通学路を歩いていると、いきなりバシッっと背中を叩かれる。


 この、朝から無駄に元気な声は――麻美だ。


「ああ、おはよう」


 それに対してあたしは普通にあいさつ。

 朝は弱い。


「元気ないなー。あっ! それよりも昨日のあれ見た?」


 あれじゃわかんねーよ。

 テレビ番組かなにかか?


「あー……テレビはあんまり観ねーんだ」

「そっかぁ……。おもしろかったのになー。キングコング対自由の女神」


 なにそのバカが好きそうなタイトル。

 映画? だとしたらB級なんてもんじゃねーだろ。


「すごかったよー。自由の女神がキングコングにボディブロウを入れてねー……」


 その後、学校に着くまでそのクソ映画の話を聞かされた。



 ……



 昼休み。


 弁当を食い終わったあたしはだらだらとスマホをいじっていた。


「ふぁ……眠み……」


 腹が満たされたせいか、眠くなってきた。


 前の席の麻美は昼飯を食い終わった後「眠いー。寝るー」と言って、机に突っ伏し2秒くらいで寝てしまった。

 今は寝言でキングコングがダウンしたとかなんとか言っている。


 後ろを見ると、真理香は参考書を読んでいた。

 参考書を読んでいる時に話しかけると8割くらいの確立で怒るので、基本的に話しかけない。


 まあ、麻美はそんなの関係なく真理香に話しかけるけど。


「ふぁ~……」


 ふたたび、あくびがでる。


 眠い。少し寝るか。


 いじっていたスマホをしまい、あたしは机に突っ伏して目を閉じた……。



 ……



 なぜかすぐに目が覚めた。


 ん……? ここは……?


 教室ではない。

 しかし見覚えがある。


 あの小屋だ。


 起き上がり、周囲を確認すると、暖炉の前にクソでかいサルが立っていた。

 サルのでかい右手にはフレディが捕まれており、たぶん、食べようとしている。


「あっ! 千鳥さ~ん! 助けてー! 食べられちゃいますー!」


 フレディが泣き叫ぶ。


「呼ぶのはえーよ。まだ昼休みだぞ」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよー! 助けてー!」


 サルは大口を開け、フレディの頭に噛み付こうとしていた。


 あたしは頭をポリポリかきながら立ち上がり、サルに近づいて軽くボディブロウを入れた。


「ウゴ!」


 突如、腹部を襲ったとびきりの激痛に食事どころではなくなったのか、フレディを放り投げ、でかい体をくの字に曲げるサル。

 口から血だかゲロを吐きそうだったので、落ちてきた顎を下から殴って口を閉じさせた。


「吐くなよ。汚ねーな」


 顎を殴られたサルは小屋の天井ギリギリまで飛び上がり、そのままでかい音とともに尻から落ちて仰向けに倒れた。


「助けたぜ。無事か?」


 乱暴に投げられ、床でうつ伏せになって倒れているフレディに聞く。


「もう少し丁寧に助けてくださいよ……。神様ですよ。わたし」


 うつ伏せのまま、恨めしそうな目でこちらを見るフレディ。

 注文の多い神様だ。


「そりゃ悪かったな。で、どういう状況なんだ?」

「どうもこうもないですよ。わたしがイスに座って寝てたら、突然そのおサルさんが小屋に入ってきてわたしを食べようとしたんです」


 立ち上がり、乱れた服と髪を直しながら、フレディはサルを見た。

 サルは気絶したのか動かない。


「ふーん。しかしでけえサルだなぁ」


 大きさはおそらく2メートル以上。

 腕は特にでかく、あたし一人分くらいはありそうだ。


「凶暴な種類のサルです。まあ、千鳥さんの世界で言う、クマみたいなもんですよ」


 つまりサルの知能と素早さを追加したクマってことだろうか?

 だとしたら、普通の人間はこんなのに出会ってしまったら死を覚悟するしかないだろう。


 ん? てことはもしかして……。


 あたしがしゃべろうとしたその時、小屋の出入り口から声がした。


「あなた達! 一体なにをしているんですか!」


 そこには怒りの表情でこちらを睨む、小屋の主である女の姿があった。

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