第3話
ビーテの剣はあたしの脇をかすり、あたしの左拳はビーテの顔面にカウンターで叩き込まれていた。
「ぐ……ぐひゃ……しょ、しょんな、馬鹿な……」
ビーテが膝を付く。
歯は折れ、鼻血を噴出し、綺麗な顔はめちゃくちゃだ。
「あたしにかするなんてやるじゃん。お前が1万人にいれば互角に戦えたかもな」
そしてそのままビーテは倒れた。
思いっきり手加減したから、死んではいないだろう。
「千鳥さん! 大丈夫ですか!?」
「見ての通りよ。ちょろいちょろい」
フレディが心配そうな顔であたしに駆け寄ってきた。
「さーて……次は豚の番だな」
「ヒィ……!」
ギロリと豚を睨みつけると、今度は火の玉が飛んでくる。
「おっと、今度はなんだ?」
ひらりとそれを避けながら、あたしはフレディの頭を掴んだ。
大きな石、大きな石……。
「わたしはシルナス様の忠実なる奴隷、リティ。私があなたを……えっ!?」
あたしはフレディを大きな石に変えて軽く投げた。
「えっ!? あっ! ちょ――! ごぼは!」
石はリティとかいうヤツの顔面に見事命中。
そのまま倒れる。
しかし、火の玉なんてどうやって飛ばしてきたんだ? 手品?
……まあ、もう倒したしどうでもいいか。
そんなことより、こう一人ひとりにいちいち邪魔されたらめんどうだなぁ。
この場にいる女はだいたい50人くらい。
そいつら全員が、今にも飛びかかってきそうな目であたしを見ている。
「めんどうだ。全員でこい。って言っても、言葉通じねぇんだよな」
しょうがないので、かかって来いと女どもに向かってジェスチャーをすると、全員が一斉に飛び掛ってきた。
……
「ふー」
軽く息を吐いたあたしの周りには、顔の潰れた女がゴロゴロ転がっていた。
豚は腰が抜けたのか、尻餅をついたまま立てない様子。
フレディはさっきので気絶したのか動かない。
つまり、今この場で立っているのはあたしだけだ。
「さて、城の兵隊でも呼ばれたら面倒だ。とっとと終わらせてもらうぜ」
あたしは指をボキボキ鳴らしながら、豚へと近づいた。
「い、一体、僕を倒してどうしようって言うんだ!」
「あん? それは……」
「……あなたの前世の記憶と能力を回収するんです」
いつの間にか復活したフレディが豚に言い放つ。
能力って最能と転生特典ってやつか。
「僕の前世の記憶と能力を……? お、お前、何者だ!?」
「わたしの声に聞き覚えがあるはずですよ。シルナスさん、いえ、小森タケゾウさん」
「え……? あっ……あーっ! かか、神様ー!」
豚が驚き、尻餅をついたまま後ずさる。
本当に神様だったのか。ちょっと疑ってたわ。
「付き合っていた女性に浮気がばれて、包丁で刺されて死んでしまったあなたをわたしは気の毒に思い、この世界に前世の記憶付きで転生させてあげました」
なんか説教が始まった。
豚はその場で正座をし、子供みたいに背中を丸めて俯いている。
浮気して刺されて死ぬなんてずいぶんモテ男な死に方だ。今のこいつからは想像できない。前世はそれなりの見た目だったんだろうか?
いや、それよりもどこが気の毒なのかわからん。
「女性好きだったあなたが女性に困らないように最能【チャーム】を与えました。1度だけあなたを守ってくれる転生特典も与えました。悪用はしないって約束もしましたよね?」
女が原因で死んだのに、女にもてる能力を与えるってなに考えてるんだこの神様は……。
「しかし、あなたは能力を悪用した。女性を奴隷にするなんて許せません!」
「うう……すいません。許してください……」
豚は土下座をし、フレディに許しを請う。
「いいえ、もう遅いです! 千鳥さん、彼をこらしめてやりなさい!」
フレディはビシっと豚を指差す。
ゴン!
「痛い! わたしじゃないですよ……」
頭を押さえ、涙目でフレディはあたしを見る。
「こいつに能力を与えたのはお前だろ。お前も反省しろ」
「うう……ごめんなさいです……」
反省したのか、シュンとしてしまうフレディ。
こんなのが神様でこの世界は大丈夫なのかと、あたしは少し心配した。
「さあ、豚。年貢の納め時だ。観念しな」
「い、嫌だ! 能力を手放すなんて! こ、こうなったらもったいなくて今まで使えなかった転生特典を使ってやる!」
ずっと気になってたが、なんだ転生特典って?
洗剤でももらえんのか?
あたしは少し興味が沸き、静観することにした。
「千鳥さん! 転生特典は彼を守るなにかが起こる、チート転生者のみに与えられるお得な特典です! 注意してください!」
なんだそりゃ? ウル○ラマンでもでてくるのか?
それじゃあたしが悪役になっちまうな。
ま、それはそれでおもしろいか。
「転生特典発動!」
豚がそう言った瞬間、黒い鎧の女が豚の前に現れた。
その女は自分になにが起こったのかわからないという様子で、辺りを窺っている。
「なんだぁ? この女?」
虚ろな目をしたその女は状況を理解したのか、ニヤリと笑った。
「ああ……そっかぁ……また壊せるんだぁ……あははっ」
女は空を見つめてニヤニヤ笑っている。
気持ちの悪い女だなぁ。この女が豚を守るのか?
ウル○ラマンよりは弱そうだがまあいい、とっとと片付けるか。
あたしはゆっくりとその女に近づいた。
「ま、待ってください!」
「うん?」
あたしが振り返ると、後ろにいるフレディがあたしの服を引っ張っていた。
「あ、あれは……あの女は……破壊の惨殺魔ディスト・ハスブランド!」
フレディはあの不気味な女を知っているようだ。