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第2話

 橋を渡り、城の門に辿り着く。

 門の前には兵士が立っており、簡単に入れそうにはない。 

 勢いだけでここまで来てしまったが、さてどうするか……。


「入れてくれって言ったら、入れてくれっかな?」

「さあ……? 聞いてみたらいいんじゃないですか?」


 抱えられながらフレディが言う。

 それもそうだと思い、兵士に近づき聞いてみることにした。


「ちょっといいっすか?」

「ん?」


 兵士がこちらを向く。

 今更だが、フレディは下ろしておいた方がよかったかもしれない。

 子供を小脇に抱えた女なんて怪しすぎる。


 てきとーにごまかすか。


「あ、これは人形なんで気にしないで」


 そう言った瞬間、フレディがダランとして動かなくなる。

 ノリがいいなこの神様。

 だけど、よく考えたら人形抱えてんのも十分、怪しいわ。


「そう。で、用件は?」


 兵士の視線が冷たい。

 信じたかどうかはわからないが、確実に痛い奴だとは思われた。


「あの、城って入っても大丈夫っすか?」


 なに言ってんだあたしは。いいわけないだろ。

 とは言え、なんと言えばすんなり入れるのかも思いつかない。

 ここは一旦、出直すか。そう思ったが、兵士の反応はあたしの予想とは違っていた。


「ああ、君もシルナス王子に呼ばれたのか。どうぞ。王子は中庭だ。失礼のないようにな」


 そう言って兵士は門を開けた。

 なんだかわからないが勘違いをしてくれたみたいだ。

 あたしは兵士に礼を言い、城に入った。



 ……


 

 中庭までやってくると、大勢の女どもの群れが見えた。


「なんだありゃあ?」


 老若かかわらないその女どもは、一人の男に群がっていた。

 

 おそらくあれがシルナスだろう。

 そう思い、あたしはその男に近づく。それに気付いた男がこちらを向いた。


「おやぁ、新しい女か。ブホホ、かわいがってやる。こっちへこい」


 女に囲まれた豚みたいなヤツがニヤニヤと笑いながらこっちをみている。

 どうやら人違いだったようだ。


「フレディ、どうやら間違えて豚小屋にきちまったみたいだ。早く中庭に行こうぜ」


 そう言ってあたしは抱えていたフレディを下ろし、城の中に戻ろうとした。


「ちょっと待て! お前、僕のことを豚って言ったか!」

「あ? ブーブーなに言ってっかわかんねーよ。日本語しゃべれ、豚」


 フレディを下ろしたので、今のあたしの言葉は日本語だ。

 しかし、こいつがチート転生者ってのなら、日本語を理解できるはず。


「――に、日本語!?」


 日本語と言う言葉に、明らかに豚は動揺している。


「てめえがシルナスならしゃべれるはずだぜ。いや、小森タケゾウの方がいいか?」

「な、なんで僕の前世を!?」


 豚が日本語をしゃべった。

 じゃあ本当にこいつがシルナス? ただのデブ豚じゃねーか。なにが【チャーム】だ。チャーシューの間違いだろ。


「どうでもいいだろそんなの。あたしはお前を倒して金をもらう。それだけだ。チャーシューにはしねぇから安心しろ」

「む、むかつく女だ。僕を倒しに来たって? ブホホ、女に僕は倒せない。君も僕の『チャーム』で奴隷にしてあげるよ。前世を知ってる理由はその後じっくり聞けばいいさ」


 舌なめずりをし、豚は一歩一歩あたしに近づいてくる。


「さあ、お前はもう僕の虜だ」


 豚があたしの目を見ながら近づいてきた。


「僕にキスをするんだ」


 ……なに言ってんだこの豚?

 あたしは遠慮なく、近づいてきた豚の腹を蹴り上げた。


「おごふぅ! あ、あれ……?」


 豚があたしの前で腹を抱えてうずくまる。

 なにがしたいんだこいつ? 馬鹿なのか?


「な、なんで……ぼくの『チャーム』がきかない……」

「『チャーム』は、がさつで粗野な女性は対象外なんです。千鳥さんにはききませんよ」


 ドヤ顔で言い放つフレディ。

 あとでゲンコツだ。


「さてと……それじゃ終わらせてもらうぜ」


 地面にうずくまる豚に向かって、あたしは拳をふり下ろそうとした。

 ――その時。


「おっと」


 突然、あたしに向かって上空から剣が振り下ろされた。それをヒョイっと後ろに飛び退いて避ける。

 剣を振り下ろしてきたその女は、豚を守るようにして立ち、あたしを睨む。

 睨まれて怯むわけにもいかず、あたしも当然、睨み返す。――激しいがんのつけ合い。

 ……と思ったが、女はあっさりと目を逸らし、豚に向き直った。


「シルナス様! ご無事ですか!」

「ビ、ビーテ……あの女を殺せ。殺したら褒美をやるぞ」

「はい。仰せのままに」


 ビーテと呼ばれた女はふたたびあたしに向き直り、激しい殺気をぶつけてきた。

 普通のヤツならこの殺気だけで逃げ出してしまうだろう。


「あれは騎士のビーテ。剣の使い手です」

「へぇ~騎士か。おもしろそうじゃん」


 剣道3段とか言う奴に喧嘩売られてぶっ飛ばしたことはあるが、騎士ってのも似たようなもんかね。


「千鳥さん、わたしの頭に触れて武器を想像してください。わたしは千鳥さんが想像したどんな武器にでも変身できます」


 フレディがあたしに頭を向けてくる。

 あたしはフレディの頭に触れ、それを押しのけた。


「えっ?」

「いらねえよ。喧嘩ってのは拳でやるから楽しいんだ。武器なんかいらねぇ」

「あ、相手は武器を持ってるんですよ!」

「あたしの方が圧倒的に強いんだし、ハンデくらいはないとな。あと鎧もいらん。動きにくい」


 鎧を脱いで身軽になったあたしは、その場でぴょんぴょんとジャンプする。

 だが、身軽になってはハンデの意味が無い。

 そこであたしはもうひとつハンデを付けることにした。


「左手一本で倒してやるよ」


 言葉がわかるように、フレディの頭に手を置きながら宣言する。

 聞いているのかいないのか、ビーテは表情を崩さない。


 堅物の騎士様か。友達にはなれそうにねーなぁ。

 あたしが目をつぶって両手を上げ、やれやれというポーズをすると、それを隙と見たのかビーテが動く。


 ――速い。

 一瞬で距離を詰め、ビーテの剣はまっすぐにあたしの心臓へと伸びる。


 決着はすぐについた。


「ぐ……」

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