第1話
「なぁなぁ、フレディよぉ」
「フレディって誰ですか! わたしはフレンティーユです! そんな胸毛が生えてそうな名前じゃありません!」
頬を膨らませて怒るフレディ。
なんだよ、フレディ・マーキュリーかっこいいじゃん。
てかフレンティーユって長いんだよ。
「なんでもいいだろ。てかさっきから気になってたんだけど、なんだよこの鎧と服。ダセェ」
ここに着いた時から、さっきまで着ていた学校の制服ではなく、変な服と軽めの鎧を着ていた。
ダセェしサイズも合ってないせいか、胸のところがきつい。
「制服じゃ目立ちすぎるので、この世界の一般的な服を用意しました」
「ふーん、てかいつまで歩くんだ? あたし腹へってきちゃったよ」
かれこれ2時間は草原を歩いている。
疲れはしないけど腹が減った。
「もうすぐですよ。ほら、あそこにお城が見えてきました」
フレディが遠くを指し示す。
その先には城のようなものが見えた。
「まだ結構歩くなぁ……。ところで、さっきからこっちを見て笑ってる汚い連中は知り合いか?」
「えっ?」
5人くらいの剣や斧を持った汚い連中が、ニヤニヤ笑いながら近づいてきてあたしとフレディを取り囲んだ。
なにこいつらくせぇ。風呂入ってんのか?
「お嬢ちゃん達、おとなしく一緒に来な。抵抗すると痛い目にあうぜ」
あ? なんだって?
その連中は謎の言語でしゃべり始めた。
「とと、盗賊ですよぉ! どど、どうしましょう。わわ、わたし達、売り飛ばされちゃいますー!」
慌てふためくフレディ。
どうやら知り合いではないようだ。
というかお前、神様だろ。
「しかたがありません! 千鳥さん! わたしの頭に触れてください! そして……って、あれ?」
「ん? 頭がどうしたって?」
あたしは早々と盗賊共を片付け、ボスっぽいヤツの頭を踏んでいた。
「あが……あがが……バケモノ……」
「あ? なに言ってんだかわかんねーんだよ。日本語しゃべれ日本語」
「千鳥さんをバケモノって言ってます」
あたしはもう一度そいつの頭を踏みつけてやった。
こんなかわいい女子高生に向かってバケモノとはなんだ。
「あ~あ、動いたら余計に腹減っちまった。神様なんだから、城まで瞬間移動とかできねーの?」
「そんなすごいことができる神様なら、千鳥さんを頼ったりしませんよ」
そりゃそうだと納得し、あたしとフレディは城に向けて歩みを再開した。
……
城下町に着き、飯屋に入るあたし達。
案内されたテーブルでメニュー表を見るが、なんだかよくわからない文字がずらりとならんでいて読めない。
何語だよこれ? 読めねーよ。腹へってんのにむかつくなー。
あたしが読めないメニュー表とにらめっこをしていると、フレディがもうひとつある同じメニュー表を見ながら店員になにやら注文した。
しばらくするといい香りと共に肉料理(だと思われる)が運ばれてきた。
なんの肉だかわからんが、うまそうだ。
さっそくいただこう。
・
・
・
うん、うまい。
最高とまではいかないが、十分なおいしさだ。
あたしはバクバクと豪快にその肉を食べ、腹を満たしていく。
一方、フレディは何も食べずに真剣な目であたしを見ていた。
「食べながらでいいので聞いてください。これから千鳥さんに倒していただくチート転生者はシルナスという方で、前世の名前は小森タケゾウ……聞いてます?」
「ひぃてるひぃてる」
口に肉を詰め込みながら、てきとーに相槌をうつ。
フレディはあたしが食べるのに夢中で聞いてないと思ったのか「もー」と言って、水を飲んだ。
速攻で食い終わったあたしも、食後の水を飲む。
「ゴクゴク……プハー! あー食った食った。要はそのナスだかタケだかいう野郎をぶっ倒せばいいんだろ? 簡単簡単」
「そんな簡単にはいきませんよ。彼は前世の記憶の他に、チート能力の最能【チャーム】と使用者を1度だけ守る転生特典を……」
「……! ……!」
なにか大きな声が聞こえる。
どうやら酔った客達が大声で何か話しているみたいだ。
が、なにを言っているかわからない。
さっきの盗賊もだが、こいつらなにしゃべってるんだ? 英語? じゃなさそうだし……。
「フレディ、こいつらなにしゃべってるんだ?」
「この世界の共通言語です。わたしに触れれば、千鳥さんもしゃべったり理解したりできますよ」
それを早く言え。
あたしは席を立ち、向かいの席に座っているフレディの頭に肘を置いた。
「俺の嫁さんがシルナス王子に取られちまった!」
「俺なんて3歳の娘をだ!」
「俺は60歳のかーちゃんを取られたぞ……」
酔った客達はシルナスについて話していた。
ずいぶん女癖の悪い男みたいだな。しかも王子って、あだ名……じゃないよなぁ。
「シルナスってヤツはどうしようもないクソ野郎みたいだな」
「はい……彼はわたしの与えた最能【チャーム】を悪用して、世界中の女性を自分の奴隷にするという邪な野望をもっています。早く彼を止めなければ大変なことに……」
「そんなクソ野郎に能力を与えたのはお前だろ」
あたしは乗っけた肘で、フレディの頭をコツンと叩く。
「うう……すいませんです。ダメな神様で……」
反省してるのか、あたしの肘の下でフレディはしょんぼりした。
「今日はとりあえず宿をとって、じっくり対策を立てましょう。それから――」
「なに言ってんだフレディ。喧嘩は勢いだ。よーし! いくぞー!」
あたしはフレディを小脇に抱えて店を飛び出した。
女を奴隷にできる能力【チャーム】か。
はっ! おもしれえ! あたしを奴隷にできるもんならやってみろってんだ!
「ちょ、ちょっとまだお金払ってないですー」
勢いよく飯屋を飛び出したが、結局金を払いに戻った。
食い逃げはいかんしな。
……まあ、払うのはあたしじゃねーけど。
そしてフレディが金色のコインみたいので金を払った後、ふたたびあたしはフレディを小脇に抱えて城へ向かって走った。