第13話
結局、立ち去るタイミングを逃したあたしは、おっさん達と共に海賊退治をすることになった。
まあ、それはいい。元々、海賊退治は乗り気じゃなかったし、楽が出来ると思えばむしろこれでよかったかも。
どうせ、海賊なんて雑魚ばっかだろうし、弱いやつ相手の喧嘩はつまらねぇしな。
おっさん達がその場に座って、海賊をどう叩きのめすか話し合い始めたので、あたしもフレディの頭を肘掛にしてそこにあぐらをかいた。
「よし! まずは酒だ!」
「は?」
なぜか酒宴が始まった。
昼の港でおっさん達が飲めや歌えのドンチャン騒ぎ。
おばちゃんも酒を飲みながら楽しそうに手を叩き、フレディは飽きたのか寝てる。
なにこの自由奔放な軍団……。
一体、いつ海賊退治に行くのか?
てかもう忘れてるんじゃね?
そんなことを考えながら、あたしはだされたイカみたいな食い物をかじった。
「おい、おっさん達。そんなに飲んで海賊と戦えるのかよ?」
「はっはっはっ! 安心しなお嬢ちゃん。海の男は酔わないようにできてんだぜい!」
そう言っておっさんは親指を立ててウインクをした。
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1時間後。
「よぉしぃ、さぁけも飲んらしぃ、かいろく倒しに行くかぁ~」
「う~い!」
ふらふらしながらおっさん達が立ち上がる。
が、立った瞬間、一斉にこけた。
全員ベロベロに酔ってるじゃねーか!
それを見ておばちゃんはゲラゲラ笑っている。
「しょうがないねぇ。ちょっと待ってな。今、水を持ってきてあげるよ」
立ち上がり、ふらふらと歩き出すおばちゃん。
そのまま海にドボンした。
コントかよ。
「まずは船だ。海賊退治するにしても船がなきゃ始まらねぇ」
立ち上がったおっさんが言うと、周りの酔っ払い共も「おう、そうだそうだ」と声を上げた。
とは言っても、港にあるのはボロっちい船が一隻だけ。
他はおそらく海賊にやられてしまったんだろう。
「あの船、誰のだったかねぇ?」
海からおばちゃんが這い上がってきた。
多少、酔いが醒めたのかさっきよりも足取りはしっかりしている。
「引退したゴン爺の船だろ。あれ? ゴン爺って死んだんだっけ? 生きてんなら船貸してもらえるように頼まなきゃならねーな」
酔っ払い中年共が腕を組んで「う~ん」と唸る。
さっきから動作が同じだが、脳みそ繋がってんのか?
「……死んでた……と思う」
「う~ん、確かゴン爺の葬式出たような気が……」
「骨は海に撒いたんじゃなかったっけ?」
誰かは知らないが、そのゴン爺とやらは死んだことにされそうな雰囲気だ。
「ゴン爺は去年、海賊に襲われて死んだろ。クソッ、許せねぇぜ海賊共」
それを聞いた他のおっさん達は一瞬、ポカンとしていたが、すぐに「そうだったそうだった」と、思い出したように頷き始めた。
「これはゴン爺の弔い合戦だ。船はありがたく使わせてもらおうぜ」
おっさん達は「おお!!」と雄たけびを上げて、ふらつきながら船に乗り込んで行く。
いろいろとツッコミたいことはあったが、酔っ払いに言ってもおそらく無駄なので、あたしは寝たまま起きないフレディを背負っておっさん達に付いて行った。
「おっさん達、海賊の居場所知ってるのか?」
「海だろ?」
いや、アジトとかたまり場とかそういう意味で聞いたんだが……まあ、いいか。
海が海賊の居場所ってのも、別に間違いってわけじゃないし……。
そして全員が船に乗り込むと、すぐに出発。
酔っ払いと熟睡してる神様とあたしを乗せたボロ船は、目的地もよくわからないまま、大海原へと旅立つ……。
……
船が沖に出てから15分ほどたった。
突然、おっさん達とおばちゃん全員が海に向かったかと思うと、一斉にゲーゲーと吐き始めた。
「ハァ……ハァ……。おかしい……漁師の俺達がこんなに酔うなん……うぷっ! ウォエェェェ」
「ハァ……これはなにか、うぷっ、いやな予感がするねぇ……」
いや、酒飲みすぎただけだろ。
海のプロフェッショナルであるはずの漁師達は全員ゲーゲーと海に向かって吐いており、船の舵をとる者は誰もいない。大海原に放たれた操舵手不在の船は、風任せ状態でのんびりと進む。
あたしはフレディを甲板の上に下ろし、船のはじっこの方に座った。潮風が気持ちいい。これでゲロゲロと耳障りな雑音以下の嘔吐オーケストラがなければ最高なんだが。
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しばらくすると雑音がなくなった。
ふと、おっさん達とおばちゃんの方に視線を向けると、胃の中の物を全て吐き出してゲロる必要がなくなったのか、海に向かうのやめ、全員ゲッソリして甲板の上に倒れていた。
風があまり吹いていないせいで船はほとんど進んでいないし、乗組員はこんなだしで、先がおもいやられる……。
フレディは少し前に目を覚まして、今は楽しそうに海を眺めている。
「海は広くていいですねぇ。大きな声出したくなっちゃいますよ、やっほー!」
それは山だ。
まったく、こんな状況でも楽しめてうらやましい。あたしはすることがなさすぎておそろしく暇だ。いつもならこういう時、暇つぶしにスマホをいじるのだが……。
「暇だなぁ~。フレディ、スマホ持ってない?」
あまりに暇なのでくだらない冗談を言う。
なにかおもしろい返しをしてくれれば、多少の暇つぶしにはなる。
「ありますよ。えっと……はい」
フレディはポケットからなにかを取り出し、あたしに渡す。
――スマホだ。
「えっ? あ……ええ……?」
反応に困る。
冗談で言ったのに、本当に出てきた。
「あっ、ちょっと待ってください。そのままでは繋がらないんで」
手を合わせ、なにかを念じるように目を瞑るフレディ。
なんだ? なにが始まるんだ?
スマホが出てきただけでも驚いたあたしは、これ以上なにが起こるのか予想できず、たぶん、アホみたいな顔でフレディを見ていた。
「ゴッドわいふぁい!」
…………。
一瞬の沈黙の後、フレディはポケットから小さな電波塔を取り出し、頭に乗せた。
「はい、これでインターネットに繋がりましたよ」
いや、そんなバカな。
あたしはこのスマホの壁紙がクイーンのフレディ・マーキュリーなことにつっこみを入れることも忘れ、半信半疑でスマホを操作する。
――繋がった。
マジかよ……すげえ。
スマホの画面にはいつも見ている検索サイトが表示されていた。
「ど、どうやったんだ、これ? てか、どうしたんだこのスマホ?」
「どうって言われましても……。別世界の人間の魂をこっちに持ってこれるんですから、わいふぁいくらいどうとでもなりますよ。スマホはヨド○シカメラで買いました」
どうしよう。やばい。つっこみたいけど、なんてつっこんだらいいのかわかんねえ。
ヨド○シかよ! 違うな……。ええっと……ええっと。
「アイ○ォン4かよ! ちょっと古いじゃん!」
「まあ、別に不便してませんので」
違うわ。もういいや。頭がついていかん。
あたしは面倒になり、スマホでいつもやってるソシャゲをやり始める。
なんだろう。
頭に小さい電波塔乗っけてるなんて、すげーマヌケな姿のはずなのに、今のフレディはなぜかいつもより神々しく見えた。