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第12話

 海賊退治をするにしても、まずは情報だ。

 居場所がわからなければ退治はできない。

 

 あたしとフレディは海賊の情報を求め、港へとやってきた。


「静かだな」


 港は活気が無く、静まり返っている。

 漁師らしきおっさん達はいるが、仕事をするでもなく、暇そうにその辺をうろうろしているだけだ。


「あっ! 千鳥さん! あそこに人が倒れていますよ!」


 フレディが指差す方向には、ムキムキのおっさんが仰向けに倒れていた。

 格好から察するに、おそらく漁師だろう。


 慌てて駆け寄ったフレディが、おっさんに声をかける。


「おじさん! おじさん! 大丈夫ですか!?」

「だぁれがおじさんだ!」


 くわっと目を開き、おっさんがフレディを睨んだ。

 それに驚いたフレディは尻餅をつき、あたしの足にすがりつく。

 

 倒れていたおっさんはゆっくりと立ち上がり、のびをした。


「まったく、失礼な子だねぇ。どこをどう見たらあたしがおじさんに見えるんだい。あたしゃ立派なおばさんだよ」


 確かに、よく見れば胸がでている。

 だが、女に見えるのはそこだけで、それ以外はどう見てもおっさんだ。


「おばちゃん、なんでこんなところで倒れてたんだ?」


 当然の疑問を投げかける。

 少なくとも体の具合が悪そうには見えない。


「なんでって、昼寝だよ」


 当たり前の事のように答えるおばちゃん。

 こんなところで寝るなよ。まぎらわしい。


「あんた達、この辺じゃみないねぇ。観光かい?」

「まあ、そんなとこかな。観光ついでに海賊退治でもしていこうかと思ってんだけど、おばちゃん、海賊がどこにいるか知ってる?」

「海賊の居所? う~ん……」


 おばちゃんが熟考し始める。


   ・

   ・

   ・


 5分程たった。


「……海かね」


 あたしの5分を返せババア。

 

 そら海だろうよ。海賊だしな。

 だが、聞きたいのはそういうことじゃねぇ。


 と、言いたいところだが、あたしもそこまで礼儀知らずじゃない。

 一応、おばちゃんなりに教えてくれたんだし、ここは礼を言って立ち去ろう。


 そう思い、あたしはおばちゃんに礼を言おうとしたが、その前にフレディがあたしの足にしがみつきながらおばちゃんに言った。


「そりゃあ海でしょうよ。海賊ですし。でも、聞きたいのはそういうことじゃないんですよ。5分返しなさい」


 言いたいこと全部言ってくれてありがとよ。

 あたしは顔に手を当てて、頭を左右に振った。


 おばちゃんはきっと怒ってるだろうなぁと思い、指のスキマから覗くと、おばちゃんはその場に座って弁当を食おうとしていた。


「ん? あんたも食べるかい?」


 マイペースなおばちゃんだ。


「いや、いいよ。あたし達はもう行くから。ありがとね、おばちゃん」

「ちょい待ち。子供だけで海賊退治をするつもりかい?」


 真剣な目であたしを見るおばちゃん。

 普通の大人ならここは止めて当然だろう。


「あー……まあ、止めるのはわかるけどさ、こう見えても強いから大丈夫だよ。うん」


 もう少しうまく言えないものか。

 これじゃ、子供が調子にのって海賊退治しに行くって見られてもしかたがない。


 あたしは自分の頭の悪さを痛感した。


「止めやしないさ。ただ、子供だけじゃ心配だからおばちゃんも一緒に行くよ」


 そう言って、おばちゃんは弁当の魚みたいな食べ物を口に放り込むと、すっくと立ち上がった。


 いや、なんでだよ。

 ちょっと遠くまでハイキングに行くとかじゃねーんだぞ。

 子供だけで海賊退治は心配だから、大人がついてくなんて聞いた事ない。


「な、なんであなたがついて来るんですか?」


 フレディはムキムキのおばちゃんが怖いのか、まだあたしの足にしがみついてる。


「子供が海賊退治するってのに、大の大人が黙ってるわけにはいかないだろう。なあ! あんた達!」


 おばちゃんが港にいるおっさん達に向かって、でかい声を出す。

 その声に反応して、漁師のおっさん達が10~20人ほどぞろぞろと集まってきた。


 おっさん達はなぜか全員ハゲでムキムキだ。

 こういうのがこの町で流行っているのだろうか。


「海賊退治ってもなぁ……。俺達はただの漁師だぜ。怪我するだけだ」


 体はでかいのに弱気なおっさん。

 そんなおっさんに対して、おばちゃんが呆れたように頭を左右に振る。


「あんた達ね、悔しくないのかい? 自分達の船を壊されて、仕事もできなくなってさ。だいたいそんなでかい体して、なにが怖いって言うんだい?」


 おばちゃんに言われ、おっさん達は自分達の体を見下ろす。


「……言われてみればそうだ。なんで俺達、こんなムッキムキなのに海賊なんかにびびってたんだ?」


 腕を組んで「う~ん」とおっさん達は考える。

 しばらくしてその中の一人が言った。


「……なんとなく?」


 その一言に他のおっさん達は「ああ~」と言って頷いた。

 なんだこのアホなやりとり。


「だとしたら、なんか無性に腹が立ってきたぞ。ウガー!」


 おっさん達が騒ぎ出し、海賊殺せの大合唱が始まった。

 

 大声で海賊殺せ! 海賊殺せ! と騒ぎながら、なぜか服を脱いで踊りだすムキムキハゲ中年軍団。

 もはや神輿があれが担ぐんじゃないかというぐらいのお祭り騒ぎだ。

 

 それを見ておばちゃんは


「いいねぇ、男って」


 と、満足気。

 そんなおばちゃんに対して、あたしは心の中で「アホか」と思った。


 もしかしてこいつら全員ついてくる気じゃないだろうな。


 普通なら海賊退治の戦力として、ムキムキ軍団は頼もしい事この上ないだろう。

 だが、それはあくまで普通ならだ。海賊ごとき、あたしという戦力が一人いれば十分。

 こんな暑苦しいおっさん共を連れ歩くメリットはない。


 騒いでいる隙にこの場を去ろう。

 そう思い動こうとしたが、フレディがまだ足にしがみついていた。


「おい、いいかげん離せ」

「千鳥さん、いいですねぇ、男性って」


 ここにもアホがいた。

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