表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/36

第11話

 フレディは文句でも言ってやれという目であたしを見ているが、事情も聞かずに文句は言えない。


「なんでないんだ? 獲れないとか?」


 まずは、なぜないのか理由を聞くことにした。

 ろくでもない理由だったら軽く文句を言ってやる。

 それでフレディも満足するだろう。


「獲れない……。少し違いますが、そうですね」


 なんとも歯切れの悪い答え。

 様子からすると、ただ獲れないというわけではなさそうだが。


「どう獲れないのか、はっきりしなさい!」


 隣でフレディが声を上げる。

 怒るのは勝手だが、あたしを巻き込まないでもらいたい。


「海賊がでるんですよ。それで漁が妨害されて獲れないんです」


 なるほど、海賊か。

 それじゃあ、しかたがないな。ここはおとなしくあきらめて――。


「まだやっているのか、この店」


 店の入り口の方から声が聞こえてきた。

 振り向くと、入り口のところにおっさんやらおばちゃんやらが数人、立っていた。

 皆、なにやら文字の書かれた同じ服を着ている。


「また、てめえらか」


 店のおっさんがうんざりした様な声を出す。


「サメトカゲを食べるなんて野蛮よ! とっとと店を閉めなさい!」

「そーだ! そーだ!」


 なるほど。

 そういうやつらか。


 こいつらが何者かはだいたいわかった。

 どこにでもいるんだな、こういうやつらって。


「まあまあみなさん、落ち着きましょう」


 集団から、金髪バーコードハゲのおっさんが前にでてきた。


「タッカーシさん! かまうことありませんよ! こんな店、打ち壊しちゃいましょう!」


 おばちゃんの一人がそんなことを言う。

 どっちが野蛮なんだよ。


「みなさん、暴力ではなにも解決しませんよ。大切なのは対話をし、理解していただくことです」


 こいつ、数の暴力って言葉を知らないのか?

 集団で店員1人の店に押しかけて、非暴力ってのは無理があると思うぞ。


「店長さん。最近、海賊がでてサメトカゲが獲れないそうじゃないですか。どうです? これを機に店を閉められては?」

「冗談じゃねぇ! ひいじいさんからじいさんへ、じいさんから親父へ、親父から俺へと受け継いできた大事な店だ! 閉めろと言われて、簡単に閉められるような軽い店じゃあねぇんだよ!」


 店長のおっさんが怒鳴りながら、金髪バーコードハゲのおっさんに詰寄る。

 詰寄られた金髪バーコードハゲのおっさんは、「ふー……」っとため息を吐き、肩をすくめた。


「いいですか店長さん。サメトカゲは数を減らしているんです。このまま食べ続けたら絶滅してしまう。神はそんなことを許しませんよ」


 いや、神様、サメトカゲめっちゃ食べたがってるけど。


「ちょっとちょっと! 海賊なんて知りませんよ! こっちはサメトカゲ食べにわざわざ来てるんです! 早く出しなさい!」


 話の流れなど関係なく、自分の欲望のみを主張するフレディ。

 神様ならここは仲裁に入るべきだと思うがなぁ……。


「今、大人の話をしているの! 子供は黙ってなさい!」


 口うるさそうなおばちゃんがそう言うと、言われたフレディはイスから飛び降り、おばちゃんに詰め寄る。


「は? 先客はわたし達ですよ! そっちこそ黙りなさい!」

「なんですって!」


 フレディがあたしの肩から手を離したので言葉がわからなくなったが、なにやらフレディはおばちゃんともめ始めたようだ。

 2人があまりにでかい声で言い争うせいか、店長のおっさんと金髪バーコードハゲのおっさんも、そっちに気をとられ黙ってしまう。

 

 やがてキレたおばちゃんがフレディに平手打ちをした。やられたフレディもキレたのか、おばちゃんの膝に蹴りを入れた。

 膝を抱えてしゃがむおばちゃん。

 勝ち誇り、鼻を鳴らすフレディ。

 まわりの人間はその光景に呆然としている。


 この場合、どちらが大人気ないんだろう?

 子供にキレるおばちゃんか。それとも人間にキレるフレディか。


 ……いや、すごくどうでもいいな。これ。


 フレディはタタタっと小走りでイスに戻り、ふたたびあたしの肩に手を置いた。


 言葉がわからないと困ると思ってやっているのかもしれないが、正直、この争いには興味が無い。

 勝手にやってくれという感じだ。


「女性に暴力をふるうなんて、なんという卑劣! やはりサメトカゲを食べる人間は野蛮だ!」


 集団の一人が叫ぶ。

 悪いのは先に手を出した、おばちゃんの方だと思うが……。なんだか、めちゃくちゃな奴らだ。


「今日のところは引き上げます。しかし、我々はサメトカゲを守るためならどんなことでもしますよ」


 金髪バーコードハゲのおっさんはそう言い残し、集団を引き連れて帰っていった。


「……すいません、お客さん。今日のところはお引取り願います」


 店長のおっさんはこちらに向き直り、頭を下げた。


「客に帰れって、あなたねぇ――」

「わかった。今日は帰ろう」


 あたしはフレディの口を押さえて小脇に抱え、店を出た。



 ……



 しばらく歩き、店から離れたところでフレディを降ろす。


「海賊、倒しましょう」

「がんばれよ」


 一蹴。

 眉毛をハの字に曲げたフレディがあたしを見ている。


 言うと思ったよ。


「千鳥さんも一緒にですよ」

「一緒に? うそつけ、ほとんどあたしにやらせるつもりだろ」


 フレディはエヘヘと笑う。

 図星だったようだ。


「元々あたしはトカゲなんか食いたくなかったんだ。やるなら一人でやりな」

「お願いします! わたし、どうしてもサメトカゲ食べたいんです!」


 手を合わせ、フレディはお願いのポーズをする。

 あたしに頼る気まんまんなのはいいとして、せめてあの店の店長を助けたいとか、町の名物を守りたいとか、理由くらいは神様らしくしろよ。欲望、丸出しじゃねーか。……まあ、綺麗な嘘で飾られるよりも、汚ねー理由で正直な方があたしは好きだけどね。


「どーしても手伝ってほしいか?」 

「はい!」


 期待の眼差しを向けられる。

 手伝ってやってもいい。だが、これは子供のお願いじゃなく、神様からのお願い……いや、依頼だ。つまり――。


「なら、当然、報酬はあるんだよな?」


 フレディの表情が固まる。

 まさか、ただでやると思ってたのか?

 冗談、金はきっちりもらうぜ。


 フレディは一度、「ふー」と息を吐き、ワンピースのポケットをまさぐり始めた。

 そしてそこから何かを取り出し、プルプルと震える手であたしの前に差し出す。


「なんだこれ?」

「宝物の綺麗な石です……。本当はあげたくないんですが」


 宝石、ではなく、本当にただの綺麗な石っころだ。

 それを大事そうに手の平の上にのせ、あたしに差し出している。

 そういえば前回、森で綺麗な石ころを拾ってやたら喜んでいたが、なにか価値のある物なんだろうか?


「これ、価値あるのか?」

「綺麗じゃないですか。わたしのコレクションの中でも1、2を争いますよ」


 確かに綺麗だけど、これが報酬ってなると……。

 うーん……まあ、あんまりカネカネ言うのも貧乏臭くてみっともないし、別にいいかなぁ。戻ってもどうせ、映画観ながらぼーっとしてるだけだし。


 迷った挙句、あたしは石を受け取った。


「大切にしてくださいね。とっても綺麗なんですから」

「ああ、家宝にするよ」


 家宝にする、というのを本気に受け取ったのか、フレディは満足そうに笑う。

 それ以前に家に持って帰れるのだろうか? そんなどうでもいい心配をしつつ、あたしはフレディと海賊退治に向かった。

次回は来週の金曜日です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ