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第9話

 昼休み――。

 

 かーちゃんが作った弁当を食うあたし。

 好物のから揚げを口に入れ、思わずニヤける。


 うまい。


 普段は怖いだけのかーちゃんだが、料理の腕はピカイチだ。

 あたしはから揚げを味わいながら咀嚼し、飲み込む。


「ニトリン、今度の日曜日に映画行かない?」


 2つ目のから揚げを口に入れようとした時、早々に昼飯を食い終えた麻美が、前の席の椅子をこちらに向けて話しかけてきた。


「嫌だよ。レズじゃねーんだから」


 速攻で断る。

 女と2人で映画なんてきもい。


「えー行こーよー。あたしニトリン好きだよー」

「冗談でもやめろ気持ち悪い」


 こいつの言う好きが、ラブではなくライクだとわかってはいるが、女に好きと言われるのは気持ちが悪いので嫌だ。


「そんなに行きたきゃ真理香と行けよ」


 あたしは後ろを振り向き、真理香を親指で指した。


「あたしも嫌だ。レズっぽいし」


 参考書を読みながら弁当を食べていた真理香は、あたしと同じ理由で断った。

 馬鹿のあたしと頭のいいこいつが友達なのは、こういうところが似ているからかもしれない。


「なにもー。いーじゃん。あたしは2人とも好きだよー」

「やめろ」


 あたしと真理香の声がそろった。

 麻美は子供みたいに頬を膨らませて「もー!」と言っている。

 こういう怒り方を見ると、誰かを思い出す。


「じゃあ3人で行こー。それならいいでしょ」


 麻美は右手と左手の指を3本づつ立て、3をアピールしてくる。

 これを断ると怒るを通り越して泣いてしまうかもしれない。


「まあ……3人ならいいか」


 あたしは3人なら行くことにし、真理香をチラリと見た。


「えっ? あたし行かないよ。興味ないし」


 そう言って真理香は参考書のページをめくった。

 空気読めよ……。


「わーん! マリリンのバカー!」


 案の定、麻美が泣き出す。

 あたしはめんどくせぇなぁと思いながら、額を押さえた。

 泣かせた真理香は涼しい顔で弁当を食いながら参考書を読んでいる。


「わー! わー! マリリンのバカー! わー!」


 麻美が席から立ち上がり、真理香の耳元で叫ぶ。

 それにはさすがに真理香の表情も変わる。


「うるさい! わかった。行くよ」


 根負けした真理香がそう言うと、麻美はピタリと泣き止んだ。


「じゃあ、日曜日の11時に駅集合ね」


 麻美はニコリと笑って嬉しそうに自分の席へと戻った。



 ……



 そして日曜日。


 あたしと麻美と真理香は3人で繁華街を歩いていた。

 麻美はニコニコしながら、真理香はダルそうにあくびをしながら、あたしは人ごみうぜーなぁと思いながら……。

 日曜日ってのはどこ行っても人が多くて嫌だ。だから普段の日曜日は家で寝ている。


 そもそも11時ってなんだ。昼過ぎでいいだろ。いつもなら寝てる時間だ。

 あの時、午後からを提案すればよかったと今更ながら後悔した。


「なんの映画観んの?」


 真理香がダルそうに麻美に尋ねる。

 人のことは言えないが、もう少し楽しそうにしろよ。


「えっとね、海賊の映画だよ」


 対照的に、麻美は楽しそうに答える。

 海賊の映画とは、最近CMとかで見かけるパイレーツなんとかっていう洋画だろう。

 なんでも全米で大ヒットした映画らしいが、あたしは興味ない。

 てか、洋画のCMはみんな全米で大ヒットしたって言っているような気がする。


 ……


 やがて映画館に着き、券を買って中に入る。

 

 金が無いわけじゃないが、観たいわけでもないものに千円以上払うってのはなんか嫌だな。

 まあ、ダチと遊ぶのは嫌いじゃないからいいけど。


 中に入ると麻美がさっそくパンフレットを買っていた。

 つまらなそうにしていた真理香もなぜか買っている。


「あれ? 真理香もパンフレット買うのか?」

「映画館に来たらパンフレット買うでしょ」


 さらっとそう言う真理香。

 案外、楽しみだったのかもしれない。

 あたしはパンフレットなんかいらないので、ポップコーンとコーラを買った。


 座席に座り、劇場内が暗くなって上映前のCMが流れる。

 ポップコーンを食いながら、あたしはそれをぼーっと観ていた。


 眠い……。

 どうも、映画館ってのは眠くなるな。


 CMが終わり、映画が始まる。

 だが、もう瞼が重くてしかたがない。

 頬杖をつきながら、あたしはいつの間にか眠りへと落ちていた……。



 ……



 気がつくとそこは海辺の砂浜だった。

 

 体を起こし、辺りを見回す。

 少し離れたところに砂で城を作っているガキ女を見つける。

 あたしは立ち上がり、背後からそいつに近づく。


「おい、フレディ」

「もー! わたしの名前はフレンティーユです! フレディ・マーキュリーじゃありません!」


 振り返ったそのガキ女は、頬を膨らませて怒った。

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