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短編

愛すべき嘘つきの物語

作者: 慧波 芽実


「おめでとう」


吐き捨てるように言ったその言葉はかすれていて、それを言われた目の前の男は顔をしかめた。


「思ってないだろ、おまえ」

「うるさい」


目の前の男は切れ長の目を細めていた。


「佐原、いつ行くの」


アメリカに行く、それを聞いて一言目がぶすっとしたおめでとう、だなんてなんてかわいげのない言葉だったのだろうか。


「行ってもいいのか」


いつもは少しにやけて言うようなその言葉は今日に至っては真顔で聞かれた。

だめ、と、そう言ったら彼は行くのをやめるのだろうか。

のどまで出かかったその言葉を飲み込んだ。


「どうして、それを私に聞くの?」


佐原は少し目を見開いた。


「だって私たちって友人でしょ?」


佐原は見開いた目を戻し、小さく息を吐き出した。

そして吐息を吐くように、それもそうだな、と告げた。

その言葉がどういう訳か少し、かすれているように聞こえた。




「凛子、いいの?」


友人の茜は喫茶店でケーキセットを頼むと一言告げた。


「何が?」


茜はそんな私にあきれたように言う。


「聞いたよ。噂になってる。アメリカ行きの話」

「あぁ、佐原のこと」


友人の佐原という長身の男はその出来る風貌に負けず劣らず、賢い男だった。

大学の医学部の佐原と知り合ったのは自身が保健学部に在籍していたからである。


「いいも何も。佐原の決めることでしょ」

「凛子」


茜はケーキセットが届く前に言い放った。


「いつまで、自分の気持ち隠すの?」




茜に怒られて、翌日。

学内をぶらぶらと歩いた。

佐原とよく図書館からの帰りに歩いたコースだ。

私は佐原が好きだった。

違う、今も好きだ。

でも言えるわけがないのである。

遠くに行く佐原に今更何を言えばいいのだろう。

嘘をつき続けたのは私なのに。


「リンは好きなやついんの?」

「いるよ、佐原とは真逆な人」


強がりに答えた数ヶ月前の会話が懐かしい。

何も言えないじゃないか。


「リン」


いつの間にか横には佐原が並んでいた。


「1週間後に行くことにしたんだ」


佐原は告げた。


「そっか。佐原、迷子にならんようにね」

「日本食恋しくなりそーだから餞別は納豆か味噌か醤油か米でいいぞ」

「佐原になんてやるわけないでしょ」

「あー、あー、リンはこんなときまできびしーなぁ」


からから笑う佐原。

嘘をつき続けて今の関係に満足していた。

でも。

距離が離れたら、もうこんな会話出来ない。

いつか、佐原は誰かを愛してしまう。

距離とともに、気持ちも離れるかもしれない。確かではないけれど。


「佐原」

「ん?」

「もし、もしね」

「おう」

「佐原が今度かえってきたとき。佐原に大事な人がいなくて、私がフリーなら、佐原、私をもらってよ」

「は?」

「嫁ぎ遅れそうだったら佐原のとこに嫁ぐっていってんの」

「何おまえ、嫁ぎ遅れんの?」

「たぶんね」


佐原はからからと笑った。


「そんときはもらってやるよ」


目尻を下げた佐原はそう言って、アメリカに行った。





いつか、これさえ笑い話になるのかもしれない。

好きだっていえないまま、佐原は行ってしまった。

茜に声かけて、今日は飲もう。


「茜、あんね・・・・・・」


次に佐原に会うときには正直者でいたいと思った。




END

リハビリがてら短編です^^

よろしくお願いします。


芽実

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