04
「何か用ですか?」
質問に質問で返された。
「いや、えーっと……こんな時間に女性が一人でこの神社に来るなんて珍しいからさ。少し気になって」
そう、とだけ一言呟き彼女は押し黙った。
この場合、もしかしたら心配しているはずの僕が夜道で女性に声をかけるという行為を働いたことで、彼女には逆に僕が変質者なのかもしれないという不信感を与えてしまっているのだろうか。
「あー、えっと――僕は全く怪しいものではないんです」
自分は怪しいものではない。漫画等でよく見かける台詞ではあるけれど、実際使ってみて思った。これは怪しい。もはやこの台詞は自体が自分は怪しいものですよと自己紹介しているようなものだ。
どうすればいい。こんなことならひまりに普段から豆にでも鬼でもなってもらって対人スキルを鍛えておくべきだった。選択肢は少ないのだ。逃げるのは簡単だけれど(なぜ自分の家から自分が逃げなければいけないのかはわからないけれど)妹がお堂にいる以上その選択肢はない。この子の存在は無視できない。僕は紳士的に彼女を心配し、彼女を家まで送り届けるしかないのだ。
僕の言葉を受けても微動だにしない彼女へ僕は追撃を続けた。
「そうだ! そう言えば僕、この神社の神主なんですよ!」
そしてそう言えばを付け加えた事をコンマ一秒後に後悔する。これではまるで不信感払拭のため取って付けたようなでっち上げに聞こえてしまうじゃないか。更に付け加えるならいつもなら神主ヨロシクな服を身にまとっている僕は、今日に限って境内の掃除をしていたがためジャージである。はっきりいって僕が神主である証拠と言えば神社にいたことくらいだ。
思ったことを口に出した後に後悔することはたくさんあるけれど、きっと僕は他の人よりその頻度が多いのだと思う。口に出した後、その言葉が頭の中を二周三周として、あ、今のニュアンス違うなだとか今のちょっと厨二病臭いなだとか――それがぐるぐる頭を回り続けて眠れないことだってある。まぁそれでも頭の中を廻っている言葉の後悔頻度を他人と比べるのもおかしな話か。うーん。それでもなぜ人間はジェスチャーの次辺りに原始的な言葉というもので意思を伝えあうんだろうか。世の中の科学の発展具合からしてもっと意思疏通が簡単にできるものがあればいいのに。例えばと言われても全く思い付かないけれどもうそろそろ人と対面して話すのが恥ずかしい人だったり自分の思いをありのまま話せない人だったりを優遇する意思疏通装置があってもいいと思うんだ。メール? 馬鹿を言うなよ。そう言う人間がどうやってメールアドレスをゲットすればいいんだ。対人スキルあってこそのメール機能だろ。ほんと早く義体できる時代が来ないかな。
そんなどうでもいいことが会話の最中に、頭の中を二周三周リアルタイムで駆け巡った。
そこでやっと僕は気づいた。
ここが浮世神社で、僕の名字が浮世語なことに。
幸いポケットに財布がある。ゆえに――学生証もある。
「申し訳なかった。まずは謝るよ。何に謝るってきみに僕が夜遅く人気のない神社に忍び込んでいる不審者だと思わせてしまったことにさ。僕の名前は」
謝罪の言葉を口にし、ポケットをまさぐりながら財布を取りだそうとする。ナイフ等、彼女を脅す道具を探しているのではと勘ぐられる可能性は否めないが我慢してくれ。数秒の辛抱だ。
僕が財布を取りだし、学生証を差し出そうとした瞬間――彼女が口を開いた。
「浮世語……浮世語命でしょ? あなた」