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浮世怪談  作者: 笑い男
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02


「さっさと掃除の続きを始めるぞ」

「はーい」

 意味のない前置きが長くなってしまい申し訳ない限りだが一応この最初の段階である程度説明をしておこうと思う。

 僕、浮世語命(うきよがたりみことはこの神社の神主である。

 ある事件をきっかけにして妹とこの神社に二人暮らしである。

 高校二年生でもある。

 友達、近所付き合いは皆無である。

 ざっくばらんに、簡潔に言えばこんな感じだ。この程度の感じだ。この簡単な自己紹介から僕が寂しい人間であることが垣間見えてしまうかもしれないが当人である僕はそんな寂しいなどという感情は抱いたことがない。そんな感情を抱けるのは元々沢山の幸福を有しているやつだけだろう。元々こう言う人間で、元々何も有していない僕にはその様なものは存在する意味はないのだ。僕はそう思っている。いや、そう思い込むことで逃げているだけのことなのかもしれない。

 とまぁ、多少ネガティブ指向な内容の自己紹介になってしまったけれど今日の僕は、今日から数日間に限ってはやたらとテンションが高い。妹もだ。今日は十二月三十日。間もなくして正月である。初詣である。そして――浮世神社きっての稼ぎ時なのだ。

「ほら! 枯れ葉を集めろ! そして燃やせ! 神聖なる炎で神を呼び込むんだ!」

 僕は賽銭箱を何度も念入りに磨きながら妹に指示を出す。

「うん! わかったよお兄ちゃん! ……神さまなんて存在しないのにね」

「おい、小さな声で神主の妹にあるまじき発言をしてんじゃねぇよ。神はいるんだよ。こうして僕達にも稼ぎ時を与えてくれる存在なんて神以外に誰がいる」

「そ、そだよね! あたしたちは神さまをダシにすることでご飯が食べれるんだもんね!」

「なぜわざわざそんな嫌な言い方をするんだよ」

「働かざる者食うべからず!」

「そうだ!」

「人間なんて生きているだけでも働いているようなものなのに……可笑しなことわざだよね」

 僕の妹であり唯一の家族である浮世語ひまり。天然っぽいのに疑り深く、勘繰り深く、本当は天然とは全く真逆の性質なのではないかと疑いたくなってしまうような僕の妹。

 僕と同じ道を歩んできた彼女は、僕と同じく辛い茨の道を歩んできたはずなのだけれど彼女の言動からはその人生に対する悲壮だとか落胆だとかそう言ったものは一切感じられない。それは僕の為なのか、自分のためなのか、もしくは他人のためなのか。まぁそれでも茨を踏みつけて、踏み越えて来たからこそ今のこの時間があるのだと思えば当時に受けた傷も本当は無かった傷なのではないかと思えてくる。

「ていうかさ、話が横にそれてしまったけれど――女子中学生の間での噂ってなんなんだよ」

「うっ……そんなに知りたいの? そこまで女子中学生の話題に執拗だとあたしが怖がっているのは本当はお兄ちゃんなんじゃないかと心配になってくるよ」

「そんな心配はしなくていい。いやさ、だってお前がそこまで話したがらないなんて、もしかしたら浮世語さんのお兄ちゃんかっこいいよねとか噂になっているんじゃないかと期待しちゃうじゃないか」

「うーん。ないかな」

「ないよな」

「それでもその逆なら――」

「ないよな!?」

「あ……うん」

 物語の冒頭にして誰一人キャラがたっていない中でそう言う発言ばかりされたらさも僕がモテない、そんな待遇とは無縁の男だというのがまるで僕の一番のキャラ設定みたいになってしまうじゃないか。

「で、そろそろいい加減本題を話せ」

「実はね……」

「うん」

「最近この町に……妖怪が出るらしいんだよ!!」

 はぁ? 頭大丈夫か? どんな教育を受けて思春期を過ごしたら中学二年にして真顔でそんな発言ができるんだよ。

「妖怪? んなもんいねぇよ」

「だって何人もの友達が見ているんだよ!!」

「何人だよ」

「27人!」

 27人か。ひまりちゃんの友達全員が見たとは考え辛いしな――最低でもこの四倍くらいひまりちゃんには友達がいるのだろう。いや、あくまでも最低だよ? 実際四分の一の確率で妖怪に出会える町なんて聞いたことがないし。て言うか僕の妹の癖にどんだけ友達いんだよ。

「あのな、妖怪なんてものは昔の人が考えた考えられただけの存在であって存在はしねぇんだよ。今で言うところの漫画の登場人物みたいなもんだよ。お前は進撃の巨人読んだからって巨人を見たなんて騒ぐやつを信用するか? しないだろ? だってそれは存在しないのだから」

「うーん、そういわれればそうかもしれない――なんか怖くなくなってきた!」

「元から怖がる必要なんてねぇんだよ」

「うんうん、じゃあ怖くなくなってきたところでさっさと掃除を終わらせちゃおう!」

 そんな言葉を発し、境内を走り抜け真っ暗闇な階段方面へほうき片手に向かう僕の妹。僕はそんな背中を見ながら、本当に怖かったのかなどという疑問をもったのだった。


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