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浮世怪談  作者: 笑い男
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プロローグ



 あれはおよそ三年ぶりの家族旅行だった。

 三年ぶりの家族全員そろっての家族旅行。

 僕は思春期を迎えてからというもの、親が大嫌いになった。

 別に不良と言う訳ではなかったけれど、反抗に反抗を重ね親を困らせた。親の口から出る言葉はそれが僕の名前を呼ぶその一言だろうが聞きたくなかった――でもみんなそんなもんだろ? たまに思春期しらずの仲の良い家族の話を聞くけれど、結局はそれだって家族の中の誰かが我慢して成り立つ偽りの関係だろ? 我慢してまで家族なんていらないし、かといって我慢しなければ折り合いがあわない。だったらいっそ家族なんていうコミュニティはないほうがいいんじゃないか――僕は家族のことをこの程度にしか考えていなかった。

 どこからどこまでを思春期と言うのかはわからないけれど、本で思春期は繊細な時期なので反抗的になる、親と折り合いかつかなくなるという記事を読んだことがある。今まで育て貰った恩を忘れて親を傷つける行為を思春期などという言葉で簡単にまとめてしまっていいのか今となっては疑問だが――否。良い訳がない。許されるはずがない。子供だから、思春期だからと自分は逃げ道を用意しながら、自分のことを一番大事に思ってくれている人を傷つけるなんて許されない。それでも子供であるがゆえ、未熟ゆえそんな行為に至ってしまうのは少し年を重ねて冷静に考えてみればわからなくはないけれど。

 それでも僕はあの頃の僕を許さない――今過去に戻って一つだけ何かをしてやることができるのなら、それは過去の自分を殺すことだ。

 僕はこの家族旅行を最後に家出をし、全てを捨ててどこか誰も知らない場所で一人で生きていくつもりだった。親への恩など何もない。全てを捨てるつもりだった。未熟者が発案しそうな考えだ。

 元々旅行にすら行くことなく突然家を出るつもりだったのだが、妹に半強制的に車に乗せられた。僕は最初、車のなかで文句しかいっていなかったような覚えがある――それでもなんだか意外と楽しくていつもよりは話が弾んだ。いつもしない話をして久々に家族の前で笑ったような気がした。昔と変わらず、僕がしてきたことなんてまるでなかったかのように自然に接してくれる家族――正直、家族ってやっぱりいいなって思った。今はまだ旅行先にすらたどり着いていないけれどこの旅行が終わる頃にはなにか一言くらいお礼の言葉や謝罪の言葉、それができなくても楽しかったくらい言えるかもしれない。そんな風に思った。きっとこの家族旅行が終わる頃には僕は今までのことをなかったことにして、やっぱり家族と暮らしていきたいと思うだろう――そんな風に感じていた。

 だからこそ。

 そんな考えに至ったからこそこれは起きた。

 なかったことにできるのは自分だけなのに、自分勝手にそんなことを考えたから。

 全てを失い、本来知るべきではないことを知ってしまうことになったこの事件が起きたのだ。


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