第九話 東海岸二日目
熱々のミネストローネに焼きたてのパン。
バターとはちみつとマーマレード。
ハムとチーズ。葉物野菜のサラダ。
スクランブルエッグ。
しぼりたてのオレンジジュース。
そして、はちみつのたっぷり入ったアールグレイのミルクティ。
真っ白いクロスをかけたテーブルの上に並ぶ食事を、熊親子は無心に食べていた。
なぜかエディンも一緒に。
テーブルの足元では、ウィンディーがキャットフードをカリカリと食べている。
青い空、白い雲。
小鳥のさえずり。
木の葉を揺らすさわやかなそよ風。
まさに『なべてこの世はこともなし』だ。
『ふーっ。ごちそうさま!うまかったー。ありがとう。』
エディンはデザートのリンゴをかじりながら、ふうっと息をついた。
『・・・・・・どういたしまして。』
シッキムは、エディンの食べっぷりにやや唖然としながら、どうにか返事した。
『シッキムが太ったのはうまいもんたべてるからだなー。』
『パーパは太っていません。』
オリバーがぴしゃりと答える。
『いや、太ったって。てか、もの食べてんの見るの初めてだもん。』
『そうなんですか?』
『そう。酒を飲んでるのはよく見たけどね。それに、なんていうか、もっとカサカサしてた。』
『へー』
シッキムはやや恨みがましげに、好きなことをいうエディンを見た。
シッキムがオリバーと素敵なブレックファーストをしようと用意していると
いつの間にか夜勤明けのエディンもテーブルについていたのである。
『・・・・・・エディンはどうしてここにいるんだ。』
『いやー、なんか俺の野生の本能が、こっちに美味しいものがあるぞと訴えかけてきたんだよね。
そうそう、俺、まだ坊ちゃんに自己紹介してないよ。』
エディンはにこっと笑うと手を出した。
『俺、エディン・バート。よろしくね。』
その、大きな手をオリバーは小さな手で握った。
『僕は、オリバーです。・・・・・・よろしくおねがいします。』
オリバーも、やや無表情ではあったがきちんと応じた。
そんな様子にエディンはさらににこにこした。
『オリバーは、小さいのに、ちゃんとあいさつができるんだな。』
そんなエディンの言葉に、オリバーではなくシッキムがにこにこした。
『えへへ、そうだろー。』
遠くに、やや雨雲は見えたが、三人のうえには綺麗な青空が広がっていた。
穏やかな穏やかな、ある晴れた朝だった。