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オリバーと風の精霊  作者: 問真
第一章 ローズガーデン
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第八話 東海岸一日目

北国の陽は長い。

午後八時を回っていたが、シッキムは、いまだ穏やかな昼間のように光にあふれた明るい空を眺めた。

野営地に据えた特製テント(一見普通だが、中は空間魔術を駆使して改造してある)の中のベッドでは、オリバーがすでに寝息を立てていた。

ミラ特産の熊のぬいぐるみと、猫のウィンディに挟まれて。

『あー!やっぱりシッキムだ!おーいい!』

テントの前でぼんやり空を眺めていると、背の高い均整のとれた体格の冒険者がシッキムに手を振っていた。

『おー・・・!エディンか!?』

シッキムは笑顔で手を振りかえした。エディンは、島の南部、イルガンド出身の冒険者で、人懐こくて朗らかで腕が立つ。

シッキム同様、ミラーイルガンド間の定期隊商の護衛を引き受けることが多く、

ともに働くことの多い二人は、よい友人同士であった。

エディンがリズミカルにかけよると、二人ははがっちりと抱き合い、お互いの背を叩き、そして握手した。

『相変わらず元気そうだなー。』

『シッキムはずいぶん雰囲気が丸くなったな?太った?』

『んー。最近ずっと酒場に入り浸ってたからなー・・・。運動不足かも。』

シッキムはちょっと恥ずかしげにはにかんだ。

そんなシッキムをエディンは好奇心旺盛な青い目で頭の先から足の先まで見た。

『熊みたいな子連れのおっさんが、荷物持ちで参加したってから、違うだろって思ったんだけど・・・・・・。荷馬車三台分も積める奴なんてそうそういないし・・・・・・。

だけどシッキム、子供とかいつの間に?。』

『あー・・・間違いない。たしかに子連れのおっさんだナ。』

シッキムはもこもことひげに埋もれた口を動かした。

『立ち話もなんだし・・・・・・お茶でもいれようか。エディンは今日は不寝番?』

『んー。あと一時間で俺の番。それまでお茶に呼ばれるよ。』

シッキムはどこからともなく椅子とテーブルをだし、たき火の上にケトルを吊るした。

『ミルクは要るか?』

『要る』

『はちみつ入れるか?』

『入れる』

ガチムチのイケメン冒険者と、ちょっとくたびれた熊のぬいぐるみのような中年魔法使いは

二人並んで、はちみつミルクティーを飲んでほっこりとした。

テーブルには蜂屋で大量に仕入れた『特選 はちみつクッキー』の缶も出ている。

『なーシッキム。なんで、こんな離れたところでテントはってるんだ?』

『ああ、大丈夫。オーナー殿の許可はとってるよ。

この辺は特に魔物がでるようなとこじゃないし、夜盗が狙うようなメインのものはそっちの荷馬車だ。

俺がもってんのは水とか粉とか、重いもんだけだし・・・・・。』

シッキムは、小さくため息をつくと一回言葉を切った。

『ええと、そのな。息子がまだすごく小さいんだが、初めての旅で・・・・・・。

冒険者って、エディンみたいにいいやつばっかじゃないだろ。

だからなんとなく、怖いような気がしてな。・・・・・・ちょっと距離を置いてみたんだ。』

髭や髪の毛と同色のクリーム色のまつ毛を揺らしながら、シッキムは言った。

そうなのだ。

今まで、シッキムは人間も魔物も怖くなかった。

もともと不運に恵まれやすいこともあり、トラブルに巻き込まれることも年中であったし

器用貧乏で大抵のことはこなせたから、一人ならなんとかなるし、ならないならならないだと、飄々と生きてこれたのだ。

しかし、数日前に親友から、小さな命を託されて以来、不安がよぎるのである。

不安なんていう感覚は、とんと感じたことがなかったため、シッキムは少し困っていた。

そんなシッキムをエディンは人懐っこい穏やかな笑顔でみた。

『明日さ、俺にも紹介してよ。大丈夫、今回、変な奴いないし、俺も気をつけてみてるから。

きっと、息子さんもその方が楽しいよ。』

シッキムはしばらく考えてから、頷いた。そして、エディンに向き合った。

『ありがとう。よろしくお願いするよ。』

エディンは人懐っこい笑顔で嬉しそうに頷いた。

『うん』

北国の空は今だ明るく、夜になることなど知らないようだった。

















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