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オリバーと風の精霊  作者: 問真
第一章 ローズガーデン
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第五話 別れ1

王都ミラ。

都の真ん中にそびえる王の居城。

それを守るように東西南北に控える貴族…騎士の屋敷。

パン・ジェンシー家もその一角にあった。

代々、王宮魔術師や魔法騎士を排出してきた名門で

王家に後継者が生まれなかった場合の中継ぎの指導者を引き受ける四大公家の一つでもあった。

貴族の屋敷の外側には

いつのまにか、なんらかの方法で私財を貯めた富裕層の市民達が思い思いの屋敷を構え

さらにその外側に商業区や工業区があり、市井の人々の生きる場所があった。

そしてさらに外側に農地が広がり、他国との境には、辺境伯が控え、有事にはミラを守る役目を果たしてきた。


〇〇〇〇

ミラ城は、少し高台になったところにあるため、大抵どこからでも見ることができた。

その日、城から、紫色の煙がたなびいていた。

誰か、国の重要人物が亡くなったときに、あげられる、喪の印だ。


シッキムは、オリバーの旅装を整えるために、商業区に来ていた。


ウィルがオリバーに施した魔法はまだいきていて、大抵の「人間」がみたら

光の具合でプラチナにも見えるが、たしかに白ではない淡い金髪に見えただろう。

それでも、外気温の寒さを理由に、シッキムはオリバーにもこもこのジャケットを買い与え、熊の耳のモチーフのついた大きなフードをかぶせてしまった。

そして肩に乗せて歩いている。

その姿は、もはや親子熊でしかない。


『オリバー、寒くないか』

『寒くはありません、お城から、煙、出てます』

『え…ああ…か、火事かな、む、見えないな』

実際、オリバーを肩車しているシッキムは首をそらすことができない。


『違う…、違います。紫の煙は、ミラにとって重要な人物が亡くなった場合のみあがるのです』

『そ、そうなのか。よくしってんな』


シッキムの肩の上でシッキムの頭を押さえるオリバーの手の力がゆるんだ。

あの煙が誰の死を知らせているのか、分かっているからだろう


『ほら、ちゃんとつかまっとかないと落ちるぞッ。』


シッキムは少し鼻の奥がつーんとするのを感じた。

〇〇〇


『号外だー!!』


『パンジェンシーの若が亡くなったぞ!!子供も一緒だ!』


『ちょ、子供も一緒って!!』

『子供ってどっちだ?』


あらかた買い物を終えた二人が、カフェでココアを飲んでいると、急に通りが喧噪に包まれた。


とうとう、ウィルの訃報が公表されたのだ。


オリバーの言ったとおり、オルハンも死んだことになったらしい。人々がざわめく。


オリバーも、ざわめきのする方をしきり気にする。


シッキムはそんなオリバーがあたふたとココアを飲みきるの見守ると、オリバーに背中を差し出した。


『……。』


いつまでも乗らないオリバーをいぶかしんでシッキムが振り返ると

オリバーはなんとも困惑したような顔をしていた。

小熊の乗車拒否である。

『あー…もしかして、恥ずかしい、のか?』


そういえば、最初にあったとき、父上を侮辱するなとか言ってたし、そのあともずいぶんと丁寧に話していた。

まだ五歳かそこらの子供には、不似合いなほどに。

そのように振る舞える『オルハン』を子供扱いしすぎたのかもしれない。

シッキムがそんなことを考えているとオリバーはようやく口を開いた。

『恥ずかしい…わけではないのです…。ただその…』


『……ああ、『パン・ジェンシー家の男子にふさわしくない?』とか?』

こっくりうなずくオリバーに、シッキムは合点がいった。

ウィルがよく、むかつく、とこぼしていた言葉を、『オルハン』もよく聞かされて育ったのだろう。

でも


『そっか。でも『オリバー』は嫌じゃないんだろう?』


またしてもオリバーはこっくりうなずいた。


『んじゃ、ノープロブレムだ。ほら、早く行かないと、新聞売り切れちゃうぞ。』


オリバーを背中にくっつけると

シッキムは荷物をもち、どっこいしょと立ち上がった。


その所帯じみたシッキムの姿を見たら

ウィルは指を指して笑っただろう。


酒場でくすぶっていた旅の中年魔法使いは恐るべき順応力で保父と化していた。

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