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オリバーと風の精霊  作者: 問真
第二章 青いタイル
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背負えぬ重荷2

『ああ、だめだな。ここは寒い。

居間に戻ろう。』


オリヴィエの部屋に入るなり、ミネは首をふった。

そしてオリヴィエの衣装ダンスから着替えを見つけ出し、ベッドを担ぐと、もういちどシッキムに声をかけた。


『居間に、戻るんだ。』


シッキムは頷くとオリヴィエを居間に連れていった。


ミネは暖かな居間にオリヴィエのベッドを下ろすと、シッキムを見た。


『着替えさせること、できるか?』


シッキムは頷いた。


『よし。私は少し出てくるからな。すぐ戻るが、頼んだぞ。』


シッキムは頷いた。


ミネは一度自室に戻ると、いくつかの荷物を持って、屋根によじのぼった。


そして、救難信号を打ち上げた。


しばらく待つと、王宮の方角から、チカチカと光がまたたいた。


ミネは、唯一使える光魔法で、チカチカとそれに応答した。


光の点滅で言葉を伝える信号は、イルガントの夜の闇を駆け抜けた。



ミネが居間に戻ると、蒼白な顔をしたシッキムがオリヴィエの手を握っていた。


それを横目で見ながら、ミネは鍋に水を入れ、火にかけた。


そうこうしているうちに、馬のいななきが聞こえた。


『医者、連れてきた‼』


同時にエディンが駆け込んできた。


弾かれたようにシッキムが顔を上げる。


馬で連れてこられたために

だいぶ髪が乱れていて、ややヨロヨロしていたが


落ち着いた様子の年配の女性がオリヴィエに近づいた。


『ああ、びっくりした。

まさか、風の館だとは…。

あら、時を止める魔法?初めてみたわ。

さ、戻してちょうだい。』


シッキムは、オリヴィエから手を離すと、金の光が四散した。


『夕食の途中で突然痙攣をおこして、吐いて、椅子から落ちて、頭を打って、熱が凄くて、呼吸が荒い。

治癒魔法も効かなくて…』


シッキムが、上ずった声で説明した。

医者はシッキムがようやく着せたパジャマのボタンをするするとはずしていった。


『そう。その夕食で、何か、初めて食べさせたもの、ある?』


『初めて…あ、サラダにミーホウを入れた。』


ミーホウとは鶏卵程度の大きさの、甘酸っぱい果物であった。


『ミーホウね…。

嘔吐…あと、呼吸の荒さはそれが原因ね。

弱ってるときに、体に合わないものを食べると、こうなるのよ。』


だけど…と医者は続けた。


『タイミングが悪いわね。

魔力麻疹と被ってる。

高熱が先に出ていたのかしら。

舌をかまなくて良かったわね。』


医者が指差したオリヴィエのお腹には赤い発疹がたくさん出ていた。


『魔力麻疹…?』


『みんな、覚えていないくらい小さいときにかかるのよ。

あなただってやってるはず。

だけど、この子のは…重いわね。

魔力量が多いのかしら。

まあ、親御さんが時を止めてみせるくらいの魔法使いなら仕方ないのかも。』


医者は鞄から粉末を取り出すと、湯冷ましを用意するように伝えた。


それを聞いてミネがオリヴィエの小さなカップを差し出す。


『湯冷ましだ。』


『ありがとう。』


医者は鞄から取り出した白磁の吸いのみに粉末を入れて湯冷ましに溶かす。


『これは、呼吸を楽にするお薬よ。

気管支を広げてくれるの。』


シッキムがオリヴィエを抱き起こすと、医者はゆっくりとオリヴィエに薬を飲ませた。


『あとは…あとは、頭の怪我よね。

たんこぶになっているから大丈夫だと思うけど…

これは、設備があるところに行かないとなんとも言えないわね。』


『熱とか、ぶつぶつとかは?』


『…熱冷ましはあるけど…。特効薬はないのよ。』


『それじゃ、このこは?』


『…七割の子は乗り越えるわね。』


シッキムは、もうほとんど泣きながら、

オリヴィエをみた。


呼吸はいくぶん落ち着いて見えるが

斑点が顔にも出始めていた。


『とりあえず、今出来ることはここまでだわ。

暖かさを保つこと、水分を取らすこと、熱を下げることを続けて様子をみて。

熱冷ましと、気管支のお薬はおいていくけど、

一回飲ませたら六時間あけること。

私は一度帰ります。

明日、また見に来るわ。

…さっきの馬の方に、また送っていただけるのかしら?』


ろくに反応しないシッキムをちらりとみてから

ミネは医者に礼をいった。


『こんな夜分にありがとう。

あと半刻くらいでまともな馬車がくるはずなんだ。それで送らせてはいただけないだろうか。

もし構わなければ、お茶でも飲んでお待ちいただきたい…です。あと…』


ミネはそういうと、謝礼を渡した。


『足りるだろうか?』


『…ええ。少し多いくらいだけど…』


『なら良かった。』


ミネはイスをひくと、医者を座らせた。


馬の世話を終えたエディンが、勢いよく入ってくる。


『治ったのか?』


ミネは、眼を眇めるとため息を噛み潰した。


『エディン、静かに動くんだ。

オリヴィエが安心して眠れるように。

それと、すぐには治らない。

これから我々で看病して、治していくんだ。

あなたも疲れただろう。

お茶を飲むんだ。』


医者は眼を丸くしてミネにささやいた。


『まあ、まあ。あなたがいて本当に良かったこと。』


『そうだといいんだか。』


ミネは茶をいれた。




















麻疹ましんという名前を用いましたが、もちろん我々の世界のハシカとは違います。

ちょっと調べてみましたが、ハシカはもっと恐ろしい病気でした。

世界中の人が予防接種を受けられますように。

また、アナフィラキシーショックや熱痙攣をイメージしたような描写もありますが、あくまで、のようなもの、です。



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