背負えぬ重荷1
小さな子供にとって
安らかに眠れないということが
心に重荷を抱え続けるということが
馴れない土地で暮らすということが
無事に大きくなるということが
どれだけの大変なことなのか
シッキムは、甘く見ていた。
その日は唐突に訪れた。
オリバーが、夕食の最中に、突然痙攣し、嘔吐しながら椅子から転がり落ちたのだ。
『オリヴィエ‼』
床に頭から落ちたオリバーにすでに意識はなく、
頬を触ったシッキムの手には信じられない程の熱さが伝わってきた。
『おい、息、してなくないか!?』
『え?』
ミネはオリバーの口をこじ開けると
指を突っ込んで吐瀉物をとりのぞいた。
『げほっ…』
意識は戻らないものの、
オリヴィエは再び呼吸し始めた。
しかし、ぜーぜーと、見ているだけで喉が引き裂かれそうな音の荒い呼吸であった。
シッキムが知っている限りの治癒魔法を唱えるが、全く状況は改善しない。
『俺、医者つれてくる‼』
エディンはすぐさま飛び出して、馬にまたがってかけていった。
シッキムは、オリヴィエの頭に手を添えた。
歌うように言葉を紡ぐシッキムの姿が黄金色のひかりに包まれ、それは雲のようにたなびきながらオリヴィエに吸い込まれていった。
『また呼吸が…』
『いいえ、今度はオリヴィエの時を止めました。医者が来るまで、これ以上悪化しないように…。』
シッキムの声は震えていた。
『今日は、朝から元気がなかった。
おやつも欲しがらなかった。
些細なことにイライラしていた…。
こんなに、いつもと違っていたのに…
なんで、気がつけなかったのか…。』
金色の光に包まれたオリヴィエを抱き上げながら、シッキムは自責の念を口にした。
『いまは、そんなこと言ってる場合じゃないだろう。』
ミネは厳しい口調でそういうと、沸かしてあった湯をたらいにはり、タオルを絞った。
『今のうちに汚れをふいて、寝巻きに着替えさせて、ベッドに寝かせるんだ。
時を止めているのなら、動かしても平気なんだろう?』
シッキムは頷いた。
『オリヴィエは運がいい方だ。ほら、出来ることだけでもしよう。シッキムは大丈夫か?負荷の大きそうな魔法だけど』
シッキムは、もう一度頷いた。
シッキムは、オリヴィエを抱き上げると
オリヴィエの寝室に向かった。