第32話 風の精霊とロマンスの帝王
『シッキムに、俺の特別を、あ・げ・る‼』
思い出されるのは、古い友人のやたら魅惑的なウィンクだった。
『ウィルフ、魅力の無駄遣いだ。』
シッキムは、ため息をついた。
ひょんなことから、友人となった公爵家の一人息子は、へらへらと笑いながら、シッキムをワインセラーに連れ込んだ。
『だーれにも、教えちゃいけないんだけど、なんでかお前には伝えておかなきゃいけない気がするんだ。』
ウィルフレッドはワインセラーの中に、きんっとした何かを放った。
『?』
シッキムは、あたりを見回した。
『こうしたら、見えるかな。』
ウィルフレッドがそういうと、
二人を囲む金の檻が現れた。
『これが、うちに代々伝わる金の糸を紡ぐ魔法だ。』
ウィルフレッドはそういうと、
シッキムの手を握った。
『ウィルフ?』
シッキムは自分の手に重ねられた
美しい形の手指を見つめた。
『ウィルフ…!なんか、へ…ん。』
『力を抜いて。シッキム。手のひらを上に向けて?水を掬うように…』
シッキムは初めての感覚におののきながらも
言われるがままに、手のひらを上に向けた。
その手を支えるように、真白いウィルフレッドのてが添えられていた。
シッキムの手のひらから、金色のモヤがわきたった。
『なんか…痛い!』
シッキムは、涙目でウィルフレッドを見上げる。
『ごめんな。始めての時は、そうなんだ。でも、たぶん、次から一人でできるから…。』
シッキムは、自分のてのひらの上に踊る金色の陽炎に目を落とした。
『なんで、俺にこんなこと、するの。』
ウィルフレッドは、うーん、と唸った。
『シッキムは精霊じゃん。
長生きするだろう?
うちの魔法は、一子相伝だから、なんか絶滅しそうな気がするんだよね。
だから、託したかったんだよ。
俺、シッキムのこと、好きだし。』
『人間には、託せないのか?』
ウィルフレッドは寂しそうに笑った。
『そうだな…。もしいつか、シッキムが託したいと思う人間がいたら、教えていいよ。
まあ、とりあえずは、いろいろ覚えてよ』
そういうと、ウィルフレッドはシッキムを抱き寄せた。
『なあ、これ、本当にこんなにくっつかないと、教えられないのか?』
『そうなんだよ。ああ、シッキムからは花の香りがする。』




