第一四話 午後の紅茶2
一体いつ解放されるのか。
黙々と菓子を口にしているオリバーを横目に、シッキムは、小さくため息をついた。
アフタヌーンティー…という名目の元、シッキムとオリバーは、イルガントの国王夫妻と第二王子エドワードに囲まれていた。
オリバーにしてみたら、代々ミランディアに害をなしてきた、イルガント王家の人間に囲まれているのである。
もぐもぐと焼き菓子を食べ、淡々とナーサリーカップ(子供用茶碗)に注がれたミルクティーを飲んでいるが、
その心の内を推し量ることは出来ない。
エドワードはオリバーを、暗殺された公爵家の長男と察した上で、ここに連れてきている。
シッキムも特に抵抗はしなかった。
イルガント王家と繋がりを持つことが吉と出るか凶とでるかが読めなかった。
どのみち、ミラからもイルガントからも遙かに離れた故郷にオリバーを連れて行くつもりではあったが…。
『ねえ、エド。どちらがあなたの思い人なの?』
女王アンヌマリアは穏やかに微笑むとエドワードに話を振った。
ぶふーッ
茶を吹いたのはシッキムである。
どちら、とはどういうことか。
あわててオリバーを抱き寄せる。
『母上、シッキムが怯えておりますよ。わたくしの伴侶はこちらのシッキムをおいて他には考えられませぬ。もちろん、私とシッキムとの愛の結晶としてオリヴィエのことも誰よりも慈しんでおりますけれども』
『…いや、ちょ、マテコラ…』
シッキムは眉間に深くしわを寄せた。
オリヴィエは一切関心がないとばかりにシッキムの膝の上で菓子をかじり続けている。
オリヴィエはシナモンの香りのするその菓子が好きなようで、そればかりに手を出していた。
『あらあらまあまあ、エドがそんなことを…。』
『男らしくなって!』
女王夫妻は感激したようだった。
『ちょ、いや、あの』
だれもシッキムの声は聞いていない。
『つきましては、ロンドニウム郊外にある風の館でしばらく三人で暮らしてみたいと思うのです。』
エディンはいつになくまじめな面もちで続けた。
『いまだかつて、男の后を迎えた王族はおりませぬ。しかしわたくしは今、シッキムをおいて他には考えられない。』
もう、シッキムは息も絶え絶えだった。