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オリバーと風の精霊  作者: 問真
第一章 ローズガーデン
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第一話 再会

厄介ごとってのは、思いもよらないときに、ありえない方向から飛び込んでくるもんだ。


シッキムは、がしっと肩を掴む手をみて、そう思った。


手は白くて綺麗な形をしているが、あきらかに男のものだ。

それにつながる腕も、いい筋肉をつけている。

しかし、ひじの辺りから、ふわふわした妙なレースの袖が始まり、見上げれば、綺麗なオカマが微笑んでいた。

「やっほー!探したのよう。シッキム!」

その底抜けに明るい声は、シッキムのよく知っているものだった。

「・・・・・・ウィル?」

ウィルはにっこりとほほ笑むと、大きく頷いた。

鮮やかな金髪に、エメラルドグリーンの瞳。

きれいなカーブを描いたまつ毛が瞬きの度にきらきら光りながらバッサバッサ上下している。

「そうよー!驚いた?綺麗でしょ?わ・た・し。」

シッキムは大きくため息をついた。

「ああ、驚いたさ。とても世界一の美女と結婚した大店の若旦那の姿にはみえないね。」

ウィルはにっこりと笑った。

「うふふ。その美女直伝のメイク術ですからね!女ってばけるのよー」

「まあいいさ。そうでもしないと、俺なんかとあえないんだろ?俺、ここにとまってるよ。

部屋、くるか?」

「まあまあ!誘われちゃった!」

「お前・・・・・・頭に虫でもわいてんのか?ストレスできちまったのか?」

シッキムがそんな口をきいたときだった。

ウィルとシッキムの間に、小さな子供がさっと出てきた。

そして、シッキムをギリギリと睨みつけると、抑えた声で忌々しそうに怒鳴りつけた。

「父上を侮辱するなっ!」

真っ白な髪と、金色の瞳に一瞬驚いたが、シッキムは顔には出さなかった。

「はい?つーか、何、これ。ウィル?」

「やだん。わかんないの?私たちの愛の結晶じゃなーい。」

あまりの達の悪い冗談に青ざめるシッキムに、ウィルはにっこり微笑むと、

肩に置いた手にぎりぎりと力を込めた。

「ほんと、こんな酒場じゃなんだしぃ。あなたのお部屋にいきましょー?」

シッキムは、ウィルに体術で勝てたことがなかったことを思い出した。


○○○

わっはっはっはっは。

どこかで、割れるような笑い声が起こる。

リーズナブルで、そこそこ美味しいその酒場は、旅籠も経営していた。

シッキムは、王都にくるときには、いつもその旅籠に逗留していた。

そのことは、親しい友人たちは知っていて・・・・・・

そんなわけで今シッキムは、派手なオカマと目つきの悪い子供をソファーに座らせて

お茶を用意しているのであった。


「あいかわらず、旅生活なの?」

ウィルは部屋に入ってからはとってつけたような女言葉を放棄していた。

「そうだよ。」

「いいなあ。旅の魔法使い。行く先々で、人々を幸せにしたりするんだろう?」

「しねえよ。ほとんど、用心棒か、船の風呼び要因だよ。

お前こそ、天下のパン・ジェンシー家の若き当主がなんだって、女装までして子供連れまわしてんだよ。」

「うん。いや、まあ、深いわけがあってねえ・・・・・・。」

ウィルは自分の膝にもたれかかって、すでにうつらうつらしている子供の髪をすきながら言葉を濁した。

子供の髪は金髪・・・・・・というにはあまりにも艶がなく、色素が薄かった。

「この子は僕たちの子・・・・・・僕とリザの子だよ。双子の片割れでね。オルハンっていう。

魔法の才能もあるしね。今も超可愛いけど、将来ぜったいイケメンになるよ。」

「・・・・・・。」

シッキムは、オルハンと呼ばれた子を見た。

5歳くらいだろうか。先ほどの凶悪な表情はすでになく、その寝顔は愛らしかった。

「ただね。我が家を取り巻く状況が、もうとにかく、古めかしくてね。」

ウィルは大きくため息をついた。

ウィルの家は代々続く王宮魔術師の家系だ。

この王都ミラに屋敷を持ち、王家との血のつながりも深く、政治的にも大きな力をもっている。

「情けないことだが・・・・・・この子をまともに育ててやることができない。」

ウィルはエメラルドの瞳にうっすらと涙を浮かべた。

真っ白い髪に、金の瞳。さらに双子の片割れ。

教会の力が強い王都において、その条件の子供は神代の物語で世界を壊した破壊神の生まれ変わりとみなされて、迫害される。

ましてそれが、強力な魔力を血に受け継いだ魔術師の子供であれば、命さえ狙われる。

優しい外見に反比例するかのように気の強いウィルの涙に、シッキムは動揺した。

「で、でもさ。お前とリザで、いままでなんとかしてきたんだろ?」

シッキムはついに眠ってしまった子供をちらりとみた。

「いままではね。」

ウィルは、楽しくなさそうに、微笑んだ。そして遠くを見ながら、歌うように呟いた。

「だけど、もうすぐリザ一人になる。僕はもう長くない。」

「あ?」

「ほら、シッキム、お湯が沸いてるよ。火を止めて・・・・・・。」

ウィルはオルハンを抱き上げると、いつのまにかどこからだしたのか分からない子供用ベッドの上に寝かしつけた。可愛らしい模様のブランケットをきせかけてやる。

「え、ちょ・・・」

シッキムは火を止めて、改めて見る友人の姿に、驚いた。

なんか、少し、透けている。

「僕が、命より大切な子供を預けられるひとは、リザのほかには君しかいない。

リザは泣いていたけど、リザはイルハンを守らなくちゃいけない。

イルハン・・・・・・双子の片割れなんだ。二人そろえて、シッキムとあわせたかったな」

「あのな、お前、何言ってるんだ。てゆーか。お前、どうして透けてんだ。」

いったん気が付いてしまえば、魔法灯の下のウィルの顔はあまりにも生気がなかった。

おしろいでかくしていなければ、きっと死体のように見えたことだろう。

「僕は、昨日、大きな魔術で失敗して、取り返しのつかないけがを負ってしまったんだよ。

もうすぐ、命が潰えるんだけど、たまたま反魂の霊薬をちょびっと持っててね、

こうして時間をつくることができた。」

ウィルは名残おしそうにオルハンの髪をなでる。

「僕はいつだったか、君の命を救ったね?その時、君は言ったね。いつか必ず借りは返す。

なんでもしてやるって。僕がお願いすることは、この子のことだ。」

ウィルはまっすぐにシッキムを見た。

涙は、大きな瞳から零れ落ち、幾筋も頬を伝っていた。

「・・・・・・わかった。」

シッキムは、ウィルの肩を抱いた。

ウィルはしばらく動かなかったが、ふいにシッキムから離れると、涙をぐいっとぬぐって笑った。

「ありがとう。」

「おまえ・・・・・・化粧、ぐちゃぐちゃ・・・・・・」

ウィルはまだいくつか手を打たねばならないことがあるからと、名残惜しそうにオルハンをなでてから立ち去った。

シッキムは、明日からの生活をいまいちイメージできないまま、オルハンを眺めながらお茶を啜った。

「・・・・・・そういえば、この子はどこまで事情をしってんのかな。」

あどけない顔で眠る子供が、急に不憫にみえてきた。













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