abnormal story《アブノーマルストーリー》
ここ夜桜市の西地区には森があった。
その森はとても広く、広大であった。
その森の奥地には、今は近所の者の、それも老人くらいしか知らないような廃校舎があった。
皆から忘れられた廃校舎である。
その廃校舎だが、その廃校舎には夜の深夜12時になると、たびたび人がくるという。
その人とは二人である。
千藤亜里という地毛が茶色の茶髪で癖っ毛で身長は若干低い少年と
海内犬江という黒髪で筋肉質な体で身長が高い少年の二人の男子であった。どちらも、ルックスはそこそこであり、悪くはなかった。
二人は、東地区にある朝南中学校の生徒であり、二人はその学校の三年生に属していた。
別に二人は不良ではない。不登校の少年でもなかった。
どちらかと言うと何処にでもいる普通の男子中学生であった。
ならば、なぜ、この廃校舎に来たかと言われると「日課だから」と答えるしかないのだった。
今年で受験を控える身の二人。
その二人にとっては、リフレッシュというのはとても大事なモノなので気晴らしがてらにきていたのだ。
──────と、いうのも実は冗談でただ単に勉強をしたくないから来ただけなのだ。
まぁ何はともあれ二人はこの廃校舎に少なくとも千回は行っているだろう。
「あー。受験だりぃ」
「あぁ、全くだよな」
廃校舎三階の奥の部屋に二人はいた。
ここは元は三年生のクラスだったのだろう。
ドアの上のところに三年一組と書いてある。
二人はその部屋の中に入っていて、今はズタボロになった机の上に座っていた。
廃校舎の天井の電灯は当たり前だが、電気はつかないので、窓は全開、カーテンも全開で開いている。
念のために懐中電灯も持ってきている。
今の季節が冬のせいなのか教室は薄暗く、二人は持ってきていた二つの懐中電灯をつけていた。
「なんか画期的なことが起きねぇかなぁ~」
「画期的?ん~。例えば?」
「異能が使えるようになるとか、テロリストが来るとか?」
「うわぁ、中二病かよ」
犬江は大袈裟に引いたような素振りを見せた。
そうやって、二人は他愛もない会話をする。
「なんだよ、中二って。ていうか、それくらいしか画期的なこととかねぇだろ?」
「いや、他にもあるだろ?」
「なら、言ってみろよ?」
「ん~。例えば、……美少女が転校してくるとか、動物と格闘とか?」
「うわぁ、中二病だー」
「黙れ、蟻んこ」
「お前こそ黙れ、犬っころ」
犬江は亜里を蟻んこと呼び、亜里は犬江を犬っころと呼んだ。
「まぁ何か大きなこと起こってほしくね?最近、暇じゃん?」と亜里。
「俺たち受験だけどな」と犬江。
「いや、どうせ俺たち勉強しねぇし」
「確かにな」
「合格のボーダーは到達してるし」
「まぁな」
愛想の薄く犬江は相づちを打つ。
そして、次は犬江から言葉を紡ぎ出した。
「例えば、あれか。学園異能バトルとかしたいのか?」
「あー、そんな感じそんな感じ」
「なら俺は狼男なるわ」
「異能なのにか?」
「別にいいだろ。俺、狼男好きなんだよ」
「ふーん。なら俺は吸血鬼でいいや」
「なんでだよ。カッコいいじゃねぇか」
「カッコいいの使っちゃ悪いか?」
「お前はゾンビで十分だ。主人公から早めに撃ち殺されてろ」
「うるせぇ、電柱に片足上げて小便散らす狼男」
「なんだと、脇役ゾンビ」
「やるのか小便狼男」
本当に普通でどうでもいい会話をする二人であった。
そして、その普通なことが普通であることを物語っていた。
"この世に異常なんてない"ということ。
空から女の子は降ってこないし、悪の組織はいない。宇宙人はやってこないし、死神も天使も見えない。異能なんてもってのほか。
あるのは科学と宿題だけ。普通で普通な毎日がただ、律儀にやって来るだけなのだ。
「あー暇だ暇だ」
「確かに確かに。あ、そだ。亜里、明日のテストって何教科あったっけ?」
「えーと、確か、国語と数学と英語の三教科のテストだったはずだよ。結構、らくだな」
「そうか?テストっていつも辛くね?多さに関わらずさ」
「でも、受験間近にとっては楽な方じゃね?」
「あー、そう思うと楽かもな」
「だろ」
またも、弱い相づちのままの二人の会話であった。
●●●
そのあと、普通に俺たちは帰った。
当たり前だ。だって、世界は全部普通なのだからな。当たり前は当たり前なのだから。
家に帰宅しても普通しかなかった。
まぁ、普通、フツウしかこないけど。
●●●
また、今日も学校だ。そのまた明日も明後日も。学校尽くしだ。
「なぁ、亜里」
「なんだよ、犬江」
「翔んでみね?」
「は?」
「いや、だからさ。翔んでみね?」
学校の屋上で二人が話していた。
もう時間は放課後だ。
少し朱色の夕日が屋上を照らしていた。
二人は屋上にある網目のフェンスに寄りかかり、座っていた。
「いや、一回くらい空でも翔んでみねってことだよ」
「どうやって翔ぶんだよ」
「ん~。落ちて?」
「無理だろ」
「はぁーやっぱりかぁ」
「そりぁな」
今の犬江の言葉はもしかしたら自殺志願を示す言葉だったのかもしれない。
そう思ったのとほぼ同時に、俺たちのいる屋上にオレンジ色の光が照らされた。
夕陽が出たのだ。
とっさにフェンスを背に座っていた俺たちは立って、夕陽が照らされている後ろを振り向く。
「おー、オレンジ色オレンジ色」と犬江。
「んー。青春の光だー」と亜里。
この光も正常な世界の普通な光である。
未知の粒子による光ではない。
●●●
二人は下校していた。
放課後の時間に屋上にいることが世界史担当の熊谷先生にバレて叱られたのだ。
亜里は鞄を片手で肩にかけるように持っている。
犬江は普通に鞄を持ち、ブラブラと揺らしていた。
そうしていると犬江が話を切り出した。
「やっぱ世界は普通だね。夕陽だろうがなんだろうが変わったりしない」
先程の屋上の時と同じ内容である。
「まぁな。夕陽が殺人光線に変化したり、世界史の熊谷がヤハウェ神になることはねぇよな」
亜里は答えた。
静かというか悟っているように語った。
そうして少し間を空けてから、亜里は「確かに」と言ってまた話始めた。
「……世界はいつも普通だ。…………けど、さ?」
このタイミングで目の前の信号が赤になる。
二人はそのまま信号が変わるのを待つために止まった。
「んー?」
車が動き出したので周囲は少しうるさい。
犬江の返答の声量は少し大きかった。
「そういう普通もある意味異常な世界だと思わねぇー?」
亜里の返答も声量は若干大きい。
「そうか?普通は普通だろ?それ以上もそれ以下もなく」
当たり前の答えを犬江はする。
「そうだけどな。そうだけど、さ。普通なんて異常なんじゃないのかな。だって、アニメ見てもそうだろ。戦闘アニメを見て俺達はその世界を『異常な世界』って思うけどさ。その世界の住人からしたらそれが『普通な世界』なんだろ?そしたらソイツら住人からしたら俺達の世界は『異常』じゃねえか?」
「人によって普通は違うってこと?」
「そゆことそゆこと。拳銃のある世界と拳銃のない世界はどっちも異常ってことだよ」
「でもなぁー。それだと、世界総てが異常な世界になるだろ。しかもその理論は屁理屈だし」
「だけどさ。そうでも考えねぇと異常な世界とか来ねぇだろ」
「考えなくても来ないけどな」
「まぁいいからいいから。とにかくこんな世界でも頑張ろうぜってことだよ」
「あれ?それって俺に向かっての励ましの言葉?」
「うん、そう」
自殺しそうだったし、と亜里は付け加える。
「ふーん。」
犬江は淡い返事を返した。
それと同時に信号が青になる。
二人は信号を渡り歩き出す。
「うん。異常な俺達の世界ってこと」
「異常な物語か」
「そうそうものがた……ん?物語?」
「いや、俺たちっていう人生の物語って意味で言ってみただけだけど」
「うわぁ厨二だな」
大袈裟に亜里は引いてみせる。
二人はなんなく信号を渡りきる。
「いやいや、さっきのお前の屁理屈も相当な厨二だぞ」
「俺のはいいんだよ。友達を励ますための言葉なんだから」
「あれが励まし?うわぁ笑えねぇー」
「おい、言ってることとやってることが違うぞ。顔が笑顔だし」
またバカな話を始める二人。
二人の向かっている先は自宅なのだろうが、後ろから見るとまるで夕陽にでも歩いているようにも思えた。
これこそ厨二な青春だろうか。
いや、厨二病な男子二人の青春物語。
異常な物語なのだろうか。
適当に書いてみたくて書きました。
作者の黒猫にも事態が掴めません(笑)
まぁあれでしょう。
異常は普通で普通は異常なんだよ!(キリッ
読んでくださった方。
ありがとうございました!