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【短編集】5分後にドキリ 奇妙で不思議な話集めました  作者: 響ぴあの


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全知全能の神になったら

神代かみしろっ!! あんた今日も先生に怒られてたね。掃除当番さぼったらまたおこられるよ」

「うるせー、豊村とよむら

 幼馴染の豊村あいか。中学生にもなって親し気に接するので正直迷惑だ。俺と彼女は家も近く一緒に帰ることが多い。


「最近私のこと、あいかって呼ばないんだね、あっくんが嫌がるから名字で呼んでるけどさ、本当はあっくんのほうが呼びやすいのにぃ」

「別に仲良くもないのに下の名前で呼ぶなんておかしいだろ」

「幼い時から、私たち仲良しだったでしょ」

「中学生にもなって、変に仲良くしていたらおかしいだろ」


 胸糞悪い放課後、俺と幼馴染の豊村はいつもの帰宅する道を通る。豊村はガキの頃からの知り合いだが、俺は距離を取りたいと思っている。豊村はあいかわらず小学生の頃と変わらない距離で接して来る。正直うざい。


 優等生とは真逆の劣等生の俺は、教師に目の敵にされ、濡れ衣を着せられた。財布を盗んだという疑いをかけられ、俺が犯人だという証拠もないまま、俺だということになってしまった。


 問題児というレッテルはそうそう簡単にはがれるものではない。ならば、勲章のように掲げよう。そんな感じで、胸を張りながら田舎道を歩く。俺の家の近くには古い祠があり、何の神様かもわからないのだが、昔から祀られているらしい。たいていは何かが祀られていて、日本人の大半はとりあえず、手を合わせて拝んでおけばいいだろうとか神ならばとりあえず崇めておけなんていう精神の持ち主が多いのだが、俺はとりあえず拝むとか崇めるとか得体のしれないものに対してそういった感情は持たない主義だ。


 俺はその祠のほうに向かって叫んでみる。

「俺は、馬鹿だが、盗みなんてはしないっつーの、山田の野郎死んじまえ!!」 


 豊村しかいないこの田舎道で好きなことを叫ぶ。言論の自由だ。誰にも迷惑をかけずに憂さ晴らしをするというのは滑稽だが、胸糞悪い本人にとっては一番の良薬だ。


 実際、死ねと叫ぶだけで、その人物が一瞬だけでもいなくなってくれたかのような壮快な喜びを感じていた。俺は心がよどんでいるらしい。もう、あどけない純真な気持ちなど残っていないのかもしれない。


「山田を殺せばいいのか?」

 俺は耳を疑った。知らない声が脳に響いたのだ。しかし、周囲を見回しても誰もいない。誰かのいたずらにしては何かがおかしい。豊村には聞こえていないようだった。


「病気でしばらく寝込む程度で許してやる」

 俺の人間としての優しさだったのかもしれないし、得体のしれない声に警戒していたからなのかもしれない。


「了解」


 得体のしれない不気味な声の主は相変わらずどこにもいないが、俺の脳に語り掛けてきた。少し不気味な生暖かい風が俺の頬を撫でた。俺の背筋がぞくっとしたのだが、ケンカじゃ負けない男としてのプライドが恐怖心をひた隠す。


 俺はいよいよ声の存在が怖くなってきて、その場を去ることにした。俺は何も聞いていない、何も知らないと自分自身を洗脳しながら一目散に自宅に帰宅した。


 本当の恐怖は翌日の中学校だった。教師の山田が珍しく休んでいるらしい。あんなに健康そのものだったのに、偶然の一致に俺は内心びくついていた。俺は自問自答した。きっと偶然の一致だ。俺は無関係だ。


 ――あの声の主が犯人なのだろうか? 俺は怖くなった。朝は祠を見ないように歩いて登校した。あれ以来、祠のことが頭から離れなかった。


 そんなことを悩みながらテストを受けていたのだが、やっぱり回答がわからない。俺は優等生ではないし、勉強熱心ではないから問題なんてすらすら解けたためしもない。ため息をつきながら、答案用紙を見つめた。


「100点満点を1度でもとってみたいな」

 心の中で、勉強ができない自分に嫌気がさして、願望を唱える。心の中の声なんて誰にも聞こえないし、願望なんて誰にでもあるものだ。


「100点満点とらせてあげよう」

 という声と共に、不思議なことに、問題の答えが答案用紙に透けて見えるという出来事が起こった。なぜか問題が理解できているのだ。そして、答えが見えたのだ。普通ありえないできごとだった。それは、まるで魔法だ。勉強なんてしていないし、授業もあまり聞いてもいない俺がこんなにサクサク解けるはずがないのだ。しかし、実際問題を解けるという事態が目の前で起きたのだった。


 案の定クラスでたった1人だけの100点という実績を残す。生まれて初めての100点だ。うれしい気持ちになると同時に、クラスでたった1人だけの100点を問題児の俺がとったという事実が存在した。クラスのみんなの驚きと羨望のまなざしを感じて、気分が高揚していた。


「なぁ、100点を取った気分はどうだ?」

 脳に誰かが語り掛ける。他の皆には聞こえていないようだ。


「誰だお前は?」

 心の中で語り掛けてみる。ずっと気になっていた張本人から声をかけてきたらしい。得体のしれない何かと会話をするのは人一倍勇気がいる。


「祠にまつられた全知全能の神だよ。困った人を助けている。世間でいう正義や悪の基準は関係ない」

 謎の男の声だ。成人男性だと思われる。


「なんでも、困った事があったら語り掛けてくれ」

「本当に神なのか?」

「実際100点満点を取らせてあげたじゃないか」

「どんなことでもやってくれるのか」

「私は高齢でな。ねがいはあと1回が限界かな」


 あと1回と言われるとねがいも慎重になるな。

「あのさ、俺の妹ずっと病気で学校を休みがちなんだ。妹を健康な体にしてやってほしい」


 少し間が空く。


「妹の体を治してやった」

「本当か?」


 半信半疑だったが、急いで帰宅すると、普段寝ていることの多い妹が元気そうにしていた。母親もうれしそうにしていて、俺も笑顔になった。


「全知全能の神になれるのか?」

 俺は自分の部屋に戻り、神とやらに問いただす。

 待っていたかのように、神が語りだす。


「神になりたいのか?」

「いますぐじゃないよ、寿命を全うして死んだ後に、神として君臨することは可能かって聞いているんだ」

「可能さ。じゃあおまえを次の神にしよう」

「今すぐ神にならないか? 今、神の力を手に入れればお前はもっと有能な人間になれるだろ? 受験だって簡単に合格できるし、夢が何でもかなうのだぞ」


 甘い誘惑が俺を惑わした。意志の弱い俺はすぐさま誘惑に乗ってしまった。


「生きながら神になれるのか?」

「ああ、なれるさ、実際日本にはたくさんの神社仏閣があるだろ。小さな地蔵も含めたら本当に神はたくさん存在している」

 神が断言するのなら本当だろう。


「じゃあ神になるよ」

 その場で即決してしまった。それがどんなに大変なことかも知らずに。


 その瞬間俺の体は透明になり、実体がなくなった。

 そして、目の前に俺がいる。これは、どういうことだろう?


「悪いな、新しい神様。俺は今日からおまえとして生きることにするよ」

 俺の姿をした神がささやく。


「どういうことだ?」

 俺はあわてて問いただす。


「次の神が見つかったら、神の中身が入れ替わるというシステムなんだ。生きながら神になっているというのは嘘じゃない」

 何? 入れ替わり制だと? 


「でも、俺はどうすればいいんだよ? 体がないじゃないか」

「次の神を見つけて入れ替わるということが必要だ。次の神にふさわしいのは、単純で、世界は自分中心に回っていると勘違いする自信過剰なところがある奴だ。そういう奴は自分が神になることを希望する」


「神のくせに嘘つきかよ。神として慈善事業をするべきだ」

 一応正論を言って神を説得してみた。すると、元神が俺の姿形になって語り掛ける。


「神は楽じゃない。自分のために力を使えないのだ。他人のために力を使うしかなく、また入れ替わることができる新たな人間を探すという長い長い時間を過ごさなくてはいけない」


 そんな皮肉めいたことを言って元神は俺になる。そして、俺は新しい神になったらしい。神は自分へは無力だ。


 そうか、神様は他人のために奉仕するから拝まれているのか。そうだよな、ただで願いをかなえてくれるなんて都合のいい話だ。初詣や困った時だけ祈る人間がほとんどだ。神に選ばれた人間というのは名誉ではなく災難だ。


 俺は人間に戻ることを諦めた。なぜならば、自分以外の人間になっても仕方ないということに気づいたのだ。諦めの境地にたどり着き、チェンジすることの無意味さを感じて俺は祠の中で過ごしていた。すると、祠の前にしょっちゅう来ている様子の豊村が神に話しかけてくる。


「豊村か?」

 俺はつい、声を出してしまった。

「いつもと声が違う、この声って神代?」

「実は、中身が入れ代わったんだよ。信じてもらえないかもしれないけれど、俺は昨日から神になったんだよ。神にはめられたらしい。今は俺の体を元神が使っているんだ」

 ため息交じりに俺は事の全容を話した。


「豊村っていう名字はこの町で有名だよな。ここが村だったときに村を豊かにした神様の末えいっていう話だよな。おまえの力で俺を救ってくれ」

 神なのに人間に救いを求める俺は何もできない、無能で形のない生き物だった。


「伝説では私の先祖が豊かにした村ってことだけどね。あの祠の神様は封印された男っていう話を聞いた事があるの。若い男が昔封印されて、それ以来この村を守ることになったっていうのが伝説なのよ」

「でも、あいつは最初に封印された神ではないらしいぞ」

「神様が入れ代わっているのはありえるのかもしれないね。神代を元に戻してあげるよ」

 心強い本体のある人間の言葉だった。俺には肉体がない。だから、無力なんだ。全知全能の神は自分に対してとても無力だ。


「神代、私と一緒に祠の歴史を図書館で調べよう」


 この町には古い小規模な図書館がある。そこには古い資料も保管されているので、調べることは可能だろう。図書館なんて行ったこともないし、女子と出かけたこともない俺は、はじめてづくしだ。


 資料室で古い文献を調べることにした。

「ここにあったよ。なんだかとんでもない伝説みたい。元々女好きな男が何人もの女性と浮気をしていた。女性たちの修羅場に巻き込まれて女性に殺された。その男をそれでも愛した女が祠を建て、その男を祀った。その女性はその祠と共に一生を終えた」


「バカな男だな。そんなやつに一生入れ込んだ女がいたとはな。というか、あれって最初は神様じゃなかったということか? でも、どうして俺のねがいをかなえられたんだろうな。実際俺の妹が健康になったり、100点満点を取ったり、あいつが全部やってくれたぞ」


「その男を愛した女性が元々魔術のような力を持っていて、毎日祠に魔術らしきものをかけていたという目撃談がある、だって。何かしらの力を持ってしまったのかもしれないね」

「あいつが、何代目かは知らないが、その神の術を受け継いだのかもしれないな」


 豊村を自宅まで送っていると。変な男がこちらにやってきた。どうやら変質者なのだろう。豊村に近づいてくる。目つきもあやしいし、行動も変だ。怖い。男が至近距離に近づいてきた。でも、俺に肉体はないし、神の力の使い方もわからない。目の前にいる人間の一人すら守れないなんて、なんて不甲斐ないのだろう。


「どこかに行って!!」

 怖くなった豊村が叫ぶと、男が消えた。豊村のねがいを俺がかなえたらしい。ということは、本当に心からねがえば、俺はその人のねがいをかなえることができるってことか。


「ありがとう、神代」

「俺、神の力使っちまったか? なんとなくだけど、使い方がわかったような気がする」


 翌日、俺も一緒に学校についていった。俺の本体の無事を確認したかったのもあるし、様子が気になったからだ。普段ならばさぼることができてラッキーだという気持ちだが、今日はクラスのみんなに会えたことがとてもうれしい気持ちになった。元神は俺のことに気づいていないらしい。

 

 豊村は放課後、元神の俺に向かって心から願う。

「私からお願いがあるの、神代の魂を体に戻して!!!」


 その瞬間神である俺の力が存分に発揮されたようで、光が放たれる。俺の魂が体に戻ったようだった。俺は、自分の手足の感覚を確認した。自分の体だ。


「ありがとう。元の姿に戻ったよ。あいかのおかげだ」

 俺はうれしくなり、つい豊村を抱きしめた。

「よかった!!! あっくん」

 豊村も俺に抱き着いてきた。下の名前でつい呼び合ってしまう。幼馴染だからとっさの時は下の名前で呼んでしまった。俺は、たった今自分の思いに気づいた。それは、彼女がいなかったら戻ることはできなかったし、豊村あいかが好きだということだ。


「私、初代神のことを好きだという女性の気持ちが今ならわかるなぁ。好きな人がいなくなったら、悲しいし、執着する気持ちもわかる。チェンジする5分前のときのことを思い出すと未だにどきどきするよ」

「君のおかげだ。ありがとう。俺にはやっぱり豊村しかいないかもな」

「それって告白? あいかでいいから」


 見つめあっていると――


「あーあ、また神に戻っちまったじゃないか。結果うまくいったようじゃないか。抱きしめあう仲になるとはな」

 神の声が聞こえた。


「神になんてなっても、ひとつもいいことなかったぞ」

 俺は、騙されたうらみをぶちまけた。


「そうだろ、全知全能の神って言ってもな、他人に恩恵を与えるだけなんだ。スーパーボランティアなんてつまらないから人間に戻りたくなったんだよ。つかの間の人間生活だったよ」

 ため息交じりの全知全能の神。


「お前は何代目なんだ?」

 ため息交じりの神に俺は問いただす。


「2代目だよ。初代は私として生きているよ。だから、うまくだまされてくれる人間を探していたんだがな。おとなしく祠に戻るとするか」

 俺たちは言われて我に返り、抱きしめあう手を振りほどいた。頬はわずかに赤く染まる。


「知らない誰かのためにいいことをするのが神の仕事だ。そんな仕事やってみたい奴がいるのか? なかなかいないんだよ。自分に何もメリットもないんだ。神ができるきっかけは人間の拝む力だ。それさえあれば、普通の人が神になるのだ。実際私もこの町の住民に崇められているおかげで神を名乗っているようなものだからな。幸せになれ」


 2代目は神に戻った。

 力の使い方は頭脳次第で有意義にもなるし、有害にもなるだろう。


 それ以来、二度と神の声は聞こえなくなった。しかし、あの祠だけは誰かが掃除をしているらしく、誰かが花やお供え物を置いていく。そして、誰かが自身のために手を合わせて祈る。


 俺たちは、あれ以来距離が縮んで、友達以上の関係だ。あの一件以来、お互いに思い合っていることに気づいた。何年思い合っていても、気持ちに気づくのはいつになるかわからない。俺たちはあのタイミングだったということだ。


 時々、祠に向かってがんばれよと手を振る。俺は神の仕事の大変さと理不尽さがわかったので、神社などで願いを一方的にすることは金輪際ないだろう。無償で知らない人のためにねがいをかなえる神が大変だろうから。



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