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勇者に攫われちゃいました ~魔王なお兄ちゃん大激怒~  作者: 鈴木涼


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8

「あっ! やっと見つけた!」

 ストロベリーキャンディーを頬張るメマとアリサの背後から、ノートの声が響いた。


「アリサったら! 勝手にメマを連れて行くなよ!」

「はぁ? アラステア様の像の前にいつまでもいて、メマちゃんが暇そうだったから連れて来てあげただけじゃない!」

「暇だったのはアリサでしょ!」

「うっさい!!」


 途端に騒がしくなった空間で、メマは気にせずストロベリーを頬張り続けている。遅れて合流した勇者とマリアは、頬を支えるメマの可愛い仕草にキュンとしながら、その小さな頭を撫でた。


「メマ、それを食べたら少し付き合ってくれるかい?」

「?」


 ストロベリーを食べながらコクリと頷くメマは、サービス精神旺盛な親父へ別れを告げると、勇者に連れられてとある魔道具店へ入店した。


 街の栄えた場所から少し外れた道にある、寂れた空間。その店では、魔道具だけでなく服やおもちゃも取り扱われており、言わば雑貨店のようだった。


「わぁ、すごい数の魔道具……おもちゃまであるよ」

「不思議な空間ね……」

 珍しく意見を合わせるノートとアリサは、この異様な雰囲気にそわそわとしている。


「ここにある物は全て中古品でしょうか?」

「貴族を中心に売買されている魔道具がこんなに安く売られてるってことは、きっとそうだろうね」


 高価な魔石を原動力とした魔道具は、基本的に庶民には流通していない。しかし使い古された魔道具や、飽きっぽい貴族が早々に手放した品は破棄されるだけなので、こういった店で中古販売を行うのだろう、とノートは語る。


「ねぇユリウス、ここで何を買うの?」

 気になったアリサが勇者へ質問を投げると、「買い物じゃないよ」と笑う勇者は、奥で金の計算をしていた店主に声をかけた。

「やぁ、モーリス」


 勇者の声に反応した老人店主は、金を数える手を止め、懐かしそうに返事をした。

「……おお、アラステアか。久しいのう」

「僕は勇者アラステアじゃないよ、モーリス」

「というか会ったことないでしょ、お爺さん」

 老人の一言目で既に異変に気付いたノートが、諭すように告げる。


「はて……?」

「さてはボケてるな?」

「ノート……老人なんだ。許してやってくれ」


 老人に詰め寄りそうになるノートを宥める勇者は、仲間たちに老人の紹介をする。

「この人はモーリス。僕の昔馴染みだよ。出会った頃からちょっと変なことを言う癖があるけど、物知りなお爺さんなんだ」


 自称齢九十のボケ老人であるモーリスは、勇者ユリウスが子供の頃、迷子になってこの店に辿り着いたときからの知り合いらしい。彼のボケは今に始まったことではなく、様々な場所で変なことばかりを言うものだから、周りの人々は常に彼の言葉を戯言だと流していた。しかし勇者はそんな彼の言葉を信頼しており、困ったときには頼れる存在らしい。


「モーリス、少し聞きたいことがあるんだ」

「はて……魔王に教えるようなことなどあったかのう……」

「どう見たら僕が魔王に映るんだ……!」


 先程までアラステアと認識していた勇者を今度は魔王と言うボケ老人に、優しい勇者もツッコミを抑えられない。

 不思議な老人が気になるメマは、勇者の後ろに隠れてこっそりとモーリスを覗き見ていた。

 すると、メマの存在に気付いたモーリスが「ほぉ……」と物珍しそうに目を細める。


「これはまた、面白いものを連れて来おったな……」

「モーリス、『物』なんて言わないでくれ。この子は人なんだぞ」

「『人』か……お主らにそう見えておるならそれで良い。ところで聞きたいこととは何じゃ?」

 モーリスの意味深な発言をいつものボケだと受け流す勇者は、本題に戻る。


「赤い瞳の人間が住む国とはどこだろうか?」

「赤い瞳じゃと?」

「あぁ、この子の家族がそこにいるかもしれないんだ」


 珍しい瞳を持ったメマの出身地を調べることで、兄について何かヒントが得られるのではないか。おそらくそう考えて、人生経験の多いモーリスに聞くことにしたのだろう。


「昔、どこかの国で宰相をしていたんだろう?」

「そうじゃ。腐った王でのう、役に立たんからわしがほとんどの政務をしておった」

「そのときに世界中の知識を頭へ入れた、と以前会ったとき言っていたのを思い出して、こうして聞きに来たんだ。なにか知らないか?」


 本当かどうか定かでないボケ老人の言葉を信じ、ここまでやってきたのだと言う勇者に、仲間たちは懐疑的な視線を向ける。しかし勇者は、彼がきっと知っていると確信を持った瞳で見つめていた。

 事情と質問を聞いたモーリスは、考える素振りすらせず答える。


「ブラッドフィッシュという小国じゃな。その名の通り魚の血を飲む文化がある国じゃ」

「魚の血ぃ……!?」


 特徴を聞いた仲間たちは、それぞれ「うぇぇ……」「恐ろしいですわ……」と魚の血の臭いを想像し、気持ち悪そうにしている。ただひとり冷静な勇者は、モーリスの回答を真剣に捉える。


「聞いたことがない国だな……この辺にある国か?」

「数百年前に滅びた」

「滅びた……?」

 その言葉に、勇者は目を丸くする。


「最後に王に着いた男が酷い奴でのう……本来なら優秀な弟が次の王位に着くはずじゃったが、自分の罪をその弟に擦り付け、国から追い出して王に着いたんじゃ。そのせいで、当時から頻発していた他国との戦争に敗北し、国は早くに潰れてしまった……」

「ふーん。何だか詳しいのね」


 先ほどまでのボケ老人とは思えない知識に、アリサが何となく口にする。するとモーリスは「そりゃそうじゃ」と当たり前のように言葉を続けた。


「わしが宰相をしておった国というのが、そこじゃからのう」

「「「……は?」」」

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