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勇者に攫われちゃいました ~魔王なお兄ちゃん大激怒~  作者: 鈴木涼


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エピローグ


 愛する妹がすでにアラスタ王国を去ったとは知らないルシファーと四天王は、メマの乗る船が出港してから少し遅れて、転移魔法でソロモンへとやってきた。


「こんなに大所帯では変装している意味がありません」

 不満げなヴァイスが眉をヒクつかせながら呟くと、四天王たちは皆ヴァイスを見た。


「五人って大所帯なの〜……?」

「この程度の人数なら冒険者グループに見えるんじゃなぁい?」

「一人一人の個性が強すぎるんですよ。できるだけ喋らないでください」

「無茶なこと言わないでよ~……」


 黙って会話を聞いていたルシファーとカリオスは、まるで自分に個性などないかのように文句を言うヴァイスを、横目に見ながら同じことを口にする。


「お前も大概だろう」

「嗚呼……無様な魔の者よ……」


 光に弱いからと、まだ開発されたばかりで世間に浸透しきっていない真っ黒の日傘を差す黒髪黒服メガネは、どう見ても浮いている。しかし自分のことは棚に上げるヴァイスは、

「とにかく、あまり目立たないでくださいよ」

そう言って、今日の目的である勇者とその仲間たちの姿を探しはじめた。

 もういないのだが。


「勇者の姿はなんとなく覚えているが、その仲間についてはよく思い出せん。存在感が無さすぎた」

「それなら〜……聞き込みします〜……?」

「聞き込みはできません。正体に気付かれる可能性があります」

「え〜……」

「メマの救出に来ていると相手側に悟られるわけにはいかないんですよ」


 メマに何をするか分かりませんから、と言うヴァイスの言葉で、地道な作戦に不満を感じていたネイオンは口を噤む。


 足で地道に手掛かりを探す五人だったが、一人ずつ手分けをして探しても、探索魔法で上空から勇者らしき強い気配を察知しようとしても、すべて空振りに終わってしまう。そのせいで、ルシファーの苛立ちは段々と強くなっていた。


「そもそも、なんで夜しか動けない動物を操るんだ、お前は。人間は明るい時間の方が活発なのだから、その時間に動ける奴を操ればいいものを……」


 日も暮れ始め、苛立ちから部下に当たるルシファーに、ヴァイスもまた苛立ちを感じ「知りません」と冷たく返す。


「神の声をよく聞くのです……メマは選ばれし神聖な子供、神が必ずやお守りしているはず……」

 睨み合う二人を宥めようと間に立ったカリオスが、笑ってしまうほどの見当違いな言葉を放つが、鬱陶しがられるだけでルシファーとヴァイスには届かない。


「嗚呼、神よ……なんと哀れなことか……」

 愚かな二人を見ながら首にかけた十字架を握るカリオスを、ネイオンは面倒そうな瞳で見つめていた。そして、すでに諦めた様子で発言する。


「もしかして、王都じゃなくて別の街にいるんじゃない〜……?」

 ネイオンの声に、不機嫌だったルシファーとヴァイスは途端に冷静になる。


「確かに、我々を欺こうと逃げた可能性も少なくありませんね……もうこうなったら、見つかるまで周辺を探すほかありません」

「それなら早く次の街へ行くぞ。どうせ遠くへは行っていまい……一番近い街へ行けば見つかるだろう」

「それなら隣町へ……」


 次に向かう街の候補を上げようとするヴァイスと、早く妹の無事を確認したいルシファーが話を進めていると、先ほどから会話に参加していないラブが、とある店の前で立ち止まっていることにネイオンは気が付いた。


「ラブ~……何してるの〜……?」

 ウィンドウショッピングでも楽しんでいるのか、とラブの方へ歩み寄るネイオンは、ラブが釘付けになっている店の外壁に視線を移すと、なぜか同じように釘付けになった。


「……やっぱりそうよねぇ?」

「……うん……多分これはね〜……」

 意味深な会話をしながら同じ場所を見つめる二人に、ヴァイスがため息を吐きながら近寄る。


「お前たち、何をしているんですか。買い物なんてしませんよ」

 やはりウィンドウショッピングだと思い注意するヴァイスに、二人は微妙な表情を浮かべる。


「いや〜……う〜ん……」

「なんですか、いったい?」

 なんとも煮え切らない返事をするネイオンに、ヴァイスは首を傾げる。


 ルシファーも、愛する妹が攫われたというのになんて呑気な……と呆れた様子で歩を進める。

「おい、お前ら……」

 今にも怒りのオーラが漏れ出しそうなルシファーが呼びかけると、静かだったラブがようやく口を開いた。


「あのぉ、これってメマじゃないですかぁ?」

「「……は?」」


 呑気な声で壁を指差すラブに、ルシファーとヴァイスは声を合わせる。そして一目散に駆け寄ると、ラブの指差す壁を見た。


 その少し古びた店の外壁には、様々な衣装に身を包む、メマの姿が飾られていた。魔王が血眼になって探す、愛する妹メマとの再会だ。


「…………メマ!?」

 実物ではないが、予想外の再会に思わず声を漏らしたヴァイスは、ハッとして口を手で覆うと、意外と静かなルシファーに視線を移した。

 ルシファーは大口を開けて固まり、動く様子はない。


「これは……よほどショックだったんですね……違う意味で……」

「思いのほか楽しんでるしね〜……」

「まぁよく考えたら、メマってチョー可愛いしぃ、虐めようなんて思わないわよねぇ」

「いくら我々を意味なく敵視する人間でも、小さな子供には手を出さないということですね。それなら尚更メマを誘拐した理由に説明がつきませんが……」

「メマのこと、人間だって勘違いしたんじゃな〜い……?」

「ありえるぅ!」

「それはこの間、魔王様と『ありえない』と結論しましたが……メマの様子からしてその結論も撤回した方が良さそうですね」

「嗚呼……まるで神の生き写しのようだ……」


 一人、美しすぎる魂を持つメマを神聖視してしまった鬼の男が何か言っているが、固まるルシファーに構わず、四天王たちは様々な臆測を飛ばし合った。


 メマは人間の国を楽しんでいるのではないか、勇者たちと仲良くしているのではないか、もはや兄の元へは帰りたくないのではないか……。ルシファーの背中にグサグサと刺さるような憶測を飛ばす四天王の声に、段々と体の硬直が溶けてきたルシファーは、静かに震えはじめた。


「そ……そんな……わけ……」


 人間たちに気付かれないようにと抑えていたオーラを、ユラユラと溢れさせるルシファーに、一緒になって根拠のない憶測を飛ばしていたヴァイスは焦った様子で宥めようとする。


「お、落ち着いてください魔王様……!」

 人間たちに聞かれないよう小声で荒ぶりかけたルシファーを鎮めようとする。しかし、小声では届かない。


「そんな……わけがぁ……」


 自分を兄だと慕うメマが自ら進んで勇者たちと共にいるとは到底信じられないルシファーは、制御などできないまま、これでもかと感情を溢れさせた。


「そんなわけないがろうがあああああああ――っ!!」


 魔王の慟哭のような叫びに、王都は再び混乱状態と化す。


「メマは騙されているんだ!! そもそも楽しんでなんかない!! 見ろこのつまらなそうな顔を!! 俺が恋しくて仕方ないという顔だろうが!! 俺の妹で遊びやがって許さねぇぞクソ勇者あああ!!」


 人目も憚らず早口で、そして耳を劈くほどの大声量で反論の声を上げるルシファーに、四天王は耳を塞ぎつつ励ましの声をかける。


「やぁん! 怖いけどぉ、必死なところもか・わ・い・い」

「魔王様〜……すごく目立ってます〜……もういろいろバレそうですよ〜……」

「嗚呼、これもまた神の思し召し……」

「お、落ち着いてください!! 魔王様!! 一旦静かに……あー!! うるさい!! 黙れ!!」


 鎮める気があるのかないのか、好き勝手に口にする四天王たちのせいで、ルシファーの怒りは収まらない。なんだか見覚えのある顔が店内からこちらを覗いているのも、ルシファーの怒りを逆なでした。


 結局、ルシファーが再会したのは画像越しのメマだった。


「メマ……待っていろ……必ず俺が助けに行く……絶対にだ……絶対……お兄ちゃんが助けに行くからなぁ――っ!!」


 画像に向かって宣言する男ルシファーは、メマのたったひとりの兄である。


 残念ながら、感動の再会にはまだまだ時間が必要らしい。

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