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勇者に攫われちゃいました ~魔王なお兄ちゃん大激怒~  作者: 鈴木涼


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 突然の大声に驚いたメマがビクッと体を跳ねさせると、我に返ったヌラは再び肩をすぼめる。


「あっ……その……す、すみません……本当にすみません……」


 初対面の子供を怖がらせてしまった……と後悔する気持ちが滲み出た青い顔で、ヌラは何度も頭を下げた。

 ヌラの瞳には、恐ろしいほどに愛らしいメマが、目が潰れるほど発光した天使にしか映らなかったようだ。恐らく、メマの頭上に天使の輪っかのような幻覚でも見ていたのだろう。


「おいヌラ、突然そんな大声出したら体に悪いぞ」

「つ、つい……天国かと思ってしまって……」


 一種の狂気ともいえるヌラの叫び声にも動揺せず心配する夫に、体を預けたヌラはメマの放つ輝きに当てられ、フラフラと地面へ崩れ落ちた。


「お、おい大丈夫か……」

 ジャックのらしくないアワアワとした態度と、メマに過剰なまでに反応したヌラの様子で、一部始終を見ていたアリサが勘づいたように呟く。


「報告……」

「……どうしたんですか?」


 巷で流行りの名探偵のように鋭い瞳で呟くアリサに、きょとんとしたマリアが問いかける。すると、アリサはそのまま目の前の夫婦へ確信的な質問を投げた。


「……ねぇ、『実家に報告』って何の報告に行ったの?」

「「……っ!!」」


 アリサの問いかけに、歪な夫婦はわざとらしく目を泳がせた。もちろん名探偵アリサはそんな二人の様子を見逃さない。


「今日のヌラは何だか情緒が不安定に見えるのよね……。それに、太れない体質だなんてよく言ってた割には、お腹周りに脂肪が付いたんじゃない?」

「……言われてみれば、いつものヌラさんなら可愛らしい子供を見てもあそこまで声を張り上げたりはしませんわ。興奮するヌラさんに対するジャックさんも、いつもなら笑って放置するところですのに……」


 この女三人は普段から仲がいいのか、一人の異変を目ざとく分析し、何か隠しているのではと疑っている。

「「「ま、まさか……!!」」」

 そしてついに、この場にいる皆がジャックとヌラの秘密に気が付いた。


「あんたたち……出来ちゃったのねええ!?」

「「……はい」」


 ――そう、アリサの言う通り、ヌラの腹の中にはジャックとの愛の結晶が眠っているのだ。

 夫婦なのだから『出来ちゃった』という表現はおかしいだろう、と普段のノートなら冷静なツッコミを入れたのだが、あまりの衝撃でそんな気は回らないらしい。


「お、男の子!? それとも女の子!?」

 祝いの言葉よりも先に、自身の興味を満たす質問を投げかけている。


「なんで言わなかったんだ! おめでとう! 名前は決まってるのか!?」

「待って……お祝いなんて何も用意してないわ……! こういうときって何を贈ればいいの!?」

「どどどどうしましょう! まずはお腹の中の子の幸福を祈るべきでしょうか……!?」

「わ、分かったから落ち着けよ……。俺のときより動揺するなって……」


 騒ぐ勇者一行に、ジャックは若干引き気味である。夫である自分が妻の妊娠を知ったときよりも、彼らの方が遥かに動揺していることで、冷めてしまったようだ。

 そんな騒がしい空間で恥ずかしそうに頬を染め俯くヌラと、どうにか皆を落ち着かせようとするジャックの目の前に、この場で唯一まともなメマが近付いた。


「おう、メマ。どうした? こいつらが怖くなったか?」

 興奮状態の勇者一行にメマも引いているのだろう、とジャックが声をかけると、メマは大きな瞳でヌラの腹を見つめた。


「…………」

「か、可愛い……メマちゃんって言うのね……」


 黙って腹を見つめる何を考えているのか分からない子供に、ヌラは変わらず胸をときめかせている。

 すると、メマは突然ヌラの腹に手を当て、

「……なにか入ってるの?」

と問いかけた。

 純粋な少女の質問に、ジャックは腰を下ろし簡単に教える。


「赤ん坊がいるんだ」

「赤ちゃん?」

「あぁ、嬢ちゃんより遥かに小さい赤ん坊だ」

「メマよりちっちゃい赤ちゃん……」


 感慨深そうに呟くメマは、僅かに膨らむヌラの腹部に興味津々である。


「……かわいい」


 小さな自分よりも遥かに小さなその存在に、幼いメマは胸があたたかくなるのを感じた。そして、メマはその小さな魂を抱き締めるようにヌラの腹に抱きついた。

 メマの愛らしさに昇天しかけているヌラに構わず、まだ眠るその魂に、

「かわいいねぇ。ちっちゃいねぇ」

と声をかけ続けるメマに、皆は同様のことを口にする。


 君も可愛いよ――と。


 ヌラの妊娠からメマの愛らしさに意識が逸れたことで、ようやく落ち着きを取り戻した勇者一行は、改めてヌラとジャックへ問いかける。


「今は何ヶ月なのですか?」

「三ヶ月です……」

「手紙でもやり取りしてたって言うのに、報告が遅いんじゃない?」

「ご、ごめんなさい、アリサちゃん……会ったときに直接報告したくて……」


 女たちからの尋問とも言える質問にオドオドと答えるヌラを守るように、夫のジャックが寄り添い「ちょうど言おうと思ってたんだよ。アリサのせいで報告する前にバレちまったってだけで」と言い訳している。


「アリサのせいだよ。なんか過剰に言うから……」

 騒いでしまったことを恥ずかしく思うノートは、気まずそうにアリサに責任を擦り付ける。


「はぁ? ノートだって慌てて性別聞いてたじゃん!」

「せ、性別は聞くでしょ! 普通に気になるし!」

「じゃあアンタも同罪じゃない!」

「アリサと一緒にしないでよ!」


 いつものようにアリサとノートの言い争いが始まったところで、勇者は申し訳なさそうに口を開いた。


「ごめん。僕たちも驚いてしまって……とにかく、おめでとう二人とも」

 自身の取り乱しように謝りながら祝福の言葉を告げると、愛し合う夫婦は照れ臭そうに「ありがとう」と微笑んだ。


 そのあたたかい家族の光景に、表情乏しいメマも頬を染める。メマの目には、幸福な三人家族がすでに見えているのだ。

 まるい頬を染めて赤ん坊の眠る腹部を見つめ続けるメマを、そわそわと見ていたヌラは、やっとのことで「あのぉ……」と切り出す。


「……ところで、そこの可愛いお子さんは……ユリウス様の……?」

 子供ですか? と続けたい気持ちを必死に我慢している様子のヌラだったが、考えは筒抜けである。


「ヌラの場合、本気なのか冗談なのか分からないな……」

 全く夫婦二人揃って……とため息を吐いた勇者は、忘れていたメマの紹介をした後、一連の事情を説明した。


「そ、そんな……こんな小さな可愛い子に……酷いです……」


 勘違い勇者の説明から魔王の所業を想像したヌラは、メマへの同情からか涙ぐみ、体を震わせている。自身が母という身になったことで、メマやその家族の心情を想像すると恐ろしくて堪らないのだろう。

 もちろん、目の前の友人たちがメマを家族から引き離した元凶であるなどとは微塵も思っていない。


「だから、明日はメマを連れて教会に行こうと思ってるんだ」

「私が以前お世話になっていた教会なので、協力を仰ごうと思っていますわ」

「そうなんですね……」

「きょーかい?」


 勇者とマリアの発言で明日の予定を初めて聞いたメマは、以前も聞いた気がする理解不能な単語を二人に聞き返す。すると、マリアが優しい口調で答えてくれた。


「教会は神のお言葉を理解し、教えを学ぶ場所です。常に人々の拠り所となり、災害があったときには避難所としても使われるのですよ。孤児院も併設しているので、メマさんとお年の近い子供たちもたくさんいますわ」


 教会、それは神を信仰する者――神官たちが建てた白い巨塔。塔には人々が祈りを捧げる聖堂だけでなく、身寄りのない孤児を受け入れ保護する孤児院も併設されており、建物の周りには神の愛する花々が惜しみなく咲き誇る。その美しい環境は、神を信じる民たちの癒しの場としても名高い。


 誰でも足を踏み入れることができる教会は、信仰心のない者も快く引き受ける、正しく神の深い御心のような場所なのだ――と、鬼人カリオスから聞いたことがあるのをメマは思い出した。


「教会は神の社なのですよ」

「?」

「安心してください、メマさん。教会なら、きっとお兄様の情報もありますわ」


 不思議そうに首を傾げるメマへ微笑むマリアだが、教会にメマの兄の情報などないことは分かりきっている。

 もはや清々しいほどに真実を見誤っている彼らに、メマは「変なの」と頭の中で呟くだけだった。

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