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勇者に攫われちゃいました ~魔王なお兄ちゃん大激怒~  作者: 鈴木涼


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11/25

10

 時間はメマがまだ眠る夜明け前へと遡る。

 といっても、ダークネスは暗闇に包まれているため朝も夜もない。

 魔王ルシファーは充血した目をガン開きにして、広いベッドで横になっていた。


「メマ……」

 ルシファーのメマを想う気持ちは一分毎に増え、もはや心臓は爆発しそうである。『おかしくなる前に一度休んでください』と部下に言われ、仕方なしに布団に入ったルシファーだったが、妹が攫われ行方不明という状況で眠れるはずはない。

 ルシファーの頭の中は愛する妹でいっぱいで、懐かしく美しい記憶まで思い出させてしまう。



 十年前のある日、ルシファーが人間の気配を感じ、ひとり森を偵察していたときだった。どこからともなく感じる純粋な気配に誘われるように森の奥へと進むと、人間の遺体を発見した。

 遺体はまだ死んだばかりで、自分と同じ赤い瞳をしていることから、恐らく人間の頃の同族だろうとルシファーは推察する。


 魔族となってすぐに母国が滅びたことを知ったルシファーだが、自身を裏切った者が存在した母国の人間に興味などなかった。さらに数百年という時が経ったことで、この日まで赤い瞳が同族にのみ遺伝するものだということすらも忘れていた。


 大して思い出したくもなかったことを思い出してしまい、ルシファーはあからさまに不快感を表情に出す。そのとき、遺体の傍らに布で包まれた小さな何かが転がっていることに気が付いた。

 先程から感じている純粋な気配の正体がそれであると確信し、ルシファーは跪き、ゆっくりと布を剥いだ。


 ――すると、中には小さな小さな赤ん坊が、更に小さな寝息を立て眠っていたのだ。

 赤ん坊はルシファーの邪悪なオーラに恐れることなく健やかに眠っているが、その小さな体ゆえに、魔族化は通常よりも早く進むだろうとルシファーは考える。しかし幸いにも、赤ん坊はまだ美しい人間の魂をしていた。


(迷い込んでからあまり経っていないようだ……。赤ん坊を連れこんなところにやってくるとは、魔物に襲われ逃げでもしたか)


 遺体を横目にまだ生きている赤ん坊を抱き上げると、ルシファーに抱かれた僅かな衝撃で、赤ん坊はパチリと目を開いた。


「うおっ、突然起きるな」

「……?」


 唐突に目覚めたことに驚き、赤ん坊にしても意味の無い注意をしたルシファーを、赤ん坊は不思議そうに見つめた。


「う……?」

「…………」

「うゆ~」

「……お前、泣かないのか?」


 暗く不気味な森林で知らない男に抱かれているというのに、一向に泣き出す気配のない赤ん坊。それどころか、好奇心旺盛なのか、ルシファーに向かって小さな手を伸ばしている。


「あぅ!」

 ペタッ、とその手がルシファーの頬に触れると、心が荒みきっていたこの男の胸はじわりとあたたかくなった。


 自分と同じ赤い瞳で生まれ、すぐにダークネスへと迷い込み、もうじき魔族となってしまう哀れな魂。今は穢れなきそんな赤ん坊に、ルシファーはなぜだか目頭が熱くなるのを感じる。


「……俺が怖くはないのか」

「うー?」


 ペタペタと無遠慮に触れてくる赤ん坊の純粋な眼差しに、遂に胸を打たれたルシファーは、気付けば赤ん坊を城へと連れ帰っていた。



 ――メマとの出会いを思い返していると、いつしかルシファーの視界はウルウルとボヤけていた。今にも雫が溢れそうな威厳のない瞳は、もはや魔王というよりただの兄である。


「魔王様ぁ、もしかして泣いてるんですかぁ?」

 ひとりメマを想うルシファーの背後から、嫌に色気のある女の声がルシファーの耳を刺激した。


 サキュバス、ラブである。ノックもなしに魔王の寝室へ入り、ベッドに上がり込んだようだ。彼女に耳元で囁かれたら、普通の男なら一瞬で色香に正気を失うが、シスコンのルシファーには効果はない。


「気持ち悪いことをするな、ラブ」

「やだぁ、なに想像したんですかぁ? 魔王様のえっち〜」

「その乳もぎ取るぞ」


 勝手に寝室へ入られて苛立つルシファーが黒いオーラを溢れさせるが、マイペースなラブが怯むことはない。広いベッドで横になるルシファーにぴったりと寄り添い、自身の武器である肉体をこれでもかと押し付けている。


「離れろ、不快だ」

「嫌ですぅ。魔王様の精気を吸うまでは離れませぇん」


 メマを攫われ心に余裕のないルシファーの眉間はピクピクと痙攣し、黒いオーラは今にも魔法を暴発させ、寝室を破壊しそうな勢いで漏れ出ている。


「もう、魔王様ったらぁ、そんなに怒らないでくださいよぉ」

 さすがに身の危険を感じたラブが渋々と体を離すと、ルシファーは寝不足で倦怠の感じる体を無理やり起こし「何の用だ」とラブへ質問した。


「一応朝だから起こしに来たんですよぉ」

「……そうか」

「魔王様、隈が酷いですねぇ。やっぱり眠れなかったんですかぁ?」


 不機嫌なルシファーに不躾にも話しかけ続けるラブは、弱ったルシファーから如何にして精気を吸い取るかを考えているようで、舌なめずりをしている。強く気高い魔王の精気を吸いたくて堪らない、これはサキュバスの性である。


 そんな意図に素早く気が付いたルシファーは、ため息を吐きながらラブに注意する。

「全く……お前は欲望に忠実すぎる。少しはメマの心配をしろ」

「え~? してますよぉ」

 しかし欲望塗れのラブの心には響かず、ただブリブリするだけだった。


 そうしてルシファーが「現四天王最強がこの女でいいのか……」とさらに大きなため息を吐いたとき、寝室の扉にノックの音が響いた。


「魔王様、お目覚めでしょうか。ご報告がございます」

「入れ」


 ルシファーの入室許可の声で扉が開くと、ノックの主であるヴァイスが寝室へ足を踏み入れた。

 ヴァイスはベッドの上で座り込むルシファーとラブの姿に気が付くと、まるで汚らしいものでも見たかのように表情を歪める。


「……幻滅しました」

「なんだと?」

「あれほどメマのことで私にダル絡みしたくせに、私がメマについて調べている間、ご自分はサキュバスと楽しんでいらしたんですね。幸せな人生で羨ましいです」

「おい!! 変な想像をするな!!」


『幻滅』という言葉通り、ヴァイスの表情にはあからさまな嫌悪感が滲み出ている。その嫌悪感は、堂々と態度にも表れていた。


「……もういい。それより報告とはなんだ」

 面倒になり否定を諦めたルシファーが話をそらすと、ヴァイスも先ほどまでの嫌悪を仕舞い込み、いつもの冷静沈着な様子で攫われたメマについて新たに得た情報を報告した。


「メマですが、少なくともこの近辺にはいないようです」

「なんだ、意外と早く調べがついたんだな」

「夜のコウモリは活発ですから」


 小さな体で空を飛び、どこにでも侵入できるコウモリは、光に弱いため夜や人間が寝静まった時間を中心に行動する。

 ルシファーが寝室に籠っている間、ヴァイスは夜型であるコウモリたちをダークネス周辺の人間の国へ送り込み、メマの捜索を進めていたのだ。


「周辺の国は全て捜索しましたが、どの国にもメマの情報はありませんでした」

「ふん……勇者め、いったいどこに逃げたんだ……」

「魔王様、このままがむしゃらに探しては時間がかかりすぎます。何か範囲を絞れる情報をお持ちではありませんか?」


 ヴァイスの問いかけに、ルシファーは顎に指を置いて考える。


「例えば、メマを攫ったという勇者ですが、何か覚えている特徴などあればお教えいただければ。瞳の色や髪色が分かれば些か探しやすいのですが」

「瞳の色……確か、淡い青だった気がする。髪は黄金色だ」

「そうですか……」


 勇者の瞳の色を聞いたヴァイスは少し考え、やがて「でしたら……」と何か閃いたように口を開いた。


「メマが連れて行かれたのは東側諸国の可能性が高いですかね。例外はありますが、青い瞳がベースの国は東側諸国が多いです」


 ヴァイスのこの見立て通り、メマのいるアラスタ王国は地図で言う東側諸国にある。初代王であるアラステアの力と資質あってか、アラスタ王国は戦争という力技を極力使うことなく周辺の小国を取り込むと、数百年の時を経て大国となった。


 そんな海沿いから広がった大国、アラスタ王国を中心に、他五つの国が密集した諸国が東側諸国である。

 一方、ダークネスは最北端寄りの北側に位置しているため、冬は恐ろしく寒い。未知の生き物ゆえに寒さを感じない魔族は、寒さが際立つこの土地で、人間を遠ざけて暮らしている。

 そんな北側ダークネスと東側アラスタ王国の距離は、簡単に言えばとんでもなく遠い。


「東側諸国か……少し遠いな」

「少しどころではありませんが、勇者に任命された者は母国の王から空間移動装置を支給され、装置の転移設定は基本的に旅を始めた街になっているはずです。つまり、勇者が東側諸国に多い青い瞳の持ち主なら、今回使った空間移動装置は東側諸国のどこかへメマを転移させたのではないかと」

「一理あるな。若干博打的なところも否めないが……」


 大事なことを忘れているルシファーは、ヴァイスの仮設に真剣な顔で耳を傾ける。愛する妹を想うあまり、ルシファーの脳は余計な働きを休んでいるようだ。


「そのまま東側諸国に絞って捜索を進めろ」

「承知しました」


 着々とメマの居場所へ近付いている魔王軍だが、二人の真面目な話に茶々を入れる者がこの場に存在した。

 ラブだ。


「瞳って言ったらぁ、メマと魔王様って全く同じ瞳の色ですよねぇ」


 せっかく魔王と四天王らしい会話をしていたというのに、空気も読まず話を切り替えるラブに、二人は苛立ちを隠さない。

 しかしその苛立ちに気付かないラブは、ルシファーへ顔を近付け「すっごくあかぁい」と不躾にも瞳を覗いている。そんなラブに、ルシファーは目潰ししたい気持ちを必死に抑える。


「魔王様もメマも元人間って言ってたけどぉ、こんなに綺麗な赤い瞳を持ってる人間、アタシ初めて見たのよねぇ」

「……確かに」

 ラブが何も考えず心のままに放った言葉に、ヴァイスは何かに気付いた様子で呟いた。


「魔王様とメマは同じ国の血が流れているのですよね?」

「だったらなんだ」

「もし勇者がその名の通り善良で、メマを人間と勘違いして国へ帰してやろうと考えているとすれば……こちらがわざわざ探し出さなくとも、その国で待ち伏せていればいずれ勇者はメマを連れて訪れるのではないでしょうか。珍しい赤い瞳を受け継ぐ人間の国というのは数が限られそうですし」


 何とも鋭い見解をするヴァイスだが、残念ながらその国、ブラッドフィッシュは既に滅びている。


「そんな国はとっくの昔に滅びた」

「あぁ……そうなんですか。それなら難しいですね」

「魔王様とメマの国ってぇ、なんで滅びちゃったんですかぁ?」


 真剣にメマの居場所を探ろうとするヴァイスに反し、ラブはやはりメマの安否よりも自身の興味の方を優先する。


「知らん。戦争にでも負けたんだろ。魚の血を飲み続ければ長寿になるとかいう迷信を信じ続けるような変な国だ、どうせすぐに滅びるとは思ってた」

「なにそれぇ! 気になるぅ」


 魚の血の臭さを知らないラブが途端に興味を持ったが、元から長寿である魔族には不要なものだ。恐らくラブは五千年ほど伸びると想像しているのだろうが、そんなわけはない。


「くそまずいぞ。あと迷信は迷信だ。少なくとも、魚の血を飲み続けて長寿になった人間を俺は見たことがない」

「なぁんだ。嘘だったんですねぇ」

「あぁ、あの国の人間は皆、ただ無意味に死ぬほどまずいものを飲み続けていただけのバカばかりだったということだ。メマがあの時代に生まれていなくて本当によかった」


 残念そうなラブを尻目に心の底から安堵するルシファーだが、「……まぁ、一人だけ怪しいのがいたがな」と意味ありげなことを小さく呟く。人間だったころ世話になっていた男を、薄らと思い出したのだ。


 その男はなぜだかいつまでも若い姿のままで、ルシファーは幼い頃から奇妙に思っていた。その男以外の人間は通常通り老いていくため、魚の血が原因なのではなく、もっと根本的な体の作りが普通の人間とは違ったのではないだろうか。

 そんなことを考えたルシファーだったが、どうせもう死んだだろう、と一瞬で考えるのをやめた。


 はじめてルシファーが自身の国の末路を口にしたことで、ヴァイスもまた興味を惹かれたらしく、密かに聞き耳を立てている。しかし、ヴァイスが興味惹かれたのは主の母国についてではなく、まるで一切の関係もないとばかりに吐き捨てるように語る、その口調だった。


「……意外ですね、魔王様が母国に対してそこまで他人事とは。人間に恨みはあっても、母国への愛は多少なりともあるのだと思っていました」

「そんなもんあるわけないだろ」

「メマがその証拠ではないですか。母国の血が混じったメマを今まで大事に育ててきたのは、貴方に母国への情が残っていたからでは?」


 ヴァイスの指摘は最もだ。自身と同じ母国にのみ通ずる瞳の色をした子供を、ここまで溺愛しているのは何か意味があるのだと思わざるを得ない。

 有り得ないだろう、とルシファーは思いながらもなぜだか強く否定できずにいた。――だが、その理由はすぐに分かった。


「……そんなつまらん情なんかじゃない」

 小さく否定するルシファーの声には、母国の情などではない、自身が昔抱いた小さな赤ん坊への想いだけが強く込められていた。


「……あの国の血が混じったメマに多少の親近感を抱いたのは事実だが、それだけだったら見捨てていた。メマを見捨てなかったのは、あの純粋な瞳で、小さな手で……汚れきった俺の心に容易く触れたからだ」


 ――昔、信じていた人間に裏切られた男がいた。

 その男は王族で、国のため、そして民のため常に清らかな人生を生きてきた。

 だが、裏切られ国を追放されたことで、男の心は黒く染まり魔族となる。元人間という身でありながら人間に恐れられる王となった男は、きっと寂しかったのだろう。


 どんなに魔族の仲間が増えようとも、どんなに人間を恨もうとも、根本である清らかさはなかなか消えるものでは無い。

 その清らかさを殺す日々を送っていた魔王に、純粋で、魔王の芯の部分だけを見つめる赤ん坊が現れたのだ。それは瞳の色など関係ない、メマの真の純粋さなのである。


「……俺はメマの瞳の色が赤くなくても、今のように愛していただろう」


 赤い瞳ではない。今は少女となったあの赤ん坊そのものを、魔王ルシファーは骨の髄まで愛しているのだ。


 思いのほか真面目な話になってしまった……とルシファーが少し恥ずかしそうに部下に視線をやると、

「重すぎてしんどいんですが」

「魔王様ってぇ、メンヘラぁ?」

と部下二人が苦い表情であからさまに引いている。


「空気を壊すな空気を」

「申し訳ありません。重すぎて胃もたれがしてしまって……」

「お前が聞いたんだろうが」


 苛立ちを込めた声で無礼な部下を窘めるルシファーに、部下ヴァイスは「それにしても」と話を戻す。


「勇者がメマを攫った理由だけは理解できませんね。今までの勇者は魔族の子供を攫ったことなどありませんし、やはりメマを人間と勘違いしているのでしょうか?」

「さぁな。そもそも、勇者がメマを国へ帰そうなどと思うような善良な者のはずがないだろう。確かに妙な勘違いをしていたような発言はあったが、狡猾な人間のことだ。メマを利用して俺を謀ろうとしたんだろう」

「確かにそうですね。人間が善良などと寝ぼけたことを言ってしまいました。反省します」


 全ての人間を外道のように思うルシファーの言葉に、同じく人間を悪辣なものだと認識しているヴァイスはすぐに納得し、素直に自身の言動を謝罪した。


「やはり東側諸国を捜索する方向でいくしかありませんね」

 主の言葉を疑う様子のないヴァイスが言うと、ルシファーも同調する。


「そうだな。下手に裏をかく必要はない。あのユリウスとかいう勇者も、その仲間も、あの程度の力ではどうせメマに傷の一つも作ることはできまい。着実に情報を掴み、より確実性の高い方法でメマを救出する」

「おっしゃる通りです」

「ていうかぁ……」

「おい、今度はなんだ……」


 二人の話を退屈そうに聞き流すラブは、問答無用に話題を変えようとする。メマの救出について話しを進めたいルシファーは、何度も邪魔してくるラブの間の抜けた声に不快感を露わにする。


「魔王様の母国の話が出たついでに聞くんですけどぉ、『メマ』っていう名前はどういう意味があるんですかぁ? 母国語に関係するのかなぁってずっと思ってたんですけどぉ、母国への情が薄いなら違うのかなぁって~。変な名前ですよねぇ」


 ルシファーの胸に容赦なく突き刺さる『変な名前』という強烈なワードを放ったラブは、自身がどれほど酷い言葉を放ったか気が付いていない。


「おい、変って言うな。可愛いだろうが」

「フッ……」

「ヴァイス」

「申し訳ありません」


 メガネを上げながら笑ったことを謝罪するヴァイスだが、ルシファーが微妙に傷付いた顔をしているため、口元が緩みそうなのを隠しきれていない。

「確かに、名前の意味は気になりますね。珍しい響きですし」

 誤魔化すようにヴァイスもラブの疑問に同調すると、ルシファーはまるで恋バナをするみたいに頬を染めた。


「……母国の言葉ではないが、人間の国の言葉を使おうとは考えた。だが、たくさんの本を読み漁って意味も分からない言語まで読み調べたが、最後は結局メマの特徴からその名に決めたんだ」

「特徴、ですか……私には名前に関係するようなメマの特徴はあまり思い浮かびませんが、いったいどんな意味なんですか?」

「豆だ」

「……豆?」


 ポカンとするヴァイスは、自身の知識を総動員して『豆』と『メマ』の関係性を思案する。メガネは白くなり、レンズに彼の『豆』に関する語彙が浮かび上がるようだ。


「豆みたいに小さかったから、『マメ』を反対にして……『メマ』。今も小さくか弱いメマにぴったりの名だろう?」


 これでも十日は考えたんだぞ、と付け足すルシファーは、指をツンツンと照れくさそうにしている。そんな魔王に、とうとう堪えきれなくなったヴァイスは、寝室中に響くほどの声を上げた。


「ハッ!! クソセンス!!」

「……今すぐ殺してやる」


 冷静沈着なイメージを吹き飛ばすほど崩壊した顔面で、ヴァイスは体を捩らせる。一応笑い声を上げないようにと意識しているのか、口元を押さえているが駄々洩れだ。


 威厳などどこかに置いてきた、乙女のような魔王ルシファーは、顔を染め上げたまま黒いオーラを解き放つ。そして、元凶であるラブはというと、ただ色気だけを纏いどうでもよさそうだ。


 肝心なことはまだ思い出さない、ルシファーであった。

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