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豚面転生~殺されかけた所から始まる異世界冒険譚~  作者: 剣原 龍介
第一章・冒険譚の始まり

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第七話・街へ

 夜が明けて目を覚ました俺は、寝床にした木の洞から僅かに顔を出して空の様子を窺う。

 いつから降り始めていたのか、木の洞の外ではシトシトと雨が降りしきっている。

 幸い、今俺が潜り込んでいる木の洞には広さがあり、雨風を凌ぐのに適した構造になっていた。

 もし、ただの木陰で野宿していたのであれば、今頃は雨に打たれてずぶ濡れになっていただろう。


「運が良かったな……」


 これもキャラクリエイト時に特徴『幸運』を取得していたおかげだろうか。

 俺は空の様子を確かめるために出していた頭を木の洞に引っ込める。

 少し頭を出していただけなのだが、思いの外雨に濡れてしまった。

 この様子では、雨が上がるまで外に出ない方が賢明だろう。

 移動できないとなれば、ここで今までに気になってる事を片付けてしまえば良い。

 俺は、『アイテムボックス』から大鍋を取り出して朝食を取る事にした。

 取り出した大鍋は、ホカホカとほのかに湯気を上げている。

 やはりそうだ。

 昨日、夕飯を食べた俺は、まだ温かく湯気の立ち上る大鍋をそのまま『アイテムボックス』に収納していた。

 取り出した大鍋は、ついさっき温めたばかりの様に湯気を立てている。

 この事から考えて、俺の持つ特徴『アイテムボックス』では、中に収納したものがそのまま保管されるのだろう。

 つまり、収納している間は時間が経過しないという事だ。

 塔に幽閉されていた時には、こういう風に『アイテムボックス』の性能を確かめる事が出来なかった。

 これは有用な情報だな。

 さらに『アイテムボックス』に手を突っ込んで中身を探る。

 『アイテムボックス』の中には山賊が根城にしていた洞窟から結構な量の荷物を収納していた。

 手を入れれば、中に何が入っているかが手に取る様に良く分かる。

 一体どれだけの量や大きさの物が『アイテムボックス』に収納できるのかは分からない。

 感覚的には、これはかなりの量と大きさの物が収納できるだろうと思える。

 何しろ、『アイテムボックス』に触れると、まだまだ余裕の様なものを感じるからだ。


「さて、どんな物があるのかな?」


 俺は『アイテムボックス』に手を突っ込んで中身を探る。

 山賊の根城にしていた洞窟で手に入れた様々な食料、数々の武具、色々な日用品、大量の財宝、煌びやかなドレス、多様な化粧品……。


「ん?ドレス?化粧品?」


 そんなものがあったのかと驚いた俺は、それらの品を『アイテムボックス』から取り出してみる。

 小柄な女性向けのサイズの上質なドレスが数着と化粧品、化粧道具が出てきた。


「これは、あのお嬢様の持ち物か。あの時は確認せずに収納したからなぁ。これは悪い事をしたかな?」


 まぁ、今更だ。

 第一、今から戻ってこれをお嬢様に返すというわけにもいかない。

 これは諦めるとしよう。

 他に何かないかと探ってみると、これもお嬢様の所持品だったのだろうと思われる女性向けの小物の他に、仮面が四つ出てきた。

 一つは煌びやかな装飾が施された手で持って顔を隠す様になっている物。

 ほかの三つは、シンプルで装飾もなく顔に着けて頭の後ろでひもで結んで身に着ける物だ。

 彼女達は馬車で移動中に山賊に襲われたと言っていたし、仮面舞踏会にでも参加した帰りか何かだったのだろう。

 顔を隠すのであれば今の俺には必要なものだが、残念ながらこれは使い物にならないな。

 お嬢様の物はもちろんだが、他の三つにしても女性用で顔のサイズが俺には全く合わない。

 しかし、顔の半分を隠すこの構造やデザインは参考になるな。

 今日はこのまま雨が上がらなければ移動はできないだろうし、ちょっと変装用の仮面でも作ってみるか。

 俺は、自分が身に着ける仮面のデザインを考えてみた。

 イメージとしては侍女の三人が使ったのであろうシンプルなデザインの仮面を参考に、俺の豚っ鼻が隠れる程度に下部分を拡張した感じが良いだろう。

 顔全体を隠す仮面だと、人目のある場所では外せない。

 それでは、食事をする時などに困る。

 人里で生活する場合には、一人隠れて食事をせねばならず不都合が出る場合もあるだろう。


「うん。悪くない。……いいや、これはグッドアイデアだ!」


 そうと決まれば、早速仮面作りだ。

 仮面の材料にできる物がないかどうか『アイテムボックス』を探る。

 檜の板でもあれば好都合なのだが、流石にそう都合良くはない。

 とは言え、仮面にするの丁度良い具合の大きさの木版などない。

 俺は、山賊が根城にしていた洞窟から持ち出した物資を取り出す。

 それは山賊が荷物を入れていた木箱だ。

 木箱を解体して、適当な大きさの木版を手に入れる。

 物資の中には、木を削り出すのに都合の良い小型のナイフもあった。

 それを使って木版から仮面を削りだす。


「さて、やるとしますか」


 木版を目の前にして、木を削る事に意識を集中する。

 すると、何となくだが、どこをどう削れば良いのかが手に取るように分かる。

 今世はもちろん前世でも、俺には木工の経験はないのだが、何となく知識が頭に浮かんでくる。

 これは、キャラクリエイト時に取得した技能『前世知識』の効果なのだろうか。

 そうだとすると、大変ありがたい。

 作業自体は素人だが、必要な知識があるのとないのでは雲泥の差だ。

 早速、俺はナイフを手に木版に一刀目を入れる。

 頭に浮かぶイメージに従って木版を削っていく。

 しかし、頭にイメージするのと実際に木を削り出す作業ではやはり勝手が違った。

 数度ナイフで木を削った所でうっかり手元が狂ってしまい、木を大きく削ってしまう。

 失敗だ。

 俺は、別の木版を手に取って初めからやり直す。

 何度かの失敗を繰り返すうちに、少しずつ木を削るコツがつかめてきた。

 そのまま、俺は調子良く木の表面を少しづつだが確実に彫り進んでいく。

 そうして、しばらく作業に没頭する。

 作業に一区切りがついた所で、俺は顔を上げた。

 仮面の表側を削りだし終えた時には、時間は昼を過ぎていた。

 木の洞の外では、相変わらず雨が降り続いている。


「ちょっと休憩だな。いい加減、集中力が持たない。ハァ、腹が減った……」


 俺は、作業の邪魔にならない様に『アイテムボックス』に収納していた大鍋を取り出す。

 鍋のスープはもう残り少ない。

 このスープを昼飯に食べてしまえば、鍋の中身はもう空だ。

 夜には、また自炊する必要がある。

 とは言え、山賊が根城にしていた洞窟から持ち出した食料が大量にあるので、今すぐに飢えるという心配だけはない。

 俺は、最後のスープをゆっくりと味わいながら食べる。

 昼飯を食べて腹を満たし、気分が良くなった事で頭もリフレッシュできた。

 再び、俺は木版から仮面を削り出す作業を始める。

 大まかに木を削り出した所で、徐々に細かく彫り込んでいく作業を続ける。

 やがて仮面の表面が形を成していき、細かな凹凸を小さなナイフで丁寧に削って表面を整える。

 午前中の作業で、仮面の表面を削り出す作業は終えた。

 次は裏面、顔に触れる部分を彫る作業だ。

 午前中の作業で完全にコツをつかんだ俺は、しかし焦る事なくゆっくり確実に作業をしていく。

 時折、作りかけの仮面を顔に当てて具合を確かめる。

 その度に仮面の裏側を彫っては微調整を繰り返していく。

 裏面を削り終え、目の位置に当たりを付けて丁度良い具合に彫り開ける。

 最後に仮面の側面に紐を通す穴を開ければ、夜には仮面の形が完成する。

 仮面を彫る作業が一段落した所で、俺はそれまでの作業で出た木屑を集めて焚き付けに使い、焚火の火を起こす。

 彫り終えた仮面を焚火の火で炙って表面を焦がし、表面の細かな木のささくれを焼き切って全体を焦がしていく。

 いわゆる焼杉と呼ばれる作業だ。

 こうする事で、木材表面に炭化層が出来て防腐、防虫といった効果があり、耐久性も高くなる。

 それから、丈夫な布を取り出して焦がした仮面をゴシゴシと擦って奇麗にしていく。

 しばらく仮面を擦っていると、仮面の細かな凹凸が取れて木目が浮いてくる。

 仮面の浮造り仕上げの作業を終えると、次に丈夫な布を細長く引き裂き、二本の紐を撚り上げる。

 側面に開けた穴に紐を通して長さを整えれば、奇麗に木目模様が浮き上がった仮面の出来上がりだ。

 出来上がった仮面を顔に当て、頭の後ろで紐を結んで縛る。

 裏面は何度も微調整しながらできるだけ丁寧に彫ったので、着けていても角が当たって痛いという様な事はない。

 視界を確保できる様に大きめの穴を開けてあるので、仮面越しでもそれほど視界が塞がる事もなかった。


「うん、上出来じゃないか」


 仮面の出来上がりには、かなり満足する事が出来た。

 磨かれた剣の刀身を、鏡代わりに使って顔を映して見る。

 見た目も悪くないと思う。

 少なくとも、これで他者から一目で化け物呼ばわりされる事もないだろう。

 俺は、仮面の使い心地になれるために、これからは仮面を着けたまま生活してみる事にした。

 さて、仮面が出来上がった所で、既に夜も更けてきた。

 昼飯はしっかり取ったが、さすがにもう腹が減って仕方がない。

 俺は『アイテムボックス』から鍋や食材を取り出すと、手際良く料理を作っていく。

 とは言っても、手の込んだ料理が出来るわけではない。

 干し肉や乾燥野菜を適当に切って水を張った鍋に入れ、焚火の火にかけて煮るだけだ。

 手持ちの食料の中に黒パンとチーズもあったので、スープと共にいただく事にする。

 そこそこの数のワインの瓶もあるのだが、こんな森の中で酔っぱらうつもりはないので自重した。

 塩味のスープをすする。

 乾燥野菜とは言え、様々な野菜やハーブも一緒に煮込んだスープは良い味がする。

 とは言え、薄味だ。

 飯を食べる度によく思うのだが、前世日本の食事の豊かさは本当に凄かったのだなと考える。

 そんな些細な事をぼんやり考えながらも程よく腹を満たした俺は、木の洞から顔を出して空の様子を窺う。

 一日中仮面作りに没頭している間に、すっかり雨は上がっていたようだ。

 このまま天気が再び崩れなければ、明日は森を移動する事が出来るだろう。

 そう思った俺は、昨日と同様に毛布と外套に包まって眠りについた。



……

…………

………………



 翌朝。

 目を覚ました俺は、外の天気を確認する。

 朝日を受けてゆっくりと明るさを増していく澄んだ空が見える。

 今日の天気は晴れ模様のようだ。

 毛布と外套を畳んで『アイテムボックス』に収納し、昨夜作ったスープの残りを腹に収める。

 森歩きで藪を切り開くための鉈を腰に下げれば、出発の準備は完了だ。


「さぁ、出発だ。森歩きの続きと行こうじゃないか!」


 声に出す事で気合を入れなおす。

 正直、この森がどこまで続いているのかは分からないが、他に目指すべきものもない。

 行き当たりばったりな気もするが、なる様にしかならないだろう。

 俺は、朝日を背に受けて森を歩き始める。

 しばらくの間、ひたすらに森歩きを続ける。

 やがて、森の植生が変わる。

 鬱蒼と生い茂っていた木々が少しづつ少なくなり、木漏れ日がその量を増す。

 森歩きを始めて数時間、太陽が天高く昇る頃には、俺は森の出口にたどり着いていた。

 目の前には草原が広がる。

 遠く草原の向こうに人口構造物、つまり壁で囲まれた様に見える何かが見て取れた。


「あれは、街か?……そうか、街があるのか」


 いい加減、森歩きには飽き飽きとしていたのだ。

 目の前に街があるのなら、言ってみるべきだろう。

 この世界の街暮らしという物にも大変興味があるし、人恋しさもある。

 目の前に新たな目標が見えた事で、俺の気分も上がる。

 とは言え、時刻はもう昼だ。

 ここは落ち着いて、まずは腹ごなしが先だ。

 適当な地面に腰を落ち着ける。

 俺は朝食の時に多めに作っていたスープの残りと黒パン、チーズを取り出して昼飯にする事にした。

 食事をしながら、遠目に見える街の様子を窺う。

 しかし、ここからでは遠すぎてほとんど何もわからない。

 いつまでもこんな所で観察していても仕方がないので、昼飯を手早く掻き込むと立ち上がった。

 あてどない森歩きと違って、目標があると足取りも軽くなる。

 体感で一時間ほど歩くと、街の外壁の様子が良く分かる。

 俺は、街に向かう途上で発見した街道に沿って、街へと近付く。

 街を目の当たりにすると、十数メートル、もしかしたら二十メートルはあるかと思われる石造りの外壁が視界の端から端まで広がる。


「これは、かなり大きな街、いや都市なんじゃないか?」


 街道を進み、街の入り口の門までやってくる。

 遠目に門の下に槍を持って武装した人の姿が見えた。

 俺は、旅人を装うために背負い袋を背負い手には杖を持って歩いた。

 手ぶらで街の外から歩いてくる人物なんて、怪しいに決まっている。

 少しでも怪しまれない様にと、旅人に扮することにしたのだ。

 俺が街の門まで近づくと、門の両脇の詰め所のような所から武装した男が二人出てくる。


「おい、止まれ!……こんな時間に外から旅人とは珍しいな。一体どうした?」


 二人組の武装した男達の片割れ、まだ年若く見える男が誰何の声を上げる。


「街から街へと旅の途中です」


 俺は、相手に警戒されないようにゆっくりとした足取りで近付いていく。


「旅?一人か?他はどうした?連れはいないのか?」


 若い男、恐らくはこの門の通行人を監視する守衛なのだろう。

 チラリと詰所の方を見れば、他にも武装した男達がいる。

 俺が門のそばまで近付くと、一緒に詰所から出てきた年配の男が声を上げる。


「なんだその仮面は?怪しい風体だな!仮面を取って顔を見せろ!抵抗すれば、ただでは置かんぞ!」


 仮面を被った俺の姿に警戒心をあらわにする二人の男。

 俺は、こういう時のためにと考えていたもっともらしい説明カバーストーリーを話す。


「この仮面は旅の途中で手に入れたものです。しかし、残念ながら不思議な魔法がかけられており、一度顔に着けると外せないのです。何ならお試しになりますか?」


 羽織っていた外套のフードを下ろして顔を突き出す。

 二人は顔を見合わせて譲り合う。

 結局、年配の男に行け行けとせっつかれた若い男の方がため息をついて進み出る。


「本当に外せないのか?まさか変な呪いでもかかってるんじゃないだろうな?」


 男は俺に近付くと、恐る恐るといった様子で俺の被った仮面に手をかける。

 実は、この仮面はここに近付く直前に魔法を使って顔にくっつけているのだ。

 男が仮面を外そうと引っ張るが、当然の事ながら魔法で顔に張り付いた仮面はびくともしない。


「痛い痛い痛いっ!」


 外れない仮面に、業を煮やした男が力任せに仮面を引っ張る。

 さすがにそこまでされると、本気で顔が痛い。


「っと、本当に外れないんだな……」


 仮面を外そうとした若い男は、年配の男の方を振り返って首を振った。


「何だ?本当に外れないのか?」


 不思議に思った年配の男も、俺の仮面に手をかけて引っ張る。

 当然、力任せに引っ張った所で、魔法で顔に張り付けた仮面はびくともしない。

 むしろ、力任せに引っ張られた俺の顔が痛いくらいだ。


「うむ、本当に外れんとはな。……しかし、そうなると、こんな怪しい風体の旅人を街の中に入れても良いものかどうか」


 改めて顔を見合わせる二人の男を、こっそり『鑑定』してみる。

 『鑑定』をしても、相手に気付かれた様子はない。

 まぁ、まだ塔に幽閉されていた時に爺婆を相手に確認していた事ではあるが、試した相手は年寄りだったし、若い相手、それだけ感覚の鋭いだろう相手に対しても同じかどうかは分からなかった。

 しかし、この様子では問題ないようだ。


「そこを何とか、お願いします」


 そう言って、俺はこっそり取り出した銀貨を年配の男の手に握らせる。

 この男は罪科に収賄とあるので、こういう袖の下が有効だろうと思ったのだ。

 案の定、手の中をチラリと確認した男はわざとらしく溜息を零して口を開いた。


「まぁ、仮面の事はしょうがなかろう」


 その言葉に若い男の方は疑問の声を上げる。

 しかし、年配の男がかまわないと告げると、渋々ながら承知した。


「それでは身分証をお願いします」


 その言葉に俺は少しだけ焦る。

 しかしまだ挽回できない様な事ではない。


「実は、ここに来る中で山賊に襲われまして、その時に他の荷物は……」


 俺が口籠ると、何を勘違いしたのか若い男は納得がいったという様に声を上げた。


「そうだったのか!襲われて他の荷物をなくしたのか……。最近は隣村の向こうに山賊が出現して被害が出ているって話だからな」


 若い男の言葉に、年配の男が口を挟む。


「おいおい!その山賊は二、三日前にご領主様のご令嬢の乗る馬車を襲ったとかで、ご領主様が出した討伐隊とかに討伐されたんじゃなかったか?」

 俺は好都合だと考えてその話に頷く。


「そうです。山賊に襲われて隣村に逃げ込んだ後で、その部隊に会いましたよ」


 俺の言葉に二人は納得した様に頷く。

 若い男の方が、同情したように話しかけてくる。


「そうか。そいつは、運が悪かったな。もう少し街道を通るのが遅けりゃ、下手な被害にあわずに済んだって言うのにな」


 俺は、若い男の言葉に頷く。


「まったくその通りですね。運がないったりゃありゃしない」


 その時、俺と若い男の話を聞いていた年配の男が口を開く。

 若い男に見えない様に、片手で小さくチョイチョイと合図をしてくる。

 俺は若い男の方に見えないよう注意して年配の男の手に追加の銀貨を握らせる。


「……そういう事なら仕方がないな。身分証が無いなら、鑑定石を使うしかないだろう。鑑定石を使った身分証の発行は銀貨五枚だ」


 鑑定石か……。

 そう来ると思っていた。

 爺婆から貰って読んだ本の中に、そんな記述があった。

 子供は五歳になると、鑑定の儀というものを受ける風習がある。

 その時に使うのが鑑定石だ。

 その他に、街への人の出入りを監視する目的で鑑定石が使われる事もあるとかいう話だった。

 俺は手を出してくる若い男に銀貨を五枚手渡した。


「よし!それじゃ、詰所の方に来てくれ」


 年配の男の後について詰所の中に入る。

 事情を話した男の案内で、別室にある鑑定の間へと案内された。


「それじゃ、さっさと済ませちまおう。この石に手を置いてくれ」


 男に指示された通りに鑑定石の上に手を置く。

 すると、石の上に光の柱が立ち、その中に鑑定結果が表示される。


「名前はアルト・アイゼン、ほぅ、レベルは10か、職業は無し?技能は読み書き、計算、礼儀作法……魔法技能持ち?それも複数属性か!アンタ、魔法使いだったのか?」


 驚いたような男の言葉に、俺は落ち着いて頷く。

 こうなる事は予想通りだ。

 塔に幽閉されていた間に、ステータス画面については研究済みだった。

 今、鑑定石が表示している画面は、俺がまだ塔に幽閉されていた時のものだった。

 ステータス画面の機能に、交流欄というものがある。

 俺は、その交流欄の表示内容を調整していた。

 万一ステータスが鑑定された場合に、『前世知識』や『鑑定』の技能を持つ事を知られたくなかったのだ。

 もっとも、結局その配慮が役に立つ日は来なかったが……。

 しかし、今この瞬間に役立っているのだから、良しとしよう。


「なるほど、魔法使いなら、その奇抜な仮面も納得がいくな。……ほら、出来たぞ。今度は荷物をなくさない様にな!」


 俺は、男の作った書類を受け取り懐に入れて礼を言う。


「ありがとうございます。それでは、もう街に入ってもよろしいですね?」


 年配の男は大きく頷くと、こう口にした。


「まぁ、もちろんだとも。ようこそ、ローゼンハイムの街へ!」

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