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豚面転生~殺されかけた所から始まる異世界冒険譚~  作者: 剣原 龍介
第一章・冒険譚の始まり

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第三話・旅立ちの日に

 塔の崩壊した場所を離れ、俺は森に拓かれた道を歩いていた。

 塔を襲った襲撃者の馬車が通ってきただけあって、森の中とは思えないくらいには道幅が広い。

 俺は、黙々と目的の場所に向けて道を歩く。

 とは言っても、俺は塔に幽閉されて以来、自分の足で外に出た事がなかった。

 だから、これは恐らくそうだろうという予想に基いた行動でしかない。


「う~ん、空が青いなぁ。しっかし、よくよく考えたら、この世界に来て初めて自分の足で外を歩くな。まぁ、こうしてのんびり歩くのも悪くない」


 そうして歩きながら、俺は自分の事を考えていた。

 前世の俺は、地方の中堅商社に勤めるしがないサラリーマンだった。

 安月給の独身、ワンルームの安アパート住まい。

 地方のそこそこの大学を出て、就職浪人の末に同じく地方の中堅商社に就職した。

 とは言っても、勤続十年でもろくに給料も上がらず、貯蓄もなければ結婚どころか彼女もいない。

 まぁ、大学時代には彼女がいるにはいたのだが、振られたショックで就職浪人したのだ。

 以来、彼女どころかろくな友人付き合いもなく、日々職場と自宅を往復する毎日。

 趣味と言えばネットとゲーム、たまの休日に昼間っからビールを片手にだらだらゲームかネットに興じるのが唯一の楽しみだったと言って良い。

 正直言って、自分がどうして死んだのかはよく思い出せない。

 だが、そんな事はどうでも良い。

 ろくな思い出もない前世など放っておいて、俺は新たに生まれ変わったこの世界で生きていくのだ。



……

…………

………………



 しばらくは無言のまま歩く。

 予想通りならば、もうそろそろ見えてくるはずだ。

 さらにしばらく歩いた所で、予想通りに一軒の家を見つける。

 俺が塔に幽閉されたのは、この世界に転生して三年、三歳になった頃だ。

 塔に幽閉されて以来、俺には毎朝夕に食事を持ってきて世話をしてくれた老夫婦がいた。

 その二人の年から考えても、塔から離れていない場所に住んでいるとは思っていた。

 実際、塔の小窓から煮炊きのものと思われる煙が立ち上っているのも見えていたしな。


「さて、一昨日から婆の姿を見ていなかったが、どうしたんだろう?」


 俺がこの世界に転生したのは十八年前。

 生まれたばかりの頃の朧げな記憶。

 母は、俺を生んだ直後に俺の姿を見て悲鳴を上げた。

 『醜い』と。

 まぁ、それは仕方がない。

 転生前のキャラクリエイトで『容貌:醜悪』と設定したのは、他ならぬ俺自身なのだから。

 その後、俺の事を蛇蠍の如く嫌った母とは、一度も顔を合わせていない。

 俺の世話を任された乳母ですら、乳を飲ませる時とおむつを替える時以外は出来るだけ俺に近寄ろうともしなかった。

 父とも数えるほどしか顔を合わせていないが、一度も顔を合せなかった母よりはましなのだろう。


「やはり、あまりに醜い。とても我が子とは思えんな。……しかし、殺してしまうわけにもいかんか。憐れではあるが、致し方ないな。幽閉先の塔も完成した事だし、もう二度とコレに会う事も無かろう。連れていけ」


 生まれてから三年、最後に顔を合わせた父の言葉がこれだった。

 それから、俺は父の命令で屋敷から連れ出され、塔へと幽閉された。

 塔の出入り口には外から鍵が掛けられ、俺は以来十五年間一歩も外に出る事なく過ごした。

 唯一の外との接点は、朝夕訪れて世話を焼く老夫婦だけ。

 その二人の内、爺には二年前から会っていない。

 爺の顔を見なくなってから一週間が経ち、一月も過ぎた頃には何となく察していた。

 婆は相変わらず世話をしに来てくれていたので、俺は何も聞かなかった。

 二人とも年だし、そういう事だろう。

 昔、一度だけなぜこんな俺の世話を焼いてくれるのかと聞いた事がある。

 その時、爺と婆は優しげな顔でこう言った。


「大恩ある先代様のおかげで、今の私達があるのでございます。坊ちゃまのお世話をさせていただいているのは、その御恩をお返しさせていただいているまででございます」


 そういって困った顔で深く頭を下げる二人に、俺はそれ以上の事は聞けなかった。

 第一、爺と婆には恩がある。

 ある時は、まだ幼い俺に読み書きを教えてくれた。

 またある時は、俺の手慰みになればと言って数冊の本を与えてくれもした。

 その中に魔法に関する本があった事は、今考えれば僥倖だったと言えるのだろう。

 おかげで、俺は日がな一日本を読み、体を鍛え、魔法の勉強をして過ごす事が出来たのだから。

 その婆も、一昨日から姿を見ていない。

 正直、毎日婆が持ってきてくれる食事が生命線だったので、今の俺は空腹でしょうがない。

 家の前まで歩いてきた。

 あたりはひっそりと静まり返っていて、人の気配は無い。

 俺は家の中に入る前に、その周囲をぐるりと回ってみる。

 すると、家の裏手に小さく盛り上がった土の上に石碑の様なものが二つ、建てられているのを見つけた。

 それぞれの石の前には、花束が添えられている。

 つまり、これは墓だ。


「そうか。やっぱり、爺も婆も亡くなったのか」


 俺は墓の前で手を合わせる。

 二人には世話になった。

 どうか、死後は安らかに眠ってほしい。

 しばし黙祷を捧げた俺は、立ち上がって振り返る。

 ここが爺と婆の住んでいた家で間違いないだろう。

 再び家の正面に回って、玄関の扉に手をかける。

 粗末な扉には、鍵は掛かっていなかった。

 俺は遠慮なく家の中へと入っていく。

 外観の質素なその家は、その外観から想像した通り内装も質素なものだった。

 少々気は咎めるが、俺はこの家の家探しを始める。

 婆が亡くなってから、その親類は家を整理しなかったのだろうか?

 家の中には大きな家具類や生活雑貨がそのまま残されていた。

 もっとも、こんな質素な家の物を持ち出した所で、大した価値もないのだろうが……。

 しばらくして、俺は家に残されていた僅かばかりの食料を見つける。

 黒パンとチーズが少々、それと薄く埃を被ったワインの瓶だ。

 腹が減っている現状では、こんな物でも有り難い食料に違いない。

 俺は、黒パンとチーズに齧り付くとワインでそれを胃に流し込んだ。

 そうして一息ついた所で、改めて家の中を見回る。

 俺を殺しに来た襲撃者達は逃げていった。

 しかし、俺を殺す事が目的だったのだから、潔く諦めるとも考えにくい。

 そうであれば、ここに留まる事はできない。

 まぁ、すぐに取って返すという事はないだろう。

 何しろ、あれだけの人数で俺を殺しに来て失敗したのだから。

 それでも、今回以上の準備を整えて、再び俺を殺しに来る事は十分に考えられた。


「何か、この家に使える物があればいいんだが……」


 逃げ延びるためにも準備がいる。

 状況を考えれば焦る必要はないだろうが、出来るだけ早く遠くへ逃げる事が必要だ。

 今いる森を抜け、人里とは逆方向に逃げれば何とかなるかもしれない。

 爺と婆から貰った本の知識によると、この森を抜け山を越えた先は別の領主の領地らしい。

 そこまでいけば追手も追いかけてこれないだろう。

 そう考えた俺は、早速使える物がないか捜索を開始した。


「こんなものかな?」


 しばらくして、俺は居間のテーブルの上に家探しして見繕った物を並べていく。

 厚手の外套と毛布。

 鉈と手斧、大型のナイフ。

 比較的清潔と思われる大小の布を数枚。

 適当な長さと太さのロープを数本。

 鍋と食器類。

 火おこし道具と薪、炭。

 古びた水筒。

 先ほど食べた黒パンとチーズの残り、それと食糧庫にあった干し肉と乾燥野菜。

 それらを入れて運ぶための大きな背負い袋。

 本当は汚れた服を着替えたかったのだが、爺婆の遺品の中には俺の体に合うサイズの服はない。

 代わりに、丁度良いサイズの革のベルトを見つけた。

 これは、鉈やナイフを腰に下げるのに打って付けだった。

 家探しをしながら思ったのだが、どうも俺の体格はかなり大きいらしい。

 扉をくぐる時には頭をぶつけない様に屈まねばならず、天井も近くて手を伸ばせばすぐに天井に触れるほどだ。

 俺は改めて部屋を見渡す。

 狭い家だ。

 しかし、ここで長らく爺婆は俺の世話をするために生活していたのだ。

 本当に有り難い事だった。

 俺は荷物を整理して背負うと、家を出る。

 そして、裏手に回ると二人の墓の前で深く礼をした。


「爺婆、今までありがとう。本当に世話になったな。ついでと言っては何だが、家の中の物をいくつか貰っていくよ。……それじゃぁ、俺はもう行くよ。爺婆、さようなら……」


 そういって、俺は家の裏手から森の中へと分け入っていった。

 正直に言って行く当てがあるわけではない。

 それでも、命を諦めて簡単に死んでやるつもりはさらさらなかった。



……

…………

………………



 日の高い内に出来るだけ遠くへ離れたいと思っていた俺だったが、初めて入った森の中は思った以上に歩きにくかった。

 日が暮れるまで歩き通しだったが、体感ではそれほど離れる事は出来なかったように思う。


「もう、日が暮れるな。流石に、夜の森を当ても無く彷徨うわけにはいかないか……」


 森に踏み入りしばらく歩いた所で、俺は小川を見つけた。

 小川の流れをたどった先には山を望める。

 ここから小川沿いにもっと森の奥深くへと分け入っていけば、やがては森を抜けて山に出る事だろう。

 山を越えれば別の領主の治める土地だし、そこまでいけば安全を確保できたと言えるだろう。

 そこまで考えて、俺は今日はここで休むことに決めた。

 河原のそばでの荷物を下ろす。

 そうして、以前にネットで見たキャンプ動画を思い出しながら辺りを探って枯れ木を集め、かまどを組んで火を起こす。

 適当な枯れ木を選んで、ナイフで削って木屑を用意する。

 他にも燃えやすくなる様にささくれをたくさん作った枝を数本用意して焚き付けに使う。

 火打石の使い方が意外と難しい。

 前世の記憶、ネット動画で紹介されていたファイアスターターなんかがあれば、もっと楽なんだが……。

 火花を飛ばして木屑に火を付け、焚き付けの小枝を使って火を大きくしていく。

 しっかり火が付いたら細い薪、太い薪の順にかまどにくべていく。

 火が十分大きくなったら、水を張った鍋を火にかける。

 爺婆の家から持ってきた食料を取り出し、干し肉を削って乾燥野菜と共に鍋に入れる。

 煮立ったら今日の夜飯のスープの出来上がりだ。

 味付けは干し肉の塩味だけだから、前世の記憶基準ならお世辞にも美味いとは言えない。

 しかし、今日は一日色々ありすぎた。

 薄い塩味の鍋でも、温かい食事が取れるだけで疲れた体には十分にご馳走だった。

 皿に移したスープを一気に飲み干し、一息つく。


「フゥ、疲れたなぁ。昔、この森はそこまで広いものではないって爺が言ってたけど、明日には山まで行ければいいなぁ。食料だってそんなにあるわけでもないし、金だってない。これからどうやって生活したものか……」


 頭を振って余計な思考を振り払い、お代わりのスープを皿に注ぐ。

 爺婆の家から持ってきた硬い黒パンをスープに浸して柔らかくして食べ、チーズを口に入れる。

 モグモグと咀嚼して飲み込めば、今夜の食事はあっという間に終了だ。

 それから周囲の落ち葉を集めて毛布を敷き、外套に包まって横になる。

 これで眠れるかと不安だったが、疲れていたのか思った以上に早く眠りに落ちていった。

 目が覚めると、空がうっすらと明るくなり始めていた。

 小川に行って水を汲み、ついでに手頃な大きさの布を使って体を拭く。

 久々に体を奇麗にした様で清々しい気分だ。

 そうして、朝の支度をしていく。

 とは言っても、昨日使った鍋と皿などを洗い、毛布と外套を畳んで仕舞い込んでしまえば準備は終わりだ。

 朝飯は、黒パンと昨夜の残りのスープが少し。

 後は削った干し肉の欠片を口にくわえて、齧りながら昨日の続きを再開する。

 小川に沿って森を遡り、山を目指す。

 見た目にはそれほど遠くないように見えた山だったが、こうして歩いてみると思いのほか距離がある事が分かった。

 昼になってから小川に降り、一休みする。

 途中見つけたリンゴに似た木の実をいくつか採取しておいた。

 キャラクリエイト時に取得した技能『鑑定』で確かめたから、食用のはずだ。


「うっ、酸っぱい。う~ん、まぁ、喰えないほどではないが……、正直言って、前世で慣れ親しんだフルーツの美味さには程遠いなぁ」


 齧ると酸っぱいながらもその奥に甘みも感じられ、意外と食べられなくはない。

 とは言え、飢えていなければ進んで食べたいとは思えないが……。

 一休みして水を補給し、森歩きを再開する。

 人の手によって整備されていない森というのは、視界も悪く足場も悪い。

 それでもどうにか山の麓には到達したようだった。

 森の地面が徐々に傾斜を増し、やがて斜面と呼べるものになる。

 辺りは木が鬱蒼と生い茂り、見上げても山の全貌は分からない。

 しかし、確実に塔跡からは遠ざかっているはずだ。

 さて、このまま山を越えるのは良いとして、その後はどうするか。

 どこかで人里に出る必要があるだろう。

 しかし……。


「やっぱ、この顔じゃぁなぁ。顔を隠すしかないか?だとして、どうする。覆面?仮面?どちらにしろ、不審者だな」


 素顔のままで化け物呼ばわりされるか、覆面して不審者扱いされるかの二択って言うのは嫌すぎる。

 まぁ、実際に人里を見つけるまでに考えればいい事か……。

 その後も俺は、ひたすら山登りを続ける。

 そうして、日の暮れかける頃になって、ようやく山の稜線まで登って来る事が出来た。

 もうすぐ日が暮れる。

 少しだけ降りた所に、山登りの途中で見つけた小さな泉とも言えない水溜まりがあった。

 今日の夜は、そこで休むとしよう。

 そう決めた俺は、水溜まりの所まで下ると背の荷物を下ろした。

 やっぱり、荷物を背負って慣れない山歩きをするのは体に堪える。

 昨日の夜と同じように夕飯を準備する。

 ……これで、爺婆の家から持ち出した食料もほとんど底をついた。

 本当に人里に出る事を考えないと、このままでは飢えて死ぬ事になるだろう。

 こんな不安な状態で、果たして眠れるのだろうか。

 少しでも寝なければ今後に差し支える。

 そんな事を考えながらも、山歩きで疲れた俺は毛布と外套を使った寝床に入ると、しっかりと寝入ってしまうのだった。


「うっ……ん?もう朝か……」


 翌朝、日の出とともに起きた俺は、昨日と同じく黒パンとスープの残りを平らげる。

 これで、爺婆の家から持ち出した食料も終わりだ。

 食料問題は、本当になんとかしなければいけない。

 喫緊の課題だ。

 気を取り直して、昨日到達した山の稜線まで登る。

 昨日は日暮れで良く見えなかったが、良く晴れた朝日に照らされた風景は、遠くまで望む事が出来た。

 山を越えた先も、しばらく森が続いている。

 しかし、その森が途切れる辺りに開けた場所があり、遠目でも家屋がぽつぽつと立ち並ぶ様子が見て取れた。

 さらに遠くには、微かに街らしき物も見て取れる。

 いよいよ、人里に出る覚悟をしておいた方が良いかもしれない。

 そう思いながら眼下の山すそに目をやると、森の中ほどにわずかに煙が立っているのを見つける。

 よく目を凝らしてみるが、建物らしきものの存在は確認できない。

 山火事か?

 それにしては、煙の勢いがとても小さく感じる。

 自然の物ではない?

 ならば、そこに人がいる可能性が高いという事だ。

 もし人がいるのならば、いきなり人里に降りる前の予行演習としては丁度良いかもしれない。

 そう思った俺は、煙の立ち上っている場所によく目を凝らして場所を覚える。

 とりあえずは、そこを目的地にしてみよう。

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