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豚面転生~殺されかけた所から始まる異世界冒険譚~  作者: 剣原 龍介
第二章・駆け出し冒険者編

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第八話・後始末

 洞窟の奥から三人の冒険者の遺体を回収した俺は、重い足取りで洞窟の入り口まで戻ってきた。

 俺が洞窟から出てくると、待ち構えていたフローラが神妙な表情で俺に声をかけてくる。


「アルトさん、お帰りなさい。あの、皆の遺体は?」


 遺体の回収に洞窟に入った俺が手に大きな袋を三つ持っている事が不思議だったのだろう。

 フローラが仲間の冒険者三人の遺体はどうしたのかと聞いてくる。


「フローラさん、気を確かに持って聞いて欲しい。三人の遺体はこの袋の中だ」

「え?」


 フローラは、理解できないという様に首を傾げる。

 それを見た俺は、洞窟の奥で三人の冒険者の遺体が小邪鬼ゴブリン共にどういう扱いをされていたかを告げた。


「三人は、洞窟の奥にゴブリン共が作った祭壇のような場所に飾られていたんだ。遺体をバラバラに引き裂き、ご丁寧に全て串刺しにして並べてあったのさ。だから、バラバラにされた遺体をこうして袋に収めて回収したんだ」

「そんな……。なんて惨い……」


 俺の言葉に、三人の冒険者の遺体の様子を想像したのだろうか。

 フローラの顔が見る間に青ざめていく。


「遺体の状態が状態なだけに、袋の中身は見ない方が良いだろう。本当なら丁重に弔ってやりたい所なんだが……」


 例えば、ビシニティ村やローゼンハイムの街の共同墓地なりなんなりのきちんとした墓地で弔ってやりたい所だ。

 しかし、それは難しいだろう。

 ローゼンハイムの街の共同墓地まで三人の遺体を持って帰るのは無理がある。

 第一、ビシニティ村の共同墓地は村民のためのものだ。

 部外者である冒険者の遺体を受け入れるかは分からない。

 しかも、彼らはビシニティ村の周辺に出没するゴブリンの討伐を依頼されていたのに、迂闊にゴブリンの巣穴を突いて死んだのだ。

 村では、今頃俺達がゴブリンの巣穴の討伐に失敗した時の事を考えて避難準備の真っ最中のはずだ。

 そんな騒動を起こした冒険者の遺体の受け入れには、村長が難色を示す可能性は高い。

 それに、冒険者は死の危険が付きまとう仕事だ。

 慣習として、依頼中に死んだ冒険者の遺体は現地で埋葬するのが冒険者の流儀だと聞いた事がある。

 そういった事を考えると、彼らの遺体はこの付近で埋葬するより他ないだろう。

 亡くなった彼らからしたら自分達を殺したゴブリン共の住処のそばに葬られるのは嬉しくないだろうが、この場合は仕方がない。

 せめてきちんとした墓を建てて弔ってやろう。


「フローラさん、冒険者は冒険者なりの流儀で彼らを弔ってやろう」


 俺が声をかけると、フローラは目に浮かんだ涙を拭って頷いた。

 ゴブリンの巣穴になっていた洞窟から少し離れた所に移動して、俺は魔法で穴を掘る。

 深めに掘った穴に三人の遺体が入った袋を収めて魔法で盛り土をして穴をふさぐ。

 手近な所にある大きめの石を三つ積んで簡易ながらも墓石とする。


「こんなものかな。なぁ、フローラさん、どうだろう?」


 俺がフローラに話しかけると、フローラは頷いた。


「はい、それで良いかと思います。後は、彼らの魂が安らかに眠れる様に、送別の儀を執り行いたいと思います。……アルトさん、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


 フローラが俺に確認してくるが、俺に否応はない。

 彼女は大地と豊穣の女神に使える神官なのだから、こういう葬儀の場は任せるべきだろう。

 それに、冒険者として一緒にパーティを組んでいた仲間との最後の別れなのだ。

 それくらいの時間があっても良いだろう。


「分かりました、フローラさん。そちらはお任せします。俺は、今回のゴブリンの巣穴の討伐を成し遂げた証拠とするための討伐証明部位を集めてきます。そっちに多少時間がかかるでしょうから、その間に亡くなった彼らの為に貴方の手で送別の儀をしてあげてください」

「ご配慮いただき、ありがとうございます。ですが、討伐証明部位の採取や魔石の回収は、お一人では大変ではないのですか?送別の儀を執り行った後でよろしければ、私もお手伝いいたしますが?」


 俺の言葉に、フローラは申し訳なさ気に問いかけてくる。

 そういう風に申し出てくれる事自体はありがたい。

 しかし、実際の所はその申し出を受ける気はなかった。

 洞窟の中は討伐したゴブリンの死体があちらこちらに転がっており、酷い惨状となっている。

 彼女の精神状態への配慮を考えれば、大量のゴブリンの死体を見せるのは精神衛生上よろしくないだろう。


「申し出はありがたいですが、あまり時間に余裕があるわけでもありません。明日の昼までには村に戻ってゴブリンの巣穴討伐に成功した事を村長に伝えないといけませんから。ですから、ここは手分けをしましょう。犠牲になった彼らの葬儀も疎かにして良い事ではありませんし……」


 それに、ゴブリンの討伐証明部位の採取自体は簡単なものだ。

 俺一人でも簡単に片付く。

 魔石の回収にしたって、本来ならば全ての魔物モンスターの死体から魔石を回収するのは大変な作業になるのだろう。

 しかし、今回に限って言えばそれほどの問題はない。

 魔石とは、魔物の体内に生成される魔力が結晶化した石だ。

 長生きしていたり強い力を持っていたりする魔物ほど、体内に宿る魔石は大きい。

 その魔石は、魔道具マジックアイテムの動力源にしたり、回復薬の様な魔法の薬の材料になったりもする。

 他にも、魔法使いマジックキャスターの魔力を回復するのに使ったりも出来る。

 ただし、そうした使い道があるのは、ある程度の大きさをした魔石だけだ。

 ゴブリン程度の魔物の場合、体内にちゃんとした大きさの魔石がない事も多い。

 今回の例で言えば、小邪鬼戦士ゴブリンファイター辺りで回収できる魔石があるかどうかだ。

 洞窟の奥で戦った大柄小邪鬼ホブゴブリン小邪鬼上位種ゴブリンロード小邪鬼呪術師ゴブリンシャーマン小邪鬼魔術師ゴブリンメイジなら、間違いなくあるだろう。

 そうなると、魔石を回収可能なゴブリンの死体の数は大した数ではない。

 俺の言葉に、フローラも納得したのだろう。


「分かりました。では、亡くなった彼らの送別の儀は私にお任せください。ゴブリンの件は私達の問題だったのに、全てお任せしてしまう事になってしまい、本当に申し訳ありません」


 そう言って頭を下げるフローラに、俺は苦笑を浮かべると言葉を返した。


「ゴブリンの巣の討伐に関しては、俺が自分で言いだした事です。フローラさんが気に病む必要はありません。それに、こういう時は謝罪ではなく、ありがとうというものですよ?」


 俺の言葉に一瞬きょとんとした表情を浮かべたフローラだったが、すぐに頭を下げて礼を言ってきた。


「本当に、色々とご配慮をありがとうございます。それではお言葉に甘えて、私は亡くなった仲間達の弔いをさせていただきます。洞窟の方は、どうぞよろしくお願いいたします」


 俺は、フローラに亡くなった三人の冒険者達の送別の儀を任せると、再び洞窟の中へと戻っていった。

 洞窟に入った俺は、洞窟の奥へと向かいながら道中で倒したゴブリンの死体を回収して洞窟の奥に向かった。

 洞窟の奥へと向かう道中で倒したゴブリンの数は結構な数になったので、ゴブリンの死体を集めるのに何度か洞窟の中を往復する。

 そうしてゴブリンの死体を洞窟の奥の広場に集め終えた俺は、討伐証明部位の採取を始める。

 数十体のゴブリンの死体から討伐証明部位となる右耳を切り落とす。

 それが終わったら、今度は魔石の回収だ。

 試しに普通のゴブリンの死体の一つを選んで、その胸を切り開く。

 切り開いた胸に手を突っ込んで心臓の横を探る。

 魔石があるのならここから取り出せるはずだ。

 俺は慎重に探ってみるが、それらしい手触りは感じない。

 まぁ、仮にあったとしても、ゴブリンの魔石はゴマ粒ほどの大きさしかないそうなので、見つけ出す事は難しいだろう。

 いつまでも死体に手を突っ込んでいたくはない。

 俺は、一頻り探ってみて魔石が見つけられないのを確かめると、早々に諦めてゴブリンの死体から離れた。

 いくらゴブリンが魔物とは言え、人型の死体の胸を開いて手を突っ込んでその傷口をまさぐるのは精神的にキツイ。

 出来ればやりたくはないが、魔石を回収しないと収入に響くので、こんな事はさっさと終わらせたい。

 俺は、深くため息をついて気持ちを切り替えると、魔石の存在が見込まれるゴブリンファイターの死体から魔石の回収を試みる。

 数体の死体を確認して予想通りに魔石を回収した俺は、続けてホブゴブリンやゴブリンロード等の死体からも魔石を回収する。

 ゴブリンファイターの死体からは小指の爪ほどの大きさの魔石が回収できた。

 ホブゴブリンやゴブリンロードからはそれより一回りほど大きい魔石が回収できた。

 意外だったのはゴブリンシャーマンとゴブリンメイジの魔石で、二体ともレベルはゴブリンロードより低かったのに、魔石の大きさはゴブリンロードよりもさらに一回りほど大きかった。

 魔石の回収を終えた俺は、『アイテムボックス』から取り出した水でゴブリンの血と脂に汚れた手を洗う。

 さて、後はこの大量のゴブリンの死体をどう処理するかだ。

 一番良いのはこのまま洞窟ごと埋めてしまう事だろう。

 村長にゴブリンの巣穴の討伐を完了したことを納得してもらうのであれば、討伐証明部位として集めた大量のゴブリンの右耳の山を見せれば事足りる。

 後は、どうやって埋めてしまうかだ。

 洞窟の入り口を崩して埋めるだけで大丈夫だろうか。

 それとも、ゴブリンの死体もしっかり埋めておいた方が良いのだろうか。

 その辺りの事は、冒険者として日の浅い俺には判断が難しい所だと言える。

 ゴブリンの死体をそのままにして洞窟の入り口を埋めた場合、残ったゴブリンの死体が不死者アンデッド化しないとも限らない。

 一応ゴブリンの死体はこのまま洞窟の奥に埋めてしまい、その上で洞窟の入り口を埋めてしまおう。

 そう考えた俺は、洞窟の地面を魔法で掘って穴を作り、ゴブリンの死体を放り込んで上から土をかぶせて穴を埋めた。

 ついでに、ゴブリン共が作っていた祭壇も破壊しておく。

 そうして後始末を終えた俺は、今度こそ洞窟の外へ出た。

 俺が洞窟から姿を現すと、洞窟の入り口そばで待っていたフローラが近寄ってくる。


「アルトさん、こちらの送別の儀はつつがなく終える事が出来ました。あの、それで、ゴブリンの方はどうされましたか?」


 フローラの疑問に、俺は手にしていた袋を二つ持ち上げて見せながら答える。


「討伐証明部位の採取と魔石の回収はこの通りです。残ったゴブリンの死体の方は洞窟の奥で土に埋めてきました。後は、この洞窟自体を埋めてしまえば終わりです」


 フローラは、俺の持つ袋を見て驚きの表情を浮かべる。


「討伐証明部位というのは、そんなにも数が多かったのですか?」


 フローラの疑問に、俺は頷いて答える。


「かなりの数のゴブリンがいましたからね。もしかすると、フローラさん達の受けた討伐依頼で討伐対象になっていたゴブリンは、群れを追われたはぐれゴブリンではなかったのかもしれません。そうだとすると、ビシニティ村の周辺に出没していたゴブリンは、村を襲う前にその周辺を偵察をしていた可能性があります。もし、ゴブリンの巣の討伐が遅れていれば、村がゴブリンの群れに襲撃されていたでしょうね」


 俺の言葉に、フローラは驚いた表情を浮かべる。

 俺は、驚きに固まるフローラに背を向けて洞窟の入り口に向き直る。


「いずれにしても、ゴブリンの群れは討伐しました。脅威は去ったと言えるでしょう。後は、この洞窟に今後は野生動物や魔物が住み着く事が無い様にしておく必要があります。手っ取り早く洞窟を潰してしまいましょう」


 俺は、洞窟の入り口から少し離れた所までフローラを下がらせると、洞窟の入り口に向けて手をかざした。


土操作コントロール・ソイル


 体から魔力がごっそり抜けていく感覚に、俺は僅かにふらつきそうになる。

 一瞬遅れて、俺の魔法が効果を発揮する。

 魔法の効果を受けて、軽い地揺れの様な振動と共に洞窟の入り口の土が崩落していく。

 予定通りに、洞窟の入り口を完全にふさぐ大量の土砂が洞窟の入り口を埋め尽くす。

 洞窟の入り口が崩落した後には、地面にすり鉢状の大きなくぼみが出来上がっていた。


「すごい……。こんな規模の魔法を見るのは初めてです。これを全部アルトさんがやったんですよね?」


 崩れた地面の規模を見て、フローラは俺の顔と崩落した地面を見比べて呆気に取られたように目をぱちくりとさせる。

 俺は、そんなフローラの様子に大した事ではないとばかりに肩を竦めて見せる。

 そうして、洞窟の処理を終えた俺は、洞窟から離れた場所で休ませている救助した二人の冒険者の下に向かった。

 後をついてくるフローラに二人の状態について訊ねる。


「救助した女性二人の具合は、あれからどうですか?」


 俺がフローラに問いかけると、フローラの表情が暗くなる。


「神の奇跡で二人の体の傷を癒しましたが、まだ万全とは言えません。二人とも意識が戻りませんし、まだまだ治療が必要です。私にもっと力があれば、もっとしっかりした治療が出来るのですが……」


 俺は、俯くフローラの肩にそっと手を置き、顔を上げたフローラの目を真っ直ぐ見つめ返す。


「自分を必要以上に責める必要はありません。誰だって出来る事と出来ない事があります。フローラさんのお力も、しばらく休めば回復するのでしょう?そうしたら、二人の治療を再開すれば良いんです。焦る必要はありません」


 俺が頷いて見せると、フローラも分かったと頷き返す。

 俺は、気を失い横たわる二人の女性冒険者を敷いた毛布で包み込むと、フローラに声をかけた。


「とは言え、ここでのんびりと夜を明かすわけにもいきませんね。二人を安全な場所で休ませる必要もありますし、強行軍にはなりますがこのまま村へ戻りましょう」


 俺は毛布でしっかり包んだ二人の女性冒険者を両肩に抱き上げると、フローラに向き直る。

 そばにまとめられていた自分の荷物を背負ったフローラの姿を確認した俺は、フローラの持つ杖に光の魔法をかける。


「フローラさん、森を移動するのには灯りが要ります。その杖に魔法をかけますから、こちらに。持続光コンティニュアルライト


 フローラの持つ杖に俺が魔法の灯りを灯すと、フローラは杖を抱えて口を開いた。


「あっ、ありがとうございます、アルトさん。あの!アルトさんさえよければ、森の中は私が先導しますね!」


 人二人を抱えた俺の様子に遠慮しているのだろうか。

 フローラは森を先導すると言って勢い込んでいた。

 せっかくフローラがやる気になっている様なので、俺はフローラの言葉に甘えてみる事にする。


「分かりました、フローラさん。確かに、この状態では藪を切り開いて進む事も出来ませんし、ここはフローラさんにお願いします」

「はい!任せてください!アルトさん!」


 俺の言葉に元気よく返事を返したフローラは、勇んで森へと踏み込んでいく。

 その後姿に、俺は森の現状を思い出す。

 村からこの場所までの道のりは道らしい道もないが、その道中に警戒すべき危険な生物というのは特にいない。

 俺の前を行くフローラの勢いに若干の不安を感じたものの、特段注意が必要な事もないだろう。

 第一、ここに来るまでに森の中に道を切り開いてきたのは俺自身なのだ。

 夜の森の暗さは移動の障害になりはするものの、既に切り開いた道を戻るくらいの事なら問題はないだろう。

 ……そう思っていた時期が俺にもあった。

 森に入ってすぐ、フローラの様子が怪しくなっていく。

 森を少し進んだ所で立ち止まり、キョロキョロと周囲を見渡している。

 俺は、そんなフローラの様子に苦笑を浮かべると気軽な様子で声をかけた。


「フローラさん、焦る必要はありませんよ。落ち着いて、俺達がここに来る時に切り開いた藪の切れ目を探してください」

「え?はっ、はい!分かりました!」


 フローラは、俺の忠告を素直に受け取って注意深く周囲を観察してゆっくりとだが確実に森を進んでいった。

 時折、道を見失ったフローラに声をかけて助け舟を出す。

 森に入ってしばらく経った頃には、フローラもかなり森歩きになれたのだろう。

 その足取りは次第に確かなものとなっていった。

 そうしてしばらくの間、フローラは探り探り森を進んでいく。

 俺は、フローラが道を逸れない様に注意して時折声をかけながらそのフローラの後に続いて歩いたいった。

 やがて森の向こうに明かりが見えてくる。

 ビシニティ村が近い証拠だ。


「おい!止まれ!誰だ?こんな夜中に何しに来た?」


 ビシニティ村の外れまで来た所で、手に手に槍や長柄の農具を持った村人達に行く手を塞がれる。

 彼らは、おそらくゴブリンの件があって村の夜間警備を始めた村人なのだろう。

 森から出てきた俺達に警戒した様子で槍を突き付けてくる。


「俺達は、ゴブリンの巣穴の討伐の為に森の奥へ行った冒険者だ。仕事を終えたんで急ぎこの村まで戻ってきた。村長を呼んでくれ。そうすれば分かるはずだ」


 殺気立った村人達の様子に、フローラが怯えた様に俺の後ろに隠れる。

 俺は、村人達を刺激しない様にそれ以上は近付かずに誰何してきた村人に応じる。

 俺の言葉に思い当たる節があったのだろう。

 村人の中から一人、村の奥へと村長を呼びにかけていった。


「今、村は大変な時なんだ!怪しいよそ者を、簡単に村に入れるわけにはいかん!村長を呼んだから、そこで大人しく待っていろ!変な動きをしてみろ?ただじゃ置かないからな!」


 警戒する村人たちの気持ちも分からないではない。

 俺は、大人しくその場で村長が来るのを待つ事にした。


「あっ、あの、アルトさん。その、大丈夫なんでしょうか……」


 不安気なフローラが、俺の背後から服の裾を握って問いかけてくる。

 俺は、彼女を不安がらせない様に努めて明るく振る舞う。


「何、大丈夫さ。この村人達には何か誤解があるのかもしれないが、村長が来れば全部解決するよ」


 しばらくの間、俺達と村人達で睨み合いのような状況になる。

 怪我人もいるのだし、早く村長にあって村に入れてもらいたいものだ。

 俺がそんな事を考えていると、村の奥から人がやってくる。

 村長だ。

 村長は、俺達の姿を認めると嘲笑うかの様な軽薄な笑みを浮かべる。


「ゴブリンの巣穴の討伐をしてくると言って息巻いていたが、怖くなって逃げ帰ってきたか?こっちは、お前さん達冒険者が余計な事をしてくれたおかげで大混乱だって言うのに……。よくもまぁ、のんきに顔なんか出せたもんだ」


 刺々しい村長の態度に、周りで見ていた村人達も同調した様に危険な雰囲気をまとっていく。

 そんな村長達の態度を意にも介さぬという風を装って、俺は明るく村長に言葉をかけた。


「おいおい、誰が逃げ帰っただって?ゴブリンの巣なら討伐してきたさ。何なら証拠に討伐証明部位を見せてやるよ」


 そう言って、俺はフローラに抱えていた女性冒険者の一人を預けると、空いた手で腰に下げていた袋を取って村長の足元に投げて寄越した。

 怪訝そうな顔を浮かべた村長が、袋の口を開いて中を見た途端悲鳴を上げる。


「それが、巣にいたゴブリン共を討伐した証拠の討伐証明部位だ。ざっと40匹分ほどある。……分かってくれたかな?分かってくれたなら、村に入れてもらえないかな?こっちは、ゴブリンの巣穴から救出した冒険者を二人抱えていてね。重傷だから、早くしっかりした場所で休ませてやりたいんだが?」


 俺の言葉を聞いた村長は、青い顔をしてコクコクと頷いた。


「わっ、分かった。そういう事なら、私の家を使うと良いだろう」


 俺が村長の足元に放り投げた袋を拾い上げると、村長は顔をこわばらせてそれを凝視してきた。


「これに興味があるのか?」


 俺が腰に下げた袋を示すと、村長はブルブルと首を振る。


「いっ、いや、いい。……それより、こっちだ。ついて来なさい」


 そう言って足早に去る村長の後を追って、俺達は無事に村の中へと足を踏み入れたのだった。

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