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豚面転生~殺されかけた所から始まる異世界冒険譚~  作者: 剣原 龍介
第二章・駆け出し冒険者編

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第五話・ゴブリン戦

 一夜明けて早朝。

 朝食を済ませて夜営地を引き払った俺は、さっそくローゼンハイムの街の南に広がる森の西側を探索する事にした。

 森で狩りをする事になってから補充した矢の具合を確かめる。

 もちろん矢を買った時にも街を出る前の準備でも確認しているのだが、こういう事はしっかり確認するに越した事はない。

 矢筒に数本の矢を入れて弓と一緒に背負い、その他の装備を確かめる。


「さぁ、出発だ!」


 俺は、気合を入れて森の奥へと踏み入っていく。

 とは言っても、いきなり森の奥に進んでいくわけじゃない。

 初めは森の端が分かる程度に浅い位置で森の端に沿う様に歩く。

 この森は人の手が入っていないだけあって木々の並びは不規則で、枝打ちなどの手入れをされていない木はその太さも枝ぶりもバラバラだ。

 そのため、まっすぐ進みたいと思っても枝が進路を邪魔し、木々が俺の視界を遮る。

 さらに、この森は山裾に広がる事もあって緩やかではあるが起伏があり、進路と視界の悪さに拍車をかけている。

 鬱蒼と茂った森は昼間でさえも薄暗く、視界の悪さもあって薄気味悪い雰囲気を漂わせている。

 俺は、慎重に歩みを進める。

 兎の様な小動物なら問題ないが、猪や熊といった大きな獣に不意遭遇する事は避けたい。

 恐れすぎて行動できないのでは意味が無いが、慎重さを忘れるわけにはいかないだろう。

 しばらく森の端に沿う様に歩いきながら多少なりとも森の様子を観察した俺は、意を決して森の奥深くへと歩みを進めていく。

 そうして森に入って本格的に探索を続けた結果、俺は早くも狩りの成果を上げる事が出来ていた。


「……やっぱり、この辺りの森は獲物が豊富だな」


 血抜きをした兎を『アイテムボックス』に収納した俺は、後片づけをして立ち上がった。

 もうすぐ昼になるが、ここまでの狩りで兎を三羽、狐を一匹、猪も一匹を仕留めている。

 今日は大猟と言っても良い。

 俺が森の探索と狩りを始めてから、一体どれくらいの時間が経っただろうか。

 森の中にいると、天を見上げても空の様子はほとんど分からない。

 しかし、体内時計が間違っていないのであれば、もう昼になる頃合いだった。

 俺は、狩りを一時中断して昼食を取る事にした。

 森の中にわずかに広がる開けた場所に移動する。

 そこに転がっていた倒木に腰掛けた俺は、『アイテムボックス』からパンとハム、チーズ、新鮮な葉野菜を取り出して簡単なサンドイッチを作る。

 そのサンドイッチをパクつきながら、作り置きしていた果実水で喉を潤す。

 そうして俺が昼食を取っていると、森の中に突然けたたましい鳥の鳴き声が響き渡った。

 ここから少し離れた位置だろうが、こんな風に鳥が警戒音を立てるのは聞いた事が無い。

 気のせいか、森に緊張感が満ちる様なピンと張り詰めた空気が漂う雰囲気を感じる。


「何だ?」


 遠くからガサガサと下生えの藪を乱暴にかき分ける音と何かの鳴き声らしき声が聞こえてくる。

 その音は、猪や熊といった野生動物が立てる様な音ではない。

 野生の獣というのは用心深い。

 あんな風に自分の位置を露呈させる様な騒音を出しながら移動する事はまずないのだ。

 俺がその不審な音に戸惑っていると、音はどんどん俺のいる方向に近付いてくる。

 俺は周囲を見渡すと近くの木の上に登っていく。

 音の主の正体が何であれ、その正体を確かめなければ対策の取りようがない。

 木の上から見通すと、藪の間からチラチラと白いものが見え隠れする。

 木に登たまま息を潜める。

 そうしている間にも、音の主はどんどん俺のいる方に近付いてくる。

 相手との距離が近付いたためか、相手の立てる音や鳴き声が大きくはっきりとしてきた。

 音の雰囲気からして、その音の主は複数。

 先頭を行く者が一際大きな音を立てて藪をかき分けて、その後を追う様に続く声が複数いるようだ。

 いよいよ近くまで近付いてきたようで、藪を乱暴にかき分ける音の他にギャーギャーという耳障りな鳴き声もはっきりと聞こえる。

 不測の事態に備えて弓を手にする。

 木の上から広場を見下ろす俺の目線の先、藪を突っ切る様に白い装束を身にまとった小柄な人物が飛び出してきた。


「ん?誰だ?女性……どこかで見覚えがある様な……」


 よく見れば、その人物が着ているのはこの世界の教会でよく見かける様な僧服だ。

 おそらく神官か何かだろうその女性は、鎧の上に法服を被っているようで、よく見れば冒険者の様に見えなくもない。

 まぁ、もし仮に冒険者ではないのだとしても、何者かに追われている事は確かなようだ。

 女性は唐突に開けた場所に出た事に戸惑うように周囲を見渡していたが、すぐに後ろからギャーギャーという耳障りな鳴き声が聞こえた事で慌てた様に俺が登っている木の方に向けて駆け出した。

 その直後、藪を突き破って複数の新たな人影が現れる。

 否、あれを人と言ってはいけないだろう。

 小柄な体格に緑色の肌、粗末な服をまとったその顔は醜悪で手には粗末な武器を持っている。

 数は五匹。

 この目で見るのは初めてだが、あれは小邪鬼ゴブリンという魔物モンスターだろう。

 ゴブリンに追われている女性は、森の向こう側からずっと逃げ続けてきたのに違いない。

 その足取りには、はっきりと疲労の色が見て取れる。

 それでも必死になって逃げようと走り出した女性だったが、突然悲鳴を上げて倒れ込んだ。

 女性を追いかけてきたゴブリンの内の一匹が、その手にした石を女性に向けて投げつけたのだ。

 投石を足に受けた女性が、痛めた足を引きずる様にして必死に地面を這う。

 五匹のゴブリン達はそんな女性の様子を指差して眺めると、ゲラゲラと笑い声を上げながら女性の周りを取り囲んでいく。

 女性の方もゴブリン達に取り囲まれた事に気が付いたのか、その顔はみるみる青ざめていく。


「っと、のんびり見物している場合じゃないな」


 俺は、女性を取り囲むゴブリンの様子を一瞥すると、手にした弓に矢をつがえて引き絞った。

 どいつから狙うか。

 女性の周りを取り囲んだゴブリン達は、女性の恐怖する様を眺めて楽しんでいるのだろう。

 すぐに女性に殺到する様な事はせずに遠巻きに取り囲んで奇声を上げている。

 すると、投石を持ったゴブリンがその手の石を振り上げる。

 俺は、ゴブリンが石を投げる前にソイツに狙いを定めて矢を放った。

 矢は狙い過たずにゴブリンの頭に突き刺さる。


「ギョエェ?」


 頭に矢を受けたゴブリンが奇声を上げて倒れ込む。

 突然の事に周囲のゴブリン達の動きが止まる。

 俺は素早く二の矢をつがえる。

 残ったゴブリンの内、三匹は倒れたゴブリンに気を取られているが、一匹だけ攻撃された事に気が付いたゴブリンが唸り声を上げて周囲を見渡している。

 俺は、周囲を警戒し始めた手斧を持ったゴブリンに狙いを定める。

 奴は、投石を持ったゴブリンが攻撃された事をいち早く理解したが、まだそれが自分達の頭上からの攻撃だった事までは理解していない。

 隙だらけの頭に向けて矢を放てば、矢は狙い通りにゴブリンの頭に突き刺さる。


「ギィアァ!」


 悲鳴を上げて手斧を持ったゴブリンが倒れる。

 その声に、残ったゴブリンも危機を理解したのだろう。

 周囲を警戒する様に森に目を向け始めた。

 その時、他の二匹が周囲の森に目を向ける中で、錆びた小剣を持ったゴブリンだけが女性に向けて駆け出した。

 人質にでもするつもりなのか?

 さすがにそれは見過ごせない。

 次の標的は、ソイツだ。

 俺はその動きを見て、三匹目の標的に狙いを定める。


「イヤー!来ないで!」


 自分に向けて迫りくるゴブリンの姿に女性が悲鳴を上げる。

 俺は落ち着いて狙いを定め、錆びた小剣を持ったゴブリンが女性の下に駆け寄って足を止めた瞬間を狙って矢を放つ。

 女性を掴もうと手を伸ばした姿勢で、頭に矢を受けたゴブリンがガクンと震えてその場に崩れ落ちる。

 目の前で倒れ頭から血を流すゴブリンの死体を見た女性が更に悲鳴を上げる。


「ヒッ!キャー!」


 その悲鳴に、周囲を見渡していた残りのゴブリンの視線が女性に向く。


「グリュギャァー!」

「ギョリュゲギャギャァー!」


 女性に向けて威嚇する様にゴブリンが奇声を上げた。

 二匹のゴブリンはその手に持った粗末なこん棒を振り上げて女性に向けて駆け出す。


「チッ!」


 俺はそれを見て、潜んでいた木の上から盛大に音を立てながら飛び降りた。

 ガサガサと音が鳴り、飛び降りた俺の姿を見たゴブリンの動きが止まる。


「グギャガァ!」

「ゴギェギェ!」


 地面に飛び降りた俺は、動きの止まったゴブリンの内の一匹に向けて素早く弓矢を構えて矢を放つ。

 矢は狙い通りにゴブリンの頭を打ち抜く。


「ガゴゲェ?」


 矢を受けたゴブリンがドサリと地面に倒れ伏し、それを見た最後の一匹が戸惑う様に俺と倒れたゴブリンを見比べる。

 俺は、倒れ伏す女性を挟んで向かい合う位置で残ったゴブリンに対峙している。

 この位置では女性に誤射する危険が拭えない。

 そう判断した俺は、棒立ちになった最後のゴブリンが動き出すよりも早く距離を詰めて女性を庇う位置に立ち、手にしていた弓を捨てて腰の剣を引き抜く。

 俺は引き抜いた剣を振りかぶり、素早くゴブリンとの距離を詰めて一気にその頭に剣を振り下ろした。

 ゴブリンはとっさに俺の剣を防ごうと粗末なこん棒を持ち上げて防御の姿勢を取ろうとするが、それより早く俺の剣がゴブリンの頭に叩き込まれる。


「ギャー!」


 俺は頭を叩き割られたゴブリンを蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされ地面に倒れ伏したゴブリンの頭からドクドクと血が噴き出して地面を汚していく。

 目の前に転がるゴブリンの死体には目もくれず、俺は油断なく周囲の状況を観察した。

 森の奥を睨み付けてしばらく警戒していたが、後続のゴブリンが現れる気配は無い。

 森も静けさを取り戻しており、これと言って異常は感じられなかった。

 そこまで確認して、俺は警戒を解くと背後に蹲る女性に振り返った。


「どうやら、これ以上のゴブリンは出てこないようだな。もう大丈夫そうだ。それにしても、どうしたんだ?何があった?こんな森の奥で、一人でゴブリンの集団に襲われているなんて普通じゃないぞ?」


 俺は、ゴブリンに襲われた事で震えている女性に歩み寄って跪いた。

 相手を刺激しない様にと、目線を合わせて静かにゆっくり話しかける。

 相手が落ち着くのを辛抱強く待っていると、しばらくしてようやく落ち着きを取り戻し始めた女性が顔を上げて口を開いた。

 その首元に揺れる冒険者証は、銅階級カッパークラスのものだった。


「たっ、助かった?あの!ここは森のどの辺りになるのでしょうか?ゴブリン達に追われ、逃げるのに必死で、ここがどこなのか分からないのです」


 不安げに周囲を見渡す女性に、俺はゆっくりとした口調で語りかける。


「ここは、ローゼンハイムの街から見て南西の森の奥になりますよ。ですが、ここからだと、ローゼンハイムの街よりもビシニティ村の方が近いですかね」


 ビシニティ村はローゼンハイムの街近郊に点在する村の一つで、ローゼンハイムの街の南門から出て街道を南西に一日ほど進んだ所にある村だ。

 まぁ、行った事は無いのだけれど……。

 俺がそんな事を考えていると、女性はハッとした顔で立ち上がる。


「そんな!……村の方に逃げているつもりだったのに、方向を間違っていたなんて……」


 深刻そうな女性の表情に、俺は厄介事に首を突っ込むのもなぁと思いながらも、話の流れから聞かざるをえないだろうなと内心で溜息を零した。


「一体どうしたんですか?何か問題でも?それに、貴方一人ですか?仲間はどうしたんです?」


 見た感じ戦士ファイター野伏レンジャーといった雰囲気ではない。

 それが、一人でこんな森の奥にいる事に疑問を感じる。

 まぁ、単独で狩りをする俺の様な例外もいるにはいるが、この女性はそんな例外には該当しそうもない。

 普通なら、そういう冒険者は数人でパーティを組んで事に当たる。

 各々がパーティ内で臨機応変に有機的に役割分担をこなすのだ。

 そうする事で、冒険者のパーティは単独の冒険者やそういった冒険者がただ集まっただけの集団には成しえない高度な実力を発揮する。


「仲間、ですか……」


 俺が仲間の所在について問うと、女性は俯いて肩を震わせる。

 何か酷な事があったようだが、ここで聞かなければ問題は全く解決しない。

 状況を把握しなければ、最悪こちらの身にも危険が及ぶ。

 あのゴブリン達にしたって、先程倒した五匹以外にもまだいるかもしれない。

 こうして話をしている間にも、森の向こうから現れて襲われる可能性だって否定できないのだ。

 かといって、言葉を詰まらせる女性をせかすわけにもいかない。

 俺は、一先ず周囲に転がるゴブリンの死体を片付ける事にした。

 周囲には倒したゴブリンの死体から流れた血の臭いが漂い始めていた。

 俺は手近なゴブリンの死体に近寄りその頭に刺さった矢を引き抜く。

 それから、少し躊躇したものの、意を決してナイフを取り出すとゴブリンの死体の胸を開き、心臓近くにある魔石を取り出した。

 順番にゴブリンの死体から矢と魔石を回収して回り、その死体を一か所に集める。

 少し考えてから、討伐証明部位としてゴブリンの右耳を削ぎ落していく。

 五匹分の耳を削ぎ落した後、魔法で穴を掘ってゴブリンの死体を放り込み、その穴を埋め戻した。

 変に死体を放置して、不死者アンデッドにでもなられたら困る。

 一連の作業を手早く済ませている間、女性は黙ってその作業を眺めていた。

 たった五匹とは言え、魔物の死体を処理するのに少々時間を取られた。

 いつまでも血の臭いの残るこの場所に留まるのは良策とは言えないだろう。

 俺は、ゴブリンの死体の処理を終えて女性に向き直る。


「さて、魔物の死体の後処理はもう良いでしょう。いつまでもここに留まっていては、血の臭いに誘われた猛獣や他の魔物が寄ってこないとも限りません。とりあえず、場所を移しましょう。聞きたい事はありますが、それはこの場所を離れた後です。……ついて来て下さい」


 そう言って俺が歩き出すと、女性は大人しく俺の後について歩き出した。

 しばらく歩いて、十分に離れたと確信が出来た所で歩みを止める。

 俺が足を止めると、女性が戸惑った様な声で俺に話しかけてきた。


「あの……、ここは?」


 俺が振り返ると、女性はビクッと小さく震える。

 その様子に小さく溜息を吐いた俺の様子をどう捉えたのか、女性は肩を小さくして縮こまるとバッと頭を下げた。


「あっ、あの、申し訳ありません!助けていただいたのに、お礼も申し上げず……」


 俺は恐縮した様子の女性に出来るだけ穏やかに聞こえる様に意識して返事を返す。


「いや、命の危機だったんです。気が動転していても、仕方のない事でしょう」


 まぁ、それでは冒険者としては失格だとは思うけれど、余計な事は口にはしない。


「それより、少しは落ち着きましたか?」


 俺が問いかけると、女性はコクリと頷く。

 俺もそれに頷き返して、話を続ける。


「それは良かった。っと、そう言えば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。俺は、アルト。ローゼンハイムの街で冒険者をしている銀階級シルバークラス冒険者のアルト・アイゼンです。ご同業のようですが、よろしくお願いします」


 俺が名乗って手を差し出すと、女性は戸惑いながらもその手を握り返す。


「危ない所を助けていただき、本当にありがとうございます。私もローゼンハイムの街で冒険者をしています銅階級冒険者のフローレシア・ベルンシュタインです。フローラとお呼びください」

「分かりました、フローラさん。……それで、何があったのですか?」


 握手を交わした俺は、近くに転がっていた倒木に腰掛けた。

 倒木にハンカチを広げ、フローラにも座るように促す。

 それを見たフローラは、顔をほんのり赤く染めて頷くと倒木に広げたハンカチの上に腰掛ける。

 それから深呼吸を一つすると、ゆっくりと話始める。


「お気遣い、ありがとうございます。実は私達、ローゼンハイムの街の南西にあるビシニティ村からの依頼を受けていたんです。依頼は、村の周辺に出没するようになったゴブリンの討伐依頼。……簡単な依頼だと思ったんです」


 そう言ってフローラは俯く。

 そうか、南西の村のゴブリン討伐依頼を受けた冒険者達だったのか。

 そう言えば、俺が銀階級の冒険者証を受け取った日に依頼を受けていた冒険者がいたな。

 道理で覚えがあるはずだ。

 フローラの膝の上の手の甲に、涙がポツポツと落ちるのが見えた。

 俺は彼女の涙には気付かないふりでしばらく黙って、フローラが話を再開するのを待った。


「すみません……実際、順調に行ってたんです。村の周辺を探索して、ゴブリンの痕跡を発見しました。それを追跡して、村の近郊に潜んでいたゴブリンを見つけたんです。でも、討伐の際に一匹逃げられてしまって……後を追って森の奥に踏み込んだんですけど、追いついてそのゴブリンも討伐できたんです。ですが……」

「ですが?」


 言い淀むフローラに、俺は声をかけて続きを促す。

 フローラは顔を上げて俺を見る。


「森の奥にゴブリンの潜む洞窟を発見したんです。私達は、依頼であるゴブリン討伐の為にはその洞窟を探索する必要があると考えました」


 その言葉に俺は驚く。

 村周辺に出没するゴブリンの討伐依頼自体は銅階級レベルの依頼だが、その巣に潜むゴブリンを討伐するとなると金階級ゴールドクラスの依頼になる。

 俺がその事を伝えると、フローラは驚いた様な表情を浮かべた。


「そんな!知らなかった……。ゴブリンの討伐なんて銅階級だとそれほど珍しい依頼でもないんです。それなのに、巣の討伐がそんなに難度が高いなんて……」


 知らなかったのか……。

 俺は、フローラの様子におおよその事情を察した。

 おそらく、ゴブリンの巣穴を見つけた彼女達は、ゴブリンを侮っていたのだろう。

 村周辺でゴブリンを討伐できた事もあるだろうし、逃げたゴブリンを追跡して簡単に討伐できた事も油断につながったに違いない。

 その結果、ゴブリンの巣穴に侵入し、下手を打って返り討ちにあったのだ。


「それで、ゴブリンの巣穴を探索したのか?」


 俺は、声に避難の色が混ざらない様に注意して声をかける。

 彼女がゴブリンに追われていたという事は、ゴブリンに返り討ちにされて逃げだしたという事。

 もし、逃げる途中でパーティメンバーとはぐれてしまったというのなら、他のパーティメンバーはまだゴブリンに追われているかもしれない。

 俺の言葉に頷いたフローラは、顔を伏せる。


「洞窟に入ってすぐは何もなくて……。でも、少し奥でゴブリンに遭遇して、前衛のリーダー達が戦い始めたんです。私は直接戦えませんから、魔法使いマジックキャスターの子と一緒に後ろに待機していました。ゴブリンが逃げ出して、リーダー達はその後を追おうとしたんです。そうしたら、突然後ろからゴブリンに襲われて……。仲間が倒れていく中で、魔法使いの子が私を庇って逃がしてくれたんです。村に危険を知らせてと……」


 なるほど、そういう事か。

 そうなると、彼女以外の冒険者達は望み薄かもしれない。

 全滅せずに彼女だけでも助かったのは、運が良かったのかもしれない。


「そういう事なら、村に行って事情を話した方が良いだろうな。直接ここから村へ行く道は俺も分からないけど、森を出れば村までは遠くないだろう。……行こうか?」


 立ち上がった俺を見て、フローラは涙を拭いて立ち上がる。


「はい!仲間の犠牲を無駄にはできません!とにかく村に危険を知らせないと!」


 フローラの決意の声に、俺も頷く。


「よし、なら急ごう。巣を襲撃されたゴブリン達が、刺激されて村を襲わないとも限らない」

「分かりました。急ぎましょう、アルトさん」


 話を聞いた俺は、フローラを連れて森を抜け、ローゼンハイムの街の南西にあるビシニティ村へと向かう事にしたのだった。

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