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豚面転生~殺されかけた所から始まる異世界冒険譚~  作者: 剣原 龍介
第二章・駆け出し冒険者編

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第四話・再び森へ

 俺が新たに銀階級シルバークラスの冒険者へとランクアップした翌日。

 俺は、再び一人で森へと出かけていた。

 結局、昨日は一緒にパーティを組む事のできる相手が見つからなかったのだ。

 もちろん、メンバー募集をしている冒険者がいなかったわけではない。

 ただ、そういった連中は仕事の数合わせで人数を必要としていた木階級ウッドクラスや昇格したばかりでメンバーの決まっていない銅階級カッパークラスばかりだった。

 銀階級である俺がパーティを組むのに丁度良いと思える金階級ゴールドクラスや銀階級どころか、鉄階級アイアンクラスの冒険者のパーティメンバー募集もなかったのだ。

 そもそも冒険者のパーティ編成というものは、一度パーティを組んでみてもメンバー同士の相性が悪ければ解散してしまう事は珍しくない。

 冒険者は、そうして数度の集合離散を繰り返していくうちに、次第に相性の良いメンバーが集まって一つのパーティを組んでいくものだ。

 そして一度パーティメンバーが固まれば、その後はパーティが長く続く事が多い。

 冒険者ギルドで話を聞く限りだと、金階級や銀階級辺りまでの冒険者は比較的メンバーの入れ替えやパーティの解散を経験する事が多いという話だった。

 逆に、難易度の高い依頼を受ける事の多い白金階級プラチナクラスやミスリル階級クラス以上の冒険者は、パーティの練度がそのまま依頼達成率に影響するのでそう簡単に解散する事はないという。

 だから、昨日そういった話が無かったのは、たまたま運が悪かっただけと考える事も出来る。


「もうすぐ南の森に着くけど、アンタが金色狐ゴールデンフォックスを狩ったのは、南の森のどの辺りなんだい?」


 森へと歩く俺の隣でそう問いかけてきたのは、金階級冒険者パーティの一人で戦士風の装備を身に着けた男だった。

 彼の他には、軽装に弓を背負い小剣ショートソードを腰から下げた探索者スカウト野伏レンジャーらしき男と魔法使いマジックキャスターと思しきローブ姿で杖を持った男、鎧の上から法衣だろう外套を纏い戦鎚を携えた司祭プリーストらしき男の四人組だ。

 彼らのパーティとは南の街門を出る時に出会っていた。

 俺が南の森に向かう事を聞いた彼らは、自分達も同じだと言って南の森への道程を一緒にしているのだ。

 俺は、問いかけてきた戦士風の男に目を向けるとその問いに答える。

 金色狐の話は別に秘密の話というわけでもないのだから、素直に話しても問題ないだろう。


「あぁ、南の森の端からさらに森の中に半日ほど入った辺りの深い森のなかさ。割と山際に近い位置になるのかな?」


 俺の答えを聞いて、戦士風の男の後ろについて歩いていた一行の一人、弓を背負った男が口を開いた。


「山の麓まで分け入ったのかい?それも一人で?アンタ、つい昨日まで鉄階級だったんだろ?よくもまぁ、あの山の麓まで一人で踏み込んだもんだねぇ……」

「中々に勇気のある行動であるな」

「別に麓というほど奥まで踏み入ったわけではないんですがね」


 弓を背負った男の呆れた様な声に法衣の男が重々しく頷くのを聞いて、俺は苦笑を浮かべた。

 彼らが気にするのは分からなくもない。

 これは冒険者ギルドで聞いた話なのだが、何しろあの山と麓の森では冒険の難度が全く違うそうなのだ。

 それは、森が比較的脅威度の低い動物や魔物モンスターしかいないのに比べ、山に足を踏み入れると脅威度の高い魔物の縄張りテリトリーになっているからだ。

 魔物も動物と同じで、ある程度の行動範囲を縄張りとして動く事が多い。

 その中でも、山奥には妖巨人トロール巨人族ジャイアント等の強い魔物の縄張りがあるらしい。

 らしいというのは、その縄張りや生態を詳しく確かめて生還した冒険者がほとんどいないからだ。

 だから、冒険者ギルドにもトロールやジャイアントといった強力な魔物の生息報告はあるが、具体的にどこにどれだけいるのかといった情報はないに等しい。

 ローゼンハイムの街の住民にとっては、南の森の向こうに聳える山は触れるべからずアンタッチャブルというわけだ。

 もちろん、それが冒険者となると話は変わる。

 山が危険な魔物の縄張りとなっているという事は、それだけ人の手が入っていないという事。

 つまり、まだ見ぬお宝や強力な魔物の討伐報酬が期待できる可能性があるという事でもある。

 まぁ、触らぬ神に祟りなしという言葉もある。

 時折、そういう命知らずの冒険者が山に挑み、その多くは途中で挫折するならばまだまし、最悪はそのまま帰ってこない事もあるそうだ。


「本当に、金色狐を狩る事が出来たのは運が良かっただけなんですよ」


 俺は嘘は言っていない。

 アレは本当に運が良かったのだ。

 冒険者ギルドに集まっている情報の中には、当然だが金色狐の生息地に関する情報もある。

 それによると、昔はこの近辺の森にも生息していたらしい。

 しかし、その価値の高い毛皮を狙った乱獲によって、今ではローゼンハイムの街の周辺の森ではすっかり姿を消してしまったと言われている。

 南の山の奥の方までいけば生息していると言われており、実際にそうした山奥から狩って戻った冒険者の話はあるのだ。

 だが、危険な山の奥まで足を踏み入れる必要があって、今ではほとんど市場に出る事はなくなってしまった。

 そんな所に、山にまで入らなくても金色狐を狩る事の出来た冒険者が現れたのだ。

 しかも、鉄階級である。

 その情報に色めき立った冒険者が一獲千金を狙っても、可笑しい事ではない。

 実際、こうして今一緒に歩いている冒険者達一行も、そんな俺の話を聞いて南の森に足を延ばしている冒険者達の一人というわけだ。


「あぁ、まぁ、確かに運は関係あるかもな。山の方まで踏み込んだら、金色狐の縄張りがあるって噂もあるけど……」


 戦士風の男が考えるそぶりを見せる。

 それを見た他のメンバーが戦士風の男に声をかける。


「リーダー、変な事を考えないで下さいよ。私達だって腕に覚えがないとは言いませんが、山奥まで踏み込むには実力も装備も足りませんよ?」


 リーダーと呼ばれた戦士風の男が、後を歩くローブ姿に杖を持った男を振り返る。

 険しい顔を浮かべるローブ姿の男を見るリーダーの顔には、苦笑が浮かんでいた。


「もちろんさ。冒険者ギルドでも、あの山に挑むのは最低で白金階級、推奨はミスリル階級以上なんだからな。俺だって金は欲しいが命は惜しいさ。アルトが狩ったって言う金色狐が単独でなかったなら、他に仲間がいるはずだ。俺達の狙いはそいつらさ。……まぁ、もし見つけられなくても、あの森で狩りをすればそれなりの稼ぎになるだけの獲物が獲れるだろう?損する事はないさ」


 なるほど、どうやら彼らは二匹目のドジョウを狙うだけの山師ではないらしい。

 南の森は、山が近い事もあってか時折脅威度の高い魔物も出没する。

 そのため、狩りで生計を立てている冒険者達からも、どちらかというと嫌厭されているらしい。

 したがって、ローゼンハイムの街周辺の他の森などと比べるとほとんど手付かずと言って良い状態である。

 その分、自然の恵み、狩りの獲物も豊富というわけだ。

 その事は、俺がここ一月ばかりの南の森での狩りで成果を上げている事で保障されていると言って良い。

 彼らの本当の狙いは、そういう手付かずとなっていた獲物を狩って成果を上げる事なのだろう。


「さぁ、森に着いたぞ?アンタ達は、こっからどうするんだい?」


 俺は、ここまで連れ立ってやってきた冒険者達に聞いてみる。

 すると、リーダーがこちらに振り返る。


「あぁ、俺達はこの辺りに拠点を作ってから、周辺の森を探索してみるよ」

「おいおい!気軽に言うなよ?拠点向きの場所探しも周辺の森の探索も、ほとんど俺の仕事だろ?」


 リーダーの返しに、弓を背負った男が不満を述べる。

 どうやら、弓を背負った男はやはり野伏の資格保持者の様だった。

 俺は、不満顔の野伏をなだめるリーダーに声をかける。


「よかったら、この近くで俺が拠点に利用していた場所を教えようか?」

「良いのか?そこはアルトも使うんじゃないのか?」


 俺の言葉に、リーダーは驚きを顔に浮かべる。


「いや、俺はちょっと考えがあって、今日は南の森じゃなくってもっと西寄りの辺りを狙ってみるつもりなんだ。だから、その場所は俺は使わないし、別に秘密の場所ってわけでもないからな」

「そうか。そいつはありがたいな。これで拠点探しの手間が省けるや。礼を言うぜ!……で?それはどこなんだ?」


 野伏の男が、リーダーを押しのけて俺に場所を問うてくる。

 俺は、慌てるなと手で制しながら話を続ける。


「ここからそんなに離れた場所じゃない。夜営をするのにそこそこ切り開いて作った場所だから、もしかしたら既に他にもそこを使っている冒険者がいたりするかもな。……こっちだ!」


 俺は先頭に立って歩き始める。

 その後ろに冒険者一行が続く。

 森の端に沿って少し歩いていくと、ほどなく目的の場所に辿り着く。

 いつも夜営地に利用している空き地には、先客の冒険者の姿が見て取れた。


「何だ、やっぱり既に他にもここを使っている奴がいたか」


 俺が空き地に姿を現すと、先にそこで休んでいた冒険者達が警戒した様に身構える。

 まぁ、いきなり仮面で顔を隠した正体不明の人物が現れたら警戒するか。

 俺は、敵意はないと示すために手を上げながら空き地に足を踏み入れる。

 俺の後に続いてここまで案内してきた冒険者達も姿を現した。

 その姿を見て、空き地にいた冒険者も同業と気が付いたのだろう。

 武器にかけていた手が下ろされるのが見えた。


「さぁ、ここが普段俺が夜営の拠点にしている場所だ。ここならちょっとした広さがあるし、複数のパーティがかち合ったって、夜営をするのに問題はないと思うぞ?」


 俺が後ろを振り返ると、リーダーが近寄ってきて周囲を見渡し俺に礼を言ってくる。


「すまないな、ありがとう。確かにここなら拠点にするのに打って付けだ。冒険者としては俺達の方が先輩なのに、世話になったな」

「いや、困った時はお互い様というじゃないか。気にするほどの事じゃない……」


 俺の言葉に、リーダーは困ったような表情を浮かべて首を振る。


「そうはいかないさ。とは言っても、今すぐ礼が出来るというわけでもないしな。まぁ、何か困った事があったら、この俺、『暁の牙』のリチャード、リチャード・リチャードソンを頼ってきな。話にもよるが、可能な限り力になるぜ?」

「ありがとう。その時には頼らせてもらうよ」


 俺がリーダーと話をしていると、野伏と魔法使い、司祭の男達も口を開いた。


「あぁ、いつでも歓迎だぜ」

「大した事はできないかもしれないけどな」

「恩には報いるものである」


 俺は、彼らの言い様に苦笑を浮かべてリーダーに向き直った。


「それじゃ、俺はここで失礼するよ。縁があったら、その時はよろしく」


 片手を上げて挨拶としながら、俺はその場を離れた。

 彼らは俺を見送ると、早速その場にいた他の冒険者と情報交換を始めるようだった。

 俺はその声を後ろに聞きながらその場を離れ、南の森から更に西に進路を取った。

 南の森のこの位置からだと、森の南に山を望みながら森は東西に広がっている。

 森の東側はローゼンハイム伯爵家とは別の貴族の領地になっている。

 そちらで狩りをした場合、その狩りの獲物はローゼンハイムの街ではなく、その貴族が収める街まで行って卸す必要がある。

 それに対して森の西側はローゼンハイム伯爵家の領地なので、狩りの獲物はローゼンハイムの街に卸せば良い。

 別の貴族の領地の街に入るとなると、今の俺では街の入り口で止められてしまう可能性が高い。

 何しろ、仮面を被って顔を隠す様な素性のしれない人物なのだ。

 街に入るだけでも一悶着あってもおかしくない。

 それに比べて、ローゼンハイムの街であれば既に出入りが出来る。

 その事も踏まえて考えれば、南の森の中央以外の狩場を選ぶのならば森の西側しか考えられなかった。

 もちろん、南の森で今まで通りに狩りをするという選択肢もなくはない。

 ただ、あの夜営地で見た様に、ここには既に他の複数の冒険者パーティが狩りにやって来ている。

 あのままあの森で狩りを行うとなると、その冒険者達と競合する事になるのは確実だ。

 そうなると、当然トラブルが起こる可能性もある。

 俺としては、余計な揉め事は避けたい。

 歩き回ってある程度地形も把握している南の森から離れるのは痛手かもしれないが、余計なリスクは避けるべきだろう。

 それに、狩りの獲物が競合する事になれば、当然狩りの成果も目減りする。

 ならば、いっその事河岸を変えるのも手だろうという判断だった。


「さて、この辺りで良いだろう。今日はこのまま夜営の拠点作成だな」


 金階級の冒険者パーティ『暁の牙』と別れた俺は、その足で更に半日ほど森の端に沿う様に歩いて森の西側、ローゼンハイムの街から見て南西の森に来ていた。

 空を見上げれば既に日は傾き始めており、このまま森に入って探索するには少し遅い。

 まだ日が暮れるには時間があるが、明日は朝から森を探索して狩りに勤しむ予定だ。

 その事を考えるならば、今日は早めに夜営の準備を始めても良いだろう。

 俺は南西の森の端を軽く探索して夜営地の候補地を探す。

 今まで活動していた南の森の夜営地点と同様に、この辺りはまだまだ森の奥の山が近いために人の手が入っていない。

 鬱蒼と茂った森の中に入っては何かあった時に見通しが悪すぎる。

 そう考えた俺は、森の端の適当な地点に目星をつけてそこで夜営をする事にした。


「さぁ、やるか!」


 まずは適当に下草を払ってスペースを確保していく。

 なるべく起伏の少ないなだらかな地面を選んで草を刈り取ったら、そこを寝床にする。

 刈り取った下草は『脱水デハイドレーション』の魔法を使って乾燥させる。

 乾燥させた草の一部は焚火をする時の焚き付けに使って、残りは寝床を作るのに使うのだ。

 そうすれば、焚火を起こすのも楽になるし、冷たい地面の上に直接寝なくて済むので寝心地も良いのだった。

 次に、煮炊きをするための竈を作る。

 夜営地周辺から手頃な大きさの石をいくつか探してきて、それを組んで簡易の竈にしていく。

 竈を作ったら焚火を組んで火を点ける。

 竈の上に水を張った鍋を置き、夕飯の材料にする食材を取り出して調理の開始だ。

 『アイテムボックス』を持つ俺は、保存性の低い食材でも問題なく持ち運ぶ事が出来る。

 塩漬けでも干してもいない新鮮な肉と野菜を適当に一人分の分量に切って鍋に放り込み、しばらく待つ。

 灰汁が出てきたらすくって取り除き、調味料を加えて更に煮込む。

 鍋を煮込んでいる間に、街で仕入れていたレモンに似た柑橘を切って絞りカップに注いだ水と合わせて果実水を作る。

 白パンとフレッシュチーズを取り出して一人分に切って皿に盛り、付け合わせに酢漬けの野菜ピクルスを用意する。

 そうして夕飯の準備を進めている内に鍋も煮え立ってきた。

 鍋を竈の火から外してスープを器に注げば、今日の夕飯の完成だ。


「さぁて、それじゃ頂きます」


 並べた夕飯を前に手を合わせる。

 ホカホカと湯気を立てるスープからは美味しそうな匂いが立ち上り、空腹な俺の胃を刺激してくる。

 早速スプーンで一匙すくって口に運べば、肉と野菜の旨味がしっかりと出たスープの味が口いっぱいに広がる。

 食べやすい大きさに切った白パンの上に、フレッシュチーズを塗って一口齧る。

 小麦の薫り高い匂いとフレッシュチーズのさわやかな酸味、ミルクの風味がマッチしていて旨い。

 付け合わせに選んだ酢漬けの野菜の甘酸っぱさの中に仄かに感じる香辛料のピリリとした刺激も食欲を掻き立てる。

 夕飯の美味さに、今日一日歩き通しだった俺の体に染み渡る様な満足感を覚える。

 空腹に後押しされた俺は、夢中で湯班を掻き込んでいった。

 しばらくしてようやく満腹になった頃には、すっかり夕飯を平らげていた。

 食事に夢中になっていた間に小さくなってきていた焚火の火に、追加で集めておいた薪をくべる。

 薪の位置を調整して火勢を調節した所で、俺は立ち上がって周囲を見渡した。


「さぁ、寝る前にやる事やっとかないとな……」


 今いる場所は、森の端の開けた場所だ。

 この位置だと森の反対側の開けた草原は見通しもきくが、森側に目を向けると焚火の灯りの届かない森の中は見通す事はできない。

 もし危険が迫ってくるならば、草原側ではなく森の方からの可能性が高い地形だ。

 寝る前に警戒のための仕掛けをしておくくらいの用心深さはあっても良いだろう。

 本来ならば、冒険者としてパーティを組む仲間と役割分担して行う作業なのだろうが、あいにくと今は俺一人だ。

 日も暮れて暗くなった状況でごく近場とは言え森に入って作業をするのは危険を伴う。

 しかし、何もしないでさらなる危険がくる可能性を放置するわけにもいかない。

 俺は、『アイテムボックス』からそれなりの長さの細いロープを取り出す。

 そのロープを森の端の地点に突き立てた棒の先端に結び、森の中に入る。

 森の中で要所要所にロープを括りつけて進み、グルリと夜営地を囲むようにロープを張っていく。

 森にロープを張った後は、そのロープから野営地に向けて別のロープを結んでつなげる。

 つなげたロープの端を夜営地の一角に突き刺した棒に結び付ける。

 森の中から伸びるロープに薄い板を吊るす。

 この板にはさらにいくつかの小板が吊るされており、ロープが揺れれば小板が板にぶつかって音が鳴る仕組みだ。

 要は鳴子というわけだ。

 最後に、鳴子を吊るしたロープの張り具合を調整すれば、簡単だが森に対する警戒網の完成だ。

 本当なら森に張ったロープも細かく細分化してそれぞれに鳴子を付ければ、どの鳴子が鳴ったかで相手がどの方向から来るかが分かる。

 しかし、残念ながらそこまでする時間も手間も足りない。


「こんなものか?……まぁ、無いよりはマシか……」


 これがパーティを組んでいるならば手分けが出来るのだから、本当に一人で冒険するリスクというのは大きい。

 人手があれば、夜間も交代で見張りを立てれば夜営の安全性はグッと上がる。

 だが、今は無い物ねだりをしていても意味が無いのでどこかで妥協が必要だろう。

 俺は、一先ず夜を越す準備を整えると、再び焚火の前に座り込む。

 鳴子の罠を準備している間に大分時間が経ってしまった。

 勢いを無くした焚火の火から灰を除いて、薪を追加して焚火の火を調整する。

 火の勢いを取り戻してから、寝ている間の事を考えて更に薪を追加しておく。

 とは言え、一人で寝ていればいずれは焚火の火も消えてしまうだろう。

 夜営地の焚火から少し離れた場所で穴を掘って用を足してスッキリした俺は、乾いた下草を敷いて作った寝床に毛布を広げ、外套に包まってその日の夜を終えたのだった。

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