第二話・ランクアップ
俺とジャックの親父さんが話をしていると、引き取り所に一人の女性が姿を現した。
燃えるような赤髪、細面で鼻筋の通った顔立ちに切れ長の目が印象的なグラマラスな美人だ。
その美人は、俺とジャックの親父さんを見るなり、大きな声で話しかけてきた。
「ジャックの親父さん!金色狐が入荷したって言うのは、本当の事なのかい?」
「おぅ!来たか、ギルド長。そうだよ、久々の凄い獲物だろ?コイツが狩ったんだ!」
ジャックの親父さんが俺の背中をバシバシと叩く。
ジャックの親父さんにギルド長と呼ばれた女性が、俺の方を向いて笑顔を浮かべた。
「へぇ、アンタがねぇ……。アンタ、最近噂になってる新人だよね?ドルツさんから話は聞いているよ。何でも、新入りにしてはえらく腕の立つ新人がギルドに入ってきたってね」
よくやってくれたと手を差し出してくるギルド長の手を握り返しながら、俺は自分の名を名乗って挨拶した。
「それはどうも……。はじめまして、ギルド長。アルト・アイゼンと申します。以後、よろしくお願いします」
「あぁ、私はヒルダ、ヒルデガルト・ビンゲンドルフだ。こっちこそ、よろしく頼むよ」
俺と握手を交わしたギルド長は、さっそくとばかりにジャックの親父さんに問いかける。
「それで、ジャックの親父さん。その金色狐の実物はどこだい?」
「何だ?見てぇのか?」
ワクワクとした雰囲気のギルド長の様子に、ジャックの親父さんは悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「そのために呼んだんだろ?もったいぶらずに、さっさと見せておくれよ!」
「ハハハッ、そう慌てなさんな!言われずとも、ちゃんと見せるとも!」
ジャックの親父さんはこっちだと言って、引き取り所の奥へと入っていく。
引き取り所の奥は、冒険者が持ち込んだ獲物を素材として解体するための解体処理場になっている。
狩りで狩った獲物は、ここで食肉と皮やその他の素材に分けられて市場へと卸される。
作業場の一角に移動すると、解体を待つ獲物、金色狐が置かれていた。
「へぇ!コイツが今回入荷したっていう金色狐の実物かい?凄いね!コイツは私が知ってる中でもかなりの大物だ!コイツが市場に出ればかなりの値が付くね。……ジャックの親父さん、コイツの処理は一層丁寧にやっておくれ。頼んだよ!」
「分かってるって!毛皮の処理で下手を打って台無しになんぞしたら、それこそ目も当てられんねぇからな。腕っ扱きの奴にやらせるよ」
ギルド長の言葉に、ジャックの親父さんは大きく頷く。
ジャックの親父さんが胸を張って仕事を請け負って見せると、ジャックの親父さんと話をしていたギルド長が俺の方を振り返る。
「それで、アルトって言ったね。今回の金色狐の納品に関しては、報酬の支払いはちょっと待ってておくれよ?こいつは珍しい獲物だから、冒険者ギルドの規定でもしっかりした評価額が決まってないんだ」
そうだよねと、ギルド長はジャックの親父さんに目配せする。
ジャックの親父さんはそれに頷いて話を引き継いだ。
「そうさなぁ……。こいつはどのみちオークションに掛けなきゃならんだろう?いくらの値が付くかは分からんが、かなりの高額になるはずだ。オークションで付いた値段次第でお前さんの受け取り分が変わってくるから、報酬の支払いはそれまで待つんだな。もっとも、どうしても今すぐ金が欲しいってんなら、冒険者ギルドで査定して払ってやらんこともない。しかし、オークションの事を考えるとかなり安く買い叩かれる事になるぞ?」
どうすると、ジャックの親父さんが俺に問うてくる。
俺は別に今すぐ金が欲しいって程金に困っているわけでもいないし、別にオークション後まで待っても構わない。
「あぁ、別に急ぎで金が要るわけでもないし、支払いはオークションの後で構わないよ。それに、オークションでどれだけ値が付くのかっていう事にも興味があるしな」
「それは良かったわ。冒険者ギルドが買い叩く様な事になったら、冒険者の間での冒険者ギルドへの評判が悪くなるからね」
俺の返事に、ギルド長が満足した様に頷く。
その態度に、俺はそれでいいのかと問い掛けた。
「良いのか?冒険者ギルドで査定して買い取って、後からオークションで高く売った方が、結果的に冒険者ギルドの利益が大きいと思うが?」
俺の疑問に、ギルド長とジャックの親父さんは苦笑を浮かべる。
「冒険者ギルドってものは、冒険者の仕事と権利を守るためにあるのよ?冒険者ギルドが、所属する冒険者から搾取しているなんて思われたら、そっちの方が問題よ」
ギルド長の言葉に、ジャックの親父さんも頷く。
「そうだな。冒険者ギルドが金を出し渋ったり冒険者への報償をケチったりして、冒険者ギルドの悪評が立ってみろ。冒険者は現金だからな。稼げないと分かれば、大抵の奴は他所の街に移っちまう。そうなったら、困るのは冒険者ギルドだ。冒険者が狩ってくる食肉の供給が減ったり、街周辺の危険な魔物を討伐する事が出来ないとなると街の行政やら住民からの風当たりが強くなる」
ギルド長も苦笑を浮かべて続ける。
「まぁ、そんな話はこっち側の事情だから、大半の冒険者は知った事じゃないって顔をするんだろうけれどね。そんなわけだから、報酬の方はしっかり支払わせてもらうから安心しな。ちょっと時間はかかるけどね。そんな事よりもアンタの事だよ」
「俺の事?」
ギルド長が金色狐から俺に視線を移す。
俺は何を言われているか分からずに、ギルド長に聞き返していた。
「アンタの冒険者ランクだよ。今のアンタの階級は鉄階級1級だろ?だけど、金色狐を狩るって言うのは金階級どころか白金階級の冒険者でも難しい事なんだ。それを鉄階級のアンタが、それも一人で狩ったって言うのがね……」
言い淀んだギルド長の顔色が曇る。
俺は、何か問題があったのかと思いギルド長に問いかけた。
「何か不味かったですか?」
俺の言葉に、ギルド長は首を振る。
「いいや、アンタには何も問題はないよ。問題は、冒険者ギルドとしてはこれを評価しないわけにはいかないって事さ。幸い、アンタはこの間の大熊の件で、もう十分に腕が立つって事が証明されている」
ギルド長は俺の胸元の冒険者証を指差す。
「だけど、アンタ、野伏の資格が無いだろ?単独で金色狐を狩れるほどの腕前を持つ冒険者を、野伏として評価しないってわけにはいかないのさ」
なんだ、そんな事か。
俺は、自分の方に何か問題があるわけではない事に胸を撫で下ろした。
「それで、どうするんですか?」
俺の問いに、ギルド長は少し考えてから答えを返す。
「まぁ、簡単な事だね。アンタに野伏としての資格を与えるんだよ。ついでに言うと、冒険者ランクも銀階級にランクアップさせるよ。言っとくけど、これは冒険者ギルドからの正当な評価だからね?拒否する事も出来るけど、するわけがないわよね?」
冒険者にとってランクアップは嬉しい事のはずだ。
なのに、拒否する事が出来るって言うのはどういう事だ?
俺は素直に疑問をぶつける。
「拒否する事に、何かメリットやデメリットってあるんですか?」
「いや、特に何も無いね。銀階級程度なら、単にランクアップの機会を棒に振るだけさ。まぁ、ランクアップを拒否すれば周囲に変な奴だと思われるかもしれないけどね」
俺の問い掛けに、ギルド長はあっけらかんとした様子で答えを返す。
なんだ、特段何も問題はないのか。
だったらランクアップのメリットとデメリットは何だ?
「それでは、ランクアップしたらどんなメリットやデメリットがあるんですか?」
「そりゃ、メリットとしては、鉄階級に比べて報酬の良い仕事を受けやすくなるよ。稼ぎやすくなるって事さ。他にも、その冒険者に対する信用が上がるね。信用が上がるって事は、銅階級や鉄階級じゃ入店拒否や売買拒否したりする高級店でも相手にしてくれる様になる場合が多いって事さ。それに、銀階級くらいだと冒険者ギルドからの緊急依頼や指名依頼がくるほどでもないから、そういう意味での縛りみたいなものもないね」
なるほど、銀階級に上がるメリットは多そうだが、デメリットは特に無さそうだ。
だったら、ここは素直に冒険者ランクのランクアップを受け入れておいて良さそうだ。
俺は、ギルド長に向き直って頭を下げる。
「ギルド長、ランクアップの件、よろしくお願いいたします」
「はいよ!任せときな!……冒険者証の新しいプレートは急ぎで作らせるからね。明日の朝には間に合う様に作らせておくから、明日、朝一で冒険者ギルドに顔を出しなさい」
要件を終えたギルド長は、ジャックの親父さんにその場を任せて仕事に戻っていった。
ギルド長の背中を見送る俺に、ジャックの親父さんがバンバンと背中を叩いてきた。
「おい!アルト!ついこの間まで駆け出しの小僧だったて言うのに、やったじゃねぇか!冒険者になって一月かそこらだろ?スピード出世だな!おぅ、おめでとうさん!」
我が事の様に笑顔で祝福してくれるジャックの親父さんに対して、俺も笑顔で頷く。
「あぁ、ジャックの親父さん、ありがとう。これも、ジャックの親父さんが俺の狩ってきた獲物を高く評価してくれたおかげかな?」
「馬鹿を言うんじゃねぇ。狩りの成果は確かに良かったが、金色狐を狩ってきたのはお前さんの実力だ。そこんとこは誇っていいぜ?」
ジャックの親父さんの言葉に、俺は苦笑を浮かべる。
金色狐を狩れたのは本当に運が良かっただけで、狙っていたわけじゃない。
「あれは本当に運が良かっただけだよ。たまたま見た目が珍しい狐を見つけたと思ったら、狩った獲物を夢中で喰ってる所だったんだ。喰うのに夢中で動かない狐を上手く狙って仕留めただけだよ」
「まぁ、あまり謙遜するな、運も実力の内だぞ!それに、その運をモノにできたのは、アルト、お前さんの実力だろう?そういう所は自信を持って良いと、俺は思うぜ?」
謙遜する俺の態度を見て、ジャックの親父さんは自信を持てと励ましてくれる。
そんなジャックの親父さんの心遣いに、俺は素直に感謝の意を述べた。
「そう言ってくれてありがとう、ジャックの親父さん。これからも、その評価に見合うだけの仕事をこなせる様に頑張るよ」
「ハッハッハッ、まぁ、素直で謙虚な所がお前さんの良い所だよ。期待してるぜ?これからも頑張りな!」
ジャックの親父さんは、俺の言葉に上機嫌になったらしく豪快に笑ってみせる。
その時、引き取り所の職員がジャックの親父さんに近付いてきた。
職員は、手にしていた紙をジャックの親父さんに渡しながら問い掛けてきた。
「ジャックの親父さん!一通りの査定は終わりました!……コイツも、もう片付けちまって良いですかい?」
「おぅ!頼まぁ!解体が終わったら、毛皮の方はジュニアにやらせとけ!」
「分かってますよ!せっかくの金色狐の毛皮ですからね。JJのヤツも張り切ってましたよ!」
ジャックの親父さんに了解の意を告げると、職員は金色狐を解体場の方へと持っていった。
俺は金色狐を持っていく職員を目で追いながら、ジャックの親父さんにさっきの会話について尋ねる。
「JJって言うのは?」
「あぁ、ジャック・ジュニアって言う俺の息子だよ。ここの職員として一緒に働いている。……親の贔屓目を抜きにしても、この町一番の腕をした一流の革鞣し職人さ」
俺の質問に、ジャックの親父さんは自慢げに胸を張る。
「へぇ、自慢の息子ってやつかい?」
「ハッハッハッ、まぁな!」
ニヤニヤと笑うジャックの親父さんは、バンバンと俺の背中を叩いてくる。
力が入っているのか、叩かれた背中がちょっと痛かった。
背中を叩かれて俺が痛がっていると、ジャックの親父さんがさっき職員に手渡されていた紙を俺に差しだしてくる。
「ほら!今回の引き取り分の査定結果だ。こいつを持って冒険者ギルドの受付に行けば、金色狐の報酬分以外の報酬と引き換えてくれるのはいつも通りだ。いいな?」
「あぁ、分かってるよ」
「よし!……さて、いつまでもここで油を売っているわけにはいかんな。俺も、そろそろ仕事に戻らんとな……。じゃぁな、アルトの小僧!明日の朝に冒険者ギルドへ新しい冒険者証を取りに来るのを忘れんなよ!」
そう言って、ジャックの親父さんは俺が持ち込んだ獲物の査定額が書かれた書類を俺に手渡してくる。
俺が書類を受け取ると、ジャックの親父さんは引き取り所のカウンターへと戻っていった。
俺も、引き取り所で査定してもらった獲物の報酬を受け取るために引き取り所を出る。
表の冒険者ギルドに回ったら、受付カウンターにこの書類を出して報酬を受け取るのだ。
一々引き取り所を出てから表の冒険者ギルドの玄関に移動するのは、引き取り所に漂う臭いのせいだ。
狩った獲物を持ち込む引き取り所は、その奥が引き取った獲物の解体場になっている。
そのせいで、引き取り所の入り口は独特の生臭い臭いが漂っているのだった。
そのため、その臭いが極力建物の中に入ってこない様にと、引き取り所と冒険者ギルドの出入り口は離れた所に別々に作ってある。
俺は、表に回って改めて冒険者ギルドの建物に入っていく。
今が昼過ぎという事もあるのだろうが、冒険者ギルドの中は閑散とした様子だった。
玄関から入って右手の掲示板には、冒険者達が請け負わなかった仕事の残りが張り出されたまま残されている。
左手のバーカウンターには仕事上がりに一杯ひっかける冒険者が数人、酒を飲んでいた。
俺は、正面奥の受付カウンターへと歩みを進める。
すると、俺の姿を認めた受付嬢が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ!……アルトさん、お帰りなさい。今日も、狩りの成果の報酬の受け取りですか?」
声をかけてきた受付嬢は、俺が初めて冒険者ギルドを訪ねた時に応対してくれた相手だ。
俺は、その受付嬢に頷いて手にしていた書類を差し出した。
「あぁ、そうだよ。早速で悪いけど、コイツを頼むよ」
「かしこまりました。それではご用意しますので、少々お待ちください」
受付嬢は、俺の差し出した紙を受け取ってカウンターの奥へと消えていく。
しばらくして、受付嬢は小袋の載った盆を抱えてカウンターへと戻ってきた。
「こちらが、今回の報酬です。どうぞ、お確かめください」
受付嬢がカウンターの上に盆を置くと、小袋がジャラリと大きな音を立てる。
音の感じから、結構な金額が入っている事がすぐに分かる。
俺は、受付嬢に礼を言うと小袋の口を開いて中身を盆の上に広げて確認する。
報酬の中身は大半が銀貨だが、その中に数枚の金貨も含まれていた。
金色狐の分は入っていないというが、それでも思ったよりも金額が多い。
今日持ち込んだ獲物にあった巨大な猪の査定額が、俺の想像以上に大きかったのだろう。
報酬を確認した俺は、受け取った報酬を自分の小袋に移し替える。
「確かに受け取ったよ。ありがとう」
「はい、どういたしまして。……またのお越しをお待ちしております」
報酬を受け取った俺は、いつもならその足で今日の宿を探しに街へと繰り出すのだが、今日は気分を変えて冒険者ギルドのバーを使ってみる事にした。
「すみません、エールを一杯と軽く摘まめる物を頼めますか?」
バーカウンターに陣取ってグラスを磨いていた初老の男性に声をかける。
「いらっしゃい、アルトさん。あなたがこちらのバーを使うなんて珍しいですね」
バーテンダーが俺の注文に応じながら問い掛けてくる。
俺は、その問いにフッと笑って言葉を返す。
「そうですね。今日は狩りの成果が良かったからですかね」
「何か良い事でもおありで?」
バーテンダーが注文したエールの並々と注がれた杯をカウンターの上に置く。
「えぇ、まぁ……。珍しい獲物を狩る事が出来たものですからね。それもあって、冒険者ランクがランクアップする事になったんですよ」
俺がそう答えると、バーテンダーが微笑みを浮かべて賛辞を送ってくれる。
「ほぅ、等級のレベルアップではなく階級のランクアップですか。それはそれは、おめでとうございます。……でしたら、こちらは私からのお祝いでございます」
そう言って、バーテンダーは注文した軽食に酒の肴をもう一品付けてくれる。
「良いんですか?」
「これからもここをご贔屓にして下さるのでしたら、構いませんとも……」
「それは、ありがとうございます。これからは、もう少しここを使うようにしますね」
そう言って、俺はエールの注がれた杯を手に取ると一気に呷った。
程よく冷やされたエールの香りと仄かな苦みが乾いた喉を潤してくれる。
俺は、エールの入った杯を見つめる。
この世界の文明レベルは、俺の持つ『前世知識』で言うと中世から近世といった感じの文明レベルだ。
ただ、魔法があるからなのだろうか時折、現代やあるいはそれ以上と感じる部分も散見された。
例えば、このエールだ。
中近世の時代だと、冷蔵の技術が未発達なために常温の酒を飲む事は普通だったと言われている。
しかし、この世界では魔法による冷蔵技術があるため、こうして普通に冷やした酒を飲む事ができる。
もっとも、日本の様にキンキンに冷やしたビールを飲む習慣までは無い様で、元日本人の俺からすればもっと冷やしたビールが飲みたいと思ってしまう所ではあった。
まぁ、この辺りの事は感覚や好み、文化の違いといった所だろう。
俺は、程よく冷えたエールと軽い食事、バーテンダーが好意でおまけしてくれた肴を楽しみながら、昼下がりの一時を過ごした。
数杯のお代わりを頼んで気分良く酔いが回った所で、カウンターにお代を置いて冒険者ギルドを後にする。
「さて、今日の宿はどこにするかな……」
この一月ばかりの間、森と街との往復ばかりの生活だったが、どちらかと言えば森での生活の方が長いような気もする。
街での滞在期間はほとんどが一泊する程度で、その間に俺は冒険者ギルドで紹介された宿をいくつか利用していた。
利用していて分かったのは、冒険者ギルドが低ランクの冒険者に紹介する宿というのは、そのほとんどが下町などにあるあまり格の高いとは言えない宿ばかりだという事だ。
もともと低ランクの金がない冒険者が泊まる様な場所なのだから、その辺りの事は仕方がないだろう。
そういう宿屋は、冒険者相手の酒場を兼ねている様な場所で、冒険者ギルドやそういう宿を利用する事で冒険者同士で顔を売り、顔繫ぎを行い、一緒に仕事をする仲間を見つける事が主な目的といった場所だった。
俺も、そういう宿をいくつか使う事で、仕事仲間である他の冒険者と知り合いになったり、情報交換をしたりしている。
とは言え、宿としてのグレードは確実に落ちる。
せっかく懐が潤っているのに、わざわざ格が低くて粗末な宿に好んで泊まりたいとは思えない。
そう考えた俺は、この街に入ってから一番泊まって心地良かったと感じた宿屋、『蜂蜜と林檎亭』へと向かう事にしたのだった。




