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9. ヴァリスの部屋と特訓

時は少し戻る。



「すごい……木の中にあんなものがあるなんて」

「これが森の精霊であるエルフが加護によってつくったという家か……」



 ヴァリスの案内で隠れ家に来た俺は思わず感嘆の声をあげていた。巨大な樹のふもとには樹皮の一部が開いた形で扉があり、そこをくぐると木の温かみが感じられる空間が広がる。

 内部には柔らかく揺らめく光が満ちており、それは樹液が持つ微かな蛍光によるものだという。そして、しつないはというと植物がそのまま生えており、家具や装飾品の一部として取り込まれているのだ。

 まさにファンタジー世界の家である。



 感動のあまり室内をきょろきょろとしていたら、少し気まずそうにヴァリスが顔を赤らめる。



「そんなにみられると恥ずかしいのだけれど……いきなりの来客だからちゃんと片付いていないのよ……」

「ああ、ごめん。あまりにも珍しくってさ」



 確かにあわてて荷物を押し込んだのかすみっこは少しごちゃりとしていて……その中に一冊の本のタイトルが目に入った。


『世界中の男を魅了したエルフが教える大人の女性に見られるコツ100集』


 話題にしたら追い出されそうなのでみなかったことにしよう。



「まあまあ、こいつはエルフが大好きなんだ。だから興奮しているのかもな」

「ちょっとジークってば変なこと言わないでよ」

「そうなの。人間なのに珍しいわね。だったら妹にあったらもっと驚くわよ。エルフの中でも美しく弓の腕前も優秀なの!! それに料理もできるし、面倒見がいい……あとね……」

「そ、そうだ……エルフの里って今どうなっているのかな?」

「そうね……作戦会議しにきたんですものね」


 

 初対面の時のクールさはどこにいったやら、妹のことを満面の笑みで話し始めたヴァリスに嫌な予感を覚えた俺はあわてて話題を変える。

 むっちゃ残念そうな彼女を見て苦笑する。


 そう……原作でもそうなのだが、ヴァリスはシスコンである。しかも、重度の……


 まあ、彼女の妹であるアニスも主人公になるだけあって素敵な人物なのだから仕方ない。俺にとってのジークと同じような存在なのだろう。



「エルフのみんなをさ……助けたらヴァリスさんの自慢の妹さんにあわせてよ。色々と話をきいてみたいし」

「ええ、楽しみにしていて、あの子も元とはいえ勇者に会えると思ったら絶対喜ぶわよ」


 満面の笑みで返すヴァリスさんに苦笑する。俺は偽物の勇者だったんだけどね……でも、今その話をするのはややこしくなるからしないほうがいいだろう。

 胸の痛みと、「うまいことやったな」とばかりに肩を叩いているジークを無視する。



「エルフの里は今、エルサール率いる人間と魔物の混合軍に支配されているわ。数はかなり多いと思う。そのかわり、エルフたちのほとんどは彼に反対しているから、敵にエルフはあまりいないはずよ」

「戦士長だったんだろ……よっぽど人望がなかったのか?」

「いえ、そんなことはないわ。だけど、エルフにとって世界樹のふもとにあるエルフの里に異種族を招くというのは神聖なことなの。それこそ恋人や親友、恩人でもない限りね。それを破った彼についてくるエルフの数は少ないはずよ」

「なるほど……でも、この人数だと真正面からは厳しいよね。なんとか囚われのエルフたちを助けて力を貸してもらえないかな」

「さすがは勇者ね。私もそう考えているの」



 こちらに尊敬の念をもって見つめているヴァリスをくすぐったく思いながら、作戦を練る。襲撃したあとに隠し通路からアニスたちが囚われている牢獄へ忍び込むという考えだ。

 そこらへんはやはりゲームと同じ流れだ。だけど、彼女の予想とは違い十人ほど、エルフも裏切っているんだよね。

 そして、敵として厄介なのはそのエルフたちである。魔物や人間よりも強敵なのである。特に彼らの弓には魔法の力が込められており、ゲームでも苦戦させられたものだ。そして、実際それと戦うとなると懸念点がある。

 となるとやるしかないな……



「手を貸すよ。そのかわり俺のお願いを聞いてほしい」

「お前……まさかエッチなことを……? さすがにそういうのは影の英雄としてもどうかとおもうぜ」

「そんなわけないでしょ!! 俺を何だと思っているの!!」

「ふふ、仲良しね。もちろん、私にできる事ならばなんでもってちょうだい」



 俺たちのやりとりを微笑ましく見つめていたヴァリスが余裕たっぷりにほほ笑む。

 それにしても即答である。やはり勇者だからだろうか……信頼度がはんぱないね。もしも、転生したてだったら耳を触らせてとか頼むかもしれないけど……今の俺は違う。

 


「きみの矢で俺を射抜いてくれないかな?」

「「え?」」


 こちらのお願いに二人は驚きの声をあげるのだった。



 ★★★


 このゲームには見切りというシステムがある。何度も攻撃を喰らえばその技をくらわなくなるのである。

 主人公たちにのみ許された技かと思いきや、俺のようなモブにも発動したのだ。そして、エルフ戦は攻撃力の大小こそあれ、敵の技を見切っておくとかなり有利に挑めるのだ。


「ま、まだやるの? もう三時間は続けているわよ。それにあなたさっきから怪我をしているじゃない? もう、二属性は見切ったからいいんじゃないの?」

「大丈夫、傷は癒えるよ。これは必要なことなんだ」



 ヴァリスさんが少し引いているが気にはしていられない。 

 そりゃあ、ジークやアニスのようなメインキャラクターだったら戦闘中に主人公補正のように見切れるかもしれない。

 だけど、俺は違う……俺が主人公のようなことをするには成功する可能性をあげておくことが大事なのだ。

 


「つっ!?」



 炎を纏った矢が俺の腕をかすめ切り傷による痛みと火傷の痛みが同時に発生する。ジークだったらもっとはやく見切れていたんだろうな。彼はしばらく特訓を見て治癒してくれていたが、自分で治せるよと伝えると見回りにいってしまった。

 物覚えの悪い俺にちょっとあきれているのかもしれない。だけど、安心してほしい。今度こそ誰もメインキャラクターを殺させたりはしないから……



「もっと撃ってくれ」

「ええ……わかったわ」


 俺の覚悟が通じたのか、ヴぇリスさんは頷くと、再び魔力の籠った矢が飛んでくる。そうして、俺がかんぜんに見切るまで特訓はつづくのだった。




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