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3. 偽りの守護者

 ジークはまさに主人公のような少年だった。だれにでも優しく、強い意志を持っていた。この世界に転生して困惑していたり、わけのわからないことを言っている俺のこともばかにするのではなく、きちんと話をきいて時には相談にも乗ってくれた。

 彼と過ごしていくうちに思ったのだ。ああ、かっこいいな。俺は主人公じゃないけど、勇者ではないけれど、誰かを救いたいなってそう思ったんだ。

 だから、自由になった俺のやることはすでに決まっていた。目を覚ますとジークがいなかったので彼のことを思い出しながら誓った時だった。



「それでどこにいくかきまったのか?」

「うわぁ!! びっくりしたぁ」



 仮面をかぶったローブの人影……ジークそばに気配を消して立っていたのだ。顔こそわからないがこいつのことだ。きっと楽しそうにわらっているだろう。



「ああ、エルフの里を目指そうと思う。あそこも魔族と戦ってるし、俺たちの力が役に立つと思うからね」

「ふ、エルフ好きはかわらないようだな。それともシグルトたちがいる場所とは正反対だからか?」

「まあ、たしかに今あったらきまずいからね」



 肩をすくめるジークに苦笑する。確かに俺が勇者にえらばれなかったのに……という嫉妬心もある。だけど、それ以上に彼らと反対を向かうのには理由がある。

 なぜならば……このゲームのシナリオでは七人の主人公のうち三人は必ず死んでしまうのだ。システム上四人を救った時点で、ほかの三人は七大罪によって滅ぼされてしまうのである。

 だから、今の勇者であるシグルトが救わないであろう三人を俺が救えばと思ったのだ。

 勇者にはなれないけど影の英雄として……



「よし、じゃあ、いくか。俺も準備をしてくるからちょっと待っていてくれよ」

「ああ、ありがとう。ジークと旅ができるなんて夢みたいだよ」

「ふふ……うれしいね。ただ、今の俺は守護者になったからか、回復魔法と簡単な剣術しか使えない。お手柔らかに頼むぜ」

「ああ、今度こそ……俺が君を守るよ」



 仮面越しの瞳が一瞬寂しそうに見えたのは気のせいだっただろうか? なにはともあれ俺たちはエルフの国へと旅立つことになったのだった。




 エルフの里は王都とは正反対の場所にあり、馬車で半日ほどの旅路である。窓から吹く風がなんとも気持ちいい。


「どうした? ずいぶんと上機嫌だな」

「うん、自分で目的を決めれる旅って楽しいなって思って」

「何言ってるんだ? 勇者だった時もそうだったろ? そんなこといって大好きなエルフにあえるのが楽しいんじゃないか?」

「あはは」


  いたずらっぽく言うジークの言葉を笑ってごまかす。あれはそんなものじゃなかった。俺は本来のジークが進むルートを進み勇者のかわりにならねばと必死だったのだ。失敗は許されず偽物だとばれてもいけない。

 だけど、今は重荷を捨てて自由に旅をするのが楽しめるようになったのだ。



「ほら、腹が減ったろ? これでも食べておけよ」

「ああ、ありがとう。手作り? ジークって料理できたっけ?」

「いいから開けろって」



 ジークが渡してくれたつつみを広げるとそこにあったのはサンドイッチだった。遠慮なく口に含んで俺は大きくめを見開く。



「これは……母さんの……」

「ああ、お前のおふくろさんに作ってもらったんだ。金だけ置いていって顔も見せないなんて何を考えているんだって怒ってたぞ」

「そんな……だって、俺の母さんは勇者だってことをあんなに喜んでくれたのに俺が裏切って……」


 神託を受けた兵士がやってきたときに母は俺にいったのだ。あんたが勇者でうれしいと……魔王を倒すまで帰ってくるなと……



「本気じゃなかったんだよ。ああでもしなきゃ。お前が迷うだろうってさ……」

「母さん……」


 懐かしい味に俺は思わず涙ぐむ。ああ、そうだ。もしも、勇者として旅立つときに母さんがいくなといったら俺は迷っただろう。

 本当に俺は人に恵まれたと思う。だからこそ……俺はよりこの世界を守らねばならぬと思う。

 そして……



「ジーク……ありがとう。君はやっぱり俺にとっての英雄だよ」



 大事なことを教えてくれた彼に感謝するのだった。



★★★


 馬車に乗って、目的地についた俺たちは、宿に泊まる。フェインは一緒の部屋に泊まりたがっていたがそんなわけにはいかない。

 だって、もしも正体がばれたらこの旅は終わってしまうし、俺……いや、私の方が耐えられなくなってしまうからだ。

 だって、ずっと好きだった人と一緒に寝るなんて心臓が耐えられないに決まっている。


「でも……認識阻害の仮面をつけているからって、本当に気づかないなんてどうかしてますよ……」


 仮面を外した鏡をのぞくと、そこには見慣れた顔がうつる。自分で言うのもなんだが顔立ちは整っていると思う。胸は……まあ、あまりないけど女性にしては長身なためスタイルだって自信がある。


「だけど、フェインには私の……お兄ちゃんの妹に過ぎないテレジアの言葉なんて届かないんですよね……ずっと一緒にいたのに私に弱音を一切はかないくせに、お兄ちゃんだと思ったらすぐに言うんだから……」


 鏡の前でほほをぷくーっと膨らませる。子供っぽいと兄に言われたがフェインには可愛いと言われたこともありすっかり癖になってしまった。

 結局私は彼にとって守るものであり、対等な存在ではないのだろう。だから、私では彼が壊れていくのを見ることしかできなかった。見守ることすらできなかったのだ。


「大丈夫です……あなたは偽りの勇者として死ぬほど頑張ってきたんです。だから、あなたが前を向けるようになら私はなんだって演じてみますよ……たとえこの気持ちが報われなくても……私は聖女ではなく、偽りの守護者になってみせます」


 私は彼が今頃眠っているであろう部屋を見つめる。鏡に映る自分の瞳から光が消えているように感じたのは気のせいだっただろうか?




 

 

今度の幼馴染は病んだヒロインです。よろしくお願いします。


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