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25.テレジアの英雄

「テレジア……なのか?」

「はい……ごめんなさい……私はジークお兄ちゃんじゃないんです。最初っから守護者なんかいなかったんですよ……」



 申し訳なさそうに頭を下げる彼女の顔を間違えるはずもなかった。今まで彼女の正体に気づかなかったのは、手にある仮面の力だろう。



「それは『ファントムの仮面』……認識阻害の魔力があるんだっけ……」

「はい……この仮面の力と、昔勇者についてフェインさんが教えてくれた守護者の存在を利用して、兄であると偽っていました……」



 違和感はあった。戦闘スタイルが変わりすぎていたこと……そして、勇者を導く存在のはずなのにずっと俺のそばにいるという事実。

 だけど、うれしかったのだ。まるでジークが俺を認めてくれたみたいで……親友がお前の道は正しいのだと後押ししてくれているように思っていた。だけど、それは偽りだったのだ。

 その事実にようやく築き上げてきた何かが壊れるような音がして……思わず乾いた笑みがこぼれ落ちた。



「ふふ、やっぱり俺は偽物だね……聖剣にも選ばれず、守護者にも認められることはなかった……今回だって、たまたまうまくいっただけなのに、俺は何を調子に……」

「それは違います!!」



 自虐的な言葉があふれるのが止められないでいると、これまで聞いたことのないテレジアの大きな声にさえぎられる。



「何をいっているんですか!! あなたを慕って力を貸してくれた冒険者の人たちの顔が見えなかったんですが!! 里を救われたと、わたしたちをほめたたえているエルフの人たちの顔を見なかったんですか!! 子供のころからずっとあなたを尊敬の目で見ていた私の気持ちにきづいてくれていなかったんですか!! あなたはちゃんと誰かの英雄になっているんです、勇者のように人をすくっているんです。だから、もう、私の英雄の悪口を言わないでください!!」

「テレジア……急に何を……」



 そう肩を震わせて叫ぶ彼女の瞳から大きな涙がとめどなく落ちていく。どうすればいいかわからず佇んでいると、きっとこちらをにらみつけながら小さい手でかわいらしくぽかぽかと胸を叩いてくる。



「急なんかじゃないです。私はずっとフェインに言ってましたよ。あなたはすごいって……だから、そんなに無理をしなくてもいいって、お兄ちゃんの代わりになろうとしなくていいんだって……あなたはあなたの方法で勇者を目指せばいいっていっていたのになのにずっと聞いてくれなかったじゃないですか……」

「それは……」



 確かにジークの死後に俺が特訓を始めた時も彼女はそんなに頑張らなくてもいいと言ってくれていた。

 だけど、俺のせいでジークは死んだのだ。なのに……



「だいたいお兄ちゃんがそんなふうにあなたを恨むわけがないってことはわかっているでしょう。お兄ちゃんはよく言ってましたよ。『あいつは俺にできないことができる。だから、俺も負けられないって……立派な勇者を目指すんだ』って言ってたんです。お兄ちゃんは自分の意志で魔物から子供を守ったんです。あなたが責任を感じることはないんです。むしろ、今のあなたを見たらお兄ちゃんは怒りますよ!! だって、お兄ちゃんが守護者にならなかったのはフェインさんがいるから……あなたがいれば世界を救えると思ったからなんだと思います。それだけあの人はあなたを信頼していたんですよ」

「……テレジア、ごめん……俺はもっとはやく君やジークの遺志を考えるべきだったんだね……」



 ぽかぽかと殴る手が弱まり、抱き着いて俺の胸元で嗚咽をもらすテレジアをぎゅーっと抱きしめる。

 俺はずっと何を見ていたんだろう。自分だけで悩んでいて……こんなにもずっと近くで心配してくれていた彼女の気持ちに気づかなかったのだ。それをきずけるようするために彼女はジークのふりをしてくれたのだ。

 そのことに感謝していると……



「いって!! なんて背中をつねったの」

「……私がずっといっていたのに、兄の姿をして同じことを伝えたらすぐに納得したことを思い出してちょっとむかっとしてしまったので……」



 久々に子供っぽく兄に嫉妬するテレジアにおもわず笑みがこぼれる。顔は見えていないが、きっと彼女は昔のようにほほを膨らましているのだろう。

 


「ごめん……心配かけたね……だけど、そうだよね。いつまでもへこんでたら俺を英雄って言ってくれているみんなに失礼だよね。ありがとう……テレジア……ずっと近くで教えてくれていたのに……」

「いえ……私こそ追放に賛成してしまって申し訳ありません。ですが、あのままではフェインがいつか限界がきてしまうとおもったので……」

「気にしないでくれ。むしろあのおかげで俺は自分のやりたいことを見つけられたんだから……」



 そう、ジークの代わりではなく、彼と語り合った影の英雄という夢を……そして、その夢をかなえるのにはまだやることがたくさんある。

 名残惜しそうにしつつも体をはなす彼女に感謝しながら俺は外出の準備をする。



「どこにいくんですか?」

「テレジアは言ったよね、俺がいるからジークは眠れているんだって……だから、俺はあいつが望んだように勇者を導かないと……そのためにシグルトのプライドを粉々に砕く必要があると思うんだ」

「うふふ、いいですね、私もあの人には結構怒っているんです!! 私の英雄を侮辱していましたから」



 聖女のような清らかな笑みを浮かべながら物騒なことを言うテレジアに苦笑しながら、俺たちは冒険者ギルドへ向かう。

 そして、エルフの里から帰ってきて酒を飲んでいるアッシュに声をかける。



「休んでいるところごめん、力を貸してほしいんだけど大丈夫かな?」

「ふははは、なんだかわからんが任せるがいい!! その闘志に満ちた瞳!! 我らが英雄を侮辱した愚かな勇者をとっちめるのだろう」



 まだ用件も言っていないというのにアッシュは満面の笑みで即答してくれる。昼間のことはすっかり知れ渡っているようだ。



「ありがとう……シグルトの剣技は一流なんだ。だから、少しでも素早い剣に慣れておきたい。俺と模擬戦をしてくれないかな?」

「構わんぞ!! わが剣技をみせてやろう」

「でもさぁ……アッシュじゃ勇者様の剣に比べて弱いんじゃない?」



 自信満々なアッシュの仲間の冒険者がちゃちゃをいれると彼が不敵な笑みを浮かべる。



「なめるなよ、わが剣技は勇者すらも凌駕する。それゆえに声をかけてくれたのだろう?」

「いや、シグルトは剣技だけだったら、俺よりも強いからね。今のアッシュじゃちょっと足りない。だから、限界までテレジアにバフをかけてもらった状態で俺と戦ってもらおうと思う」

「え? 限界までかけたら色々とやばいんじゃ……」



 間の抜けた声をあげるアッシュにテレジアが聖女のようなスマイルを浮かべる。



「アッシュさんご安心ください。聖女である私のバフなら限界を超えて強化しても命に別状はありませんよ。ただ、次の日にすさまじい筋肉痛には襲われますが……」

「ふ、ふはははは、このアッシュに二言はない。まかせるがいい!!」



 そうして、俺と少し涙目のアッシュは特訓をすることになった。二人の武器種は同じだ。見切ればシグルトの技にも対処しやすくなるだろう。





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