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24.テレジアの行方

「シグルト……その恰好は……? それにテレジアはどうしたんだ?」


 俺はすっかりボロボロになった三人を見て驚きの声をあげる。だって、彼が勇者になったのだ。本来のシグルトルートはファフニールの残党を倒したあとに、その先にいる七大罪を倒しに行くはずなのだ。

 正反対に位置する場所でありアニスが中心として語られるこの街にたどり着くのは、彼のルートだとアンドラスによってエルフの里が滅ぼされた後のはずである。



「その恰好はだと!? お前が俺に聖剣の力を一部しか渡さなかったからだろうが!! おまけにテレジアも連れて行きやがって!! そんなに勇者の立場を奪われたのが悔しかったのよ!!」

「な、君は一体何をいって……」



 なぜか激昂しているシグルトが困惑している俺の胸倉をつかんでくる。そして、その拳をにぎりしめ……

 俺と彼の顔と顔の間を魔力の込められた矢が通り過ぎる。



「勇者だかなんだかよくわからないけど、私たちのリーダーを侮辱するなら次は当てるわよ」

「な……エルフだと……あの人間嫌いの種族を仲間にしたというのか!!」



 驚きの声をあげるシグルト。そして、クリームヒルトとハーゲンが言葉を続ける。



「へぇ……フェインったら本当にエルフを仲間にしていたのね。いつまでも告白しないシグルトより行動力は上ね」

「エルフが好きっていってたもんねぇ……ちょっときもいくらいに語ってたもん……」

「……」


 苦笑するクリームヒルトとハーゲン。あとなぜかジークからの視線が鋭い気がする……

 そんな状況にヴァリスは恥ずかしそうに顔を赤らめる。



「あ、フェインって本当にエルフが好きなのね……なんか恥ずかしいじゃない……その……二人っきりの時なら耳くらいなら触らせてあげるわよ」

「そんなことはどうでもいいんだよ!!」



 一瞬空気がゆるんだが、それを打ち砕くようにしてシグルトが怒鳴り声をあげて、聖剣を床にたたきつける。

 神々しい光を纏ったそれはあっさりと、木の床を砕くが……


 この聖剣……全然成長していない?


 聖剣はそれを使って戦えば戦うほど強くなるのだ。いわば勇者と共に成長する剣なのである。

 それの意味することが分かった俺は胸の中に熱く暗い感情が支配する。



「そうだね、俺の性癖なんでどうでもいい……シグルト、お前は俺を追放してから何をしていたんだ?」

「あ? 」

「勇者に選ばれてから何をしていたんだと聞いているんだ!! この聖剣はちっとも成長していないじゃないか、俺に負けた時に約束した鍛錬は続けているのか!!」

「そんなものお前の持っていた勇者の力があれば……」



 勇者に選ばれながらふざけたことをいう彼に頭をかーっと熱くなる俺を抑える二つの手があった。



「あなたの気持ちがわかるとは言わないが落ち着きなさい」

「……ああ、そうだ。ここで喧嘩をするのはまずい、それはお前だってわかるだろう?」

「ああ、ごめん……助かったよ」



 困惑気味のヴァリスと、先ほどからなぜかしゃべらなかったジークだ。二人には心配をかけてしまったな。

 二人に感謝していると、タイミングを見計らっていたかのように受付嬢が声を張り上げる。



「はーい、冒険者ギルド内での喧嘩はご法度ですよ。文句がある場合は模擬戦はどうでしょうか?」

「はは、ちょうどいいな!! 模擬戦に負けた方は勝った者ののいうことを聞かなければいけない!! 俺が勝ったら、お前には勇者の力とテレジアを返してもらうぞ!! 今日はもう遅い。勝負は明日の昼だ。いいな!!」

「ちょっと、シグルト!?」

「あはは、みんなごめんねー、うちの勇者様は短気なんだ」



 そう吐き捨てると、シグルトたちはさっさといってしまった。受付嬢と目をあわせるとウインクで返してくれる。

 あのまま乱闘になっていたら俺もシグルトも冒険者の証を奪われる可能性だってあったのだ。感謝しないと……

 ああ、ジークだったら、あんな風に激高しなかっただろう。それよりもだ……



「二人ともありがとう。おかげで前科がつかないですんだよ」

「……ああ、気にするな」

「よくわからないけど、むかつくやつね……よかったら私が闇討ちしておくわよ」

「あはは……あんなんでも彼は本物の勇者だから死んだらまずいんだ」



 俺の軽口にヴァリスが意地の悪い笑みで返してくれる。そう……あんなのでも勇者なのだ。

 そして、明日の決闘よりも大事なことがある。



「テレジア……どこにいったんだ……」

「そうそう、さっきから気になっていたんだけど、その子はあなたにとってのどんな人なの?」

「ああ、元パーティーメンバーだよ。優れた治癒能力者でね。聖女ってよばれているんだ」

「そうじゃなくて、あなたにとってどんな人なの?」



 どんな人か……家族のようで、妹のようで……一緒にいたときは気づかなかったけど、俺をずっと支えてくれていた人だ。一言でいうなら……



「俺の大切な人だよ……こんな俺をいつも見守ってくれていた優しい女の子だ」

「そう……なら、次にあったらちゃんと話し合わなけやね」



 少し照れくさくなりながらも俺がうなづくとなぜか、ジークが動揺している。



「おい、ヴァリス」

「大丈夫よ、今の彼ならばはなせばわかると思うわ。お姉さんを信じなさい」

「いったい何のはなし?」



 二人の会話の意図がわからず訊ねるもヴァリスは意味深にほほえむだけで、ジークの表情は仮面に覆われていてわからない。

 少し疑問がのこりながらも宿に戻るのだった。



 明日の模擬戦に備えて、俺がゲームでのシグルトの攻撃技を箇条書きにして対策を考えてい

るときだった。

 ノックの音が響く。もう、晩御飯の時間だろうか?



「空いてるよ」

「ああ、すまない……ちょっと話があってな」


 やってきたのはジークだ。そういえばシグルトと会った時から様子はおかしかった。やはり真の勇者を放っておいて俺の守護者をやっているのはきまずかったのだろうか?


「お前に謝らないといけないことがあるんだ……」

「そんなに改まってどうしたのさ。俺たちの間に……え?」


 その言葉とどもに外された仮面の中身に俺は思わず間の抜けた声をあげるのだった。


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