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21.宴

アンドラスとの戦いを終え、エルフの里は喧騒に包まれていた。その理由は……


「それではエルフの長である私が音頭をとらせていただく……冒険者たちよ、異論はないな」

「「おおーー!!」」



 世界樹のふもとにある広場にはこの戦いに参加したエルフと冒険者たちが盃をもって、集合していた。

 そう、宴会である。強敵との戦いで団結した人とエルフはそのまま盛り上がり、エルフたちと打ち上げをしようという話になったのである。



「まさか、あの選民意識の高いエルフたちがこんな数の冒険者を里に受け入れるとはな……」

「それだけ、みんなアンドラスに苦しめられたってことだよ。色々あったし本当につらかったんだろうね……だから、普段は騒がないエルフたちもあんな風に宴会をしているんだ」



 何十年もエルフたちはアンドラスの攻撃を凌ぎ続けていたのだ。あげくのはてには里が侵略されたこともあった。

 今の達成感はすさまじいものだろう。



「なーに、他人事みたいに言ってんだよ。それを作ったのは俺たちだろ。だから、お前ももっと嬉しそうな顔をしろよ。あんな風にさ」

「であるから……我らは今後人間との共存を……」

「おい、話がなげーぞ。エルフは酒を飲む前の話も数日つづけるつもりか」

「ええい、これだから短命種は!! 我らエルフはみなおぬしらに感謝しておる。乾杯!!」

「「乾杯!!」」


 前世で言う校長ばりに長話をしていたエルフの長も冒険者の野次におれたのかやけくそ気味に杯をあげると、冒険者もエルフも関係なく皆が酒を口にして騒ぎ出す。

 ゲームでも見た光景であり、これから人間とエルフは共存の道へと進むのだ。だけど……実際彼らが嬉しそうにしている顔を見ると、胸が暖かくなっていくのを感じる。



「……俺はちゃんと彼らを救えたんだな……」



 画面越しのムービーではなく、機械越しでのレベル上げでもなく、直接彼らを見て、死ぬ気で頑張ったからか、俺は自分が救われるような気持ちになっていく。

 


「なんで、お前が泣いてんだよ?」

「いや、その……俺の頑張りは無駄じゃなかったんだなぁってさ……ようやくわかってさ……」

「そうか……よかったな……」



  からかうように肩を組んできたジークに涙声で答えると、とても暖かい瞳で見返してくれた。

 勇者にはなれなかったし、主人公たちのようにスムーズにはできなかった。だけど、俺はちゃんと彼らを救えたのだと、その事実が嬉しいのだ。



「あ、二人ともいたいたーー!! せっかくの主役がこんなところでなにをやってるのさ、お酒を飲もうよ!! パパが隠していたエルフの秘蔵のお酒もあるんだよ!!」

「うわぁぁぁ。こういうのはあんまり得意じゃないんだけど……」

「しゃーない……付き合うぞ、フェイン。それにお前好みのエルフがたくさんいるぞ」

「へー、フェインさんはエルフが好きなんだ。じゃあ、私が恋人に立候補しちゃおうかな」



 すさまじい怪力に抵抗できずに引っ張られる俺とジーク。しかもジークのいじりにアニスさんものるからなんか気恥ずかしくなってくる……ジークにいつかお礼はしてやるぞと誓いながらつれてこられたのは、顔を真っ赤にしたエルフと冒険者がまじっておりカオスな状況だった。

 視界の遠くではアッシュのやつがエルフと飲み比べをしているのが目に入る。そして、俺たちはというと……



「ねえ、お兄さん、せっかくだから仮面を取ってよ、素顔みたーい」

「やめろ、これは外すわけにはいかないんだよ……」

「照れちゃって可愛い……中性的な男の人ってタイプなのよね」

「あんたがアンドラスの魔剣を受け止めたって本当か? すごいじゃないか!!」

「ありがとう。これも修業の成果かな」

「こんな風に謙遜しているけど本当にかっこよかったんだよ。本当に勇者さまみたいだった」



 美人な女エルフの酔っ払いに仮面を取られそうになっているジークに良い気味だと笑いをこらえながら、話していると、アニスさんが目をキラキラとさせて見つめてくる。

 ちょっと恥ずかしいね……



「俺だって、その場にいれば……」

「フェインさんはね、本当にすごかったんだよ!! すごい魔力をはなっている魔剣相手に躊躇なく突っ込んで華麗に受け流したの!! かっこよかったぁ……ジェイルじゃむりだよ。ねえ、今度私と戦ってよ!!」

「ぐぬぬ」



 複雑そうな顔をした男エルフをよそにアニスさんが俺の手を握って熱い視線を送って来る。

 恋愛的な要素はないだろうけど、美しいエルフにこんな風にみられるとドキドキするのは無理はないだろう。

 そんな彼女のアプローチをかわしつつも俺たちが酒と薬草メインの料理を口にして、エルフに好かれようとした冒険者たちが俺に対抗するかのようにそれぞれの武勇伝を語り合うのを聞いていた。

 それは宝を求めてダンジョンに行く話だったり、ドラゴンとの戦いとか様々なもので、俺も元々ファンタジーが好きなこともあり、聞き入ってしまう。



「世界は本当に広いなぁ……私も外の世界を見てみたいな」



 そして、ぼそりと隣でアニスさんがつぶやくのが聞こえた。この宴会で外の人間の話を聞いたのがきっかけで彼女はゲームでもエルフの里を出るのだ。

 一人で旅立つか主人公たちと旅立つかは今後の選択し次第なんだけどね。ちょうど強力な力を持つ彼女にはお願いしたいことがあったのだ。



「あ、まずい……」



 隣から聞こえた声で思考が中断され、顔をあげると笑顔だけど、すさまじい殺気を放っているヴァリスさんが近づいてくるのが見えた。



「まったく……あなたまでなんで遊んでいるのよ。エルフの長の娘としてこの宴会を取り仕切る様に言われているでしょう?」

「えへへ、だって、みんなと飲んだりするなんてないから楽しいんだもん。いたぁ!! ごべんなさいぃぃぃ」



 悪びれなく笑うアニスさんのほっぺたをため息をつきながらぷにーっとにひっぱるヴァリスさん。

 しばらくして、満足したかのようにうなづくと、こちらに声をかけてくる。



「フェインさん、ジークさん、長が呼んでいるわ。楽しんでいるところわるいけど、きてもらっていかしら?」

「ああ。もちろん」

「俺もかまわんぞ、だから、仮面はとらんといってるだろう!!」



 助かったとばかりにこちらへやってくるジークと共に俺は長の元へと向かうのだった。

 だけど、なぜかヴァリスが少し寂しそうな顔をしていたのはなぜだろうか。



 ヴァリスにひときわ大きな樹の家に案内された俺たちをエルフの長が出迎えてくれる。



「お二人のおかげでアンドラスを倒すことができました。感謝しても感謝しきれません」

「七大罪は我々人間にとっても天敵です。そんなにかしこまらないでください。とうぜんのことをやったまでですよ」

「そうだな。むしろ、あなたがたがアンドラスを抑えてくれていたから、俺たちは勝てたんだ。頭をあげてくれ」

「お二人はまさに英雄の器ですね……先代勇者にも負けていません」



 こちらに尊敬の念の籠った視線でほほ笑むエルフの長に照れ臭くなる。そして、なによりも先代勇者を知っている人にそう思われたことが嬉しかった。

 俺はちゃんと影の英雄になれているのだと思えるからだ。



「それで、俺たちだけを呼び出した理由はなんなのでしょうか?」

「あなたたちに約束した報酬を覚えていますかな?」

「あーエルフの秘宝か、お嫁さんだったな? お前がリーダーだからな、きめてくれ。いっそのこと二人とももらっちゃえばどうだ?」

「そうですね……うちとしても後継者がいなくなるので二人ともはさすがに……いや、ですが、我らの救世主ですからな。どうしてもというのなら……

「ジーク!? そういうハーレムはどうかとおもうし、彼女たちの意見もあるでしょ。エルフの長も本気にしないでください」



 からかうジークの言葉にエルフの長がまじめな顔をして悩むのを聞いて思わずつっこみをいれる。

 守護者であるジークはいつ消えるかわからない今、アイテムよりも仲間が欲しいというのが本音である。

 圧倒的な才能と力を持つアニスさんとアニスさんという光にも負けずに研鑽をつんできたヴァリスさん……正直両方とも魅力的ではある。

 原作ではヴァリスさんはもう戦へないくらいの怪我をしていたのでこんなルートはなかった。だから、この選択の結果はどうなるかはわからない。それにこれはゲームではないセーブポイントはないのだ。

 だけど、俺の答えは決まっていた。


「その……俺はこれからも旅をしていって勇者の影で七大罪を倒しておこうと思っています。そんな俺はアイテムよりも信頼できる仲間が欲しいです」



 二人の視線が集中するなか俺は口を開く。



「俺が仲間にしたいのは……」


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