19.
屋上に斬撃の音が響き渡る、動きこそ単調だが、一撃一撃が重く受け流すので精一杯だ。
卑怯かもしれないが、ぶっちゃけここでほかの人間に援護を頼んだ方が楽に倒せるだろうが、それで追い詰められたアンドラスが魔剣を使われるのはまずい。それに彼女たちにはやってもらうことがあるからね。なんとか耐えないと……
「はっはっは、さっきまでの威勢はどうしたんだぁ? 俺様にお前ごときが勝てるとおもったのかぁ!! 劣等種!!」
「さすがは獣人……獅子なのに犬みたいによく騒ぐんだね」
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
アンドラスの攻撃がより過激になっていくなか、俺はかろうじで防ぎ続ける。なんとかこいつの意識をこっちに集中させ続けないと……
俺は相手の攻撃を受け流して、返す刃で斬り付けるが、その一撃は彼の体毛によってはじかれる。
「くっ!?」
「ははは、いい顔してるなぁ!! 俺様の体毛はすごくかたいんだよ!! ただの鉄の剣なんぞじゃ傷つけられないんだ。残念だったなぁ」
「なんてね、炎よ!!」
「うお?」
詠唱自体は短い簡易的な魔法だが、それでもかまわない。近距離で火の玉が爆発したためこちらもダメージを喰らうが、気にはしていはいられないとばかりにやつの体毛が焼け皮膚があらわになって部分を斬り付ける。
血しぶきが舞っていく。よし、ゲーム通りだ。
「俺に傷を……人間ごときが誇り高き獣人であるこの俺様に傷を与えたなぁぁァァァ!!!」
「く!?」
乱暴に投げつけられた剣をはじくと、その隙をついて、何かがかすめ鎧を紙のように貫通して、血しぶきがまった。
とっさに引いてなかったら死んでいたね……
「フェイン!!」
「く……」
「いいことをおしえてやるよ。俺様は剣よりもこっちの方が強いんだ」
アンドラスは俺の血が付いた己の爪を舐めながらにやりと笑う。視界の端では、弓を撃とうとしているヴァリスさんを必死にジークが止めていた。
ああ、くそ。心配させちゃったね……本当にみなを安心される勇者のような存在は俺には荷が重い……
「俺と同じ剣で戦うんじゃなかったのかな? 獣頭は約束も覚えていられないのか」
「は、お前らは虫けらとした約束を守るのかぁ? 約束って言うのは対等な者同士で行われるもんなんだよ、死ね!!」
先ほどとは違いアンドラスの爪による猛攻を完全にはいなしけれずにどんどん切り傷が増えてくる。
そして、相手が勝利に確信した笑みを浮かべた瞬間に俺は痛みをこらえながらも不敵な笑みを浮かべる。
「じゃあさ、こっちも約束を守らなくてもいいよね。ほら、君の部下はもうほとんどが倒されているよ」
「は?」
俺の言葉に気づいたアンドラスが下でたたかっている獣人たちが冒険者やエルフに圧倒されて押しやられているの気付く。
「な……ばかな……あいつらは精鋭のはず……」
「それでもさ、屋上の背後から延々と射抜かれていたらまともに戦えないんじゃない?」
「貴様……俺様の意識を闘いに集中させて……」
そう、ヴァリスさんたちは何も俺の戦いを見守っていたわけではない。ジークが補助魔法でサポートし、彼女たちは魔法矢でみんなをサポートしていたのである。
俺に挑発されて血が上っていたアンドラスはそれに気づかなかったのだ。
「それと……一騎打ちの最中に隙をみせるのはどうかと思うよ! 偽勇者スキル グランドクロスブレード!!」
状況を読み込めないでいるアンドラスにこれまでで最速の速さで踏み込み剣に白い炎を纏わせてそのまま心臓を貫く。
「俺様は……最弱じゃねーーー!!」
「なっ!?」
「フェイン、大丈夫か、今治療する!!」
流石は七大罪というべきか、彼の右指の指輪が輝いたかと思うと、貫かれた剣から体内が燃やされているというのに最期の一撃とばかりに爪をふるってきたのだ。
嫌な予感がしてなんとかかすめる程度ですんだが腹部に激痛が走った。咄嗟に体勢を崩した俺をジークがささえてくれる。
「無茶しやがったな……」
「全く心配したじゃないの」
「ごめん……でも、しんじてくれてありがとう」
仮面越しの彼はどう思っているだろう。嘆息しながらも治療してくれるジークに感謝しつつアンドラスに視線をおくった時だった。
「まって! こいつまだ立ってくるよ!」
全身がもえているというのにやつの指輪が再び輝いたかと思うと再び立ち上がって腰にある魔剣を構える。
「せめてお前らだけは道連れにしてやる。生命喰らい(ライフイーター)!!」
奴の魔剣に寒気のする魔力がたまっていくのだった。
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