16.アッシュとフェイン
冒険者ギルドに指定したエルフたちとの待ち合わせの場所につくとアッシュが大きな声をあげる。
「ふはははは、我が配下たちよ!! エルフを助け名をあげるぞ!! あわよくば美しい声色で『アッシュさんかっこいいー!!』と言ってもらうぞ!!」
「誰が配下だ。ぼけーー!!」
「あーでも、エルフっていいよな!! 俺もほめられてぇーー!!」
「アッシュのあほに負けてられるか、俺たちでアンドラスをたおすぞーー!!」
アッシュが冒険者たちに声をあげるとあらゆる声が返ってくる。一応人望はあるのだろうか。
その数は五十人だろうか……十分な冒険者が集まっていた。
「なんというかすごいな……これもカリスマ……なのか?」
「うれしい誤算だね……受付嬢の子は当たり前の結果ですよって胸をはって言っていたけど……」
今回の依頼は悪名高き七大罪の一人『アンドラス』との戦いなのだ。下手したら全滅する可能性だってある。なのにこんなに参加してくれるなんて……
隅っこで信じられない光景に驚いているとアッシュがひとごみからこっちにやってくる。
「なぜ主役である貴様がそんなところにいるのだ? こいつらに声の一つくらいかけてやれ」
「いや、主役って……彼らを集めたのはアッシュじゃないか?」
「何を言っているのだ? 我のライバルであり、かつて勇者だった貴様が冒険者ギルドに依頼を持ってきたからこれだけ集まったのだぞ。ゆうなればやつらは貴様の力を信頼しているのだ、ともに戦えばアンドラスすらも凌駕するとな」
「へぇー、お前わかってるじゃないか。こいつはすごいやつなんだぜ。もっといってやってくれ」
眉をひそめているアッシュの言葉にジークが腕組をして後方相棒面をしながらうなづいている。
「え、でも……」
「でも……ではない。我は貴様に勇気をもらったのだ。あの時命を救ってくれた貴様の剣はけっして美しいものではなかった。それは天才のものではなく、圧倒的な研鑽や試行錯誤……いわば凡人の剣の極致ともいえよう。ゆえに当時自分の才能に行き詰りを感じ焦っていた我は思ったのだ……こいつは才能もないのに死ぬほど頑張っているのだと……ならば天才である我にもまだできることはあるはずなのだと……悔しいが我は貴様に勇気をもらったのだよ、いわば今の我がいるのは貴様がいるからなのだ」
「俺から勇気を……」
「そうだぜー。こいつってばあんたが活躍するたびに『我がライバルの活躍を聞くがいい!!』ってうるさかったんだ。このひねくれものがこんなに褒めるくらいなんだ。だから俺はあんたをよく知らないが立派なやつだと思ってついてきたんだぜ」
「だれがひねくれものだ!! それに俺はフェインのことなんぞ褒めていない!!」
筋肉隆々の冒険者に肩を叩かれたアッシュが顔を真っ赤にして食って掛かっているのを見ながら俺は驚きと共に不思議な感情を胸が支配するのを感じる。
「お前はアッシュの勇者になったみたいだな。いったろ、お前はお前のやりかたでいけばいいってさ」
「……うんそうだね。俺は確かに人に勇気を与えていたんだ」
「ねえ、援軍はうれしいけど、こいつらうるさすぎない?」
思わず涙を流しそうになったが、いつのまにかやってきたヴァリスさんのことばで 必死におさえる。
「じゃあ、エルフと人間の連合軍が正面から攻めている間に私たちで潜入するわよ」
「ああ、必ずやアンドラスを倒そう」
「大丈夫だ、俺たちが力をあわせれば敵じゃないさ」
どうやらエルフたちの準備も済んだようだ。ゲームの通り潜入作戦で不意打ちして、強力な魔剣をアンドラスが手にする前に戦い我々が勝利するのだ。そう思っているとなぜか彼女は俺の顔をじーっと見ていたが、にこりと笑った。
「何かいいことがあったみたいね……今の方が魅力的な顔しているわ。エルフの里をでる時ちょっと悩んでいるみたいで心配してたのよ」
「お、フェインに惚れたのか?」
「惚れちゃってもいいの? じゃあ、あなたの前でいちゃついていいのかしら?」
「なっ!?」
いたずらっぽく笑うヴァリスにジークが驚いたように声をあげて、なぜかきまずそうにこちらを見つめる。
だけど、明るくなったか……ちょっとだけだけど、自信がついたからだろうか……だけど、ここからが本番なのだ。負けるわけにはいかない。
俺のやり方はまだ確信をもてないけどそれでも死力をつくすだけだ。
★★★
砦の一番奥の一室の扉が開かれる。人狼と呼ばれる二足歩行をする魔物があわててやってくる。
「大変です、アンドラス様!! エルフと人間が攻めてきました!!」
「はぁーーー、ったくよぉ、エルサールのやつはつかえねえなぁ……しょせんは耳が長いだけの劣等種だなぁ!! お前もそうおもうだろぉぉぉ」
「うぐぅぅー」
全裸で椅子になっていたエルフが尻を叩かれて、うめき声をあげるとライオンの顔を持つ獣人……『傲慢のアンドラス』は馬鹿にするような笑みをうかべる。
「アンドラス様も侵入者に備えて武装した方が……」
「はぁぁぁぁーー? 俺様が指揮する砦が侵入者なんて許すとおもってんのかぁ? 万が一敵が侵入してきたらこの俺様の爪でなぶって殺すに決まってんだろ。百獣の王にて、生態系の頂点なんだよ、俺様は!!」
「ひぃぃぃ、すいません」
にらまれて人狼が逃げ出して行く。それを見て不快そうに鼻をならすアンドラス。そんな彼に椅子にされているエルフは恐怖にふるえているなか、背後にいた人影が声をかける。
「まあまあ、アンドラス……気持ちはわかるけどさ、発想を変えてみようよ。やつらも馬鹿じゃない。どこかに隠し通路とかつくるかもしれないし、魔剣は持っておいた方がいいと思うよ」
「ああ……しかたねえなぁ、大体お前の言う通りにエルサールの奴をつかったのに失敗したんだぜぇ」
「ごめんってでもさ……さっきの部下もみたでしょ。あらためて君の強さを見せてあげる必要があるんじゃないかな」
「わーたよ、貸しは一つだぜ、原初の罪」
アンドラスがシンと呼ばれた人影の言葉にしかたなくうなづくのだった。もしも、部下がいたら驚くだろう、なぜ、あのアンドラスが同格である七大罪以外の言うことをきいているのだろうと……
面白いなって思ったらブクマや評価をくださると嬉しいです。




