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14.フェインのやり方

「アニスすごかったね……」

「ああ、さすがは次期族長と言われるだけあったな」



 牢屋から出たアニスさんは、他のエルフをたすけると、魔法で木々を加工して弓矢を作り、そのまま彼らをまとめあげてエルフの里を占領していた魔族や人間を倒していったのだ。

 もちろん、俺たちも手伝いはしたが、いてもいなくても結果は変わらなかったと思う。

 さすがは主人公候補の一人である。ゲームでは『アニスの先導の元エルフの里を取り戻した』の一言だったが実際に見るとよりすごさがわかるものだ。



「だが、そのきっかけを作ったのはお前だ。もっと自信をもっていいんだぞ」

「ありがとう……ジーク」


 彼の言葉が胸を暖かくしてくれる。確かに主人公ほどうまくはできなかったかもしれない。

 だけど、エルフの里を奪還できて、喜んでいる彼らを見ると、嬉しくなった。俺はジークほどじゃないけれどちゃんと人を救えているのだと……



「あ!! いたいた!! フェインさん、ジークさん探したんだよ!!」



 明るい声が聞こえたかと思うと、アニスちゃんがこちらにむけて大きく手を振っている。

 金色の長い髪に笑顔の似合うかわいらしい美少女である。しかも、エルフ特有のレオタードみたいな格好にマントという伝統衣装で胸を強調しているものだから、手を振るごとに色々と揺れて大変目の毒である。

 余談だけど、男性のエルフも露出度はたかいので大人のお姉さんに人気だったのはここだけの話である。



「あなたのおかげでみんな助かったよ、ありがとう。流石は元勇者だね」

「いやぁ……ヴァリスさんやアニスさんたちががんばったおかげだよ」

「えへへ、お姉ちゃんもかっこよかったよね。私の自慢なんだ!! でも、フェインさんたちがいたから私たちも勝てたんだよ!!」



 感動したとばかりに両手をにぎってくるものだからちょっとドキドキしてしまう。メインキャラだからビジュアルもいいんだよね。

 距離感近いし、ジークがじっとみているのも気になってしまう。絶対いじられるじゃん……



「あのね……フェインさんに一つお願いがあるんだけどいいかな?」

「あ、ああ……なんだろう」



 手をぎゅーっと握りながら上目遣いでそんなことを言ってくるものだから、思わずドキッとしてしまう。


「あのね、私と試合をしてくれない?」

「え?」

「エルサールの矢を掴むところかっこよかったし、ガーゴイルも瞬殺してたよね。流石勇者って感じ。あれを見てたらね、血が騒いじゃったの!!」



 ドキッとした気持ちを返してほしい。

 目をむっちゃキラキラと輝かせる彼女を見て思い出す。そうだ。この子はバトルジャンキーだったのだ。

 主人公としてエルフの里を出るときも他の『七大罪』ってどんだけ強いんだろっていうかんじだったしね。

 どうこたえようか悩んでいると救世主がやってきた。



「アニス!! フェインさんが困っているじゃないの、やめなさい。みっともないわよ」

「はーい」



 ヴァリスに注意されると、大人しく引き下がるアニス。よかった……さすがに主人公候補と戦うのは避けたかった。失望されたくないしね。



「エルフに手をにぎられてちょっとラッキーって思ってたろ」

「いうと思った。そんなこと考えてないって」



 案の定からかってくるジークに苦笑しつつヴァリスさんに挨拶をする。



「色々とお疲れ様、エルフの里はだいじょうぶそう?」

「ええ、あなたたちのおかげよ。ありがとう。ただ、まだアンドラスのことがあるじゃない? それで、長があなたたちの力を借りたいらしいんだけど大丈夫かしら」



 申し訳なさそうにするヴァリスさんだが、俺の……いや、俺たちの答えは決まっていた。

 ジークと目をあわせてから声をそろえる。



「「もちろん」」

「わーい、ありがとーーー!! じゃあ、いこーー!! こっちだよ」

「ちょっと、ひっぱらないで」



 俺たちの回答に喜んだアニスさんが腕をつかむものだから柔らかい胸に挟まれて思わずにやけそうになる。

 俺は影の英雄なのだ。こんなことで表情をかえるわけにはと必死に力を入れるが……

 二人から冷たい視線を感じた。



「ふぅーん、ずいぶんと嬉しそうね。エルフならだれもいいのね、いやらしい」

「エルフ好きな上に巨乳がいいのか、業が深いな」



 仲良く二人が罵倒してくる。

 さんざんな言われようななか俺たちはエルフの長のもとへとむかうのだった。




「私はこの里をおさめているグレコスと申します。このたびは我々エルフの危機を救ってくださり感謝します。」



 ひときわ立派な大樹の中に作られた家に入ると、端正な顔立ちの青年に頭を下げられた。

 ぱっと見は三十台くらいだが、彼が現長老であり、実年齢は千歳くらいのおじいちゃんである。


「あなたがたは、長い間七大罪のアンドラスと戦っていてくれたんです。人として助けるのは当たり前のことですよ」

「フェインの言う通り困ったときはお互い様ってやつです。むしろ俺たち人間の一部も不義理をしてしまったようですし、気にしないでください」

「そう言っていただけるとありがたいです」



 俺の言葉にジークも続けてくれると、グレコスさんの表情がやわらかくなる。



「それでアンドラスの件で話があると聞いたのですが……もしや襲撃をかけるつもりですか?」

「はい、不幸中の幸いと言いますか、エルフの里は占領されたもの我らは拘束されただけであまり被害はありません。逆に先ほどの戦いでアンドラスに組する者達の戦力を減らすことに成功しました。今が好機と考えます。それに私たちには秘策があるのです」

「それだけじゃないの。捕虜にした敵からも色々と情報を聞きだすことに成功したんだよ」

「それで、あなたたちの力を見込んでお願いがあるの。私たちにもう一度力を貸してくれないかしら。図々しいのはわかってる。だけど、あなたたちの力が必要なのよ」



 グレコスさんに続いてアニスとヴァリスも頭を下げる。ゲームと同じ状況に高揚感と共に俺にできるのかという不安がよぎってきて……

 誰かに手を握られ、耳元でささやかれる。



「大丈夫だ。フェイン。彼女たちを一度救ったのはお前だぜ。それにお前はもう勇者じゃない。だから、勇者であろうと縛られる必要はないんだ。お前なりのやり方でやれば、アンドラスだって敵じゃないさ、な、影の英雄様」

「……ありがとう。ジーク」



 彼がそう言ってくれたおかげで少しだけど肩の荷が下りた気がする。


 ああ、そうだ。さっきだって苦戦はしたけど、ちゃんとエルフたちを救えたのだ。 


 ただ、俺なりのやり方でいいというのは違うと思う。モブにすぎない俺のやり方ではいずれつんでジークの死んだときのようになるだろう。だから、ジークたち主人公のやり方に俺の知識をプラスするのだ。それでようやく、彼らと対等になれるのだから……



「もちろん、引き受けさせてもらいます。ただ、一つだけ条件があります」

「なんでしょうか? もちろん、お礼はさせてもらいます。エルフの里に伝わる秘宝や死者すらも蘇生する『世界樹の葉』でも、かまいません。あとは……わが娘も懐いている様子……娘が欲しいというのならば前向きに考えましょう」

「お父様!? その……たしかにフェインは信頼できるし、かっこいいなって思うけど、そういうのじゃなくて……」

「えへへ、元勇者様のお嫁さんとかいいね。いつでも戦える!!」



 顔を赤らめて素っ頓狂な声をあげるヴァリスと、目をキラキラされるアニス。だけど、絶対これって恋愛的な様子じゃないよね……



「お二人とも大変魅力的ですが、そうではなくてですね。今回の戦いに人間の冒険者も仲間にいれてくれないでしょうか?」

「なっ」



 予想外だったのか、グレコスさんがうめき声をあげる。わかるよ。共同基地は崩壊し、エルフの里の襲撃にも人間がいた。

 だから、今のエルフたちは人間に対して疑心暗鬼になっている。現にエルフの里で休む俺たちを見る目には感謝や尊敬だけではなく不安そうなものもあった。

 ゲームでは少し時間がたって別のイベントが発生して仲がよくなるのだが、エルサールが俺たちの行動を見抜いていたことから嫌な予感がするのだ。それになによりも、俺は主人公ではない。だから、戦力が多い方が安心なんだ。



「大変申し訳ないのですが……」

「わかったわ。私たちのほうでエルフは説得してみる。だから、あなたはできるだけ信頼できる人間を集めて頂戴」

「私もがんばるよ!! 反論なら拳で聞けばいいしね!!」



 断ろうとしたグレコスさんの口をふさいでヴァリスさんとアニスさんが了承してくれた。あとは、冒険者ギルドで信頼のできそうな人間をあっせんするだけだ。

 幸いにも俺にゲーム知識がある。この近くの頼りになる冒険者たちの名前は憶えている



「ヴァリス、俺をしんじてくれてありがとう」

「私は知っているもの。あなたは突拍子もないことを言うけれど、それは絶対成功させるためなんだって。だから、私はあなたを信頼しているのよ」



 ウインクしてそんなことをいってくれるものだから、胸がドキッとしてしまったのは責めないでほしい。

 だって、俺の主人公らしからぬ慎重すぎるやり方をはじめて肯定してくれたのだから……


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