13.VSエルサール
「フェイン、大丈夫か!!」
エルフの里の奥にいるはずのエルサールが牢獄にいるという予想外の状況に混乱している俺の肩をジークが叩く。
人質を取られた俺たちは武器を捨てさせられて、エルサールと対峙している。
ああ、くそ。ゲーム知識や修行で強くなってもこういう風に予想外のことに弱いのだけは変えられない。所詮は主人公の器ではないということだろう。勇者を騙っていた時もテレジアにフォローしてもらっていたのを思い出す。
「ふん、人間ごときに頼ったか……エルフの長の娘がおちたものだな」
「魔族に頼るようなあなたよりはましよ!! 情けなく力を貸してくださいとでも懇願したのかしら?」
「どうとでもいうがいい。その結果俺は勝利したのだからな。アンドラス様は約束してくれたのだ。俺がエルフの里を支配することをなぁ!! そのための力もくださった!!」
陶酔した瞳でかたわらにいるガーゴイルを見つめる。ガーゴイルは魔力の籠って頑丈になった石で作られた強力な魔物だ。意思がなく主の命令を聞くため魔族ではない彼でも扱えるのである。ゲームでも苦戦させられたのは懐かしい。
「昔のあなたは自分の力でエルフの長になってこの里を変えるっていっていたのに……」
「下らん子供の夢物語をいつまでも語っているんだ? そんなんだから俺に騙されるんだよ」
あざけるような笑みを浮かべるエルサールをヴァリスが悔しそうに睨みつける。守護者であるため本来の力を出せないジークや、拘束されているアニスではこの状況をどうにかすることは難しいだろう。
だったら、俺がやるしかない……ゲームをやって彼の心を知っている俺しか……緊張のあまり襲ってくる吐き気を抑えて俺は口を開く。
「そっか……あなたはあきらめたんだね。自分の力でエルフの長になって変えることを……そうやって他人の力を借りて、楽な方を選んだんだね」
「フェイン!?」
「人間……私に喧嘩を売っているのか?」
いきなり口をはさんだ俺に、ヴァリスが驚きの表情で俺を見つめるのと同時に、エルサールからの圧倒的なまでの殺気に満ちた瞳で睨みつかれて一瞬びっくとしながらも俺が不敵な笑みを浮かべ続ける。
「喧嘩を売ってるわけじゃないさ。俺は事実を言っただけだ。怒るってことはさ、自覚があるんじゃないのかな?」
「黙れ!! 貴様になにがわかる。同世代に化け物がいてすべての称賛を奪われた俺の気持ちが!! 自分が苦労して手に入れた力をあっさりと越えられるむなしさが!! 私はアニスにすべてを狂わされたんだよ!!」
「私のせい……なの……?」
先ほどまでの不敵な感じはどこにいったやら、感情をあらわにしたエルサールに考えたこともなかったとばかりに衝撃を受けているアニスをみて、彼を逆なでしたようだ。
「はは、私のことは眼中にもなかったようだなぁ!! さすがはエルフの里以来の天才だ。なあ、ヴァリスよ、貴様もわかるだろう!! 自分の努力をあざ笑うかのように乗り越えていいく妹に何も感じていなかったとはいわせんぞ。私は貴様のことをみていたからなぁ!!」
「それは……」
「そうなの……お姉ちゃん?」
いきなり話をふられて固まるヴァリスと、不安そうに見つめるアニス。何も言えない姉を見てアニスが泣きそうな顔を……させるわけにはいかない。
主人公だったらそんなことはさせないからだ。
「それは違うよ!! 俺はヴァリスさんと少し過ごしただけだけど、妹さんのことを大事に想っているのが伝わってきた。アニスの事を話すヴァリスさんはとっても幸せそうに笑っていたんだ。あんたの言うようにコンプレックスを感じていたのかもしれない。だけど、ヴァリスさんはそれでも弓の訓練を続けていたんじゃないかな? さっき戦ったエルフたちよりもよっぽど強かったよ!!」
不思議なくらい言葉がスラスラと出てくる。だって、それは俺も感じていたことだからだ。主人公らしき高ステータスのジークやテレジアに色々教えていくうちに俺はしょせんモブなんだって腐りたくもなったものだ。
だけど、彼らが笑顔で慕ってくれて救われたのだ。そりゃあ圧倒的なステータスの違いにコンプレックスも感じた。でも単に好きとかきらいとかそれだけの単純な感情ではないのだ。
「そうよ……、私は確かにアニスに嫉妬したわ。なんであの子だけって思ったこともある。だけど、それと同時に『お姉ちゃん』って頼ってくれるこの子が好きなの!! この子の姉でよかったって思っているのよ」
「お姉ちゃん……」
俺の言葉に続けるヴァリスの顔を見て、安堵の吐息をもらす。よかった……俺の言葉はちゃんと届いたようだ。
そして、不快そうに顔をゆがめているエルサールに向けて不敵な笑みを浮かべる。俺はお前が今どんな気持ちかわかるよ……俺もお前のように嫉妬に狂う可能性だってあったんだから……
「お前はアニスさんがいたからあきらめたんじゃない。言い訳に使っただけなんだよ。ただプライドが高いくせに器の小さいヘタレなんだよ!!」
「人間風情が、これ以上しゃべるなぁぁぁぁぁ!!」
「あいかわらず無茶をするな……」
アニスを狙っていたエルサールの弓がこちらを向いて矢が放たれるのを確認した俺はそのまま彼に向って駆け出していくと以心伝心とばかりにジークが身体能力強化の魔法を使ってくれたのか体が軽くなり力がわいてくる。流石だね。
「それはもう、見切っているよ!!」
「なっ、馬鹿な!! 痛みを感じないというのか!?」
軌道を完全に見切っている俺はエルサールが放った矢の羽部分を掴んだのだ。しかし、さすがは魔法の矢というべきか触れた手はかまいたちにでもあったかのように切り刻まれて血が飛びちる。
エルサールが驚いているがもちろん痛いに決まっている。だけど、俺は主人公の代わりなのだ。弱気なところは見せられない。
「ガーゴイル!! こいつを倒せ」
「ーーー!!」
追い詰められたエルサールがいまさらガーゴイルに命じるがもう遅い。ようやく動きだそうとするガーゴイルの眉間に俺は先ほどつかんだ矢じりを突き刺し詠唱する。
「(偽)勇者スキル グランドクロス」
「な……ばかな」
完全に起動する前に体内から純白の炎で焼かれたガーゴイルが絶命していくのをみて、エルサールはあわてて弓矢をアニスに向ける。
「動くなと言ったはずだ。こいつを殺してや……え?」
「わるいけど、私も足をひっぱってばかりじゃいられないんだからね!! だって、お姉ちゃんの自慢の妹なんだから!!」
指の関節を外したのか、手錠をすり抜けたアニスは牢獄内だというのに放たれた矢を華麗にかわす。
まさか、一撃で見切ったというのか!?
「馬鹿な……ガーゴイルが……このままでは私の夢が……」
「悪夢は冷めるものよ、エルサール」
まさに主人公補正だと驚いている俺をよそにエルサールの眉間をヴァリスの矢が貫き絶命させる。
だけど、彼女のその瞳は少し悲しさが宿っているのは気のせいではないだろう。もしかしたら、もっといい方法があったんじゃ……
「まったく、無茶しやがって……治してやるよ」
「ジーク……」
「何を考えかは知らないけどよ。お前があの二人を救ったんだ。それは誇っていいと思うぜ。影の英雄様」
彼がかざすてから暖かい光が優しく包んでくれるとともに手の怪我が癒えてくる。そして、俺たちの視界の先では、ヴァリスさんとアニスさんが泣きながら抱き合っていた。
それを見て俺は救われた気持ちになっていく。よかった……俺はちゃんとたすけられたのだと……
そして、指揮官であるエルサールが死んで混乱していたこともあり、他のエルフたちを助けた俺たちはアニスの先導のもとあっという間にエルフの里をとり返すのに成功するのだった。
いや、本当にすごいな、主人公候補!!
★★★
「くっそ……なんで俺たちがこんな目に……」
「あなたが聖剣のちからを使いこなせなかったからでしょう。フェインの方がすごかったわよ」
「なんだと!?」
取っ組み合いを始めそうなシグルトとクリームヒルトをハーゲンが必死になってとめる。
「もう、二人とも喧嘩しないの!!」
勇者としてファフニールの残党を意気揚々と倒しに行ったシグルトたちだったが結果は散々だった。
聖剣の力を使うも大した効果はでず、アイテムやスキルなどを限界まで使ってようやく倒したのだ。
「あいつらファフニールをたおしたんだろ、なのになんであんなに苦戦しているんだ?」
「やっぱり、フェインのほうが本当の勇者だったんじゃないか?」
ぼろぼろになりながらようやくダークワイバーンたちを倒したシグルトたちが冒険者ギルドにつくと、様々な視線が突き刺さるがその大半が好意的なものではない。
勇者とは皆の尊敬を集める分、期待も大きいのだ。彼らはその重圧を知らなかったのである。
「お前ら文句があるのか?」
「やめなさい。みっともないわよ、そんなの勇者らしくないわ」
ジークが周囲を牽制してにらみつけるのをクリームヒルトがたしなめる。
「だけど、なんで聖剣がよわくなっちゃんだろうね」
「「うーん」」
ハーゲンの言葉に二人も悩ましい声をあげる。実際はフェインは聖剣の力を使っておらず、自分の力を使っていただけなのだが、もちろんわかるはずもない。
「まさか、あいつ……聖剣の力を一部しか、俺に渡さなかったのか?」
「そんなことはできないはずよ。それにあなたも継承したのでしょう」
「いや、あいつは何年も聖剣を持っていたんだ。裏技をみつけたのかもしれない。力を返してもらいに行くぞ」
「えー、まだ頼んでいた料理きてないよ!!」
ハーゲンが文句をいうシグルトはとまらない。そうして、彼らはフェインを探しに行くのだった。勇者の宿命を放って……
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