11.エルフの里へ
「ここが秘密の通路なんだね」
「ええ、ここはエルフの中でも一部しか知らない秘密の場所なの」
「じゃあ、ヴァリスさんは結構偉いエルフなのか? そういわれると上品なところも……あったかぁ?」
「失礼ね。その愉快な仮面の中身を晒すわよ」
俺たちはヴァリスさんの案内の元隠し通路に向かっていた……が、なんかジークとすごく仲良くなっているんだけど!! 俺がこっそりと寝ないで特訓していた間になにかイベントでもあったのだろうか? さすがは本来の主人公である。かわいい女の子とのフラグ建築スキルも高いのだろう。
そして、たどり着いたのは古い枯れ木の前だ。
「風よ、我らに刃を与えん」
木々の間から太陽の光が降り注ぎ、古い樹に手を触れて詠唱する姿は美しい顔立ちのエルフというだけあって、絵になる。
「おやおや、フェイン坊ちゃまはヴァリスさんにお熱なのか? あんまりじろじろと見ない方がいいぜ」
「なっ、そんなんじゃ……」
「確かに人間からしたら露出が高いかもしれないけど、精霊との親和性をたかめるためなのよ。むっつりさん」
「本当に違うんだけど!!」
ジークの軽口に彼と仲良くなったヴァリスさんまでのってくるから質が悪い。だけどしかたなくない? エッチな格好をしているから風がなびくたびに胸がわずかに揺れているのだ。……と思っていると彼女と目が合い「スケベ」と小声でつぶやかれた。
「我が道を遮断するものを引き裂け、エアカッター!!」
そして、詠唱が完成すると竜巻が発生して古い樹を引き裂くとその中にぽっかりと空洞が広がっているのが見えた。
「あ、道を開くって物理かよ……」
「まあ、エルフって結構脳筋なんだよね……狩猟民族だし」
「失礼ね!! 魔法でどうやって道を作るって言うのよ!! 木々が勝手に動いてくれると思ったの?」
俺たちの言葉を耳ざとく聞いていたのか睨んでくる。
ちなみにヴァリスさんの隠れ家も別に樹の加護とかではなく魔法で掘っているだけだったりする。
魔法も万能ではないのだ。
「じゃあ、行くわよ」
穴に飛び込むヴァリスさんについていくと、土の香りを感じる。いつの間にか魔法で作り出してくれた光の球が周囲を照らしてくれる。
おそらくは土魔法で掘った隠し通路なのだろう。人一人が通れるくらいの最低限のスペースしかないようだ。
周囲を見回していると背後からどさっという音が聞こえた。
「ジーク、大丈夫か?」
「あ、ああ……なんとかな……」
着地するときにバランスを崩したのだろう。ふりかえると転んでいるジークがいた。珍しいこともあるものだなと思って手を握って起こすと、まだ震えていることに気づく。
そういえば、ジークやテレジアとか狭く暗い所が苦手で、古井戸を探検した時にジークは震えながらも強がって、テレジアの手を握ってあげてたっけ。懐かしい気持ちに襲われる。
「こういうところが苦手なのは変わってないね。昔みたいに手をつなごっか?」
「いや、俺は……」
「……じゃあ、ジークが手をにぎっててよ。俺がこわいからさ……」
「……ありがとう」
彼の手を握っているとテレジアの事を思い出してしまう。ゲームではジークと一緒に村を出た彼女はジークルートで聖女として活躍するのだ。その回復力は終盤まで頼りになるし、兄である彼を献身的に支えてくる精神的柱でもあった。
俺のような偽物にも色々と心配してくれた彼女の事だ、シグルトとも仲良くやってくれていると思う。
幸せになってくれるといいなと思う。
「うふふ、仲が良いわね」
「うるさい」
ぎゅーっと手を握るジークをヴァリスさんがからかう。だけど、その瞳がどこか微笑ましそうになっているのは気のせいだろうか?
そんなことを思いながらも、俺たちは隠し通路を進むのだった。
どれくらい歩いたのだろう。ジークの手をにぎりながらも進むと行き止まりにたどり着く。
「この先が牢獄につながっているはずよ」
ヴァリスさんが指さした壁の一部が土ではなく、植物で覆われている部分があった。ヴァリスが緊張しながらも、隠し通路となっている枝の扉を指さして、蹴破ったタイミングで俺は剣を抜く。
「なっ!? なんでここにエルフが……?」
「させない!!」
隠し扉から飛び出したタイミングを見計らって飛んできた魔法の宿った矢を切り払う。
よかった……ちゃんと見切れているみたいだ……
「不意打ちとはエルフが高潔っていうのは嘘だったみたいだね」
「よくわかったな、フェイン……」
内心の安堵を隠しつつ、俺は待ち伏せをしていたエルフたちがどうようしているのを見つめながら不敵な笑みを浮かべる。
ああ、でもヴァリスさんを守れて本当によかった。ゲームでは彼女はここで負傷して、戦線離脱してしまうのだ。だけど、主人公ではない俺としては戦力が少しでもかけるのは防ぎたかったのである。
「なんでこの道が……それに、エルフが里を裏切ったアルサールに従うなんて……」
「はっ!! 人間ごときがたまたま攻撃を防げたからって調子に乗るなよ」
動揺しているヴァリスさんをかばいながら、矢を構えるエルフたちと対峙するのだった。
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